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50 花火大会

1 名前:50 花火大会 投稿日:2003年07月02日(水)21時33分36秒
花火大会
2 名前:50 花火大会 投稿日:2003年07月02日(水)21時35分47秒


 その日、私の家からは打ち上げ花火が見えてた。
 人はその時私がしたことを知れば何を思うだろう?
 だけど、私は自分のした事が間違いだったとは思わない。
 すべては、その日から始まったのだから。
 そう、『花火大会』の前傾と言うべき考えはその日に創り上げられたのだ。

3 名前:50 花火大会 投稿日:2003年07月02日(水)21時36分45秒

「――でさぁ、そのタクシーの運転手がムカツクのなんのって……」
 今日は久し振りにごっちんと仕事があった。
 辻加護なんかと話してるごっちんは本当に楽しそうだけど。
 やっぱりソロって寂しいんだと思う。
 以前私が、ごっちんの楽屋に遊びに行ってあげた時も、
 微妙に翳りのある表情から、表情がぱぁっと明るくなったのが印象に残ってる。
 メンバーの皆といる方が楽しい事は楽しいって前に言ってたけど、
 ソロになったことは後悔してないみたいだった。やりがいがあるんだって。
 そう。それは別にかまわない。
 オフの日が一緒になることが少なくなるのは嫌だけど、
 それでもごっちんがやりたい事をやるんなら応援してやりたい。
 心からそう思ってた。だけど……
4 名前:50 花火大会 投稿日:2003年07月02日(水)21時37分41秒

 『花火』を打ち上げた時、みんな何が起こったのか全く分からない様子だった。
 だから、とりあえず私はもう一発、ともう一体の『花火』を打ち上げた。
 みんなの顔が更に汚れる事になったけど些細な問題だね。
 誰かが、圭ちゃん辺りだったかな。顔の辺りに手をやると、
 ぴちゃり、と水よりも粘性のある液体がついてるのが分かったみたいだ。
「な、なにこれぇぇぇ! 何なの、何なの!!」
「い、いやああああああああああ!!」
 目の前で起きた事がようやく認識できたのかな。
 一人が騒ぎ出すと、芋づる式ってやつだ。
 みんなが騒ぎ出してうるさいったらありゃしない。
 一般人は、こーゆーのを阿鼻叫喚だとか地獄絵図とか言うのかな。
 ふと、私はそんな事を思った。
 こんなもんじゃない。まだまだ花火は打ち上げるつもりだ。
 悪魔、あるいは神、天使。絶対的な力を持つ者。
 ニンゲンなんて屈服させる事、心を壊す事が何より楽しい。
 私には、もう理性なんて必要ない。
5 名前:50 花火大会 投稿日:2003年07月02日(水)21時38分45秒

「ねぇねぇ、今日ここの河原に来てくんない? おもしろいことがあるんだ」
 そう言って簡単な地図の書かれた紙を渡す。
 普通は、こんなこと言っても誰も来るはずはない。
 そんな事は私だって考えてる。だから、ちゃんと付け加えておいた。
「――モーニング娘。に関する、ね」
 そう言ってサングラスをはずしてみせる。
 みんな驚いた顔をする。口をぱくぱくだらしなく動かす人もいたかな。
 そして来る事を了承するのだ。メンバーである私が口にした事だから。
 その日、楽屋で私はこう切り出した。
「今日の夜、みんなで花火でもしない?」
 その日はごっちんも娘。も夜はオフだった。
 もし断られても、何か理由をつけて誘い出すつもりだった。
 だけど、みんなが賛成してくれた。
 その時の私の笑みは絶対見られたらいけないものになってたはず。
 だって、これから起こる事を考えると笑わずにはいられなかったんだもの。
 悪戯な、を通り越して、邪悪なと形容される笑みが自然、浮かんでたと思う。
6 名前:50 花火大会 投稿日:2003年07月02日(水)21時39分52秒

