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04.6
- 1 名前:04.6 投稿日:2004年02月02日(月)00時00分25秒
- 04.6
- 2 名前:04.6 投稿日:2004年02月02日(月)00時01分14秒
- 「対策が必要だと思わない?」
そう切り出したのは高橋愛だ。吹雪の中、夕食のシチューをすすりながら。紺野あさ美、小川麻琴、新垣里沙の三人は、高橋と同じテーブルにいた。
撮影スタッフは黙々と食事をしていた。彼らに気づいているのか確認をしたことはない。『昨日』と違う行動をしているのは、彼女達五期メンバーだけだ。もし彼女たちが撮影スタッフだったら、すでに撮影は終わったと思い込んで帰る準備を進めただろう。彼らにその気配はない。
- 3 名前:04.6 投稿日:2004年02月02日(月)00時02分26秒
- 「ここに来てからどれぐらいやの?」
高橋の言葉に、新垣は顔を上げた。紺野も小川も、惚けた表情で窓を眺めてた。窓は真っ白に曇っていた。新垣は外がどういう状態か知っていた。30cm先さえ見えない濃霧に猛吹雪だ。
「覚えてないよ」
新垣は肩をすくめた。
「一ヶ月ぐらいかな? もっと?」
「20回ぐらいまで数えてたんやけど、もうわからん」
新垣が適当に言ったことは思いの外、正解に近かったらしい。ぶっきらぼうに答えた高橋に、新垣はまたため息をついた。高橋は他人を疲れさせるタイプの人間だった。本人にそのつもりはなくても、一緒にいるだけでプレッシャーを感じる。YESかNOか二つに一つの即答を常に求められているようなものだった。出会ったときよりもその傾向が強くなっていた。
「これってどういうことやの?」
- 4 名前:04.6 投稿日:2004年02月02日(月)00時03分25秒
- 「さあ? あたしたちの頭が壊れたんだか、世界が壊れちゃったんだか」
だから、愛の問いに里沙はおどけて応えるしかない。雰囲気を少しでも和らげるために。自分の気持ちを少しでも明るくするために。
「両方かも」
今まで聞いてないそぶりだった紺野が、いきなり会話に加わった。高橋はキュッと唇を結んで考え込む。新垣の言葉は聞き流すくせに、紺野の言葉に高橋が意外とリアクションを見せるのも、新垣にはなんとなく面白くない。
「麻琴はどう思っとるん?」
しかし高橋は、紺野には応えず、小川に話を振った。なぜか高橋は小川に一目置いていて、自分の意見をまとめるのが苦手な高橋に意見を求めることも多い。求められる前に意見を言う新垣が悪いのかもしれないけど、それもちょっと面白くない。
「あのさぁ、みんな、昨日のこと、ちゃんと覚えてる?」
「覚えてるって、覚えてなかったらこんな悩まんよ。スタッフの人みたく普通に普通のことしとるて。ねぇ?」
小川の言葉に過剰に反応する高橋に、思わず新垣は頷いてしまう。小川は、高橋の勢いにびっくりしたように首をぷるぷると横に振った。
「そういう意味じゃなくって。みんなさ、昨日のこと、どこまで覚えてる? あたしさ、覚えてないんだよね。昨日のさ、放送終わってからのこと。みんなは?」
- 5 名前:04.6 投稿日:2004年02月02日(月)00時04分04秒
- 小川の言葉に高橋は豆鉄砲を食らった鳩みたいな表情をした。この表情を見るたび新垣は、高橋はホラー映画の主演をすればいいのにといつも思う。思うだけで、口にしたことはない。
「あたし覚えてない」
「同じく」
即答した新垣と紺野を見て、高橋は混乱したように額を押さえた。
「それってどういう意味やの? ええっ、でもだって、覚えてるし?」
いつも早口なのに頭の回転は早くないんだな、と新垣は思った。
- 6 名前:04.6 投稿日:2004年02月02日(月)00時04分49秒
- 2003年1月19日――モーニング娘。の第6期メンバーのオーディション合宿は、長野のペンションを貸し切って行われていた。最終日である今日、現メンバーのうち直近の先輩である五期メンバーは全員その場所へ集合して、選考過程のVTRを見ながら、最終発表に立ち会うことになっている。藤本と四期メンバーまでは、砧のメディアパークで同じVTRを見ているはずだ。
『今日』がばかになったレコードのように同じ日を辿り始めたのはいつだっただろう? 新垣は、もう思い出すことができない。気がついたときにはすでに、『今日』という日は、永遠の繰り返しを始めていたのだ。
