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42 美貴が追いかけた夢
- 1 名前:42 美貴が追いかけた夢 投稿日:2003年06月30日(月)21時39分57秒
- 42 美貴が追いかけた夢
- 2 名前:42 美貴が追いかけた夢 投稿日:2003年06月30日(月)21時40分53秒
- 藤本美貴は苛立っていた。世界中の全てが自分に対して悪意を持っているかのように感じられた。
仕事帰り、電車に乗ったらラッシュに巻き込まれ、買ったばかりの靴を踏まれた事で、まず腹が立った。
ただでさえ狭苦しくて嫌なのに、前に立っていたデブが汗臭くて気持ち悪かった。
やっと座れたと思ったら、隣の女のヘッドホンから信じられないくらい大きな音漏れがしていてうるさく、
前に立った男にまた靴を踏まれ、「馬鹿野郎!」と思わず怒鳴りつけてやりたくなったが、
その時に丁度停車したので、さり気なく、だが思い切り男の足を踏んでやって車外へと逃げたのだった。
- 3 名前:42 美貴が追いかけた夢 投稿日:2003年06月30日(月)21時41分46秒
- 一刻も早くこの場から離れたかった。人が殺到する扉を足早に背にすると、けたたましくベルが鳴り始めた。
振り返れば、閉まりかけのドアに若い男達が駆け込んで、狭い隙間に収まろうとしている。
照れ笑いを浮かべたその顔が、この上なく憎たらしく思えた。
- 4 名前:42 美貴が追いかけた夢 投稿日:2003年06月30日(月)21時42分57秒
- 列車が発車した後、いくらか人が少なくなったホームで、柱にもたれ、美貴は足元を見た。
ほんの数十分前まで輝いていた美貴の白い靴には、薄汚れた踏み跡がついている。
怒りが込み上げ、周りの物を全てぶち壊してしまいたい衝動に駆られたが、
何度か深呼吸をして気を落ち着けた後、美貴はバッグからティッシュを取りだし、
丁寧に汚れを拭いながら「二度と電車になんか乗るもんか」と思った。
- 5 名前:42 美貴が追いかけた夢 投稿日:2003年06月30日(月)21時43分48秒
- 電光掲示板に目を遣ると、次の電車は四分後で急行となっている。
しかし、美貴の降りる駅には急行は止まらない。
各駅停車が来るまで、更に四分間を苛々しながら待つ必要があった。
美貴が降りたこの駅は高架式になっており、高い視点から夜の街を見渡せた。
無数に灯る明りを眺めていると、嫌な気分もいくらかマシになった。
- 6 名前:42 美貴が追いかけた夢 投稿日:2003年06月30日(月)21時44分40秒
- そもそも美貴の不機嫌は、電車に乗って散々だった事から始まったが、現在の待遇への不満も理由の一つだった。
腕組みをしながら美貴は思った。
「何故私が電車に乗らなければならないのか。そこから間違っている。
今や私はトップアイドルなのだ。車で送り迎えされて当然の筈。他のどうでもいい奴等とは違うのだ」
そう考える美貴の頭には、気に入らない十何人かの顔が浮かんでいた。
その時、遠くで花火が上がった。
- 7 名前:42 美貴が追いかけた夢 投稿日:2003年06月30日(月)21時46分13秒
- どこかで花火大会でも行われているのだろうか。
美貴は花火、特に打ち上げ花火が好きだ。夜空に咲き誇る色とりどりのそれは、とても美しい。
誰よりも高い所で輝くのは、美貴の理想とする姿だ。
美貴は花火に自分の姿を重ね、あんな風に輝きたいと願った。
- 8 名前:42 美貴が追いかけた夢 投稿日:2003年06月30日(月)21時46分49秒
- ところが、今の美貴の毎日は全くの逆、同じ花火で例えるなら、
落ちかかったせんこう花火に囲まれているようなものだ。
せんこう花火はそれ一本では小さな光だが、まとめてくっつけることで大きな光を発する事が出来る。
しかし、大きくなりすぎた玉は自らの重さに負け、唐突に落ちてしまうのだ。
巻き添えを食って消えてしまうのは絶対に御免だった。
- 9 名前:42 美貴が追いかけた夢 投稿日:2003年06月30日(月)21時48分03秒
- 美貴は終わり無く輝き続ける花火になりたかった。
勿論この世に終わりの無い花火など無い。火はやがて消えてしまうものだ。
しかし美貴には、自分になら必ずそれができると思えた。そういう根拠の無い自信が、いつも美貴には有った。
やがて待っていた各駅停車がやって来て、さっきよりは空いている車内へ、美貴は悠々と入っていった。
- 10 名前:42 美貴が追いかけた夢 投稿日:2003年06月30日(月)21時50分22秒
- おわり
- 11 名前:42 美貴が追いかけた夢 投稿日:2003年06月30日(月)21時51分04秒
- 美
- 12 名前:42 美貴が追いかけた夢 投稿日:2003年06月30日(月)21時51分47秒
- 貴
- 13 名前:42 美貴が追いかけた夢 投稿日:2003年06月30日(月)21時52分27秒
- 茶
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