インデックス / 過去ログ倉庫

16 Don,t break a spell

1 名前:Don,t break a spell 投稿日:2004年02月03日(火)21時34分29秒



「Don,t break a spell」
2 名前: :Don,t break a spell 投稿日:2004年02月03日(火)21時37分01秒
夕暮れの強い日差しでオレンジ色に染まっている教室。
誰もいない空間は当たり前のように静まり返っていて、私は机の上に座りながら
窓辺に寄り掛かって外を見ていた。
ふと何気なく壁の時計を見ると約束の時間をすでに40分も過ぎている。

その現実を知ってしまったら思わず深い溜め息が口から漏れた。
でもあの委員会が長引くのは別に今日に始まったことではないし、一緒に帰る
約束をしてしまった私にも要因がないとは言い切れない。
それに外の景色をのんびりと眺めているのは嫌いじゃなかった。

少し前まではずっとそうして時間を潰してきた。
だから一人で過ごす時間には慣れているしその方法も熟知している。
私は軽く息を吐き出してから再び窓の外へ視線を戻すと、さっきまでは
いなかった一人の女の子に目が釘付けになった。


別に知り合いのでもなければ名前さえ知らない子だった。


3 名前:Don,t break a spell 投稿日:2004年02月03日(火)21時38分45秒
それなのに視線を奪われたのはその女の子が長い黒髪を揺らしていたから。
あの事から2年も経ったのに未だに彼女を探している。
でも何だか今でも不意に笑いながら現れそうな気がしてならなかった。

私は耳に掛かった髪を軽く掻きあげると窓から視線を外す、そしてあの日から
過去の残像に捕われ続けている自分を少しだけ嘲笑した。


4 名前:Don,t break a spell 投稿日:2004年02月03日(火)21時40分53秒
あれは今から少しだけ遡った2年前、まだ中学2生だったときの出来事。
その頃の私は人間を嫌っていた。
誤解を招かない言い方をすると無知な子どもを嫌っていた。
狭い範囲でしか物事を考えていない、そして偏見によって世界が成り立っている
ことに嫌気が差していた。

私は今でもそうだけど同年代の子達より世間を少しだけ分かっていた。
単純で低能なのにひどく純粋、本当はそうとこに嫉妬していただけかもしれない。
自分はきっとどう足掻いてもそんな風にはなれないから。


だから子どもが嫌いだった。


5 名前:Don,t break a spell 投稿日:2004年02月03日(火)21時43分39秒
私は自分の教室の前に立つと意味なく溜め息を吐き出した。
そしてドアを開けると先に来ていたクラスメート達の視線が一斉に集まる。
この瞬間が私は一番嫌いだった。

けれど視線はすぐに何も見てなかったように逸らされ、止まっていた会話は
楽しげに再開される。
もう飽きるほど繰り返された出来事なのにいつも少しだけ胸が痛む。

「・・・ふん、バカらしい。」
でも私はそんな内心を悟らせないように、生意気に軽く鼻を鳴らすと自分の席に座った。
クラスメ−ト達はこちらを見て笑いながら何かを囁き合っていた。


私は誰が見ても分かるようにクラスでは一人浮いていた。
けれど別にイジメられてはいなかった。
それは私が勉強もスポーツもクラスで一番に近かったからだと思う。

強気な発言とそれに伴う実力があれば子どもにはイジメられない。
だって自分より強い奴には手を出さないから。
子どもの考える方程式はあまりにも簡単でとても分かりやすかった。


だから私は一匹狼のような存在だった。


6 名前:Don,t break a spell 投稿日:2004年02月03日(火)21時46分21秒
でも悔しいとか嫌だとは特に思ったことはなかった、むしろ団体行動をしないで
済むから楽だとさえ感じていた。
それに一人でいることは今日に始まったことではないから慣れている。
そんな恒例行事から10分くらい経ってから担任が来てHRの時間になった。


でもその日のHRはいつもと違っていた。


「今日、このクラスの仲間になる転校生を紹介する。」
と担任の野太くて大きな声が教室中に響き渡った。

すると仕組んであったかのように男女様々なざわめきが起こる。
けれど私は特に興味が沸かなかった。
だってどんな奴が来たって関係ない、きっとその子と仲良くなるはずもないから。

担任は騒がしいクラスを軽く窘めると、ドアを開けて外にいるだろう転校生に
中へ入るように言った。
そして入ってきたのは一同が感嘆を飲むほどの美少女だった。
一瞬だけ私も惚けたようにその姿を見つめてしまった。