朝、ペンションのなかで目覚める。曇天。昼過ぎに天候は大きく崩れ、霙混じりの雨が降り始める。雨が次第に低くなる気温のなかで雪めいたものに変わるのが夜半。ここまではいつも同じだった。
おかしくなるのは、生放送の放送が始まってからだ。田中麗奈、道重さゆみ、亀井絵里のたった3人の候補者のなかから、該当者なしで全員選ばれない。3人のうち1人、ないし2人が選ばれる。あるいは全員選ばれる。
繰り返すたびに結果は違った。
奇妙なことに、この繰り返される茶番のなかで、候補者たちの反応は変わらなかった。どんな結果になってもただ無表情に淡々と結果を受け止めるだけだ。感情をあらわにしないその姿は、新垣には不気味にさえ映った。
――気のせいかもせいれない。
――もうすでに六期メンバーが選ばれたという、かなり現実的な夢を見ただけなのかもしれない。
一人だけなら、そう思い込めたかもしれない。
だが、高橋が、紺野が、小川がいたから。だから新垣は――
- 7 名前:04.6 投稿日:2004年02月02日(月)00時05分51秒
- ペンションの重たい扉を開くと細かい霙混じりの雪がどうっと雪崩れ込んだ。小川と新垣はそっと身体を扉の外に滑らせる。ジップアップの防水処理済ダウンジャケットを、襟元まで留める。売店で買ったばかりのゴアテックスは、すぐに霙にまみれて冷たくなる。勿論、家からもってきたミトンなんかお話にならない。
降り積もったばかりの水気の多い新雪を、運動靴で踏みしだく。スノウブーツも使ってみたのだが、どれを使っても雪は容易く侵入し体温でぬるんだ。しもやけ程度のことは覚悟しなくてはなるまい。
- 8 名前:04.6 投稿日:2004年02月02日(月)00時12分45秒
- 「ねぇ、まこっちゃんさあ、これ何回目の『今日』だっけ」
「わかんない」
「今日が最後の『今日』になるかなあ……」
「わかんない」
「あたしたち、帰れるよね?」
「わかんない」
「明日はきっと来るよね」
「わかんない」
「今日はもうどっか行っちゃうよね」
「わかんない」
「……明日、晴れるといいなぁ……」
「……そうだね」
- 9 名前:04.6 投稿日:2004年02月02日(月)00時21分28秒
- 二人はぐるっとペンションの周囲を一周した。
「まこっちゃんさあ、運転できる?」
「ゴーカートなら。里沙ちゃんは?」
「自転車ならね」
「運転できても、これじゃあね」
「そうだね」
移動に使ったマイクロバスやライトバンは、ボンネットまで雪のなかに埋もれている。
「歩く?」
「どこまで?」
「駅とか。あったよね。来るとき通ったよね?」
「道覚えてる?」
「……ううん。まこっちゃんは?」
「微妙になら。でもさ……」
「道、見えないね……」
「ね……」
「……」
「……」
それでも二人はぐるぐる、ペンションの周囲を歩き続けた。夜は暗く、吹雪で視界がきかない。窓や、半分近くまで埋もれた街燈の明かりを受けて、外は思ったよりも明るかったのだけど。
- 10 名前:04.6 投稿日:2004年02月02日(月)00時39分08秒
- 「寒いね」
「ね」
「……」
「……」
少し先を歩く小川の背中が霞んで見えた。このまま小川が消えそうな気がして、新垣は思わず叫んだ。
「まこっちゃん!」
「なに?」
小川は立ち止まって、新垣を振り返る。
新垣は安心して、小川の横に駆け寄った。
「ううん、なんでもない」
「なによ」
「呼んでみただけ。ね、今、何時かなあ?」
「ちょっと待って……えっと……11時56分」
「あと4分! 4分で明日なんだ。え、ちょっとマジ? うわあ、どうしよう」
「……シッ」
小川が人差し指を新垣の口の前に立てた。眉を寄せて、厳しい表情をしている。
「……なに?」
「なんか聞こえない?」
「いや……え……待って? なんだろう、何か……」
新垣の言葉が終わる前に、世界が紅蓮に染まった。
- 11 名前:04.6 投稿日:2004年02月02日(月)00時41分37秒
- ◇
「……また、リセットされたんだ……」
目覚ましタイマーで動きはじめたTVは、1月19日のニュースを読み上げている。
昨日も聞いた交通事故と天気の話から始まる比較的平穏な一日のニュース。
新垣は寝返りを打ってうつぶせになると枕を頭の上に乗せて両手で押さえつけるようにした。
なにかが爆発していた。ペンションが爆発していた。まっかだった。それからまっしろになった。そこで終わりだった。
