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27 オトコ

1 名前:27 オトコ 投稿日:2004年02月08日(日)01時14分44秒
27 オトコ
2 名前: 27 オトコ 投稿日:2004年02月08日(日)01時15分40秒
「オトコ?」
疑問符を語尾ににじませたのは、美貴。

「オトコ」
にやりと笑みを浮かべたのは、亜弥。
3 名前:27 オトコ 投稿日:2004年02月08日(日)01時16分40秒
「ばーっ」
効果音風の声とともに、美貴はクッションを放り投げた。
「――かじゃないの?」

そよそよと室内を泳ぐ冷房の風を切って、クッションは床にうつ伏せになって
いる亜弥の背中にヒットする。
美貴は顔のパーツを真ん中に寄せるようにして、
「ばかじゃないの?」
ご丁寧に、もう一度くりかえした。

「ばかなもんかー」
亜弥はクッションを抱きしめると、起きあがった。床にあぐらをかき、ソファ
の上の美貴を見上げる。

「ばかだよ」
「なんで」
「オトコなんて、つくれるわけないじゃん」
4 名前:27 オトコ 投稿日:2004年02月08日(日)01時17分51秒
亜弥宅でのお泊まり会から一夜明けた昼下がり。

今日は二人ともオフだ。目覚ましを知らない間に止めてしまったどちらかのせいで、
揃って正午近くまで爆睡してしまった。強すぎる日射しを窓越しにのぞいた時点で、
街に出るのは断念した。
寝間着から着がえもせずに、二人してごろごろとどうでもいいテレビ番組を眺めて
いたとき、夏だ海だと単純にあおり立てるCMを見つめて、ふいに亜弥がつぶやいた。

「オトコが欲しい」

そして、冒頭に戻る。
5 名前:27 オトコ 投稿日:2004年02月08日(日)01時18分39秒
「そんなに力いっぱい否定しなくったってさ。できないとは限らないじゃん。それに年頃の女の子として、彼氏欲しいっていうのは、ごくごく自然なことだと思うんだけど」

早口でぶつくさ言う亜弥をしり目に、美貴は立ち上がった。
勝手知ったる人の家。
冷蔵庫を開け「なんか飲む?」と完全に主客が転倒した発言を平然と放つ。

「午後ティー」
「律儀だね」
6 名前:27 オトコ 投稿日:2004年02月08日(日)01時19分52秒
大きめのグラスに二人分の紅茶をつぎ、氷をだっぷりと入れる、その合間にも
「あー、オトコ欲しい」と亜弥はため息をついた。

「こらぁ!」
美貴はペットボトルを乱暴にテーブルに置いた。どん、と2リットル弱分のずっしり
大きな音に、亜弥はすこし驚いた顔になる。

「なに?」
「あのねえ、その言いかたお下品だよ。せめて、カレシにしといて」
「誰が聞いてるわけじゃなし」
「ミキが聞いてるの。ミキがヤなの」

美貴は亜弥をにらみつけた。
「じゃあカレシ。カレシ欲しいなあ」

――まだ言うか。

美貴は肩をすくめた。
7 名前:27 オトコ 投稿日:2004年02月08日(日)01時20分57秒
「どしたの?」
亜弥にグラスを手渡しつつ、美貴はたずねた。

「なにが」
「あんたそんな、オトコオトコ言ってなかったじゃん。急にそんなこと言いだしてさ」
「たん、オトコって言った」
「ミキはいいの。あやちゃんはだめ」

勝手な言いぐさを平然と口にし、美貴はごくごくと紅茶を飲んだ。
亜弥はじっと美貴の喉が豪快に動くさまを見上げている。他人を見つめすぎる亜弥のクセが、
自分に対しては特に顕著であることを、美貴は知っている。
とはいえ今さら、どきまぎする仲でもない。