歩く度に揺れる艶のある長い黒髪、そこから垣間見える少し焼けた褐色の肌、
そして弱々しそうな線の細い整った体、大人しそうな印象を受ける綺麗な顔立ち。
まるで少女マンガの主人公みたいな子というのが第一印象だった。


7 名前:Don,t break a spell 投稿日:2004年02月03日(火)21時48分07秒
「それじゃ軽く自己紹介でもしてくれ。」
「えっ?あっ、はい。あの・・・・亀井絵里です。皆さんよろしくお願いします。」
彼女は担任に促されると今にも消えそうな声で挨拶し最後に頭を下げた。

その態度にクラスメート達は良い印象を持ったようで、盛大な拍手が教室を
包み込むと男子は分かりやすい歓声を上げて喜んでいた
私はその雰囲気に流されながらやる気なさそうに適当に何回か手を叩いた。

彼女は挨拶を終えると安堵の溜め息を吐くと、私の席から2つ横の空いていた窓側に座った。
そしてHRが終わると彼女は転校生の特権とも言える質問責めにあっていた。
彼女は少し困った顔をしながらも言われることに大体答えていた。

「ふん、アホらし。」
私はそんな様子を横目で眺めてから小さく呟くと、大した興味もなかったので
机に突っ伏して少しだけ眠った。


8 名前:Don,t break a spell 投稿日:2004年02月03日(火)21時51分00秒
それから3カ月が経つと彼女はすっかりクラスの一員になっていた。
頭が良くてスポーツもできる、おまけに誰にでも隔てなく接し、物腰は優しくて
いつもその顔は笑っている。
そんな絵に書いたような人だから彼女は人気者だった。

転校生ながら優等生という地位を手に入れ、みんなから一目置かれる存在になった。
けれど私のポジションは相変わらず一匹狼のまま。
彼女とは何度か話したことはあるけれど、決して友達ではなくどこか事務的だった。
それに互いにさん付けしている時点で二人の距離は高が知れている。


だから私達はクラスメートという関係でしかなかった。



その関係でしかないはずだった。



9 名前:Don,t break a spell 投稿日:2004年02月03日(火)21時53分04秒
ある日、私は班の子達と一緒に化学室の掃除をしていた。
一週間単位で掃除の場所は変化していくけれど、この場所は一番大変だと言われて
皆から嫌われていた。
化学室は広いしほうきの他にモップとぞうきんを使うからだと思う。

けれど真面目にやらない奴にとっては面倒ではないらしい。
案の定というべきか男子は骸骨や人体模型で遊んでいて、掃除をやっているのは
私を含めた女子だけだった。

別に無視すればいいのだろうけど巻き添えで怒られるのは癪だから。
うちの班はただでさえ掃除を真面目にしないという評判で、担任からこの前も
お説教されて目もつけられている。


あの長い話をもう一度聞かされるのは勘弁してほしかった。


10 名前:Don,t break a spell 投稿日:2004年02月03日(火)21時58分58秒
「みんなでやった方が効率良くない?それにまた怒られるのはご免なんだよね。」
私は平然と男の子に近寄ると目の前に立ってはっきりと言った。

一瞬、場の空気が凍りついたように冷え切ったのを感じた。
でもすぐに悪ぶって男子をまとめているリーダ格の子が反論してきた。
確か山田太郎というセンスの欠片もないような名前だったから、クラスに関心のない
私でも珍しく覚えていた。

「だからお前がやればいいだろ!」
でも山田はバカの一つ覚えのように同じことを繰り返す。

「あのさぁ、少しは違うこと言えないの?さっきから同じことばっかだよ?」
私は呆れたようなため息を吐き出すと軽く髪を撫でてから鼻で笑った。
別にそれは相手を挑発するという考えはなかった。

「う、うっせ−よ!バーカ!!」
けれど言われた山田はタコのように顔を赤くすると、突然私の襟を強く掴んで
力任せに後方へ突き飛ばした。

「くぁっ!・・・・・痛った・・・・。」
そして机の角に背中を強打すると私は思わずその場にしゃがみ込んで呻いた。

「死ねよ、バカ!てめぇは一生そこにいろ!」
などと血の上った頭で山田は意味も分からない言葉を喚き散らしていた。

「おい、お前ら今すぐここから出ろ!」
それから少しして落ち着きを取り戻すと、部屋の鍵を取って山田は不敵な笑みを浮かべた。

その命令にすぐさま取り巻きの男子が女子達を強引に押し出して化学室を出る。
でもいまいち事態が飲み込めてない女子は困惑の表情を浮かべていた。
けれど私は何となく山田がしようとすることが予想できた。