「あれ? なんか人がいっぱいいない?」
 先頭を歩いていた矢口さんが、人だかりを見つけた。
「あ、私が呼んだから。ちょっとした余興だよ」
「ふーん」
 しぶしぶながらも、私の言う事だから信じてくれたみたいだ。
 私って信用高いなぁ……
 まぁ、嘘は言ってないしね。あくまで余興だよ。あれは。
 まだ夕方で周りはずいぶん明るいけど、夕日を背にしてるせいか、
 誰も私たちに気付いてないみたい。
 でも、50メートルくらいまで近づくとさすがにバレた。
「うおおお! ホントに娘。がみんなそろってるよ!!
 ごっちんまでいるしぃ〜!」
 こっちまで聞こえるでかい声で叫んでるのは、デブでメガネで
 ついでにジーパンにポロシャツって言う絵に描いたようなオタク。
 ごっちんとか言ってんじゃないよ、糞が。
 私はあいつを栄えある第一号へと大抜擢してあげた。
7 名前:50 花火大会 投稿日:2003年07月02日(水)21時40分43秒
 ふいに一人の男の体が宙へと浮き上がった。
 言うまでもなく、さっきの男だ。
 体が浮き上がってくると、手足をばたつかせてた。
 そんなことしても動けるわけないのに。見苦しい。いや、いっそ、醜い。
 どうしようか少し考えたけど、――やめた。
 弾ならたくさんある。やっぱりちまちまやってなんていられない。
 そして、男の体が気持ち、さらに膨らんだように見えた。
「え、あれ、なんですか? あれが余興?」
 少し離れてるからって、紺野も好意的な解釈だねぇ。
 ま、誰も普通はこの現実の方が受け入れにくいとは思うけど。
 ほら、ことわざかなんかでも言うように、
 現実の方が想像の世界よりも不思議なんだよね。
 そうだよ、と言って私はみんなをあの集団の方へ促した。
 すぐ傍まで来ると、みんなもその場の異様な空気を察したようだった。
 生のモーニング娘。を前にして誰も何も喋ってない。
 ただただ、呆然とその辺に散らばるもの見ているだけだ。
 その光景は確かに不気味なものだったけど、
 理由を知ってる私にとっては、どうってことない。
 そして、場を盛り上げようともう一度、花火を打ち上げた。
8 名前:50 花火大会 投稿日:2003年07月02日(水)21時42分25秒

 あははははははははは。愉しい。何て愉しいんだろう。
 顔。顔。顔。顔。みんなの顔。
 そこに浮かぶのは、恐怖? 絶望?
 どっちにしても、絶大なる負の感情。みんな、みんな私が創り出したんだ。
 愉しくて、とても笑い出したかったけど、理性をなくすのはまだ早い。
 ごっちん。ごっちんにはもっと楽しんでもらいたいなぁ。
 私が『花火』を打ち上げるたびみんなの顔に負の色が濃くなる。
 初めはみんな泣き叫んでたんだけど、だんだん反応しなくなってきた。
 だから、とりあえず小休止。メインはまだまだこれからなんだから。
9 名前:50 花火大会 投稿日:2003年07月02日(水)21時42分57秒
「ね、ねぇ。これ…… な、何が、どうなってる、の?」
 私は白々しい演技をして、一番落ち着いてそうな紺野に話し掛けてみた。
「………ぁ……う…………ゅ……………」
 ……壊れてた。
 こーゆーのって、あれだよね。心の防衛本能とかいうやつ?
 弱ったなぁ、これじゃ困るんだよねぇ……
「紺野ぉ! しっかりして!」
 大声を上げてみた。正気にならないかと思って。
 でも、反応はない。失敗だ。
 しょうがないので頬を思いっきり引っ叩いた。
 それだと、かろうじてこっちに戻れるみたい。
 私は、現実逃避してるみんなを片っ端から引き戻す事にした。
10 名前:50 花火大会 投稿日:2003年07月02日(水)21時44分09秒
 みんなを起こすと私はとっとと残りの弾を打ち上げた。
 5コくらい残ってたんだけどね。とっととメインに移りたかったし。
 みんなは、ひっ、とかきゃっ、とか小さな声を上げたり、
 うめくような声を上げたりしたけど、そんなに騒がなかった。
 もう麻痺しちゃってんのかな? すぐに慣れるはずもないしね。
 でも、これでやっとメインイベントだ。
「はいっ、皆さん注目してくださーい」
 これって、ちょっと小学校の先生みたいだな。
「今までの余興は、全て、この吉澤ひとみの手によるものであります」
「ちょ、ちょっと、あんた何言って……」
 誰が言ってんのか確認する気にもならない。
 なんたってこれからが本番なのだ。
「それで、ただいまよりメインイベントを開始いたします。
 みなさん、どうぞお楽しみください」
11 名前:50 花火大会 投稿日:2003年07月02日(水)21時45分16秒
 そう言って、まず初めは私的に一番どうでもいい新垣をセレクト。
 新垣の身体を宙に固定した。
「え、え…… い、いやぁ! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
 私、まだ死……」
 破裂した。さっきまでと違って、適度に体のパーツが残るようにしたんだけど。
 知り合いはただの肉にするより微妙に面影が残ってる方が面白いと思ったんだ。
 呆然としているみんなに、新垣だったモノが降り注いでる。
 その、真っ黒の髪の毛が。小ぶりな顎が。ピンク色をした肉片らしきモノが。
 あ〜、なかなかいい感じ。手とか指が降るようにしたかったけど……
 手首丸ごとってのもなかなかいけるね。足首とそろってて。
 内臓もいい感じに降ってくれてるし。腸とか。
 腸は安倍さんにもろかかっちゃってたね。
 落ちてくる音は、びちゃりって感じだったかな。
 もう、下は本当に血の海だしさ。
 そこに髪の毛の生えた頭蓋骨の上のとことかが転がってるってのもなかなか。
12 名前:50 花火大会 投稿日:2003年07月02日(水)21時46分02秒
 それを見て、私の何かが切れた。
「あ……はははははははは! やっぱりこれって、サイコーだね!!」
 逃げようとする奴、泣き叫ぶ奴、順番に、一人ずつ。
 圭ちゃんの右肩。加護の黒目がちの眼球。高橋のお腹の肉。飯田さんの左脚。
 辺りにはどんどん人体の部品が増えていく。
 内臓とかはまだ少し動いたりしてた。
 だけど、今の私にはそんな事は関係無い。
 ただ、ひたすらに、この愉快な行為に没頭するだけ。
 小川の首。紺野の右腕。辻の舌。矢口さんの顔の右半分。安倍さんの胃。
 みんながみんな宙に浮き上がると何か言ってたけど、
 私の耳にはもう入ってこない。
 意識は全て、抱き合って震えているごっちんと梨華ちゃんに注がれてた。
13 名前:50 花火大会 投稿日:2003年07月02日(水)21時48分39秒
 私は梨華ちゃんを宙に浮かせた。同時に私自身も。
「さて、そろそろこの『花火大会』も終幕を迎えようとしています」
 そういってにっこり微笑んだ。
「だから梨華ちゃん。死のうね?」
 耳元でそう囁く。
 顔を離すと、すぐに梨華ちゃんの右脚が付け根から吹き飛んだ。
 梨華ちゃんはすぐには殺さない……
 脚を失くした梨華ちゃんはなんか声にならない声を上げてたけど、
 別にそれはどーでもいい。
 左わき腹あたりから下を吹き飛ばす。
 ハラワタがはみ出る。
 上半身の右の方、肩の付け根から先をミンチ状にした。
 肉片がごっちんにかかってる。
 なんだか梨華ちゃんはもう生きてないみたいだった。
 しょうがない。首から下は粉みじんにして首をごっちんにプレゼントした。
「えー、ごっちん、どうだった? この『花火大会』は」
 今言っても聞こえてないかもしれないけど。
 それでも別に構わない。
 軽い炸裂音と共に私の意識は闇へ飲まれた。
14 名前:50 花火大会 投稿日:2003年07月02日(水)21時49分58秒