「だってさあ、夏だよ?」
と、亜弥。
「夏だね」
「恋の季節なんだよ?」
「言うね」
「恋したくない?」
「あはは」

美貴は笑いだした。にやにや笑いを浮かべたまま、グラス片手に亜弥の隣に腰かける。
体重でソファがかしいだ分だけ、きっちり美貴の方に身を寄せると、亜弥は至近距離で
その顔をのぞきこんだ。
8 名前:27 オトコ 投稿日:2004年02月08日(日)01時22分39秒
「なんで笑うの」
「単純だなー。あやちゃん、さっきのCMに影響されたね?」

美貴は、さっきテレビで流れた沖縄旅行CMの30秒バージョンを思いだしていた。
鮮やかな海と空の色の下、若い二人の出会い、バックに流れるはサザン。ベタながら、
きれいな景色と初々しい俳優の演技が印象に残るCMだった。
キャッチコピーは『夏の終わりは恋の始まり』。

「う」
亜弥はごまかすように視線をはずすと、グラスに口をつける。
「そもそもさー、夏だから恋の季節だとか、なんかトクベツな季節だとか、そういうの
ってマスコミとか旅行会社とかの戦略だよね。暑いだけじゃん。なんの根拠もないし」

おもしろがってからかいかける美貴に、「つんくさんを否定するようなこと言わないの」と、
亜弥はお姉さんぶる。

「ひょっとして、好きなコでもできた?」
「まーさか」

美貴の問いに、亜弥はいやな顔をする。
「そうなんだよ。オトコどころか、あたしらって好きな人できる余地だってないんだよ。
どうやって出会うの? 教えて? って感じ」
9 名前:27 オトコ 投稿日:2004年02月08日(日)01時23分50秒
「オトコって言わない」
美貴は亜弥の頭をこづく。

「カレシ、カレシ」
「そうだねえ」

美貴は冷房のリモコンを取り上げた。「がっつりガードされてるもんね、うちら」
「だしょ? かっこいい人いっぱいいるけど、こっちからなんかぜんぜん近づけないし。
話す機会ないから、近づきたいほど好きになんないし」

ピ、と音を立てて美貴はエアコンの『自動』を『強風』に変えた。
一拍の間をおいて、勇ましい音とともに人工の風がはきだされる。
窓から入りこむ午後の日射しは省エネ仕様の空調をものともせず、閉め切った部屋の
温度を確実に上げている。くっついて座るには、いささか暑苦しい。

「みきたんはオト……カレシ欲しくない?」
10 名前:27 オトコ 投稿日:2004年02月08日(日)01時24分41秒
「いらん」
「そうなのぉ?」
「できたって遊べないだろうし。そんなんじゃきっとうまくいかなくて、よけいな
ストレスたまるだけだよ」
「そうなのかなあ」
「そうだよ」
「でも欲しい」

亜弥はうらめしげに美貴の顔を見る。

「ミキに言われても。なんなら兄ちゃんでも紹介しようか」
カンペキに冗談なのに、
「ホント?」
亜弥の表情は、ぱっとかがやく。「みきたんに似てる?」

「ちっとも」
「なーんだ」
「なんで、しょんぼりするかな」
「あ、でもお兄ちゃん北海道でしょ。遠距離はヤダ」
「近かったらええんかい」

重症だ、と美貴はため息をついた。
11 名前:27 オトコ 投稿日:2004年02月08日(日)01時25分49秒
「なに? マジ欲しいの?」
「うーん、そんなに欲しくはないんだけどぉ……」
「ハァ?」

言ってることがめちゃめちゃだ。美貴は亜弥のむきだしのうなじに、キンキンに冷えた
グラスを押しつけた。

「うひゃあ」
亜弥はオーバーリアクションですくみ上がる。
「つめたっ。な、なんか、たれてるたれてる」

白い首筋に、グラスの外側についていたしずくがつたっている。背中の開いた
ノースリーブを濡らさないよう指先でしずくをとどめると、亜弥の体温で温く
なったそれで、美貴はなめらかな背中に円を描いた。
12 名前:27 オトコ 投稿日:2004年02月08日(日)01時27分44秒
「く、くすぐったい。ひゃひゃっ」
身をよじりながらも、亜弥は逃げだそうとはしない。
こんな風に触れられるのが大好きな親友は、微妙にアブないような気がする。
おもしろいものだからついからかいの手が伸びてしまう自分も、アブないのは
同様かもしれない、と美貴は思う。