11 名前:Don,t break a spell 投稿日:2004年02月03日(火)22時02分10秒
「・・・・・何する気?」
私は未だに座り込んだままだったけれど強気に睨んで言った。
でも態度で誤魔化しても痛みは増してきていて立ち上がることすらできなかった。

「さっき言ったろ?お前は一生そこにいろってな!」
山田はさっきとは打って変わって勝ち誇ったように笑って言った。

私の予想は見事に的中した、どうやらこの化学室に閉じ込めるつもりらしい。
やっぱりガキの考えることだから本当に短絡的で子ども染みている。

「夜の学校でお化けにでも会って泣いてろ!」
そして呆れるような捨て台詞を言って山田は部屋のドアを閉めた。


それから本当に鍵の閉められた音がして、男子が「先生に言ったら殴るからな!」
などと言って脅していた。
ちゃんと口止めをしているから思う程バカではないらしい。
そうしてまた罵声が聞こえてきたかと思うと、本当に帰ってしまったらしく
足音は遠くへと消えていってしまった。


12 名前:Don,t break a spell 投稿日:2004年02月03日(火)22時04分13秒
残されたのは背中の痛みと静かな空間だけ。
夕日はもうすぐ沈みそうな気配で少し薄暗くなってきている。
化学室は校舎の一番左端あって授業がない限りは人が通ることなど殆どない。

声を出して助けを呼ぶのも微妙だし、そんな気力は痛みのせいで失ってしまった。
そうしていつの間にか日は暮れて教室はオレンジ色から紫色に変わる。
どうやら本当にここで一晩明かすという選択肢しかないらしい。


でもこの雰囲気に私は不思議と何の違和感も感じていなかった。


家に帰ってもこの状況と全く変わりがないから。
誰もいない薄暗い部屋に一人きり、違いと言えばご飯代のお金が置いてないことくらいだ。
それに大型TVとエアコンと高級家具も置いていないけど。

私の家は裕福で1人で暮らしていても何一つ不自由はなかった。
母は幼い頃に亡くなっていないし、父は会社の重役で滅多に家は帰ってこなかった。
だから家に帰っても当たり前のように誰もいない。

「ただいま」と言っても暗い部屋が無言で迎えてくれる。
それに父は仕事のせいだと言うけれど、私はそれを本気で信じてはいなかった。
裏で愛人を作っている可能性だって十分に考えられた。

そんな複雑な家庭事情だけど私はこの現状を悔やんだりはしていない。
だってもう一人でいることには慣れてしまったから。


13 名前:Don,t break a spell 投稿日:2004年02月03日(火)22時06分55秒
ふと私が我に気づくと化学室はすっかり暗くなっていた。
でも近くにある街灯の明かりや月明りが入ってきて、予想したほど暗いという感じはしない。
私は床に座って膝を抱え込んだまま意味なくため息を吐いた。

「バッカみたい・・・・。」
それから誰に言うでもなく何気なく口から言葉が溢れた。

こんなところに閉じ込めた男子もバカだし、助けに来ない女の子達もバカ。
それに見回りさえしない先生達もバカだと思う。
でも一番なのはバカなのは化学室に閉じ込められた今の自分だ。

「くっ・・・・ひっく・・うぇ・・・・っ・・・。」
急に訳の分からない寂しさに胸が占領されて私の口から嗚咽が漏れた。


学校で泣いたのはこれが初めてだった。


14 名前:Don,t break a spell 投稿日:2004年02月03日(火)22時09分21秒
本当は心のどこかで期待していた。
きっと誰かが助けに来てくれるじゃないかって。
同じ班の女子達や見回りに来た先生、家に帰ってないのを心配した父親。

でも閉じ込められてから2時間が経つのに人が来る気配はない。
その現実を理解したら急に寂しいという感情が溢れてきて止まらなくなった。
私は一人でいることには慣れている自信があった。


けれど一人でいる寂しさには未だに慣れることができなかった。


でも私は嫌われているんだから当たり前だった。
他人の親切が煩わしく思えていつからか突っ返すようになっていた。
だからいつも独りぼっちだった。

助けに来てくれる人がいないのは分かっている。
ずっと前から分かってるのに今この残酷な現実が悲しくてたまらなかった。
自己嫌悪に陥りながら私は嗚咽を化学室に響きかせていた。


