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26 プレゼント

1 名前:26 プレゼント 投稿日:2004年02月07日(土)23時01分11秒
26 プレゼント
2 名前:26 プレゼント 投稿日:2004年02月07日(土)23時04分10秒
きょうは朝から落ち着きませんでした。
なぜかと言うと、今日10月29日は小川麻琴先輩の誕生日だからです。
プレゼントは何にしようかと必死になって考えたけれども、絵里はまだお給料も安いし、お小遣いも月に5千円だから手作りの物を送ろうと思います。

それで昨日は、ママに教えてもらってカボチャを練り込んだクッキーを作りました。自分で言うのも何だけれども、サクッとした歯触りはなかなかの出来映えだと思います。
最近、少しだけふっくらとしてきた小川さんのために、砂糖は一切使わずにカボチャの甘みだけで味を付けてあります。これなら小川さんも安心して食べられると思います。

ごめんなさい。決して小川さんがデブだからダイエットしろだなんて意味じゃないです。小川さんはカボチャが好きだから、きっと喜んでくれると思ったんです。

ちゃんと箱にいれて、ラッピングとリボンもかけました。
「小川さん。いつも絵里を見守ってくれてありがとうございます。」というメッセージカードもリボンに挟みました。
本当はもっと違うことを言いたかったけど、何か恥ずかしくて、ありきたりな言葉になってしまいました。
そうして絵里のバックの底に大事にしまいました。
バックの底に箱を置くと、そこに小さな暖かい固まりがポッと灯ったような気になりました。
3 名前:26 プレゼント 投稿日:2004年02月07日(土)23時05分18秒
小川さんとはさくら組とおとめ組に分かれてしまってから、あまり会えなくなってしまったけど、今日は久しぶりのモーニング娘。全員揃ってのレコーディングの日です。しかも神様が絵里に味方してくれたかのように、麻琴先輩の誕生日の日です。
直接に自分の手でプレゼントを渡して、小川さんに「お誕生日、おめでとうございます。」と言えるのです。

絵里がモーニング娘。に入ったばかりの頃にダンスとか歌とかのレッスンについていくのが大変過ぎて、自分に自信を無くしかけてちょっと鬱っぽくなったことがあった時に麻琴先輩は「亀井ちゃんちょっと。」ってスタジオの片隅に呼んでくれたことがありましたよね。
それから、自分も新潟から出てきてモーニングに入って半年ぐらいは自信を無くす事も多かったし、ホームシックにもなったって話をしてくれましたよね。
そんな時に保田さんを初めとする先輩にすごく元気づけられたから、亀井ちゃんも遠慮なく自分に何でも相談してよって、メールアドレスを教えてくれましたよね。今でも、あの時のメモの切れ端を大事に持っているんですよ。
4 名前:26 プレゼント 投稿日:2004年02月07日(土)23時07分12秒
スタジオの控え室に入ると小川さんは紺野さんと一緒に何か楽しそうに話していました。紺野さんは、何故か仕事もプライベートも、いつも小川さんと一緒にいます。HPWでもそうだし、ハワイアン娘。でもそうでした。絶対に紺野さんは怪しいと思います。
二人の話の輪に辻さんが加わりました。
あっ。辻さんが麻琴先輩にプレゼントを渡してます。
小川さんが嬉しそうに包みを開けています。
何でしょうか。
ピアスです。
なんだか大人の選択という感じです。中学生であるわたしにとってはピアス穴を開けるというのは不可能な事ですが、小川さんや辻さんは、ある意味でもう大人だからピアスを送りっこしたり出来るのでしょう。意味も無く、少し敗北感を覚えました。
5 名前:26 プレゼント 投稿日:2004年02月07日(土)23時08分44秒
「うっす。」
低血圧の人特有のまだ完全に頭が覚めきってない掠れ気味の声で吉澤さんが入ってきました。相変わらず吉澤さん、レコーディングというのに甚平と雪駄履きというのはアイドルとしてというより、大人の女性としてどうでしょうか?

