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【あやみき小説最終話・一人ランデヴー】
- 1 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月08日(日)06時59分25秒
【あやみき小説最終話・一人ランデヴー】
- 2 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月08日(日)07時00分13秒
―――― つないだ手をはなさないで
・・・・・・隣で走るあやが、風の中でそう言った。
- 3 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月08日(日)07時01分12秒
- 「あやたん、離れちゃダメだよ!」
先ほどから断続的に続いているごう音で、私の声はすぐにかき消された。
タイルが剥がれて走りにくい廊下を、死体をよけながら二人で突き進む。
そこかしこで煙と血と、肉のこげた匂い。
心臓が大きく脈打って大量の血を供給しているはずなのに、
今の私には、それはちっとも足りていなかった。
私は、走っていた。
あいつに見つからないよう、わざと暗い教室をつっきって、走っていた。
それでも、校庭に出た時、頭上に現れた太陽がまぶしかった。
耳の奥で、もう一人の私がせきたてる。
早く行け、と、せきたてる。
逃げなくてはならない。逃げなくてはならない。
あやを連れて、逃げなくてはならない。
どうしてこんな事になってしまったのだろうか。
一時間前までは、万事、平和にうまくいっていたじゃないか。
都会の学校の窓からは、市街地の一部が見えた。
裏庭のポプラの葉はチカチカ光りながら、こまかくさざめいていたし
その上の空は、健やかな明るいブルーで塗りつぶされていた。
ああ、私の生活は、本当になにもかも平凡で、幸せだった。
- 4 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月08日(日)07時01分49秒
ドォォォオオォオオオン
後方で、ひときわ大きな爆撃音がした。
振り返ると、学校の2階部分から、火の手があがっていた。
「・・・・・・亀井・・・っ・・・」
あやが、片手で口を押さえてそれを見ていた。
逃げよう、と言う私達に対し、亀井はその場で隠れるという選択をした。
亀井が今の爆発に巻き込まれたのは、ほぼ間違いない。
親しい者の死んだのは、これで、8人目だ。
一日で8人もの友人の死を見送るなど、昨日まではどうして考えられただろう。
つないだ手を通して、あやが震えているのがわかった。
私も、同じだった。ひざが、小刻みに震えていた。
けれど、私は走らなくてはいけない。
あやを連れて、逃げなくてはならない。
- 5 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月08日(日)07時02分21秒
- 「藤本、あやちゃん連れて、先に行って!」
正門の前で、飯田先生が叫んでいた。
「あやちゃんはあなたが守るのよ、わかってるでしょ、藤本。」
私達を通して、飯田先生はただ前方をにらむ。
「飯田先生も、一緒に逃げましょうよ!」
私はほとんど泣きそうになっていた。
私達に背を向けた先生は、門の前をふさぐように、
大きく腕を広げて一言「ダメよ」と言った。
「あいつが、来るわ。私がここでなるべく時間を稼ぐから・・・藤本、早く。」
「・・せんせっ・・・」
私は、こみ上げてくる涙をこらえて、うなずいた。
泣くわけにはいかなかった。
きっと、この時の先生の背中を、私は一生胸に刻み付けるのだろう。
何かにつけ、思い出すのだろう。
その為には、二人で生き延びなければならない。
- 6 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月08日(日)07時02分53秒
- 私は、ちいさく頭を下げて、再び、駆け出した。
徐々に呼吸が荒くなり、2月の未だ凍てついた空気が喉を焦がしていく。
静かな街に、二人分の呼吸音だけが響いている気がした。
それは、私達の居場所をあいつに教えているのと一緒だ。
とにかく人の沢山いる所に行かなければならない。
私とあやは、大通りへと続く道を、ただひたすらに走った。
しかし、いつもならば通っているはずの人や車の姿が、
どういうわけだか今日は見えない。
「あ、梨華ちゃん・・・」
あやが、呟いた。
大通りの入り口は、もうそこだ。
その、T字路の道路標識の下に、セーラー服の後姿。
クラスメートの石川梨華ちゃんに、間違いなかった。
しかし、少し様子がおかしかった。
- 7 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月08日(日)07時03分29秒