15 名前:Don,t break a spell 投稿日:2004年02月03日(火)22時11分14秒
でもそんなとき突然化学室のドアが勢い良く開けられた。
「くっ・・・・すん・・・・・うぇ!?」
私はあまりに唐突な出来事に驚いてひゃっくりのように嗚咽が止まった。


そして開けられたドアの向こうには意外な人物が立っていた。


「あっ、どうも。こんばんわ。」
彼女は場に合わない柔らかな笑みを浮かべて挨拶してきた。

「はっ?いや、なんで亀井さんがここにいるの?」
私は事態が飲み込めてなかったものの一番疑問に思うことを質問した。

「あぁ、職員室からカギ盗んできました。って言っても分からないですよね?
えっと・・・・新垣さんと同じ班の子から電話がかかってきたんですよ。
それで話を聞いて急がないと思って来ました。」
亀井さんはにこやかな笑みを絶やさないまま説明してくれた。

でもそれは理解するのに少し考え込む必要があった。
多分あの男子に脅された女子達がこのままではいけないと思い、クラスの中で
信頼されている亀井さんに相談し、事を知って化学室に来てくれたという事らしい。


はっきり言ってとても分かりにくい説明だった。


16 名前:Don,t break a spell 投稿日:2004年02月03日(火)22時12分45秒
「あっ、今の分かりにくかったですか?すいません。」
露骨に顔に出ていたのか亀井さんは謝ったけれど反省してる感じはない。

「別に謝らなくてもいいですから。」
私はその無難に場をやり過ごす態度が気に入らなくて冷たい声で言った。

「あの、目が赤いですけどひょっとして泣いてました?」
亀井さんは人の話を聞いていないのか、急に目の前にしゃがみ込むと嬉しそうに
顔を覗き込んでくる。

「な、泣いてなんかない!」
私は慌てて目許を乱暴に腕で擦ると顔を横に逸らして叫んだ。


泣いていたのがバレるなんて一生の不覚だと思った。


17 名前:Don,t break a spell 投稿日:2004年02月03日(火)22時14分31秒
「ふふっ・・・・もしかして夜の学校が怖かったんですか?」
亀井さんは口元を押さえながらも楽しそうな笑い声を漏らして言った。

「子どもじゃないんですから。もしかしてバカにしてんですか?」
私は呆れた顔をして深いため息を吐き出すと素っ気無い口調で答えた。

「違いますよぉ。でも今の新垣さんすごくかわいいですよ?」
亀井さんは軽く首を振って否定すると目を細めて笑いながら言った。

「かわいくなんか、ないよ・・・・・。」
私は顔を俯けながら拳を強く握って小さな声で静かに呟いた。

だって強気で意地っ張りで天の邪鬼で、自分でもどこに長所があるのか分からない。
それなのにかわいいいだなんてこの人は少し感覚がおかしい。

「かわいいですって、本当に。」
亀井さんは言うと同時くらいに私の頬に手を伸ばして触れる。

その突拍子もない行動に戸惑っていると、今度は唇に生温かくて柔らかい感触を感じた。
私がそれをキスだと気づくのには少し時間を要した。
そして我に返ったのは二つ縛りにしていた髪留めを外され、重力に従って自然に
髪が肩口に垂れたときだった。


18 名前:Don,t break a spell 投稿日:2004年02月03日(火)22時16分33秒
下ろすと母さんに似ているからって理由で父が私に結ぶことを勧められて、
特に否定する理由もないからずっとその髪型でいた。
でも最初そう言われたときは寂しいからだと思ったけど、今ならその意味が分かる。


自分の罪悪感を少しでも軽減させる為なんだ。


「ちょ、ちょっと何するんですか?!」
関係ないことに思考が働いてたせいで、彼女から身を離すという私の抵抗は遅すぎた。

「やっぱり髪下ろしたほうがかわいいですよ。」
どうやら亀井さんは基本的に人の話を全く聞かない人らしい。

それとも敢えて無視しているのか、何にしても二人の会話は見事に噛み合っていない。
でもどういう考えがあったにしてもその態度は相変わらず癪に触った。

「人の質問に答えて下さい!一体どういうつもりで私に・・・・その・・・・
キスなんてしたんですか?」
私は珍しく興奮して大声を張り上げたけれど、先程の行為を思い出すと自然に
語尾は小さくなっていった。


19 名前:Don,t break a spell 投稿日:2004年02月03日(火)22時19分43秒
「好きだからですよ、でなきゃあんなことしませんって。」
亀井さんは再び顔に笑みを浮かべながら平然とした口調で答えた。

