2茨姫
- 1 名前:2茨姫 投稿日:2004/03/14(日) 00:24
- 2茨姫
- 2 名前:2茨姫 投稿日:2004/03/14(日) 00:25
- ◇
あたしの気持ちをただの劣情と決め付けないでください。
あたしの下でせつなく喘いでください。
あたしのために泣いてください。
あたしの妄想を赦してください。
あたしのことを見つめてください。
あたしのすべてが好きだと言ってください。
あたしの上で腰を振ってください。
あたしのことが好きじゃないなら、どうかあたしを憎んでください。
あたしのこと要らないって言ってください。
せめて、あなたの手であたしの息の根を止めてください。
◇
- 3 名前:2茨姫 投稿日:2004/03/14(日) 00:26
- 泣いていた。
目尻がひりひりして痛いのに涙が止まらない。
なんであたし、泣いちゃってんだろ?
目だけを動かして、理由を探す。天井が白い、電球が平べったい、虹色の花瓶のなかに花がない、窓が少し開いていて寒い、窓の外に映えるオレンジ色がせつない……
これだ。
オレンジ色の濃淡がくっきりとついた羊雲の向こう、いやになるぐらい真赤でぎらぎらした落ちていく夕陽があんまり綺麗だから。だからきっと、あたし泣いてるんだ。
泣いている理由があることに安心して、あたしはほっと息を吐いて、手首でごしっと目をこすった。ざわっとしたコットンの感触。包帯だった。
「……」
携帯電話が、短く鳴った。聞いたことのないヒップホップをほんの1小節。メール着信? サイドテーブルに乗せられたメタリックイエローの携帯を手に取る。
- 4 名前:2茨姫 投稿日:2004/03/14(日) 00:30
- 『 Subject:大丈夫?
Date: Thu, 11 Mar 2004 17:20:40
From: チャーミー
いま聞いた。
大丈夫?
すぐ行く。
頑張って。
』
何のことか分からない。怪我してるみたいだし、すぐ隣のサイドテーブルにおいてある携帯だし、あたし宛なのかな。操作方法も考えなくてもわかる。チャーミーって誰だろう。友達だろうか。
「あ、起きた? もう大丈夫?」
ベッドを囲んだカーテンを軽く引いて、髪を脱色した女の子が花でいっぱいになった花瓶を抱えて入ってきた。よいしょ、と小さくつぶやいて窓際に花瓶を置く。薄い色の髪が陽に溶けて、片目を覆った真っ白なガーゼにオレンジ色に映えた。きれいだ。
「うん、だいじょうぶっぽい…」
「そう? よかった」
女の子は目を細めて笑った。お月さんみたいな笑顔だった。
窓の外を見ると、雲はまだ橙色なのに、隙間から見える空はもう濃い藍色。すぐに夜が来る。
心臓が、ずきっとした。
- 5 名前:2茨姫 投稿日:2004/03/14(日) 00:49
- 「きれいだ…」
さっき自分が思っていたことを、別の人から言われるとどきっとする。女の子は、ブラインドの紐を握り締めて、窓のそとの景色に目を奪われていた、と思う。思う、というのは、あたしのほうからは彼女の目はガーゼしか見えなくて、実際に外を見ていたのか別のものを見ていたのか分からなかったから。
「沈むまで、そのままにしておいてよ」
「そうだね。うん、そのほうがいいね」
女の子は納得したように頷いて、窓から離れた。女の子も、あたしのように包帯だらけだった。パジャマから覗く両腕と、両足の見えるところに包帯が巻いてある。あたし達はまるで鏡のようにそっくりだった。違うのは多分、目を覆うガーゼだけ。あの美しいガーゼが欲しいと思った。