「えっと、ごっちん。ごっちんがこれを聞いてる頃には私はこの世にいないと思う。
 というか、みんなだけどね。
 こんな事しようと思ったのは最近になってからじゃないんだよ。
 結構前から考えてた。うん。
 だけど、ごっちんが私のことを1番の友達だと考えてくれてると
 私が思える間はやらない事にしてたんだ。
 でも、これがごっちんの手元にあるって事は何かあったんだろうね。
 何かは今の私には分からないけど。
 たぶん原因となりうるのは梨華ちゃんだと思うよ。
 だって1番ごっちんに近いのは梨華ちゃんだと思うし。
 まぁそれはいいんだけど。
 私の力ってね、小四くらいで初めて出てきた……
 じゃなくて、現れた? んだ。
 そのときは叔父さんたちが死んだ。
 感情の高ぶりってやつだと思う。何されたかは想像にまかせるよ。
 これ以上言う事もないかな。短いけど。
 ばいばい、ごっちん。
 以上、吉澤ひとみでしたー」
15 名前:50 花火大会 投稿日:2003年07月02日(水)21時52分46秒


「ねぇねぇ、今度のオフ一緒に買い物に行かない?」
「え? でもよっすぃと約束してるし……」
「えぇ〜、行こうよ。急用ができたとか言っとけばだいじょぶだって」
「う〜ん、ま、いっか。うん、一緒に行こう。どうにでもなるよね」

16 名前:50 花火大会 投稿日:2003年07月02日(水)21時53分19秒
―了―
17 名前:50 花火大会 投稿日:2003年07月02日(水)21時53分54秒
 
18 名前:50 花火大会 投稿日:2003年07月02日(水)21時54分25秒
  
19 名前:50 花火大会 投稿日:2003年07月02日(水)21時55分01秒
 

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