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10 三日間の恋人

1 名前:10 三日間の恋人 投稿日:2004年02月02日(月)21時36分38秒
10 三日間の恋人
2 名前:10 三日間の恋人 投稿日:2004年02月02日(月)21時37分37秒
一日目
3 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月02日(月)21時38分54秒
火曜日は授業が終わってから憧れのあの人と同じバスに乗ってホームの一番前で
四分間並んで、あの人が急行電車に乗り込む姿をその次の各停の電車の中で思い出すのが
大学に入ってからの私の習慣だった。

でも、その日はなんだか大胆な気分で、急行電車に乗ってしまおうかな、なんて考えていた。

「りーかーちゃん」

いきなり名前を呼ばれ驚いて振り向くと、昔の面影をちょっと残した、
私の初めての彼氏がいた。
4 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月02日(月)21時39分52秒
小中と同級生であった彼とは中学二年の冬からつきあい始めた。
もしかして彼の事を好きなのかも、と思い、告白した時の彼の返事は
「三日前からわかってた」
だった。
中三の冬、私の推薦が決まってすぐに他に好きな人が出来てしまって別れようって
言ったときの彼の返事も
「三日前からわかってた」
だった。普段はおちゃらけているのにたまに真顔でそんな不思議な事を言うそんな彼は
中学卒業と同時に引っ越して、それから今まで音信不通だった。
5 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月02日(月)21時40分52秒
「ひさしぶりー、どうしたの?」
四年ぶりにあった彼は背もさらに伸び、髪も茶色く中学時代よりも長くなっていた。

「りかちゃん、俺の子供つくって」
「な、いきなり何言ってくるの?」
思わず大声になってしまって慌ててあたりを見まわすと憧れのあの人がこっちの方を
向いていた。
「駄目?」
「聞くまでもないでしょ」
ナンパでもこんなにストレートに誘われたことはない。とにかくあの人に
見られているのが恥ずかしくてたまらなかった。
「じゃぁさ、三日間だけ恋人になって」
「へ?」
6 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月02日(月)21時41分50秒
理解不能の言葉が続く中、急行電車がやってきた。
「三日間だけでいいから、恋人として一緒に居て欲しい。今彼氏は?」
「彼氏は、いないけど」
いないけど、気になる人がすぐそこに…
「じゃあね、とりあえず渋谷行こう、渋谷」
そういうと私の腕をつかんで運転席のすぐ後ろを陣取った。

目には流れる景色が入ってくるけど、私の意識は右斜め後ろに集中していた。
あの人が降りる駅をチェックしてからこのおかしな状況へと意識の流れを移す。

「なんでまた急にそんなこと言い出すわけ?」
「べっつに…なんとなく」
そう言って思いっきりの笑顔を私に向けた。
それを見てまぁ、いいかななんて思ってしまったのは、やっぱり元来この顔は
嫌いじゃない上四年という歳月が…ヤツをかっこよくしたからだ。
7 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月02日(月)21時42分40秒
渋谷の駅につくとすぐにつかんでいた腕を放し、手を握ってきた。
そうして109を横目に道玄坂へ…まさか、本当に私と子づくりに励む気?
歩みを止めた私の顔を見てヤツは一言
「自惚れてんじゃないの」
と言って、ゲームセンターへと入っていく。

『16歳以下 18時まで 18歳以下 22時まで』という張り紙を見て、
両替する必要も無いわずかなお小遣いでゲームセンターに行ったことを思い出した。
この三日間は全部俺のおごりだからというヤツの申し出に甘えてその日は思いっきり楽しんだ。
8 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月02日(月)21時46分16秒
私の家の前で、この三日間は小学校の同級生の家に泊まるからと言って、
電話番号を交換した。
「なんならさっき気になってた様なホテルに泊まりにいってもいいんだけどね」
「さよーなら」
「うそうそ。じゃぁまた明日な」
9 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月02日(月)21時46分42秒
二日目
10 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月02日(月)21時47分20秒
「おはよう」
朝大学に行こうとしたらいきなり声をかけられた。あたりをきょろきょろを見回すと
塀によりかかりしゃがんでいるヤツの姿があった。
「な、びっくりさせないでよ。いきなり何、朝から」
顔を上げたヤツのその目は真っ赤になっていた。
「目、赤いよ?」
「あー、寝ないでずっとゲームやってたんだよ」
「そんな事だろうと思ってたわよ」
「それよりさ、どっか出かけようよ」
「何言ってるの?これから私学校行かないと…」
すっと立ち上がるとその目は私の目線を大分上げないといけないところまでに移動した。
「一緒に居て欲しいって言ったじゃん…」
11 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月02日(月)21時47分51秒
「ちょ、なんで朝っぱらからこんな激しいキスなんかしなくちゃいけないのよ」
「軽くならよかったのかよ」
「そんな問題じゃない!