「あたし、ここに入院してるの?」
「……まぁ、そんなものかな」
「あなたも?」
「うん、そんなとこ。寒いでしょ? もう閉めちゃうね」
あたしの返事を待たずに、彼女は紐から手を離して、窓を閉めた。
夕焼けが窓に閉じ込められる。窓の中で死んでいく。
「よく眠れた?」
「たぶん」
「よかった」
女の子はベッド脇のスツールに腰掛けて、あたしの髪をぽんぽんと叩くようにして撫でた。
- 6 名前:2茨姫 投稿日:2004/03/14(日) 01:02
- その指が、腕が、包帯が、あたしの体温を上げていく。気温は低いのに首から上がかっと熱くなる。汗がじわっと湧き出す。
「やめて」
あたしは手を握って、彼女の動きを止める。
「……っ」
彼女が痛そうに顔をしかめたから、あたしは慌てて手を離した。包帯のところだった。彼女の包帯は、あたしのとは少し違って、少しよれててくたびれていた。胸が締め付けられるようにどきどきした。
「ごめん」
「あ、うん。こっちこそごめん。嫌がることして」
あたしが握ったところからうっすらと茶色い染みが内側から滲み出した。あれは血だ。彼女の血だ。心臓が壊れそうなぐらいばくばく言った。
- 7 名前:2茨姫 投稿日:2004/03/14(日) 01:16
- あたしは毛布をかぶって顔を隠した。頬に集まった血の色を彼女から隠したかった。心臓の音を消してしまいたかった。『もう死んじゃいたいウサギ』の気分だった。今すぐあたしを殺してくれるならトースターの中でも鍋のなかにでも飛び込みたい気分。
「のど、渇かない?」
毛布越しに彼女の声。
「すこし」
「なんか買って来る。何がいい?」
少し上ずっていて、子供っぽい声。サザエさんの花沢さんの声。お笑い系。
「ジンジャエール」
「わかった。ちょっと待ってて」
スリッパを床にこすりつける軽い音がして、彼女の気配が消える。お笑い系の彼女の声で体温が上がるなんて、あたしの身体はかなり間違ってる。
ベッドから起き上がって、窓に額をくっつける。上がりすぎた体温に心地好い。太陽はもう見えないのに、空はまだうっすらとあかかった。
あたしはぎゅうっと右手首を握り締めた。包帯のざらざら感が心地よくて、ただそれだけだった。
- 8 名前:2茨姫 投稿日:2004/03/14(日) 01:27
- 痛く、なかった。
ぞっとして、固く綺麗に巻かれた包帯をほどく。包帯は丁寧すぎるほど丁寧に巻かれていて、どこからほどいていいのかよくわからない。それでも結び口を見つけて巻き取るのももどかしく、ただひたすらほどいていく。ベッドの上には乱れた包帯。
包帯の下には、何もなかった。
いや、違う。包帯の下にはあたしの腕。傷ひとつない、まっさらな、あたしの腕。それだけ。
あたしは身体じゅうに巻かれた包帯を、すべてほどいた。気ばっかり焦って、包帯がぐちゃぐちゃになって余計にほどきにくくなったり、包帯がへんなふうに絡んでほどきにくくなったりしながら、それでも、全部。
最後のひとつを取って、なお、傷なんか、どこにもなかった。
あたしはなぜ病室にいて、ベッドで寝てるんだろ? 傷ひとつないのに我が物顔で?
そして。
あたし何で忘れちゃってんだろ?
どうして、忘れてることを、不思議に思わなかったんだろ?
