3 太陽の影の星

1 名前:3 太陽の影の星 投稿日:2004/03/14(日) 00:29
3 太陽の影の星
2 名前:3 太陽の影の星 投稿日:2004/03/14(日) 00:30

地球の科学はどんどん進歩していって車は普通に浮くし、
金持ちだけじゃなく一般市民も普通に旅行に行く感覚で宇宙に行けるようになった。
なんとか、って言う頭の良い人がコストもかからず安全な宇宙船を開発して、
それと同時に宇宙でも息が出来るようなる薬なんかも開発された。
でもそんなのが開発されたのって随分昔の事らしいからあたしは知ったこっちゃないんだけど。
何百年も前の人達が今の生活を見たら羨ましがるかもしれないけど、
最近のあたしはというと退屈で憂鬱な毎日をただ送ってるだけのつまんない人間。
友達とも適当に仲も良いし、家族関係だって良好。
なのにこの心の中のもやもやはなんなんだろう。

────だから、息抜きに家出とかしてみたかっただけ。
3 名前:3 太陽の影の星 投稿日:2004/03/14(日) 00:31
 「よいしょ…っと」

ガレージのシャッターを開けて我が家の宇宙船と対面する。
白を基調としたシンプルな宇宙船。以前ピンクに塗り替えようとしたら怒られたっけ。
そういえば型が古いからそろそろ買い替え時だってパパが言っていた。
扉を開けて、操縦席に腰をかけた。
そして思い出したようにあたしは辺りを見回す。

 「よっ…と」

体を伸ばしていつものあたしの指定席からクッションを引っ張って、
今座ってる操縦席にしいた。
操縦はした事ない。でも操縦するのを見た事は何十回もある。
操縦免許が必要だけれどあいにくそんなものあたしは持ち合わせてはいません。
目の前に並ぶ色トリドリのボタンを眺め、ニコリと笑う。

 「こんなものはねぇ、適当に押してみれば動いちゃうもんなんだよ」

あたし、性格大雑把だから。いつもあまり考えないで行動して失敗とかするけど、
一つ言える事。運だけは良いの。

ピー、という甲高い音が聞こえて宇宙船がぐらぐら動き出した。
前についてるモニターには行き先が映し出されてるけど何語なのかわかんないから読めない。
そのうち船は浮き出してガレージから勢いよく飛び出した。

 「家出に行ってきまーす」

小さくなる我が家を見ながらあたしは手を振った。
4 名前:3 太陽の影の星 投稿日:2004/03/14(日) 00:33
飛び立ってから少しするとまたアラーム音が鳴り始めた。
この音はもうすぐ目的地に着く、っていうお知らせアラーム。
一体どこに着くんだろう。わくわくしてドキドキした。だって1人で宇宙になんて来た事ないもん。
窓に手をついて外を覗き込んだ。
この軌道から言うときっとあの星を目指してる。小さな星。

 「……人住んでるのかな」

家出した先が一人ぼっちって言うのも悲しすぎる。
だんだん近づく星を見て不安がよぎった。

ゆっくり無事に星に着陸できたようで恐る恐る船から降りる。
見渡しても人はいないし、薄暗くて陰気。
やはり適当にボタンを押したのはまずかっただろうか。

 「…帰ろうかな」

数メートル歩いてみたけれど方向転換をして船へと戻る。
帰る、と言っても無事に帰れるのかな。イマイチ自信がないけれど。
5 名前:3 太陽の影の星 投稿日:2004/03/14(日) 00:34
 「こんにちは」

突然掛けられた声にビクッとしてゆっくり振り向くとそこには同い年くらいの女の子が立っていた。
目が合うとニコッと笑ってこちらに近づいてくる。日本語喋ってるから日本人なのかな。
 
