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09 雨夜の月 

1 名前:雨夜の月 投稿日:2004年02月02日(月)20時10分30秒
 雨夜の月
2 名前:雨夜の月 投稿日:2004年02月02日(月)20時11分29秒
 こんな時間なのに、金魚が水槽の中を元気に泳ぎまわっています。そして酸素ポンプが、ぶーん、ぶーんと、音を立てています。
 先程から振り出した雨が、ぴちゃぴちゃと、窓ガラスを弱々しく打ち付けています。
 夜の教室は月明かりだけが一様に灯っています。

3 名前:雨夜の月 投稿日:2004年02月02日(月)20時12分36秒
 成績が、また一番になってしまったとき、それを見て、両親が満面の笑みを浮べ喜んだとき、私は布団から抜け出して、この夜の教室で朝日が昇るのを一人待ちます。そして朝日を見たら家に帰り、布団の中に戻ります。
 でも最近は少し違っています。いつものように教室で、ぼぉーっと、何をする訳でもなく時計を見つめていると、ゆっくりとドアを開け、後藤さんが入って来るのです。後藤さんが誰かは知りません。後藤さんだということしか知りません。若しくは、私には手の届かない美しい人だということしかわかりません。後藤さんは決まった時刻になると、当たり前のようにやって来て、私を窘めるのです。

4 名前:雨夜の月 投稿日:2004年02月02日(月)20時15分48秒
「君はバカだね」
 後藤さんは私の胸を、ぎゅっと、掴みながらそう言いました。
「なんで私がバカなんですか」
 後藤さんに尋ねます。
「君は成績さえ良ければ全てが巧くゆくと思っている。世の中そんなに簡単じゃない」
 後藤さんはスカートの中に手を伸ばし、下着の上から私の陰部を強く、締め上げました。
 後藤さんの肩に捉まり、両足を少し開きます。
「英語は苦手です」
 後藤さんの顔が何時の間にか下に移動していたので、私は虚空に向かって言い返しました。後藤さんは、それが聞えなかったのか無視したのか、何もなかったように言葉を繋げます。
「世の中ね、そんなに簡単じゃないの。ほんとに」
 後藤さんは私を見上げながらそう言いました。その顔は青白く、瞳は朧気に沈んでいました。
「今日が終われば明日が来るなんて、嘘。あれは大嘘だよ」
 後藤さんが私のを噛んだので、大きな声を上げてしまい、教室中にそれが響き渡りました。最早雨音は聞えずに、金魚が水槽を、緩やかに泳いでいる時でした。
5 名前:雨夜の月 投稿日:2004年02月02日(月)20時17分23秒
「後藤さんに明日は来ていないんですか」
 気付けば、後藤さんの髪をくしゃくしゃにしていました。後藤さんは煩わしそうに髪を一撫でして、私の手を振り解きます。
「明日なんて来ないよ、そんなんじゃ、来やしないんだ」
 誰に向けて言ったのか、後藤さんは私の眼の先を見つめてそう言いました。
「バカだね」
 後藤さんが、また私を見ないでそう言ったので、大袈裟に強く頷きました。
「ほんとバカだよ」
 また後藤さんが噛んだので、私は、力いっぱいに上擦った声を上げました。

6 名前:雨夜の月 投稿日:2004年02月02日(月)20時19分33秒
 水槽の金魚は何も言わず、酸素ポンプだけが、ぶーん、ぶーんと、音を立てています。
 雨は先程よりも弱くなり、あと五分もすれば消えてなくなりそうです。
 夜月は相変わらず、教室の中を意味も無く照らし続けています。


                                  了
7 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月02日(月)20時21分16秒
 
8 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月02日(月)20時21分28秒
 
9 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月02日(月)20時21分34秒
 

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