- 9 名前:2茨姫 投稿日:2004/03/14(日) 02:00
- カーテンがふわっと揺れた。
「ジンジャエールなかったから、アップルとグレープフルーツ買ってみたんだけど、どっちが好き……」
ベッドの上に散乱した包帯を見て、一瞬、怯んだように彼女の言葉が止まった。
「どっちが好き? 選んでくれる?」
それから、なにごともなかったかのように言葉を続ける。
「……ジンジャエールじゃなかったらどっちでも同じ」
「じゃあ、あたしグレープフルーツ」
拗ねたようなあたしの言葉にこだわることもなく、彼女は箱入りストロー付50%のアップルジュースをあたしの手のひらに落とした。
「あたしこれきらい。箱がストローの糊でべたべたして気持ち悪いしさ」
「はい、はい。奢りに文句言わないの」
さらに絡んだあたしの言葉を軽く受け流して、事情を聞くこともせずにベッドの上の包帯を手に取ってくるくると巻きだした。あたしも慌てて彼女に倣う。彼女は馴れた調子できっちりと包帯を巻き取っていく。あたしは、彼女の半分の長さの包帯を、彼女の包帯の2倍ぐらいの直径で巻き取っていた。触るとぶわぶわと凹む包帯のロールは、見るからに不潔そうだ。
彼女は清潔そうな包帯ロールを数個作ってサイドテーブルに置いた。包帯が携帯を取り囲むようにして並べられる。
「それ、誰の携帯だったっけ?」
「あたしのじゃないよ。こないだ替えたばっかりて言ってなかったっけ? どうした?」
「チャーミーって人からメール入ってた。すぐ来るって」
「チャーミーって人…」
彼女はいぶかしむようにあたしの言葉を繰り返した。あたしは思い切って聞いてみる。
「誰だっけ、それ?」
「……」
彼女はびっくりしたようにあたしを見て、黙り込んだ。
- 10 名前:2茨姫 投稿日:2004/03/14(日) 02:19
- 「……思い出せないの。自分が誰か、どうしてここにいるのか……」
あなたが誰なのか。
その言葉を言いそうになって、言葉尻を濁す。どうしてだろう、それだけは言ったらいけないような気がした。不安げに心臓がざわめきだす。
「んーっと……」
彼女は困ったように眉根を寄せて、中空を見上げた。
「まず、チャーミーさんていうのは石川梨華さん。あたしたちの、モーニング娘。の先輩で、すごく面倒見がいい人」
ぴっと人差し指を立てて、指揮するように動かしながら言葉をつむぐ。音楽的な動きをするその指先に一瞬、見惚れる。
「いしかわりかさん…」
「そう。それから、あたしは」
あたしの確認に頷いて言葉を続けた彼女の口を、慌てて塞ぐ。
「待って、待ってお願い。その前に聞きたいの。あたしは誰?」
「ええっと……あのね……」
彼女は本当に困ってしまったように指を動かした。
「それ、どうしても言わないとだめかな」
なんて、へんなことを聞き返した。彼女にもいろいろ何かがあるらしい。あたしが彼女の名前を聞くのがいやなのと同じような、何かが。
あたしが彼女の名前を聞きたくない理由はとても明快だ。彼女のことは、自分でちゃんと思い出したかったからだ。こんなに心臓を騒がせる彼女のことを味気ない情報として知りたくなかったからだ。
「じゃあ、質問を替える。モーニング娘。って何?」
「国民的アイドルグループ」
質問を替えると、彼女はほっとしたように笑って、少し自慢げに胸を張って答えた。
- 11 名前:2茨姫 投稿日:2004/03/14(日) 02:41
- 「すごかったんだよ。何万人も入るような大きな会場でコンサートをやったりして。可愛くてきわどい衣装着てみんなで歌って、踊って…。楽しかった。毎日がパーティみたいだった」
夢物語みたいな彼女の言葉に、あたしは驚かなかった。どこかで何かを覚えてるのかもしれない。
「過去形なの?」
「過去形、なの」
あたしの疑問に、彼女は寂しげに笑って答えた。
「どうなったの」
「太陽ってさ、ずっとそこにあるのに、いつか沈むじゃない? あたしたちは何も変わらなかった。でも地球は回転していた。いつかは太陽も沈んじゃった。それだけ」
「よくわかんないんだけど?」
