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48 リバーシブル
- 1 名前:48 リバーシブル 投稿日:2003年07月02日(水)16時30分14秒
- リバーシブル
- 2 名前:48 リバーシブル 投稿日:2003年07月02日(水)16時30分55秒
- ↓
- 3 名前:48 リバーシブル 投稿日:2003年07月02日(水)16時31分29秒
- 静まりかえった室内に、彼女の声が響いた。
「もういいよ。ぜんぶアタシがやったの。だからアタシが、犯人……」
しばらくの沈黙、視線が彼女に集まる。
辻があわてて何か言おうとするのを、矢口が片手でせいした。
「とにかく、ワタシの考えはこうだから」
まわりを無視するようにそう言いおいて、ゆっくりと次の言葉をはく。
「これはあくまでも推測。でも、藤本が窓から落ちたのは、やっぱり誰かがそうなるように仕向けたんじゃなきゃ説明がつかないと思う」
辻へ視線をやっていた安倍が短くため息をついた。
- 4 名前:48 リバーシブル 投稿日:2003年07月02日(水)16時32分02秒
- 他のメンバーたちもそれぞれが困惑して顔を見合わせている。
たまりかねたように、「矢口それどういう意味?」と飯田が食ってかかった。
言われた矢口は肩をすくめて見せる。
「睡眠薬は、あんただよね? あんたが持ってた。夜、ホテルで寝れないって、お医者にもらったって言ってたじゃない?」
加護はうつむき顔を伏せたままでいる。少しして、たれた前髪の陰から「うん」と肯定する返事がきこえた。
「間違いないね?」とさらに追い打ちをかけるように二人――辻と加護にきく。二人はずっと一緒にいた、だから知らないはずはない。
しばらくじっと、すがるように矢口を見つめていた辻だったが、とうとうあきらめたのか、それにうなずいた。
室内がざわめく。
- 5 名前:48 リバーシブル 投稿日:2003年07月02日(水)16時32分32秒
- 「藤本は睡眠薬で眠らされてた。薬の効き目が切れて、あわてたんだ。とっさの判断ができなかった」
ゆっくり、言葉を選ぶようにそう言って話しを進める。
「目を覚まして、そしたらドアの下から煙が入ってきた。いつもの藤本ならなんてことなかったのかもしれないけど……」
矢口は両の手のひらをこすり合わせ、そして少しさびしそうにうつむく。
「犯人は部屋の外で花火をして、煙を部屋の中に入れたんだよ。それで「火事だ!」ってさわいだ」
安倍は部屋の入り口まで行くと、そこにある閉じられたドアの下をのぞき込んだ。わずかなすき間に指を入れてみると、灰らしきものがつく。
「ほんとだ」と手をあげてそれを他のメンバーにも見せていた。
ベッドのわきにまわった矢口はシーツの上に手をのせる。
「ベッドのシーツ、まだ濡れてるでしょ? これたぶん火を消そうとして水挿しの水をこぼしたんだと思う」
- 6 名前:48 リバーシブル 投稿日:2003年07月02日(水)16時33分04秒
- メンバーがベッドの周囲に集まった。矢口と安倍が向かい合うかたち。その間に辻、加護、飯田、吉澤、石川らが立っている。
「藤本はこのベッドに寝てた。正確には寝かされてた、だけど」
順を追って続ける。
「それで、藤本はこの窓から落っこちた。火から逃げようとしてね」
窓。窓は事件後そのままカギを開けた状態になっていた。窓を横にスライドさせ開いたが、ホテルがビルのはざまにあるせいか、風は入ってこない。
振り返る。
その視線の先、辻がようやく面を上げた。目が合う。真っ青な顔だ。
「辻、あんたでしょ? あのとき花火を持ってたのはあんただけだった」
確信めいたものがあった。あの日、辻は朝から「花火をしよう」と、誰彼なくさそっていた。間違いない。辻をじっと見つめ続ける。
- 7 名前:48 リバーシブル 投稿日:2003年07月02日(水)16時33分45秒
- 「だけどこの犯行は一人じゃとてもじゃないけど無理。人を一人運ばなきゃいけないんだから」
「え?」と、数人のメンバーが驚きの表情をうかべる。そう、ここからがもっとも重要なことなのだ。
「ここの真下の1階の部屋から、エレベーターを使って5階のこの部屋まで運んだんだよ」
藤本は見かけよりはるかに身長が低い。もちろん体重も、である。複数の人間の力があれば移動させることもできたはずだ。
窓ぎわにもたれるようにして立ち、メンバーの顔を見わたす。**ホテル5階、その部屋にいるメンバー誰もが戸惑いをかくせないでいた。
「重要なのはここを藤本に1階だと勘違いさせることだったの」
安倍が短くため息をついた。
- 8 名前:48 リバーシブル 投稿日:2003年07月02日(水)19時56分22秒
- しばらくの沈黙。
辻はうつむいたまま肩をふるわせている。
「もうかばう必要なんてないのに……」
伏し目がちにそれを見つめていた安倍が顔を上げた。
矢口は安倍と辻の間で視線を往復させる。
「ねえ、もう犯人が誰かわかってるんだから、かばう必要なんてないんだよ?」
すがるような矢口の言葉を安倍は拒絶した。ゆっくりとまばたきをし、そして辻へチラリと目をやる。
「なっち……」
矢口が軽く唇をかんだ。
- 9 名前:48 リバーシブル 投稿日:2003年07月02日(水)19時56分57秒
- 「えっと、これはあくまでも全部推測だから、警察に言う気もないよ。ただワタシ自身が納得したかっただけだから」
他のメンバーにも聞こえるよう声のトーンを上げると、明るい調子で言う。メンバー間からわずかに安堵の声が漏れた。
「みんなヘンなことにつきあわせちゃってごめんね」
それにかまうことなく安倍は矢口のわきをすり抜け、辻のもとへと向かう。そして――、
「え、なに?」と矢口がきき返す。すれ違いざまに安倍が何ごとかつぶやいたように思えた。
――ワタシが花火、一緒にしてあげればよかった。
- 10 名前:48 リバーシブル 投稿日:2003年07月02日(水)19時57分27秒
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└―┘
- 11 名前:48 リバーシブル 投稿日:2003年07月02日(水)19時57分59秒
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- 12 名前:48 リバーシブル 投稿日:2003年07月02日(水)19時58分29秒
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- 13 名前:48 リバーシブル 投稿日:2003年07月02日(水)19時58分59秒
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