「私を好き?からかわないで下さい!そんな嘘すぐに分かりますよ?
だって私のどこが好きなんですか?」
私は軽く鼻を鳴らすと自分と共に言った言葉まで卑下して嘲笑った。

「理由ですか?そんなのどうでもいいじゃないですか、好きって言葉に偽りが
ないのなら。」
亀井さんはその優しげな見た目に反して無茶苦茶な理屈を言い出す。

「そんなの自分勝手じゃないですか!」
だから私は全く納得できなくてすぐに勢い良く反論した。

「そうですよ。私って普通に自分勝手で・・・・・おまけに結構強引なんですよね。」
でも亀井さんはその言葉に頷いて肯定すると口端だけを上げて笑った。

それはいつもの物腰が柔らかい人じゃなくて、鋭い牙を隠した賢い獣に見えて
急に少し怖くなった。
そして宣言通りに彼女は私の首に素早く手を巻き付けると強引に引き寄せる。

「親近憎悪の恋愛版なのかもしれませんね。」
と強く抱きしめながら何気なく呟いたかと思うと、首筋に顔を寄せて突然軽く歯を
立てられる。



だから私がその言葉の意味を深く考えることはできなかった。


20 名前:Don,t break a spell 投稿日:2004年02月03日(火)22時25分44秒
「ん・・・・ちょっ・・・・イヤだ・・・。」
と自分より細い肩を押しながら何とか身を捩って体を離そうとする。

「力抜かないたほうが楽だと思いますよ?」
でもすぐに亀井さんの腕が脇を通ってしっかりと固定され、鼻で笑うような表情で
囁かれたかと思うとまた二人の唇が重なる。

それからブレザーを脱がされて白いワイシャツのボタンが2、3個外されると、
肩が冷たい上気に触れて体が少しだけ震えた。


彼女の舌は色んなところを這い回って触れた部分を熱く火照らせる。
私はいつの間にか抵抗するのを忘れて、ただ彼女にされるがままの人形状態だった。
そして何度もキスされたり首筋や耳に噛みつかれたりした。

でもそれらはとても曖昧で鮮明な映像としては頭に残っていなかった。
覚えているのは床に押し倒されたとき先程殴打した背中に痛みが走ったこと、
あと耳元で囁かれた甘い言葉と優しげな声。

そして自分の中に異物が入ってくるときの感覚。
まるで体を貫かれるような痛みと今まで味わったことのない心地良さ。
でも行為の最中は段々と頭の中が白く濁っていって思考が働かなくなっていった。

そして自分が別に何かになってしまうような恐怖心があった。
だからなのか私はもがくように必死で何でもいいから掴んでいたかった。
すると亀井さんが柔らかく笑いながら手を握ってくれた、それは私の知っている
いつもの優しい彼女だった。


21 名前:Don,t break a spell 投稿日:2004年02月03日(火)22時30分41秒
でも最後に思わず力を入れてしまい爪を食い込ませてしまった。
そして行為が終わると一気に脱力感に支配され、私の頭はしばらく上手く回転せず
変な感覚だった。


亀井さんは不意に何も言わずに立ち上がって窓辺へ向かって歩き出す。
無意識のうちに私の目線は彼女を追っていた。
亀井さんは窓に寄り掛かりながら何をするでもなく、ただ今の出来事に浸っている
ように思えた。


でも月明りに照らされたその姿は本当に見惚れてしまうほど綺麗だった。


それから亀井さんは視線を落とし手の甲に一本の赤い筋を見つけると、愛しそうに
口づけをしてからそっと舌で舐め取った。
でもその光景はまるで絵画のようで本当に美しかった。

そして今度は手の甲から人差し指まで骨に沿って舌がゆっくりと艶かしく動き、
最後に半透明な液体と真っ赤な血のついた指先を口の中に入れる。
そのとき黒髪から僅かに覗いたその横顔は儚げで泣いてるようにも見えた。
私はぼんやりとした心地でそれを見つめながら1つだけ確信を持った。


少女を奪われて女性になったのだと。


22 名前:Don,t 投稿日:2004年02月03日(火)22時32分50秒
あの出来事から月日は気がつくと2年も過ぎていた。
私は普通レベルの都立高校に進学してそれなりに毎日を楽しんでいる。
それに少ないけれど良い友達も何人かできた。