「あたしたちは何も変わらなかった。でも、変化は自然に来た。仕事は増えて、忙しくなったけど、何かがどんどん苦しくなっていった。あたしたちの知らないところで何かが壊れていった。CDはどんどん売れなくなっていったし、歌番組があたしたちに割く時間がどんどん減っていった。作る映画作る映画泣かず飛ばず……」
「つまんない話」
自嘲するような彼女の言葉を打ち切りたくて、あたしはぶっきらぼうにそう言って割り込んだ。自分で言っていながら、彼女は自分の言った言葉に傷ついていた。
「そうだね。つまんない話」
彼女は、泣きそうな顔で、笑った。
「で? そのモーニング娘。であるところのあたしたちは何でここにいるの?」
どうしてだか、すごく苛々して、さらにぶっきらぼうにあたしは言った。
「それは……」
「高橋っ! 大丈夫だった?!」
彼女の言葉は、乱入者の甲高い大声によって阻まれた。マチコ巻きのスカーフ。ハート型のサングラス。黒地にピンク色のサイケデリックなパンタロン。道端で出会ったら3m以内には近づきたくない怪しげな雰囲気をまとった人だった。多分、石川さんだろう。
- 12 名前:2茨姫 投稿日:2004/03/14(日) 02:55
- 高橋ってのが自分の名前なのか、と納得しかけていたら、彼女がすっとあたしと石川さんの前に割り込んだ。
「はい、大丈夫です」
「え、いや……あの?」
「あたしは大丈夫ですから、ご心配なく」
「え、どういう」
「もちろん彼女も大丈夫です。今取り込んでますから、すみません、ちょっとまたあとで……地下に患者用の卓球場があって、お見舞いの方も遊べますから、そこで少し時間を潰してきてください。TVゲームもありますしきっと楽しいと思いますよ」
「え、あの、ちょっと」
「ではまたあとで」
「……ちょっとぉ!」
背中を向けた彼女の表情はまったく見えなかったけど、
あれ? じゃあ彼女が高橋、さんってことになるのかな。あたしが高橋じゃなかったのかな?
というか、あの人一応先輩じゃなかったのかな…。先輩をあんな扱いしてもいいのかな…。
彼女は強引に石川さんを追い出すと、スツールにどすんと乱暴に腰掛けた。
「……いいの、あれ?」
「いいの。で、話は戻るけど」
- 13 名前:2茨姫 投稿日:2004/03/14(日) 03:27
- 「どうすれば一番いいのかよく分からない。あなたが記憶を無くしているなら、いっそ、そのままでもいいと思う」
彼女はまっすぐにあたしを見て、そう切り出した。
「聞くのがいやになったら、いつでも言って。あなたはずっと、あなたではない何か別のものになりたかった。だから、今のあなたは過去のあなたのことを忘れているんだろうと思う。あなたがそう願ったから」
心臓がまたずきっと痛んだ。彼女の話を聞かないといけない。でも、聞きたくない。
「あなたはいつも、あたしがいるときは本を読んでいた」
「は?」
彼女が突然、話題を飛ばした。ついていけなくて、つい大声を出してしまう?
「理由がわかる?」
彼女はどうしてだか微妙な表情で笑っている。諦めとも何ともつかぬ表情で。
「全然」
嘘だ。あたしは理由を知っている。何故、本を読まなくてはいかなかったのか。自分を現実の世界から遠くへ置かないといけなかった。
「……あたしは理想のあなたなんだって。信じられる?」
また話題が飛ぶ。あたしは首を横に振った。それから、縦に振った。どっちなのかな。よく分からない。
「あたしはそれが耐えられなかった。あなたは、自分にも他人にも厳しかった。あたしは娘。に入ったとき、ダンススクールとか通ってて、みんなより、ほんのちょこっとだけ色々なことがよく出来た。それで、あなたは勘違いした。あたしが理想のあなただって」
「勘違いなんかじゃっ!」
「あなたは年下のあたしにレベルの高いことを求めていた。ライバルであることを強要した。あたしもそれに応えたいと思った。でも……」
彼女は顔を両手で覆った。
「できなかった……」
- 14 名前:2茨姫 投稿日:2004/03/14(日) 03:55
- 「その傷…」
あたしは彼女の包帯を指差した。彼女はびくっとして、両手を背中に隠すようにした。
「やったの、あたし?」
「……」
あたしを思いやって肯定することも、嘘も付けずに否定することもできず、彼女は蒼白になった。心臓がまた、どきんと言った。忘れてしまいたかったあたしのことを、あたしは思い出さなければならなかった。そうじゃなければ、この優しい人が苦しむだけなんだ。落ち着けあたし。あたしはそれを知っている。思い出せる。