いえ。あの、わたしなんかが生意気言って済みません。
きっと、きっと吉澤さんには何か深いお考えがあっての事でしょう。
芸能界半年のわたしには分からない何かが・・・


「あっ。吉澤さん。おはようございま〜す。」
あれっ・・
麻琴先輩すごく嬉しそうに吉澤さんにあいさつしてる。もし、小川さんにシッポがあったなら、きっと千切れるほど振っていたんじゃないかな。まるで飼い主に駆け寄る子犬みたいに吉澤さんのほうに近づいて行ってる。全身で嬉しさを表現してる。
いいなぁ。吉澤さんと麻琴先輩の師弟関係。
わたしも早く自分の感情を正直に出せるようになれればいいのに。
もっともっと、素直になれたら。

どうしても壁を自分から作っちゃうな。
いつも壁に圧迫されている気分のほうが落ち着くよ。
6 名前:26 プレゼント 投稿日:2004年02月07日(土)23時10分16秒
駄目。
絵里。ネガティブにならないってモーニングに入ることが決まった時に心に誓ったじゃん。
自分に自信を持とうって。
自分は十分可愛いし、ダンスも歌も人並み以上にできる人間だって自分を信じて上げようって。

「おはようございます。」
元気なあいさつで、れいなが控え室に入ってきました。
いつもなら六期メンバーの固まりのほうに、すぐに来るのに、今日は小川さんたちのグループの中へと入っていきました。

「あのう。小川さん。これ、つまらない物ですけどぉ、お誕生日おめでとう御座います。」
れいなは黄色いリボンをつけた紙袋を小川さんに渡しました。

「ん。ありがと〜。開けていい?」
小川さんはニコニコしながら、れいなのプレゼントの包みを開けています。
「うわぁ。プーさんのストラップかぁ。さっそく使わせてもらうよ。」

小川さんはもう自分の携帯にれいなからのストラップを付けています。
れいな、上手くやったなぁ。小川さんの好みを上手く捉えて低予算で最大の効果を得られるプレゼントを選択したみたいです。
7 名前:26 プレゼント 投稿日:2004年02月07日(土)23時11分47秒
やっぱり、れいなは自分とは違うという劣等感にも似た気持ちが沸き上がって来ます。
わたしだって、気軽に小川さんと一緒の写真とか撮りたいけども、どうしても「一緒に写真撮ってください。」の一言が言えないのです。
れいなとか、さゆは先輩と一緒にいっぱい写真をとっているのにな。

「絵里はもう小川さんにおめでとうって言ったの?」
れいなが絵里の方にやって来て、耳打ちするように言いました。

「・・・まだ。」
たぶん、わたしの声は蚊の鳴くような声だったと思います。
「あれ?プレゼント忘れちゃったの?」
れいなは男の子みたいな、さっぱりした性格だと思うけれども、時々すごく無神経になります。

ううんとわたしは頭を振りました。
「じゃあ。早く渡しちゃいなよ。」
れいなにしてみれば何気ない言葉でしょうけど、その言葉はわたしの心を酷く傷つけます。
8 名前:26 プレゼント 投稿日:2004年02月07日(土)23時13分19秒
うじうじと悩んでいるうちにレコーディングが始まり、つんくさんに次々とメンバーが呼ばれて控え室の動きが慌ただしくなってきました。
結局、小川さんにプレゼントを渡す切っ掛けを失ってしまったようです。
空気がピーンと張りつめて、先輩メンバーの皆さんは精神集中を始めて近寄り難い雰囲気です。とても「小川さんお誕生日おめでとうございます。」なんて気軽に言えるような状況では無くなってしまいました。

いつもそうです。
何故か、わたしはいつも間が悪いんです。
もっと自分に自信を持って、前に出れたらと思います。
さゆやれいなみたいに何の躊躇もなく自分が一番ですと言えればどんなにいいでしょう。

9 名前:26 プレゼント 投稿日:2004年02月07日(土)23時14分36秒
小川さんと高橋さんが何か真剣に歌詞カードを前にして話し合っているのが目の端に入ってきます。いつもはヘラヘラ笑っている小川さんだけど、真剣な顔をしている時の横顔は思わず見とれてしまうほど凛々しいと思います。

もともと抜けるように白い小川さんの肌が透き通るように綺麗。
頷きながら高橋さんを見ている麻琴先輩の目が好き。
いつもの垂れ目が緊張して少しつり上がっている所が好き。

