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02 さよなら!先輩
- 1 名前:02 さよなら!先輩 投稿日:2004年02月01日(日)05時47分46秒
- 02 さよなら!先輩
- 2 名前:02 さよなら!先輩 投稿日:2004年02月01日(日)05時48分49秒
- 『三年生を追い出す会のご案内
勿論今年もやらせて頂きます。
先輩方への感謝の気持ちを込めて、全力で挑ませて頂きますので覚悟して来てください。
なお、私達が勝利した場合、先輩方の卒業は無効となります。
その時は一緒に机を並べて授業を受けましょうね。
日時 三月三日午後三時より
場所 波浪高校体育館Bコート
バスケ部後輩一同』
- 3 名前:02 さよなら!先輩 投稿日:2004年02月01日(日)05時49分40秒
- ◇
ほんの数時間前まで行われていた卒業式のそのひんやりとした緊張感のようなものがまだ漂っているみたい。
いつもはAコートとBコートを隔てているネットも今日は開いたまま。
「…ほんとに卒業しちゃったんだなぁ…」
「何急にセンチメンタルなこと言ってるの?」
独り言のつもりだったのに、隣にいた松浦さんにも聞こえてしまっていたらしい。
「あ、ううん。何でもない、から」
「ふーん。
ま、いいけどー」
興味なさそうに呟いてシュートを放つ。
松浦さんのフォームはどこか里田先輩に似ている気がする。
- 4 名前:02 さよなら!先輩 投稿日:2004年02月01日(日)05時50分16秒
- 「おー、みんなやってるねぇ」
そんな風にぼんやり考えていると、それとリンクするみたいに、正面の入り口から聞き慣れた声がした。
「こ、こんにちはっ」
飛び出すようにそう言った松浦さんに続いて、あたしもみんなも頭を下げる。
「こんにちはっ」
「相変わらず元気だなぁみんな」
「ていうか、あの案内書いたの誰だよー。
一緒に授業受けましょうねって、シャレになんないんだけど」
「そうそう。
ぎりぎりで卒業もぎ取ったんだもんねぇ、よっすぃーは」
先輩は顔を合わせて笑っている。
- 5 名前:02 さよなら!先輩 投稿日:2004年02月01日(日)05時51分02秒
- 「はーい。
それを書いたのは紺野ちゃんでぇす」
あたしが和んでいる隙を突いて松浦さんは挙手をして問題発言をしてくれている。
「ま、待ってよ。
松浦さんが下書きしたんじゃないっ」
「あたしは見本を書いただけだよぉ」
「そんなのずるいよ」
「亜弥ちゃんもあさ美ちゃんも同罪やって。諦めぇな」
加護ちゃんはあたしと松浦さんの間に立って、二人の肩をぽんぽんと叩いた。
「そーゆー事だから。
二人とも私等が勝ったらお仕置きだからねぇ」
「ええー」
「文句は受け付けませーん」
後藤先輩はにっこりと笑った。
- 6 名前:02 さよなら!先輩 投稿日:2004年02月01日(日)05時51分41秒
- 先輩達がウォーミングアップを始め出した頃、中澤先生も姿を見せて、他にも何人か先生方が見学にやって来た。
「作戦会議するでー」
中澤先生はあたし達に向かってそう声をかけた。
先生を囲うようにして円陣を組むと、先生はひとつだけ指示を出した。
「ブザー鳴るまで足止めたらあかんで」
「はいっ」
それは、先輩達が抜けてあたし達だけになったチームのカラー。
「よし、じゃあ…」
松浦さんが円陣の中心に手を差し出す。
あたし達もその手にてのひらを重ねる。
「今まで、一度も勝てなかったけど。
でも、今日は何が何でも勝つぞぉー…」
みんなの顔を見回す。
「ハロ高ぉぉおーーー」
「ファイッ!」
- 7 名前:02 さよなら!先輩 投稿日:2004年02月01日(日)05時52分16秒
- 羽織っていたシャツを脱いでユニフォーム姿になった先輩達も、円陣を組んでいた。
「何か、卒業式よりよっぽどこっちの方が緊張するねぇ」
「ごっちんらしからぬ発言だなぁ」
「そうそう。緊張とは無縁のはずなのに」
「案外もう泣きそうだったり?」
「泣くのは試合が終わってからにしなぁ〜」
「安西せんせぇぇぇ」
「アハハ。ハモってるし」
「んじゃまぁ、先輩の意地でも見せてあげますか」
「ん」
「頑張っていきまーー」
「っしょいっ!」
先輩の真っ白なユニフォームに入っている線が、この半年間ずっとタンスの中で眠り続けていたんだって事を表していた。