「今まで言ってたことと、超矛盾してるんですけど」
「ち、ちがうの。あのね、確かにあたしってとっても忙しいしぃ、お仕事とか
みきたんとか、いろいろ充実してるわけよ。ぜんぜん満たされてるの、マイライフ」

お仕事と並べられるのはちょっと行き過ぎだなあ、と思いつつ「それで?」と美貴は
先をうながす。亜弥の背中に手を置いたまま。

「だから、現実的にはぜんぜんカレシなんていらないの。でも欲しいの。うーんとね、
なんつうのかなあ、この気持ち。あのね、あたし今まで一回もつきあったことないじゃん?」
「うん」
「それってさあ、なんか不安になるのよ。あたしかわいいし、歌うまいし、ナイスバディだし、
がんばりやさんだし、なんでもかんでもバッチリなのにさ、つき合ったことないってだけで、
なーんかこう、いっぱしのオンナじゃない。みたいな扱いされるのって、カチンとくるんだよね。
よく言うじゃん? 恋をすると世界がバラ色になるとか、キレイになるとか。ま、あたしの場合、
これ以上かわいくなったらヤバイけど、あれってホントなのかなあとか、そのヘンも気になるん
だよねー。それとも、これ以上はムリかなぁ」

「よく真顔でそんなことほざけるよね」

美貴はしみじみと言った。
13 名前:27 オトコ 投稿日:2004年02月08日(日)01時29分30秒
「ま、あやちゃんの言ってることわかんなくもないよ。ミキだって、デビューしてから
彼氏どころかレンアイとかぜんぜんしてないもん。なんか、同年代のほかの子見てたら、
これでいいの? って思えるときある」
「でしょ?」
「うん。片思いでも、恋はちょっとしてみたいかもなあ」

美貴は視線を上に上げて、なつかしむような顔になる。

「しようぜ、しようぜぇ!」
亜弥ははしゃいで体を揺らす。

「どうやって?」
まったく乗り気ではないくせに、つきあいのいい美貴は、相づちは打っておく。

「う……うーんと、コンパ?」
「ツテある?」
「うーん、二ノ宮くんにでも言ってみるとか……でも、そんな仲良くなってないしなぁ」
「あやちゃん、ジャニーズの男の子なんかと写真とられたら、亜弥ちゃんの今までの
努力とこれからの未来がかなりの確率でコナゴナにはじけ飛ぶけど、その覚悟はOK?」
「う……それはヤかも。でも、ごっちんだって山下くんだっけ? ウワサなってたじゃん。
あ、二ノ宮くんとだって」
「ごっちんとあやちゃんはちがうもん。キャラの問題。ミキとかもきっとそんなに衝撃ない
だろうけど、あやちゃんとか梨華ちゃんの場合、オトコの影はアイドル人生に致命的だと思うよ」
14 名前:27 オトコ 投稿日:2004年02月08日(日)01時30分49秒
「じゃっ、じゃあナンパ! 逆ナン! 二人で夜の街に行ってカッコいい人探すの。
これどう?」
「目立っちゃってナンパどころじゃないと思う」
「変装すんの! こう、サングラスとかしてさ。そういえば昔テレビで見たことある
んだけど、なんか、どっかの国のお妃さまが、すっごいオトコ好きでさ、夜な夜な街
へ出ては、オトコ漁りしてたんだって。正体ばれないように覆面して。すごくない?」
「ミキたちも覆面するワケ?」
「あ、それおもしろいかも。こう、ズラとか眼鏡とかしてさ、本人だって隠して。
で、じゃーんってバラすの」
「そんなことして、犯されなかったらいいけど」