- 「・・梨華ちゃん?」
近づいて、肩に手をかけてみる。
しかし、彼女は微動だにしない。
「どうし・・・」
「人が、いないのよ。」
梨華ちゃんが、ゆっくりと、確かめるように言った。
「いないのよ。建物も道路もあるのに、車とか人とか・・」
「何い・・・」
何言ってるのよ、と、言うつもりで開かれた私の口が
いびつに歪んでいくのがわかった。
本当に誰もいなかった。
街はいつも通りの配置で、いつも通りにそこにあったけれど
そこにいるべき人々や、街を彩る喧騒が、まったく、なかった。
- 8 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月08日(日)07時04分07秒
- 「どうなちゃってるのよ・・・街も・・・ひとみちゃんも。」
梨華ちゃんは、ガードレールを背に、なだれこむようにその場にしゃがみこんだ。
彼女の頬には、つうっと一筋、涙がつたっていた。
「ひとみちゃん」という言葉に、私は、改めて驚きを持った。
学校を破壊し、
友人を殺し、
私とあやを走らせ
今梨華ちゃんを泣かせている“あいつ”が
あの、吉澤ひとみだなんて、やはりどうしても考えられなかった。
「とにかく、隠れるしかないね」
道路を挟んで向こう側のスターバックスから、ごっちんが出てきた。
手に、鉄パイプを持っていた。
「相手は怪物だからたかが知れてるけど。
きっと、時間稼ぎくらいにはなるはずだよ。」
ガードレールをひょい、と越えて、ごっちんは道路の真ん中に躍り出た。
背筋をすっと伸ばして、正眼のかまえをするごっちん。
鉄パイプを握る手が、震えている。
- 9 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月08日(日)07時04分58秒
- 「この先、大通りになってるから、隠れる所も沢山ある。」
「ごっちん、まさか」
「逃げて」
ごっちんが、こっちを見て、はっきりと言った。
「ミキティー、梨華ちゃん任せたから。皆で、逃げて。」
どうして、この人は、こんなに不器用なのだろう。
いつもいつも、ふざけているように見えて、こんな時だけどうして。
ためらっていると、あやが私の腕に、ぎゅっとしがみついてきた。
いや、あやばかりか、全員が息をのんでいた。
「う、嘘だっ・・・・いつの間に来やがった・・・・。」
ごっちんが、舌打ちをして、パイプの切っ先を、緊張させる。
20メートル先には、彼女の背丈ほどもある日本刀をひきずった、吉澤さんがいた。
彼女が刀をひとふりする度に、まわりのものが、跡形もなく崩れ去っていく。
塀も、その先の建物も、電柱も、すべて。
- 10 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月08日(日)07時05分33秒
- 「ひとみちゃん、やめて!!!」
梨華ちゃんが叫んだ。
吉澤さんは、何も聞こえていないかのように、こちらに向かってくる。
「うわああああああああああああああああああああぁぁ!!!!!」
ごっちんが、鉄パイプをめちゃくちゃに振りかざして、吉澤さんに襲いかかった。
吉澤さんは、ごっちんには目もくれず、刀を軽くなぎはらう。
大量の血が、一瞬にしてあたりに飛び散った。
自動販売機が、音を立てて崩れ、その前にいたごっちんは・・・粉々になった。
吉澤さんが、刀を返すと、その直線上にあった道路にはことごとく亀裂が入る。
同時に、私の半径2メートル以内で、悲鳴があがる。
悲鳴?いや、違う。
これは、断末魔。
梨華ちゃんの、断末魔。
私は、頭のてっぺんから急速に冷えていくのを感じた。
座り込むことも、ましてや指さえ動かすこともできないでいた。
吉澤さんは、真っ直ぐと私をみすえている。
歩調は変えずに、それでも確実に近づいてくる。
呼吸を整えようとしたが、無駄だった。
ヒューヒューと肺の奥から出て行く息は、赤ん坊の泣き声のようだった。
- 11 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月08日(日)07時06分25秒
- 「ミキティー、逃げちゃダメだ」
吉澤さんは、血に濡れた顔で、私にそう言った。
意味がわからない。
思えば、初めてであった時からそうだった。
吉澤さんは、転校してきた初日からおかしかった。
壇上から私を指差して「君を救いに来た。」と言っていたあの日から
もっと彼女の異常性に気を配っていたら、何かが変わっていただろうか。
剣道部の吉澤さんの、白い胴衣は血でどす黒く変色していた。
ボロボロになった長刀からは、
誰のものともわからない血が滴り落ちて、水たまりをつくっている。
「ミキティーは、この世界でウチに心を開いてくれた。
大丈夫、まだ助かる。だから、逃げないで。」
狂っている、と私は思った。
相変わらず言っていることが、わからない。