 「こ、こんにちは」

あたしが返すと嬉しそうに声を上げた。

 「お客が来るなんて初めて。あたし、藤本美貴。あなたは?」
 「あ、あたしは石川、石川梨華。」
 「梨華ちゃんか」

藤本美貴、美貴ちゃんはあたしの名前を呟いて乗ってきた宇宙船を眺めている。
へぇ、とかふぅん、とかまるで初めてそれを見たかのように。

それからその場に座って話をした。
美貴ちゃんは生まれた時からこの星に住んでいたという。
それも珍しい事ではない。宇宙船や薬が開発されてから他の星に移り住んだ人は山ほどいる。
美貴ちゃんの両親もそうだったんだろう。
その両親の事を尋ねると、数年前に亡くなったらしい。
美貴ちゃんがあれ、と指をさす方には二つのお墓らしきものがあった。
6 名前:3 太陽の影の星 投稿日:2004/03/14(日) 00:34
 「じゃあ、1人でずっと住んでるの?」
 「そうだね。この星には美貴だけしか住んでないよ」
 「ここから出ようとは思わないの?」
 「出てみたいと思うけど美貴の宇宙船ってあまり遠くに行ける様にできてないんだ。
  その装置がとっくの昔に壊れててね。だから出ると言っても隣の星に食料を買いに行くくらいだね」
 「隣の星に住めば良いのに」
 「やっぱ我が家が一番じゃない?」

よいしょ、と言って美貴ちゃんは立ち上がった。
こんな小さくて狭い星に1人で住んでる美貴ちゃんが自分よりもはるかに大人に見えて、
ただ日常生活に飽きたから、という理由で家出をして
一人で宇宙に飛び出してきた自分が物凄く恥ずかしく思えた。

 「梨華ちゃんはこんなとこに何しに来たの?旅行?…の訳ないか、こんな何にも無い星」
 「…適当にボタン押したらここに……」
 「適当かよー」

けたけた笑う美貴ちゃんを見てあたしもおかしくなって笑った。

地球への戻り方もよくわかんないし、そもそも戻る気もなかったからここにしばらく居座る事にした。
その旨を言うと美貴ちゃんは露骨に嫌な顔をしたけれど、
その後あたしに顔を隠して笑っていたから了承してくれたと受け取っておこう。
7 名前:3 太陽の影の星 投稿日:2004/03/14(日) 00:35
────美貴ちゃんの一日は何故か筋トレから始まった。
1人でぼーっとしててもつまらないので日課になっているらしい。

 「……はぁ、はぁ」
 「梨華ちゃん体力ないなぁ。まぁそんな感じするけど」
 「…おかしいなぁ、あたしこれでも体力だけは自信あったんだよ?」
 「ここきっと梨華ちゃんの居たとこより重力があるのかもしれないね」

さらっ、と言い放ってあたしを置いて走って行ってしまった。
目の前は薄暗いから姿もすぐに見えなくなった。

この星での光といえば、周りの星からの光がただ当たってるだけの状況で、
生活するには多少不便なほど暗かった。

 「美貴ちゃん」
 「ん?」
 「ここはさ、どうしてこんなに暗いの?」
 「…あー、この星さ、太陽が見えないんだよね。隠れてんの。美貴はこれが普通だけど
  チキュウはさ、やっぱ明るいの?」
 「ここの数倍は明るいよー。ここ、近くにいても美貴ちゃんの顔、よく見えないんだもん」

わざとおどけて、でも怒った感じであたしが言うと少し離れた所から美貴ちゃんの笑い声が聞こえた。
それはだんだん近くなって、気がつくとあたしの隣に美貴ちゃんは居た。
8 名前:3 太陽の影の星 投稿日:2004/03/14(日) 00:36
 「人を見るって事、随分してなかったから気にならなかったのかも」

そう言ってあたしの顔を覗き込む。
なんだか恥ずかしくてあたしは少し俯いた。
照れてる事がばれたくなくてわざと喧嘩腰っぽく言い返す。

 「…じゃああたしの顔も今までよく見てなかったって事?」
 「うん、今初めてじっくり見た気がする」
 「……もぅ」

頬を膨らませて怒ったらキモイ、と言って美貴ちゃんはまた笑った。

ここに来てから笑う事が多くなった。
ここの星は映画館もなければゲームセンターもない。
楽しい所など何一つなかったけどここの生活が大好きになった。
この星について良かったと思った。
この星に居たのが美貴ちゃんで良かったと思った。
9 名前:3 太陽の影の星 投稿日:2004/03/14(日) 00:36
それから数日経ったある日の事だった。
いつものように自分の宇宙船から出て美貴ちゃんの家へと向かう。
美貴ちゃんの家に住んでも良い?と聞いた所断られたのだ。
両親が亡くなった後、ベットや布団を全て売ってしまったから寝る場所がないんだ、と。
一緒に寝れば良いじゃん、と言ったら物凄い勢いで断られた。
美貴ちゃん、かなり必死だった。
その時の事を思い出し、少し笑いながら家のドアを叩く。