ふへぇぇ、と亜弥は顔をひきつらせた。

「みけたん……世の中ってそんなコワいもの?」
「あやちゃんみたいにかわいい子に対してはね」

おもしろくなってきて、ことさらに意地悪なことをいってしまう美貴。
15 名前:27 オトコ 投稿日:2004年02月08日(日)01時32分00秒
出す案出す案否定され、亜弥は頭を抱えて考えこんでしまった。

「うー。うー。そだ!」
亜弥は、ばっと顔を上げた。その瞳が尋常でない輝きをはなつ。

「オトコがだめなら……オンナとか」
「はいぃ?」

すごい勢いで亜弥の顔が美貴に近づき、キス寸前、というところで止まる。

「レズっとく?」
雰囲気たっぷりのささやき。唇にかかる吐息の熱さに、かすかに動揺しながらも。
「アホか」
顔と顔の間に手を押しこんで、美貴は亜弥の顔を押しもどした。

「みきたんだったらいーんだけどなあ……」
「アーホーかー」

あきれ果てたずさんなツッコミ。
16 名前:27 オトコ 投稿日:2004年02月08日(日)01時33分16秒
「あやちゃん、欲求不満なんじゃないの」

まったく、トップアイドルがあんまり、サカリのついた猫みたいなこと言わないで欲しい。
そんな思いが、すこし意地の悪い口調になる。

「かもしんない」
「ふーん」

美貴の手は、まだ亜弥の背中に置かれたままだ。
ふと思いついて、美貴は指先で亜弥の背中をなぞった。

「なに、くすぐったい」

――なんでそう、色のついた声をだすかな。

するすると美貴の長い指はなめらかな肌をすべり、脇のあたりからノースリーブと
肌の合間に忍びこみかける。

と。
17 名前:27 オトコ 投稿日:2004年02月08日(日)01時34分40秒
「ぎいやああああ」

ふくらみに触れるか触れないかのところで、色気もなにもない、蛙でも踏んづけた
ような悲鳴が響き渡る。
飛びずさったのは亜弥だった。真っ赤な顔になって美貴を振りかえる。

「なっ、なにすんのっ」
驚きのあまりか、イントネーションが関西弁になっている。
美貴は片目をつぶって顔をしかめている。

「耳イテー。さすがあやちゃん、すごい声量……」
「なにすんのっ。バカあっ」
「いや、欲求不満だって言うからさ、なんとなく」
「ばかじゃないの、みきたん! すけべ。エロオヤジかよ。信じらんない。やらしい。
ヘンタイ。ほんと信じらんない。ほんと最悪」

えらい罵倒を浴びせられて、さすがに美貴は唇をとがらせた。

「さっきレズるとか言ってたくせに」
「ちっがう! なんでそういうやらしい方向に行くの。あたしはそーゆーのがしたい
んじゃないの」
「じゃ、どーゆーのがしたいの」

息も荒く亜弥は斜め下の床をにらみつける。

――おお、考えてる考えてる。

真っ赤な顔の親友は、小猿みたいだ。
なんてことは、自覚あっても人に言われたくはなさそうだから言わない。

                               (未完)
18 名前:27 オトコ 投稿日:2004年02月08日(日)01時36分08秒
・駄作の理由
どうしても終わらなかった、という駄作。つまりは未完。
「第一回男×娘。コンペ」に出そうと書きました。
狙いは「男を出さないで男×娘。(あやみき風味)」。
未完を置いても、娘。にオトコ語りさせたいとの序盤の意図がだんだんねじれて、
終盤あやみき感が出すぎてるあたりもばっちり駄作。
19 名前:27 オトコ 投稿日:2004年02月08日(日)01時36分25秒
20 名前:27 オトコ 投稿日:2004年02月08日(日)01時36分43秒
21 名前:27 オトコ 投稿日:2004年02月08日(日)01時36分52秒

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