声に出したらきっと壊れてしまうかも知れない関係。
背中を壁に押しつける。
レコーディングスタジオのコンクリート打ちっぱなしの壁の冷たさがスエットのパーカー越しにも伝わってきます。
硬く冷えた感触。
このまま、この氷の存在の中に沈みこんでしまえればいいのに。

この想いは同性愛とかとは違うと思います。
何か触れたら壊れそうな砂糖菓子を見ている気分。
ありふれた日常の中にふと気付く夕焼けの綺麗さ。
いつもの地下鉄の駅の何気ないポスターの中の微笑み。
10 名前:26 プレゼント 投稿日:2004年02月07日(土)23時16分26秒
「ねえ。絵里・・・」
さゆの声で我に返りました。
「絵里、ぼぅっとして大丈夫?気分でも悪いの?」

・ ・・さゆに言われるようじゃあ、おしまいだと思います。
「ううん。何でもないよ。」
努めて平静を装いました。作り笑顔をして。
「絵里の番だってさ。ブース入れって、つんくさんが。」
えりがちょっと微妙な顔つきで告げました。
もともと人とは感情の表現が少しずれているさゆなので、その表情からは彼女の本心は読み取れませんでした。

ばれちゃったかな。わたしが麻琴先輩を見つめていたこと。さゆに。
まあ、いいや。
わたしはレコーディングブースに入りました。
11 名前:26 プレゼント 投稿日:2004年02月07日(土)23時18分34秒
「おっしゃぁ。亀井やな。亀井で今日のレコーディングの予定は最後やから、気張ってやってや。」
つんくさんが音調節のコンソールの前に座って首だけ、わたしに向けて言いました。何だかハイテンションです。ランナーズハイ?みたいなものでしょうか。ずっとレコーディングをしてて緊張の連続が続き過ぎて、頭の中がハイになってしまったのかも知れません。

それよりも、わたしがレコーディングラスト?
小川さんが帰ってしまう。
いや、もう帰ってしまったかも。わたしがラストなら、小川さんのレコーディングはもう終わっている筈です。残っている理由がありません。

心臓がぎゅんという声を立てて縮んだ気がしました。
足に力が入りません。

「ん。亀井、緊張してるんか。まあ、気楽にいっぺん歌ってみよか。」
つんくさんは鼻歌を歌いながらヘッドフォンを付け直します。
こうなったら一刻も早く音入れを終了して、麻琴先輩が居残っているわずかに可能性に賭けるしかありません。
さっきの小川さんと高橋さんの話し込んでいる様子からすると、ひょっとしたら話が長引いて、まだ控え室に居るかも知れないと思うからです。

それは有り得ないほどの低い可能性かも知れない。
砂漠に光る一粒の金を見つけるに等しい可能性かも。
でも、わたしはその可能性に賭けます。

わたしのバックのそこにある暖かい小さな灯し火を消さないためにも。
12 名前:26 プレゼント 投稿日:2004年02月07日(土)23時19分54秒
生まれてから初めてと思えるほど真剣に歌いました。
モーニングに入るオーディションの時もこんなに真剣に歌った記憶はありません。自分で言うのも何ですけど、神がかっていたとさえ思います。

歌い終わってつんくさんの方を見ると、つんくさんはチェアーの背もたれに体を預けて感心したように「ほう」という顔をしています。
(やったぁ。)
一発OKを確信しました。
スタジオの時計を見ると、スタジオに入ってからさほど時間が経過してません。これくらいなら、まだ間に合う可能性が高いです。

「おう、亀井。歌が上手くなったなぁ。正直びっくりしたわ。」
つんくさんは溜めていたものを一気に吐き出すように言いました。
しかし、すぐに信じられない一言をわたしは耳にするのです。
「今ので全然OKやけど、もうワンテイク、採らしてや。今の調子でやってくれればいいから。保険と思ってな。」
13 名前:26 プレゼント 投稿日:2004年02月07日(土)23時21分16秒
・ ・・そんなぁ。
つんくさん、有無も言わせずに次の録音の準備にかかってます。

(はいはい)
なるだけ不満を顔に出さないようにします。
こういう時には作り笑顔を作るしかない自分に少し鬱です。

出来るだけ気持ち前向きに切り替えてもう一度歌いました。
さっきほどじゃないけど、自分の中では満足いく出来になったと思いました。
つんくさんの方をちらっと窺ってみると、顎の辺りを撫でながらニヤニヤと笑ってます。取り敢えずは納得したみたいでした。