- 8 名前:02 さよなら!先輩 投稿日:2004年02月01日(日)05時52分41秒
- 「整列。礼」
「お願いします」
「お願いしまーす」
里田先輩と向き合ってセンターサークルに立つ。
中澤先生が、ボールを投げ上げる。
「あさ美ちゃん、頑張れ」
そんな声を背中に受けながら、飛ぶ。
- 9 名前:02 さよなら!先輩 投稿日:2004年02月01日(日)05時53分16秒
- 「ディフェンスッ」
里田先輩が弾いたボールを後藤先輩が拾って駆け出して行く。
吉澤先輩は既にゴール下に辿り着こうとしている。
キュッと音を立てて、後藤先輩の足が止まる。
その間にあたしも里田先輩のマークにつく。
先輩達の凄いところは、声を掛け合うより目で合図し合う事が多いところ。
その視線にフェイクも織り込まれるからあたし達はいつも抜かれてばかりいる。
「あいぼんっ」
藤本先輩にボールが渡る。
松浦さんの声も虚しく、受け取った瞬間、先輩はスリーポイントを放った。
先輩は、よく言っていた。
――ボードに当てずに決めるのが気持ちいいって言う人もいるけどさ、美貴はわざとボードに当てるんだよねぇ。
あの、ガコンッて音、重みがある感じがするんだよね。
他のシュートより一点多いんだっていう感じがさ――
今日も、先輩の好きな音を立てて、ボールはリングを抜けた。
- 10 名前:02 さよなら!先輩 投稿日:2004年02月01日(日)05時53分51秒
- 今度はあたし達の番だ。
前を向く。
すぐそこで駆け出そうとしている先輩の背中を追い越す。
前には辻ちゃんと愛ちゃんの背中。
後ろで、松浦さんのスローインを加護ちゃんが受け取る。
目が合う。
あたしを目掛けて走る石川先輩とあたしとの間にボールが飛び込んでくる。
一歩。
もう一歩早く前へ。
- 11 名前:02 さよなら!先輩 投稿日:2004年02月01日(日)05時54分21秒
- 痺れる音がして、てのひらに当たる。
そのまま顔を上げて、愛ちゃん目掛けてパスを出す。
辻ちゃんのマークに着こうとしている後藤先輩の背番号4が、夏の太陽のようにやけに眩しく目蓋に残る。
「ナイッシューッ」
「高橋先輩もう一本っ」
スコアラーをしてる亀井ちゃんとしげさんが、いつになく声を張り上げ叫んでいた。
リング下から後藤先輩が素早くパスを出す。
受け取った石川先輩が、ハーフラインを越える。
吉澤先輩と里田先輩の姿は既にスリーポイントエリアの中にある。
二人の間でチェックを入れている松浦さんの前を、藤本先輩が横切る。
中へと呼び込まれた加護ちゃん。
それによって石川先輩のマークへと切り替えた松浦さん。
その松浦さんの視線が一瞬あたしの方へと向けられた。
- 12 名前:02 さよなら!先輩 投稿日:2004年02月01日(日)05時54分57秒
- 「梨華ちゃん、後ろっ」
後藤先輩の声でドリブルを切り替えようとした瞬間、あたしのてのひらをすり抜けたボールが松浦さんのてのひらに弾かれる。
キュッと床を擦って方向を変える。
「速攻ぉーっ」
その声に急かされるように、全員が走り出す。
あたしと反対側のサイドラインに沿って辻ちゃんが駆け抜けて行く。
投げ出されたボールが、ノーバウンドでその手の中に収まる。
同じようにあたしへ向かってパスが出されると、真っ白なユニフォームに描かれた7という数字が、ぐんっと視界に飛び込んできた。
里田先輩はボールをカットすると、ふたつ摩擦音を響かせて振り返りパスを出す。
ボールは、石川先輩の手の中へと舞い戻った。
無人のリング下。
スリーポイントラインまでまだ少し距離はあるっていうのに、先輩はあたし達に見せ付けるようにそこからシュートを放った。
藤本先輩のとは違って、静かにリングへと吸い込まれて行く。
- 13 名前:02 さよなら!先輩 投稿日:2004年02月01日(日)05時55分31秒
- 石川先輩と里田先輩がハイタッチをする。
センターが二人もいるっていうのに、先輩の代は、外からのシュート率も、その成功率もすごく高かった。
それに比べてみんな背が低いっていうのにスリーポイントの得意な人がいなかったあたし達は、先輩が帰った後、居残りで練習したっけ。
こっそりやってるつもりだったのに、部室に戻ると、置手紙と差し入れのスポーツドリンクが置かれてた事が何度かあった。