しかし、近くで見て、初めて気付いた。
吉澤さんの着物を染めているのは返り血だけではなく、彼女自身の血も含まれている。
彼女は、どういうわけだかかなりの怪我をしていた。
口からは、時おり苦しそうな息が漏れている。
そのことが、私に少しばかりの勇気を与えた。
そしてそれが、右手で繋がっている、あやの存在を、強く思い出させた。
- 12 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月08日(日)07時07分19秒
- 「美貴たん。あや、怖くないよ。」
やおら、私に抱きついて、あやがそう言った。
「あやにとって、美貴たんがすべてだもん。
美貴たん以外、なぁんにもいらない。だから、二人一緒なら何も怖くない。」
制服越しに、あやのぬくもりと鼓動が伝わってくる。
あやは、私の全てだ。あや以外に、私はなにもいらない。
私は、あやを後ろに隠すようにして、吉澤さんと対峙した。
吉澤さんは、何故だか悲しそうに笑って、日本刀を構えた。
そして彼女はそれを、こちらに振り下ろすと思いきや・・・
渾身の力で、地面に突き刺した。
低く、鈍い。
いまだかつて耳にしたことがないような、地を這うような音が、辺りを包む。
足元から地震のように大きく揺れ、まるでハリボテが剥がれ落ちるように、
いとも簡単に、まわりのビルが倒壊し始めた。
吉澤さんの口からは、多量に血が吐き出されたていた。
それは、赤い霧のように。あとから、あとから。
ガクリとひざを突いた吉澤さんを見て、私は今がチャンスだと思った。
私は、あやを守らなければならない。
あやと二人の世界を、何が何でも、守らねばならない。
- 13 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月08日(日)07時08分08秒
- 私は、吉澤さんが突き刺した日本刀に手をかけた。
私は、なぜだか知っていた。
これで、吉澤さんを殺せば、またいつものような平穏な日々が戻ってくる事を。
綺麗な街と、学校と、優しい仲間と、あやだけの生活が。
何事もなく戻ってくるという事を。
刀は、思ったよりも簡単に抜けた。
加えて、それは軽かった。
「目を、そむけちゃダメだよ、ミキティー。」
顔だけあげた吉澤さんが、はぁはぁ、と息をつきながら、言う。
「ダメだよ。忘れた振りなんかするな・・・・・!」
搾り出すように言う。その度に、彼女の口の端から、血の塊りがあふれ出る。
「知ってるはずだよミキティー。君の後ろにいる人は、誰?」
「ゃめ・・・」
- 14 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月08日(日)07時09分01秒
- 喉がカラカラに渇いて、視界が揺れた。
そうだ。私は、知っている。
「ミキティーの好きなあやちゃんは、あんなんじゃない。」
「やめて!!!私は、何も知らない!!」
いけない。そっちに行ってはいけない。
逃げなくてはいけない。
あやと二人で、逃げなくてはいけない。
耳の奥の声が、必死にそう叫んでいる。
「この世界は、ニセモノだ。」
「違う!変な事・・・言わないで・・・っ!!」
こめかみに、激痛が走る。
急速に脳内の情報が塗り替えられていくのが自分でもわかる。
頭を押さえても、もうどうにもならない。
- 15 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月08日(日)07時11分07秒
- 「ミキティー、逃げちゃダメだ。」
白いマイクロバス。
突然の事故。
「やだよぉ・・・いやだってば!!!!」
消えた笑顔。
愛しい笑顔。
線香の匂い。
孤独。不安。哀しみ。
「やだっ!!やだ!!!!」
絶望。
踏み切り。
迫り来る電車。
死への憧憬。
「やめて!!!やめてよ!よっちゃんさん!!!」
・・妨げる、影。
- 16 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月08日(日)07時12分12秒
- 「はは、やっと、その名前で呼んでくれた。」
吉澤さんが・・・いや、よっちゃんさんが、微笑んだ。
私は、何もかも思い出していた。
私が、モーニング娘。の藤本美貴だということを。
歌うことが大好きだったということを。
あやという恋人がいて、幸せに暮らしていたことを。
・・・・あやが、ロケの帰りに、不慮の事故で、死んでしまった事を。
なぜ。
どうして。
怒りとも悲しみともつかない感情が押し寄せて
理不尽な思いは言葉となって、よっちゃんさんにぶつけられた。
- 17 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月08日(日)07時12分53秒
- 「なんでっ!なんであの時止めたの!?どうして身代わりになんかなったの!?