亀井さんは次の日突然どこかへとまた転校してしまい、あの日から今に至まで
一度も会うことはなかった
でも私はあの頃より少しは人間を好きになれた気がする。


それはきっと少なからず彼女のお陰だと思う。


私は風に揺れる髪を片手で押さえながら不意に夕暮れの空を見上げる。
高校生になって髪を下ろしたのも彼女の影響だった。
「髪下ろしたほうがかわいいですよ」という言葉が何だか忘れられなかった。

だから自然に目線がまたあの黒髪の少女を見つめてしまう。
ふと溜め息が口から漏れると同時くらいに勢い良く教室のドアが開いた。


23 名前:Don,t break a spell 投稿日:2004年02月03日(火)22時34分32秒
「お待たせ!ゴメンね、里沙ちゃん。」
そして入ってきたと思うと速効でまこっちゃんが手を合わせて謝ってくる。
最近染めた明るすぎる茶髪が太陽の光に反射して眩しかった。

「別にいいよ、今度何かおごってくれれば。」
私は座っていた机から身軽に下りると鞄を肩に掛けて帰る用意をする。

「えぇ!またぁ?!この前おごったばっかりだよ?」
まこっちゃんは大げさに驚くとすぐに泣きそうな顔になって反論する。

私達の間では待ち合わせに遅れたりその他色々あるけれど、一応迷惑をかけた
ことを反省するということでペナルティーが課せられる。
そしてそれは大抵甘いものを奢るということに決まっていた。

「しょうがないよ、待たせた麻琴が悪いんだから。」
まこっちゃんの後ろから知ってる声がしたかと思うとあさ美ちゃんが現れた。


どうやら遅くなっていた理由は委員会だけではないらしい。


24 名前:Don,t break a spell 投稿日:2004年02月03日(火)22時37分55秒
「・・・・・ねぇ、また見てたの?」
あさ美ちゃんはふと窓の方へ近づくと外を見ながら何気ない口調で呟いた。

「ん?あぁ、里沙ちゃんって髪が黒くて長い女の子好きだもんねぇ。」
その言葉に釣られてまこっちゃんも外を覗き込むと納得したように言った。


二人の視線の先にはきっとあの黒髪の女の子がいる。


「別に好きってわけじゃないよ。」
私は髪を軽く掻き上げると二人から少し顔を逸らして答えた。

これがそういう類いの感情なのかは分からない。
でもあの事件は忘れられないし、未だに引き摺っていることは否定できない。
それに今でもたまにあの事を思い出すと気にかかることがある。


あのとき彼女につけた傷はもう消えたのかなと。


25 名前:Don,t break a spell 投稿日:2004年02月03日(火)22時42分04秒
「それじゃ何か・・・・。」
さらに追求しようとするまこっちゃんの頭をあさ美ちゃんが叩く。

きっと気を利かせてくれたのは嬉しいけれど、そのやり方は少し乱暴すぎたらしく
まこっちゃんは涙目になっていた。
でもこの2人のこういう行動にいつも心癒されている。

「ただ呪いをかけられただけだよ。」
私はその光景に悪いけど吹き出して笑いながら何気なく言った。

我ながら現状況を表わした良い言葉だと思う。
でも二人は当然のように全く意味が分からないらしく、顔を見合わせてから
一緒になって首を傾げて悩んでいた。

「まぁ、それは置いといて。早くしないと5時55分に帰れなくなるんだけど。」
私は教室の時計に目をやると少し慌てて二人を急かした。

「へいへい、今行きますって。」
「それにしても里沙ちゃんって本当に好きだよねぇ・・・・あの番組。」
するとまこっちゃん達はそれ以上言及することなくすぐに後から追いかけてくる。



こういうとき改めてこの二人と友達で良かったと思う。
でも彼女達ですら未だに絡み続けてる呪縛から開放することはできない。
きっと解くことが出来るのはこの世でただ1人。


だから私はあの日から今も呪いにかかったまま。






END


26 名前:言い訳 投稿日:2004年02月03日(火)22時46分39秒
1 ちょっと某マンガをパクってる

2 10レス目でコピぺをミスった

3 新垣さんのキャラが微妙

4 亀井さんのキャラがもっと微妙

5 高橋さんを出しそびれた

5 只でさえマイナーCPなのに微妙にエロがある

6 本当はもう少し話が長くて仕方なくカットした


以上


27 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月03日(火)22時47分57秒




28 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月03日(火)22時48分30秒




29 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月03日(火)22時49分02秒




Converted by dat2html.pl 1.0