「よそ見なんてしてる余裕あるの?」
はっと顔を上げると、里田先輩がマンツーマンでマークにきていた。
先輩とのリーチの差、反応の速さを考えるともう左右に振っても外す事は出来ないだろう。
松浦さんならきっと――。
- 14 名前:02 さよなら!先輩 投稿日:2004年02月01日(日)05時56分06秒
- タンッと強くドリブルをして、中へと切り込む。
加護ちゃんのスクリーン。
後藤先輩のマークが外れる。
その代わりに藤本先輩が松浦さんにつく。
ボールは愛ちゃんへ渡って、すぐに辻ちゃんへ出される。
松浦さんはそのままゴールしたへ流れていく。
里田先輩が一歩、けん制するように踏み込んだ。
辻ちゃんの手からあたし目掛けてパスは出されて、あたしはそのボールをスリーポイントラインの外で受け取る。
先輩のてのひらがリングへの軌道を遮る。
先輩はきっと知らない。
あたしは最初から、ここからシュートを打つつもりなんてなかったって事。
右へとドリブルして中へ向かう。
二枚目のスクリーンは、松浦さん。
あたしには吉澤先輩がマークに来る。
愛ちゃんへは石川先輩。
あたしは迷わず辻ちゃんへボールを返した。
後藤先輩が手を伸ばそうとする直前に、ボールは辻ちゃんの手を離れてリングへと投げ出された。
- 15 名前:02 さよなら!先輩 投稿日:2004年02月01日(日)05時56分41秒
- 先輩はきっと知らない。
先輩達が引退してからの半年で、辻ちゃんのスリーポイント成功率が誰よりも上がった事。
急にどうしたの?って訊いたら、決まるのが一番だけど、外しても愛ちゃんやあさ美ちゃんが絶対拾ってくれるって信じてるからって答が返って来た。
「っしゃぁー」
「ナイス、ののっ」
ガッツポーズをして、あたし達にブイサインをして見せた。
「亜弥ちゃんすばしっこいんだからぁ、もう」
里田先輩は苦笑しながら、松浦さんの肩をぽんと叩いてオフェンスコートへと駆けて行く――
- 16 名前:02 さよなら!先輩 投稿日:2004年02月01日(日)05時57分16秒
- ◇
「走れっ亜弥ちゃんっ」
いつもコートの奥から声をかけてくれていたのは里田先輩だった。
あたしもあんな風になりたいって思ってた。
先輩は、とっても往生際が悪いんだって自分で言ってるくらい、諦めの悪い人。
負けず嫌いで、だけど努力してるところを見られるのも嫌い。
偶然、自主練をしている姿を見かけたりしたら、見なかった事にしてって苦笑する人。
あたしは、そんな先輩の背中を追い駆けるのが好きだった。
- 17 名前:02 さよなら!先輩 投稿日:2004年02月01日(日)05時57分51秒
- 石川先輩は、いつも笑顔やった。
どんなしんどい試合の時も、どんな厳しい状況の時も、いっつも笑顔やった。
「先輩は、しんどくないんですか?」
いつやったか、そんな質問をしたら石川先輩は目を細めて笑って答えてくれた。
「きつい時もあるよ。
だけどね、そんな時にでも笑ってるのがあたしの役目だと思ってるから。
それに、そんな時にこそまだまだ余裕よーってとこ相手に見せたくなるのよ」
- 18 名前:02 さよなら!先輩 投稿日:2004年02月01日(日)05時58分26秒
- どうすればリバウンドを取ることが出来るんだろうって思いながらリングを見上げていた時、てのひらに視界を遮られた。
「どしたー?高橋」
「あ、いえ…その…」
「背、低いのにセンター任されて大変そうじゃん?」
「あ、はい…。
その、やっぱり、不利ですよね…。
あたしがしっかりリバウンドせんとみんなに躊躇いなくシュート打ってもらえないんじゃないかって考えると…」
「うーん。
何て言うかさ、誰よりも高く飛ぶ必要はないよ。
タイミングの問題だからさ。
取れなくても手に当てて弾いて、ボールを見方に飛ばすのも技のひとつだしさ」
「は、はい」
「後は、気持ち、かな。
何が何でも触るっていう、さ」
- 19 名前:02 さよなら!先輩 投稿日:2004年02月01日(日)05時59分01秒
- 「上手くなるコツ、ねぇ…」
「後藤先輩は何か特別な事してるんじゃないんですかぁ?」
「んー…。
やっぱりさ、練習、努力するって言うのが一番だと思うよ。
特別な事って言うより、みんながやってる事を人一倍っていう感じかなぁ」
後藤先輩は休憩している他の先輩達を見回して、ののの方を見た。