「うー……」
◇
- 12 名前:04.6 投稿日:2004年02月02日(月)00時52分56秒
- 高橋が食堂におりていくと、すでに新垣と小川がバイキング形式の朝食を確保して座席で食事を始めていた。内緒話でもするかのように額を寄せ合ってお喋りに夢中だ。
「てか、やっぱそうだって」
「でもさ、そんなのってありえな」
「だけどそう考えないと辻褄が合わな」
焼きたてのクロワッサンとオムレツとオレンジジュースを取って愛が着席すると二人はピタリと会話をやめた。
「お、おはよ、愛ちゃん」
「おはよ。あさ美ちゃんは?」
「まだ寝てる……と思う」
「さっきなに盛りあがってたん?」
高橋はズバリと二人に聞いた。新垣と小川は気まずそうに視線を交わす。それから言いにくそうに、新垣が口火を切った。
「なにが起こっているのか、だいたいわかった、と思う。あたしたち、何度目か前の『昨日』ぐらいからペンションを抜け出して、ぐるぐるしていたのね」
「それで、だいたい11時56分頃なんだけど――ペンションが――」
交互に新垣と小川と新垣が喋る。ペンションが、と小川が言葉を切って意味ありげに新垣を見た。新垣も自分では言いたくないようで、しばらくどちらが説明するのか譲り合いが続く。喋りたがりの新垣が遠慮するのは珍しい。
「まず、ペンションが爆発する。それから裏手の山から雪崩れが起きて、ペンション全体が飲み込まれるの。つまり――つまり、その」
小川が言いにくそうに言葉を切った。高橋はぽかーんとして二人を凝視した。
- 13 名前:04.6 投稿日:2004年02月02日(月)00時56分25秒
- 「つまり、なんやの?」
「つまりあたしたち全員死んでるってことよね?」
紺野だった。それだけを言うと、高橋の隣りに着席して黙々と目玉焼きと焼き魚と味噌汁と梅干し粥とオムレツとベーコンとフルーツサラダと……取れるだけのおかずを乗せたプレートを黙々と食べはじめた。
「全員かどうかはわかんないけど……」
「少なくともあたしと里沙ちゃんが死んでることはたしか」
新垣と小川は、叱られた子供のように、すまなそうに言葉を続けた。
「死ぬって! でも、じゃあこれって死後の世界ってこと? あたしたちは毎日、最後の日を繰り返してるってことやの? 死後の世界って、そんなんなん?」
混乱して高橋は早口で一人ごちる。論点がずれている。
「んー…、そんなこと言われても、死んだことないからわかんない」
「だって今、死んでるってあさ美ちゃん言ったじゃん…」
おっとりとした紺野の言葉も、高橋の混乱に拍車をかけるだけだった。
- 14 名前:04.6 投稿日:2004年02月02日(月)01時01分18秒
- 「走馬灯って知ってる?」
紺野の言葉に三人はきょとんとして顔を見合わせた。
「知ってるもなにも。まずソウマトウが何かよくわかんないんだけど?」
こういうときに物怖じせずに言いにくいことを言うのは新垣だ。
「回り灯篭とも言うんだけど。こう…、枠が二重になっていて、模様が切りぬかれていて。蝋燭をともすと、熱で中のほうの枠がくるくると回って、明かりにね浮かび上がった模様がメリー・ゴー・ラウンドのように回転するの……わかるかな?」
身振り手振りを交えて説明する紺野に、高橋はポンと手を打った。
「知っとる! おばーちゃん家にあった…、で、それが?」
「死ぬ間際に、今迄の人生がこの走馬灯のように思い浮かぶんだって。で、それが何故かっていうと、今迄の人生の経験を必死で思い出して、身体が窮地を逃れようとするからなんだって。死なないために」
「はいはい。ドラマかなんかで見たことある。で?」
「で?」
「それが、何なの?」
じれったそうに新垣が先を促す。紺野は小首を傾げて、少し考え込んだ。
「ああ…」
それから紺野はほっこりと微笑んだ。
「だから、それじゃないのかなあって」
「……は?」
ひとり納得して頷く紺野に、高橋は露骨に疑問符を発した。
「なにが、それ?」
「だから、今が、これ」
「これって、どれ」
「だからぁ…」
- 15 名前:04.6 投稿日:2004年02月02日(月)01時05分02秒
- 押し問答を始めてしまった高橋と紺野の前で、新垣がうなづいた。
「わかったあ! つまりあさ美ちゃんは、『今日』が続くのは、あたしたちが死ぬことから逃れようとして、必死に記憶をさぐってる状態だって言ってるんだよね! どう? 正解?」