 「美貴ちゃーん、梨華だけど」

少し経って扉が開く。

 「…梨華だけど、って美貴の他に梨華ちゃんしかいないじゃん」
 「あ、そー言うと思った」

くすくす笑うとおもしろくなさそうな顔をして家から出てきた。
あたしはこの時美貴ちゃんの様子がいつもと違ってた事に気がついてはいなかった。
美貴ちゃんはあたしを置いて、どんどん歩いていく。

 「ちょ、ちょっと待ってよぉ」

この星の重力を未だつかめないあたしにとって
いつも早歩きの美貴ちゃんを追いかけるのは一苦労だった。
美貴ちゃんはあたしが歩いて来た道を歩いていく。
そして目の前には乗ってきた我が家の宇宙船の姿。
その前でピタリと止まり、クルリと振り向きあたしの顔を見る。
と言っても薄暗くて表情はよく見えない。
10 名前:3 太陽の影の星 投稿日:2004/03/14(日) 00:37
 「…美貴ちゃん?」
 「梨華ちゃん、チキュウに帰りなよ」

突然の言葉にあたしは言葉が出なかった。

ここに来てから一度もそんな事言われた事がなかったし、
自惚れかも知れないけれど、美貴ちゃんはあたしと一緒にいて楽しそうだったのに。

 「な、んで…?」
 「何でも何も、家出少女にはかまってられないなぁと思って。食費とかも掛かるし」
 「…っ……」

なんで家出だとばれたんだろう。でも答えはわかっていた。
引っ切り無しに宇宙船に家から通信が入っていた。
それにイライラしたあたしは大声で返事をしていたからもしかしたら聞こえたのかもしれない。
かわらず、美貴ちゃんの表情は見えない。そしてあたしも言葉が出ない。
するとため息な様なものが聞こえて、美貴ちゃんが近づいてくる。
そういえば、出会った時は逆の場所に立っていた。

 「そーいう事だから早く帰りな、バイバイ」

横を通り過ぎる瞬間の言葉だった。
歩いていく美貴ちゃんの後姿を見ても何も言えなかった。
そして一度も、振り向いてくれる事はなかった。
11 名前:3 太陽の影の星 投稿日:2004/03/14(日) 00:38
美貴ちゃんはこの星でずっとひとりぼっちで、だから寂しいだろうと思った。
こんなあたしでも元気付けたり笑ったり泣いたり喧嘩したり、そういう事をし合える仲になれると思った。
あたしを、必要としてくれてると思ってた。
違う、あたしが美貴ちゃんを必要としてた。
でも美貴ちゃんは違った。
昨日まで一緒に笑ってたじゃない。
あたしがずっとここにいようかなぁ、って言ったら柔らかく笑ってくれたじゃない。

 「…なんでぇ……っ」

頬をつたう涙が地面を濡らした。
しばらくこの場所で待っていたけれど美貴ちゃんが来る事はなかった。

宇宙船の中に入って操縦席に座る。
通信でオートパイロット機能を使って帰って来い、と言われた。
ちらりと右の方に目線を落とすとそんなようなボタンがある。
右手を伸ばして人差し指を出して、でも。

 「押せないよ、押したくない…」

あたしはまた泣いた。
12 名前:3 太陽の影の星 投稿日:2004/03/14(日) 00:38
どれくらい泣いてたのだろう、いつの間にか眠っていたようで随分と時間も経ってるみたい。
ボタンは押さなかったからまだこの星にいる。名前もない小さな星。
右手で涙を拭いて顔を上げて窓の外を見ると見た事もない景色が広がっていた。

 「赤い……」

薄暗くて少し前を見るのもやっとなほど薄暗かった星が真っ赤な光に照らされている。
なんなんだろう、数ヶ月ここにいたけれどこんな現象は初めてだった。
不安になってあたしは宇宙船から飛び出して走り出した。
もちろん行く先は美貴ちゃんの家。
ついてすぐに必死にドアを叩く。
 
 「美貴ちゃん!美貴ちゃん!!」

いつも通りに出てきてくれるとは思っていなかった。
昨日帰れって言われたのにまだいたのか、と怒られるとも思った。
でも返事はなくて、美貴ちゃんは出てこない。

 「……美貴ちゃん…」
 「……家壊す気なの?」

後ろからの声に振り向いて、美貴ちゃんがいて、また涙がこぼれそうになったけど我慢した。
赤い光に照らされてる美貴ちゃんの表情はとてもよく見える。
悲しそうで、でもあたしを見て少し笑っている。
13 名前:3 太陽の影の星 投稿日:2004/03/14(日) 00:39
 「帰れって言ったでしょ。わかんないの?」
 「わかんないのは美貴ちゃんだよ!…どうして、いきなり…!」