美貴、あやたんのところに行きたかったのに!どうして止めたんだよ!」
「ミキティーには生きて欲しかったから。
ミキティーの歌声を、まだまだ皆に聞いて欲しかったから。」
「あやたんのいない世界で歌ったって何も楽しくないよ!
自分の身を犠牲にしてかばうとか、何様のつもり?いい迷惑だよ!」
「あやちゃんの分まで生きなきゃ。自殺なんて、“あやたん”が生きていたら、
間違いなくミキティー殴られるよ。自分でもそう思ったんでしょ?」
「うっさい!!!そんなのあんたのエゴだ!!!」
私は長刀をにぎりしめ、大きく振りかぶった。
もう決めていた。
私は、終わらせる。終わらせてやるんだ。この手で、何もかも。
「・・・・・・わかってる・・・わかってるんだよ!!!」
- 18 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月08日(日)07時13分49秒
ズシャッ
- 19 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月08日(日)07時14分31秒
- 子気味いい音と共に。
・・・・ツクリモノのあやが、倒れた。
私は振り向きざまに、あやを斬った。
血は出なかった。
それは、まるでガラス細工のように繊細だった。
本当は、わかっていた。
私は、あやの死を理由に、生きる事から逃げようとしていたこと。
そして、なだれを打つように、私の世界は、崩壊していく。
先ほど巻き起こった振動が、更に強くなって、もはや立っていられないほどになっていた。
ふいに、上の方から、白い光が差し込んできて
遠いところで、心電図のような電子音が、かすかに聞こえた。
私は、病院で寝かされているのだろう。
ああ、私は、この光を目指して、現実の世界へ戻る。
あやの死んだ後を、生きていく。
- 20 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月08日(日)07時15分15秒
- 「・・・・・・・・助けたのはね、確かに、私のエゴだよ。」
よっちゃんさんがまぶしそうに光を見ながら言った。
「君が、ずっと、好きだったから。」
恥ずかしそうに頭をかくよっちゃんさんの姿に、胸が痛んだ。
けれど、私は、ごめんなさいとは言わなかった。
そんなセリフ、よっちゃんさんには、失礼だとわかったから。
代わりに、黙って深々と頭を下げた。
心からのありがとうの意味を込めて。
頭上の光が、段々と迫ってきた。
視界が漂白されていく。
「またね」とよっちゃんさんの声が聞こえた気がした。
現実の世界に戻った私の心臓は、きっと優しい拍動を刻むだろう。
よっちゃんさんと、そして、あやの命を受け継いだ私の胸はきっと温かい。
- 21 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月08日(日)07時16分21秒
心電図の音がすぐそこで聞こえる。
私を呼ぶ、家族の声も。
あやは死んでしまった。
けれど、あやの好きでいてくれた私は、まだ生きる時間が残されている。
この光の先に待っている世界は決して平坦ではないだろう。
けれど、私は妙に清々しい気持ちになっていた。
あやは死んだけれども、胸の中で確かに生きている。
だから、私はあやと生きてゆける。
私は、あやの命を引き受け、つないでいく。
目が覚めて、今の記憶がなくなっていたとしても
きっと私は、生きてゆける。
・・・・・そんな自信が、体の底からふつふつと沸いてくるのを感じた。
光の渦の中で私は、静かに宣言した。
- 22 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月08日(日)07時17分14秒
藤本美貴は、生きていく。
平山あやの命を胸に、生きていく。
END
- 23 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月08日(日)07時17分58秒
_| ̄|○ む し ろ 急 に 最 終 回
_| ̄|○ そ こ は か と な く 「あ や」 違 い
_| ̄|○正直すまんかった_| ̄|○
- 24 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月08日(日)07時19分07秒
川;VvV)
- 25 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月08日(日)07時19分43秒
-
(^〜^O;)
- 26 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月08日(日)07時20分27秒
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