「だいたい」
ししゃもをもぐもぐと頬張りながら、紺野はむりやり笑顔を作って頷いた。
「うー…、それっておかしくない? だって死んでるんでしょ、あたしたち?」
「死んでるって記憶はないんだよね、二人とも」
本格的に頭を抱え込んだ高橋に、ゆっくりとししゃもを飲み込んで、紺野。
「んー、言われてみると、雪崩れだ危ない!ぐらいのとこで記憶が途切れちゃってるかも。まこっちゃんは?」
「ないかも」
新垣と小川の言葉に紺野は重々しく頷いた。
「そう、死ぬ直前なのね。ここで私たちは、今日という日に重大なヒントがあると考えて、今日という一日を繰り返していると」
「や……でもやっぱおかしいよあさ美ちゃん」
先ほどからずっと何かを考え込んでいた小川が、お手上げのジェスチャーをした。
「もしあさ美ちゃんの言うとおりならさ、何でオーディションの合格者が毎回違うんだろう? だってオーディションの選考自体はさ、あたしたちと関係なくない?」
- 16 名前:04.6 投稿日:2004年02月02日(月)01時14分48秒
- 「あ、まこっちゃん意外とするどい……」
「するどいって、あさ美ちゃん……」
「どういうことやの?」
「やのっ?」
三人に詰め寄られるのも気にせず、紺野はゆっくりと朝食の最後の一口を味わうと箸を置き、両手を合わせてごちそうさま、と言った。
「じゃあ、もうひとつの可能性のほう聞きたい?」
「聞きたいというか…ねぇ」
「話無駄にひっぱってるのあさ美ちゃんだし」
「むしろ義務。さっさと言えコラ」
「愛ちゃん怖い! 怖いから!」
「あさ美ちゃん窒息するから! とにかく手を離して!」
- 17 名前:04.6 投稿日:2004年02月02日(月)01時23分06秒
- 「今日はもう終わっていて、世界は普通に明日になってるのね。あたしたちも含めて」
紺野はなにごとでもないかのように普通に言った。
「じゃあ、えっとじゃあさじゃあさ、『ここ』は? 『あたしたち』は?」
新垣の問いに紺野はぼんやりと笑顔らしき表情を作った。
「そうねー、わすれもの、って感じ?」
「忘れものって…」
「あってもなくても同じっていうか」
「同じって…」
「私もね、いろいろやってみたのよ。私たちは時間という言わば4次元的な封じ込めが行われているわけなんだけど、4次元的な干渉って私たち3次元の生物には無理じゃない? でも核爆発みたいに1次元低いレベルの力でも圧倒的な力をかければ1次元上の空間に干渉することも可能と推論できるのよね。で、プロパンガスと防水スプレーで自動発火装置を作ってみたり」
「……あの爆発はまさか……」
「そ、私」
- 18 名前:04.6 投稿日:2004年02月02日(月)01時28分16秒
- 「成果は?」
「ゼロね。まさか死者が出るなんて思わなかったしさー」
「……」
「……」
「で? 根本的な説明になってないと思うんだけど?」
「字数の関係上無理」
「言ってる意味、さっぱりわからないんだけど?」
「つまり」
紺野はにっこりと微笑んだ。
- 19 名前:04.6 投稿日:2004年02月02日(月)01時29分11秒
- 「これは私が書いて、未完のままボツにした小説なの。だから終わらないのよねえ」
- 20 名前:04.6 投稿日:2004年02月02日(月)01時29分43秒
- -完-
- 21 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月02日(月)01時31分53秒
- http://mseek.xrea.jp/flower/1010066679.html
ここの208からの未完の作品を完結させてみました。原作の駄作っぷりを上回れば本望です。
- 22 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月02日(月)01時32分07秒
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- 23 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月02日(月)01時32分14秒
- 66
- 24 名前:名無しさん 投稿日:2004年02月02日(月)01時32分22秒
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