美貴ちゃんは目を細めて笑った。何かをごまかしているようでその笑顔はキライ。
ぐっと睨むように美貴ちゃんを見ると笑顔は消えて、代わりに人差し指を立ててある方向に指をさした。
そこにあるのは大きな赤いカタマリ。

 「もうすぐあれが落ちてくる。前々から近づいてきているなぁとは思ったけどもうすぐみたい」
 「……え…」
 「この星はもうすぐ死ぬんだ。だから、梨華ちゃんはここから離れて、なるべく遠くに」

この人は、何を言ってるんだろう。
あれが落ちてきたらこの星は無くなるだろう。
でも美貴ちゃんは逃げる気が、ない。

 「…美貴ちゃんは」
 「美貴は…ここにはお父さんもお母さんもいるから離れられない」
 「でももう死ん……!」
 「美貴はこの星で生まれたからこの星で死ぬよ。でも梨華ちゃんはだめ。
  だから宇宙船に早く乗ってチキュウに帰りなよ。みんな心配してるよ」

この人は、何を言ってるんだろう。
そう言いながら怖くて震えている体にあたしが気づいてないと思ってるんだろうか。
14 名前:3 太陽の影の星 投稿日:2004/03/14(日) 00:40
黙って俯くあたしに近づいてきて説得を続ける。
でもそんな言葉はもうあたしの耳には届かない。
 
 「美貴ちゃん、あたしね?良い事思いついたの。ちょっと待っててね」
 「え…」

きょとんとしている美貴ちゃんを置いてあたしは宇宙船へと走った。
そして飛び乗り、さっき押せなかったボタンを押す。
押してから発射するまで時間がある事をあたしは知っていた。
すぐに飛び降りてまた美貴ちゃんの元へと走る。
これでも筋トレの成果が出たのか前よりは随分走るのも楽になったし早くなった。

 「…何してきたの?」
 「もうすぐわかるよ」

程なくして大きな音を立てて無人の宇宙船は飛び立ってしまった。
美貴ちゃんはそれをポカンと口を開けて見ていた。

 「これで帰れなくなっちゃったね」
 「ば…ばかじゃないの!?
  美貴の、美貴の宇宙船で隣の星まで行って…そこで他の人から…」
 「あたしも美貴ちゃんと一緒にいるから」

あたしは美貴ちゃんを置いてテクテクと歩く。
それを美貴ちゃんは追いかけてくる。
赤いカタマリがよく見える所であたしは立ち止まり、そして座った。
15 名前:3 太陽の影の星 投稿日:2004/03/14(日) 00:40
 「…信じられない、梨華ちゃんて無茶苦茶だね」
 「そう?」

とぼけた様なあたしの言葉を聞いてため息をついて美貴ちゃんが隣に座った。

 「後どのくらいもつかなぁ」
 「さぁ」
 「それまで話が出来るね」
 「そうだね」

美貴ちゃんが地球の事を教えてほしい、と言うのでいろいろ教えてあげた。
あんなに自分にとって魅力のない世界の話を美貴ちゃんは目を輝かせて聞いていた。
それが何故か悲しかった。
どんどん赤いカタマリは近づいてくる。

 「なんか慣れないから凄く眩しい」
 「薄暗かったもんね」

目を細める美貴ちゃんを見てから見上げた。

…あぁ、なんか見た事ある。
小さい頃、自転車に乗って夕日を追っかけて迷子になって怒られたっけ。
何考えてるんだ、って近くでなんて見れるわけないだろ、って。
なんだ、こんな近くで夕日見られたよ。
16 名前:3 太陽の影の星 投稿日:2004/03/14(日) 00:41
 「……ふふっ…」
 「何?いきなり」
 「なんでもない、それよりさ」

腕を高く上げてカタマリを指差す。

 「あれ、凄く綺麗だと思わない?」

あたしの言葉に噴出して笑った美貴ちゃん。
手を伸ばすと強く握ってくれた。

 「そうだね」

最後に見た美貴ちゃんの顔はとても穏やかで、
そして周りは眩しくなって暗くなり私たちは無になった。
17 名前:3 太陽の影の星 投稿日:2004/03/14(日) 00:41
18 名前:3 太陽の影の星 投稿日:2004/03/14(日) 00:42
19 名前:3 太陽の影の星 投稿日:2004/03/14(日) 00:42
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