「OK。いいよ。亀井、今日は気合い入ってたな。これからもこの調子で行くんやで。ほな、もう時間も遅いから気をつけて帰るやで。」
まるで学校の先生みたいな言い方です。

「はいっ。ありがとうございました。」
マイクの前で一礼して、控え室に向かいます。
14 名前:26 プレゼント 投稿日:2004年02月07日(土)23時22分21秒
そんなに長くない廊下が妙に長く感じました。
(小川さん、まだいるかな。)
(早く。早く、行かないと。)
知らず知らず歩き方が小走りになります。心臓の鼓動も自分で分かるくらい早くなってます。

控え室のクリーム色の扉。
自分自身が銀色のドアノブを回す音が木霊の様に耳に響きました。
高さ50メートルのバンジージャンプを思い切って飛び込むときの様な気分。

「・・・小川さん」
その時、わたしは声にならない声を上げていたと思います。

部屋には誰もいませんでした。
部屋の中が一瞬無重力状態になったように感じました。そう言えば空気も薄いようです。ソファーに体を投げ出して座り込んでしまいました。

さっきのさっきまで、ここに麻琴先輩が座っていたのに。
小川さんの温もり。
小川さんの残り香。

もちろん、そんなものある訳ありません。
15 名前:26 プレゼント 投稿日:2004年02月07日(土)23時23分26秒
なんだか、世の中どうでもよくなってきました。
わたしっていつもこうです。
天井の一点をみつめたまま、しばらくボゥとしてました。

でも、神様っているもんですね。

「えええええ、なんでですかぁ。」
小川さんが廊下で叫んでいる声がいきなり聞こえてきました。

わたしは飛び起きて、廊下に走り出ます。
廊下の向こうの端の曲がり角を小川さんが曲がって姿を消したのが見えました。

(間に合った。)
わたしは小さな暖かい固まりをしっかりと両腕に抱いて全速力で走ります。
ぎゅううっと目をつぶって力の限り走ります。

廊下の角を曲がると、すぐそこに人影が見えました。
麻琴先輩です。
わたしはゴールテープを切るリレーアンカーのように人影に追い付き
「あのあの。お誕生日おめでとうございます。これ、つまらない物ですけど、食べてください。」
と下を向いたまま一気に言い切りました。
16 名前:26 プレゼント 投稿日:2004年02月07日(土)23時27分49秒
わたしはついに言えました。
亀井絵里。自分で自分を褒めて上げたいです。

「あれあれ。亀井。俺の誕生日覚えてくれていたんか。そうか、すまんなぁ。開けてもええか?」

あれっ・・・
男の人の声。
誰?

恐るおそる、顔を上げてみるとつんくさんでした。
(つんくさん?なんで?)

速攻でつんくさん包みを開けて、光速のスピードでクッキーを口の中に放りこんでます。
「うん。美味いな。これ手作りやろ。」
それ、わたしが麻琴先輩のために心を込めて作ったものなんですけど・・・
そんなばくばく食べないでくださいよぉ。

「・・・あの、あの小川さんは?」
消え入りそうな声で辛うじて、それだけ言いました。

「小川?さっきまで、俺と話しとったから、まだその辺におるんとちゃうか。」
と余り関心なさそうな態度で、なおもボリボリとクッキーを食べ続けます。
「うまいなぁ。ほんま美味いで。」

つんくさん・・・
そんなに盛大に食べて。小川さんの分も残してください。
神様おねがい。
絵里の未来はどっちですか?
17 名前:26 プレゼント 投稿日:2004年02月07日(土)23時28分43秒
没にした理由。
・ 引っ張ったわりに落ちがいまいち。
・ キショい。
・ 去年の麻琴聖誕祭記念の時期に出すつもりが時期を逸した。
・ えりまこ。ありえネ。
・ 亀井はこの作品の中の乙女な性格より、もっとダークサイドの住人だと思た。
・ 書くのにあきた。
以上
18 名前:26 プレゼント 投稿日:2004年02月07日(土)23時29分10秒
19 名前:26 プレゼント 投稿日:2004年02月07日(土)23時29分33秒
20 名前:26 プレゼント 投稿日:2004年02月07日(土)23時30分08秒

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