「いざって時は、みんなの事を信頼する心、かな」
「みんなのことを信頼する心…」
「そう。バスケは一人じゃ出来ないからね」
- 20 名前:02 さよなら!先輩 投稿日:2004年02月01日(日)05時59分36秒
- 雨の日の自主練で、階段ダッシュをしようと向かった校舎で藤本先輩に会った。
いつもなら新校舎を走っているけどその日はテニス部の方達が先客でいたから仕方なくこっちに移動すると、ストレッチをしている藤本先輩に会った。
「おぉ、紺ちゃん。
珍しいね?ここで会うなんてさ」
「そうですね。
あっちの校舎、先客がいらっしゃったので…」
「んじゃ、一緒に走ろっか」
「いいんですか?」
「その方が楽しいし。
いつも何本くらいやってる?」
「えっと、5×4くらいです」
「うわぁ、多いなぁ。
ま、いいや。んじゃそれで」
湿気った階段をバッシュで走る。
体育館よりも高い摩擦音を立てながら、先輩と並んで階段を昇って下るを繰り返した。
最後の方は何故か競争みたいになって、まだこの後筋トレもあるっていうのにあたしも先輩も体力を絞り切るみたいに走っていた。
- 21 名前:02 さよなら!先輩 投稿日:2004年02月01日(日)06時00分11秒
- ◇
「先輩、見てください。
フリースロー、決まるようになったんですよ。ほら」
「このバッシュ、実は先輩とお揃いにしたくてこのメーカーにしたんですよ」
「先輩がスリーポイント決めると、何故かガッツポーズしちゃうんですよねぇあたし」
「先輩、また一緒に自主練してもらってもいいですか?」
「もっと、先輩とバスケしてたいんです。だから――」
- 22 名前:02 さよなら!先輩 投稿日:2004年02月01日(日)06時00分46秒
- ◇
試合終了のブザーが鳴ると、一気に疲労が足にきた。
挨拶をするためにセンターサークルへと向かう。
先輩の方も相当、らしく、顔は真っ赤になっていて、汗が滴っていた。
「69対54で卒業生チームの勝ち。礼」
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
一年生の子達がタオルやドリンクを持って駆け寄ってきてくれる。
あたしはその場にしゃがみ込んだ。
隣では松浦さんがユニフォームの裾を引っ張り出していて、その時視界に入ったものに驚いた。
「ま、松浦さん」
「んーなぁにぃ?」
「もしかして、下に前のユニフォーム着てない?」
「あー…うん。実は着てる」
「あ、あたしも。
あたしも着てるの」
同じように裾を引っ張り出して、10番のユニフォームを見せた。
「ほんとだ。気が合うねぇ」
松浦さんはあたしの隣に腰を下ろして、膝を抱えた。
「…やっぱり、敵わなかったねぇ…」
「…うん…」
- 23 名前:02 さよなら!先輩 投稿日:2004年02月01日(日)06時01分21秒
- 「おーい、そこの二人ー」
「は、はいっ」
後藤先輩に呼ばれて、慌てて立ち上がって駆け寄る。
「いいチームだね。
あたし等のいた時とは全然別物って感じ。
…これからもさ、まっつーと紺野で、みんなのこと引っ張ってって頑張るんだよ?」
「はい…」
「ありがとうございます」
「ん。
また、遊びにくるし」
「はい」
- 24 名前:02 さよなら!先輩 投稿日:2004年02月01日(日)06時01分56秒
- 「ていうか、みんな足速すぎー」
「そうそう。
誰のマークついても振り切られそうだったもん私」
「同じくー」
「明日絶対筋肉痛だなぁ…意地になって無茶したー…」
「あたしもう既に痛い…」
「歩けなくなる前に帰ろっかー?」
「さんせー…」
先輩達はバッシュとドリンクを持って立ち上がる。
「しゅ、集合っ」
「はいっ」
松浦さんの大きな声に、先輩は肩を上げて驚いていた。
「気を付け。礼っ。
ありがとうございました」
「ありがとうございましたっ」
おわり
- 25 名前:02 さよなら!先輩 投稿日:2004年02月01日(日)06時02分31秒
- ☆
- 26 名前:02 さよなら!先輩 投稿日:2004年02月01日(日)06時03分06秒
- ☆
- 27 名前:02 さよなら!先輩 投稿日:2004年02月01日(日)06時03分40秒
- ☆
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