おかしいよ?昨日から何もかもが変だよ。何で?」
「わっかんねーよ、わかんないんだよ、何も…」
そう言ってまた塀によりかかり、頭を抱え込んだ。
「行かないでくれよ…」
「今日語学の授業出ないといけないから…行くよ。」


ヤツのあんな悲しそうな声を聞くのは初めてだった。
でも、私は立ち止まらずに駅へと歩いていった。
12 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月02日(月)21時48分30秒
頭の中がぐちゃぐちゃで板書もあの人の事も視界に入らなかった。
むしゃくしゃしながら歩いていると、いつの間にかプラネタリウムの前へと来ていた。
昔、嫌な事がある度に来ていたところ。ここへもいつからか来なくなっていた。
懐かしい思いで中へと入っていく。
13 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月02日(月)21時49分36秒
星空の力はすごい。ようやく気分が落ち着いた私はぼんやりとその余韻に浸っていた。
「だーれだ」
目隠しをはずして振り返ると後ろの席にヤツが座っていた。
何故かその手はちょっと震えていた。
「ごめんなさい。」
「いつもケンカするとここでこうやって謝ったよね」
「四年振りだよ、ここ来たの」
「私もだよ。…本当、久しぶりだよ」

それから誰もいないプラネタリウムで四年振りにキスをした。
14 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月02日(月)21時49分55秒
「…いいよ。今日どっか泊まっても」
「…いーの。男同士つもる話があるから、今日は徹夜でトーク。」
「なんかやらしい」
「いつまでも中坊だと思ってんじゃねーの」
そう言って頭をこつんとして、私の家の前を去っていった。


それが最後の夜だった。
15 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月02日(月)21時50分14秒
三日目
16 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月02日(月)21時51分30秒
学校をサボって行ったところは学校だった。
「お、このクラスが今体育かなんかかな。ほら、机ちっちぇー」
二人が通った小学校。
「あ、そうだ、給食のおばちゃんところ行こーぜ」
なんだかやけにはしゃいでるアイツに手を引っ張られながら給食のおばちゃんの
ところへ行くと、親切にもパンをくれた。

先生達にばれない様に、校舎の裏に回って食べ始める。
「さくらはちみつ」
そう言ってハチミツのチューブを噛み切った。
「小学校の時社会科見学でハチミツ工場行ったねぇ」
「行ったねぇ」
「その頃からそのハチミツ噛み切って開けてたもんね」
「そうだっけ?」
「そうだよ」
17 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月02日(月)21時53分10秒
「あー!おねーちゃんとおにーちゃんがちゅーしてるー!!」
いつの間にか休み時間になったらしく子供たちが校舎裏にやってきた。
「やべ、逃げるぞ!!」
そういって食べかけのパンをくわえて私の手をとった。

恥ずかしさに耐えながら学校から走って逃げているうちになんだか笑いがこみ上げてきた。
「何だよ、何笑ってんだよ」
「だって、なんかおかしいんだもん」
「そう言われれば、なんかそうだな」

そう言って二人して笑った。
18 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月02日(月)22時00分42秒
日暮れ近く、歩いているうちに行き先がわかってきた。
初デートの場所。
「でも、もうあそこは閉園しちゃったんじゃ…」
そういってたどり着いた元遊園地には数え切れないくらいの花が植わっていた。
「うわ…」
「知らなかった?」
「知らなかった。でも、入り口閉まってるよ」
「当然…侵入!」

誰もいないそこはまさに『秘密の花園』だった。いろいろ見て回っていると
遊園地の残骸とも言える鉄骨が出てきた。
これが二人で乗った観覧車だったのかなぁ…なんて思いながら触れようとした瞬間

「何やってんだよっ!」

そう言っていきなり突き飛ばされた。

その瞬間、バランスを崩して上にあった鉄骨が私がほんの今まで居たところ
−今アイツが居るところ−へと落ちた。
19 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月02日(月)22時01分23秒
「嘘…」

「三日前からわかってた」
「何言ってるの?」
「信じてもらえないかもしれないけどさ…俺、ちっちゃい頃から毎日、
蒲団に入ってから三十分間、三日後の俺の姿が見えてたんだよ」
「三日後?」
「だからりかちゃんに会いに行ったその三日前の夜にりかちゃんに
電車のホームで会って三日間恋人になってって言うことはわかってたんだ。
なんでそんな事いうのかはわかんなかったんだけど」
「わかんないなら、そんな事言わなければいいじゃない」
「ちっちゃい頃からチャレンジしたよ。そりゃ何十回も試したけど、
三日前に見た光景を変える事は一度もできなかった。」
「そんな世にも奇妙な物語みたいな話…」
「そういう言い方がりかちゃんらしいな。」
そういって力無く笑った。
「そうやってどうしても逃れられない三日後の光景が、おとといの夜、見れなかったんだよ。
で、もしかして俺って死ぬのかな〜なんて思ってたら、やっぱそうなんだな」
20 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月02日(月)22時02分04秒
『あー、寝ないでずっとゲームやってたんだよ』

『行かないでくれよ…』

昨日の朝の事を思い出した。

「だったらなんで本当の事言ってくれなかったの?そしたら」
「そしたらりかちゃん今日あんな風に笑ってくれなかったもん。
なんか下手な演技見てるみたいにぎくしゃくした笑顔も、まぁいいけどさ。
やっぱりあの笑顔が見たかったんだ」

「…梨華」
「ん?」
「なんだかんだ言って、好きだったんだなぁ」

「私も。…私も、愛してる」

その言葉をアイツが聞いていたのかどうかは、わからない。
21 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月02日(月)22時02分37秒
まぶしいライトであたりを照らす警備員が私たちに気づいた瞬間、強い風が吹き
花びらがキレイに舞いだした。

「ちょっとそこで何をやってる」

花びら舞うスポットライトの下で私は物言わぬ愛する人と最後のキスをした。

ありがとう、私の…三日間の恋人。
22 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月02日(月)22時02分47秒
-end-
23 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月02日(月)22時05分20秒
うあー、第一回男×娘。短編集に出そうとしていた作品です。
インターネットをする時間が取れなくて埋もれてました。あひゃー。
24 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月02日(月)22時05分34秒
three-
25 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月02日(月)22時05分47秒
day-
26 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月02日(月)22時05分57秒
lover

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