「あたしは、あなたを見るといつも苛々していた……思い通りにならないあなたに、本来自分に向けるべき憤りをぶつけていた。だからあたしは本を読んだ。本を読んでいる時間は、あなたのことを傷つけないから」
心臓が抗議するようにずきずきした。
この痛みは、疚しさの痛み。自分に対する哀れみの痛み。彼女に対する失望の痛み。だけど、その痛みと恋の痛みと区別する必要なんてあるのだろうか。区別なんて、できるのだろうか。
「それで、あたしは……」
唇を噛む。
「馬鹿みたい。あなたに傷をつけたところに、自分に自分で包帯を巻くようになった」
彼女と同じように。怪我もなにもしていない自分の腕に、包帯を巻いた。勲章のように、それが増えることを愉しんでいた。
「……ちゃんが分からなかった……今でも分かんない……だけど……別に厭じゃなかった。だから……だけど、でも、それが、あいちゃ、あなたを余計、おかしくした……」
彼女は苦しそうにそう続けた。
「あなたがあんなことしたのは、拒まなかったあたしのせいだから」
それでも、あたしのせいじゃないと、彼女は声を絞り出すように言った。今度こそあたしは、消えてしまいたいと思った。
- 15 名前:2茨姫 投稿日:2004/03/14(日) 04:24
- あたしの暴力はどんどんエスカレートしていった。あたしを救うはずだった読書も、むしろあたしをおかしくした。苛烈ないじめの記録や暴力や復讐の物語は、あたしの暴力のヴァリエーションを増やす方向に働いた。文章のなかに閉じ込めたはずのあたしの狂気は白昼夢となって返ってきた。
あたしの気持ちをただの劣情と決め付けないでください。あたしの下でせつなく喘いでください。あたしのために泣いてください。あたしの妄想を赦してください。あたしのことを見つめてください。あたしのすべてが好きだと言ってください。あたしの上で腰を振ってください。
あたしの欲望はとめどなかった。そして身勝手だった。
あたしのことが好きじゃないなら、どうかあたしを憎んでください。あたしのこと要らないって言ってください。せめて、あなたの手であたしの息の根を止めてください。
楽屋にあった果物ナイフを振り回して理不尽な要求をしたあたしに、麻琴は抵抗しなかった。飛び散った血にあたしは怯えた。そして、逃げた。今みたいに消えてしまいたいと願った。
思い出さなければ良かった。包帯だらけだったあたしたち。二人とも血だらけで、二人で一緒に救急車で運ばれた。事故だって説明するスタッフの声まで覚えてる。
「愛ちゃんは悪くないから。忘れちゃっていいから」
ただ震えていただけのあたしに、横に座った麻琴はそう繰り返して言った。あたしはその言葉にすがった。麻琴に赦されたかった。そして、信じられない、すっかり何もかも忘れちゃったんだ。
- 16 名前:2茨姫 投稿日:2004/03/14(日) 05:03
- でも、ごめんなさいという言葉だけはいえなかった。だって麻琴は自分のせいだと思ってる。自分があたしの暗い面を引き出しているのだと。堂々巡りだ。
「傷……きっと痕、残っちゃうよね」
あたしは困って、そう言った。
「ああ……うん……残るといいね」
麻琴は、なぜかふっとやわらかく笑って包帯を撫でた。
心臓が引き絞られる。
神様、この狂った気持ちを恋と呼んでいいのか分かりません。
こんなに凶暴な気持ちを愛と呼ぶのなら、世界はなんて殺伐としているんだろうかと思います。
どうすればこの身勝手な自分が、麻琴に優しくできるのか、見当もつきません。
だけど二人で狂えるのなら、世界はそんなに捨てたものじゃないと思うのです。
もしもそれが赦されるのなら。
- 17 名前:2茨姫 投稿日:2004/03/14(日) 05:03
- -完-
- 18 名前:2茨姫 投稿日:2004/03/14(日) 05:05
- ○
- 19 名前:2茨姫 投稿日:2004/03/14(日) 05:05
- 。
- 20 名前:2茨姫 投稿日:2004/03/14(日) 05:05
- .
Converted by dat2html.pl 0.1