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11 ラジオ(仮)
- 1 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月02日(月)22時45分29秒
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- 2 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月02日(月)22時48分06秒
- 何かが欠落しているのに気が付いた。ぼんやりした頭でしばし考え、そして分かった。嗅
覚だ。この世界から、匂いっていうものが失くなってしまっている。
真里は、昨日までとは姿を変えた世界に視線を走らした。軽く頭を振り、小さく声を出し
てみる。特別、即効性の危機は見当たらない。嗅覚だけがきれいに抜け落ち、他は昨日仕
事で疲労した体を投げ出し、鈍い重みをまとって眠った部屋のままだった。
そこまで考え、もう一つの違和感に気付いた。こっちは異常ではない。むしろ体調がいい
とさえ言えるかも知れない。つまり、空腹なのだ。
体をゆっくりと持ち上げ、その欲求に応える事にした。小さな真里の体格に見合うような、
小さな冷蔵庫。取っ手に指を絡ませ、力を込める。向こう側からも引っ張られているよう
な微小な抵抗感を払いのけると、冷たい空気が部屋の中にこぼれ出た。
一瞬、人工的なオレンジ色が歪な三角をフローリングに描くと、それはすぐに部屋の蛍光
燈に呑み込まれ、何も無いのと同じになる。特に急いでいる訳でもないが、冷蔵庫の光に
情緒を感じ、弄ぶようにのんびり開くほど暇人でもない。
冷気の中に手を伸ばすと、普段からコンビニで購入して、ためてある食品を気分のままに
いくつか取り出し、軽いあくびとともに閉じた。
- 3 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月02日(月)22時49分50秒
- 嗅覚は失くなっても、聴覚はある。目が覚めた瞬間から気付いていた事だが、しなくては
ならない儀式のようにブラインドを開け、外の様子を部屋に映し出す。今日はあいにくの
雨だ。しかも本降りではなく、霧雨でもない。中途半端に気分を重くする、そんな降水。
雫が地面に叩きつけられる音も耳に障る。全くをもって不快だった。
嗅覚の無い一日、か。真里はサンドイッチのビニール袋を引き裂いた。そんな非日常を考
えた事はなかった。それほど溜め込んでもいないため息を吐き、小さく首を振ると、野菜
サンドを口へ運ぶ。
まぁ、いずれにせよ、すぐに慣れる。手足の無い人間だってそこら中にいるし、彼等を苦
しそうだとも思わない。与えられた物はどうする事も出来ないのだから。その内、自分が
不自由だって事すら忘れてしまうのだろう。世界から匂いが消えても、日々は続く。
スケジュール表なんて、細かい作業が要求されるものはつけていなかった。ただ頭に残っ
ているのは、今日の仕事が何時から始まるかだけだ。時計を見る。残された時間はそう無
い。耳鼻科の存在が脳裏をかすめたが、どうやら無理な話らしい。
最後に残ったパンの切れ端を口に放り込むと、最低限の準備を整え、家を後にした。
- 4 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月02日(月)22時50分58秒
- テレビの仕事を全て終え、帰ろうとした時、マネージャーから声がかかった。それで思い
出す。今日は木曜日か。生放送のラジオのパーソナリティを務めている日だ。人に聞こえ
ない程度に小さく舌打ちをする。今日はなんだかいつもよりも疲労感が大きい。これも失
くした嗅覚の弊害だろうか?とは言え、これがはずせない仕事だという事もよく分かって
いる。
そんな事で疲れが取れるとも思わないが、二、三秒間目を閉じ、表情を強く結ぶ。幾何学
模様のうねりが暗闇の中で、左上から右下へと流れる。流れてはまた左上へと戻り、掴め
そうで掴めない模様に苛立ち始めると、目を開いた。
そこにはやはりマネージャーの顔があり、嗅覚はない。
仕方がない、そうつぶやくと、マネージャーよりも先に動き出す。呆気に取られた彼女は
何やら言葉を発するが、足を止めるつもりはなかった。
- 5 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月02日(月)22時52分16秒
- 「―――そんなわけでね、ホントおいら、今、つらい」
真里は原稿の上に頭を落とし、お腹を暖めるように押さえた。
「きっとね、朝食べた野菜サンドがいけなかったと思うんだ。賞味期限なんて、いちいち
確認しないでしょ?だとしたら、鼻だけがたよりなんだよね。ところがその肝心の鼻が……」
「おい、真里ぃ〜」
「だからね、今噛んだのもお腹が痛かったから。あいたたた、お腹痛っ!」
「おい、真里って!」明らかに機械で変えられた声で、シゲルは叫んだ。「あの、仮病
使うのに、そんな設定まで作らないでくれます?」
真里はキャハハハハとあっけらかんとした笑い声を立てる。
「っかしいなぁ。ホントに痛いんだけどなぁ」
「仮病使うの、いい加減にしてもらえます?矢口さんもいい大人なんだから」
「はぁ〜い、わかりましたぁ」
クマのぬいぐるみの手痛い毒舌を受け、真里は決意を示すような咳払いを一つした。
「じゃあ、続いてのメールは、千葉県市川市のペンネーム……」
- 6 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月02日(月)22時55分44秒
- ――― ラジオ(仮) 完 ―――
- 7 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月02日(月)22時56分14秒
- 読んでいて気付かれたと思う通り、
時代がおかしいです。
読みたい人の顔も浮かびません。
- 8 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月02日(月)22時56分46秒
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- 9 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月02日(月)22時56分59秒
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- 10 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月02日(月)22時57分15秒
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