インデックス / 過去ログ倉庫
41 フラジール
- 1 名前:41 フラジール 投稿日:2003年06月30日(月)17時24分53秒
- 41 フラジール
- 2 名前:41 フラジール 投稿日:2003年06月30日(月)17時25分34秒
- 列車の音が耳に鳴り響く。
色を変える景色が目に映る。
昨日まで晴れてた空は、今日は灰色に染まっている。
音を立てて揺らす窓ガラスに顔を押し付け、外を見る。
「かけおちしよう」
いつもと同じように、小さなことで喧嘩になったあの夜。
そう告げられ、首を縦にふった自分。
その言葉に、不思議と違和感は感じなかった。
今の二人にとって、ごくごく自然な行為。そう思った。
「お互いの事情は、分かってる」
まだ会って間もない頃のこと。
私達はもう子供じゃないんだから、会いたい時に会えるわけでもない。
本当は24時間一緒にいたくても、そんなのは叶わないのが現実。
だから会えない日、独りの夜はいつも電話でそう言っていた。
「もう、子供じゃないんだから」
そんな彼女が言ってくれたこと。
「何もかも捨てて、二人で生きませんか?」
生きるという言葉に、彼女がどれだけ強く意味を込めたのかも、私には分かっていた。
ただ好きだから。好きすぎて、辛いから。
もう離れるのは嫌だから。
私は彼女と二人で、生きる道を選んだ。
- 3 名前:41 フラジール 投稿日:2003年06月30日(月)17時26分39秒
- 〜〜〜
波の音が聞こえる。
だがそれ以外、何も聞こえない。
周りには、私達以外、誰もいない。
二人きり。
暗闇の中、下の方で、波がしぶきを噴いていた。
「本当に、いいんですか?矢口さん」
何度も握った大きな手を通し、彼女が振り向く。
矢口さん。
付き合い始めてからも、その呼び方を変えなかった彼女。
名前で呼んで、と最後で言えなかった自分。
「よっすぃ〜こそ、オイラとで、本当にいいのかよ」
数十センチも身長差がある彼女を見上げる。
潮風が顔に当たった。
「何度も言ったじゃないですか。二人で一緒に、生きましょう」
微笑みかける彼女の顔を見て、再び決心する。
〜〜〜
- 4 名前:41 フラジール 投稿日:2003年06月30日(月)17時27分51秒
二人の夢――。
それは、永遠に、離れないこと。
ずっと二人で一緒に、生きていきたい――。
何度目かのデートの時に、花火を見た。
何色にもその姿を変え、光り輝くそれは、とても自由に見えた。
たった小さな筒から飛び出る、その偉大さ。
夜空に大きく広がり、地上に散る、その豪快さ。
「私達も、ああなりましょうか」
二人で生きていくために、必要なこと。
彼女のその言葉に、初めは戸惑いを隠せなかった自分。
だが今は違う。
どうせならこの小さな場所から、大きく飛び散りたい。
それが二人に、必要なことだった。
- 5 名前:41 フラジール 投稿日:2003年06月30日(月)17時28分42秒
- 〜〜〜
「花火って、六色あるって知ってました?」
お互い忙しく、親にも認められず、でもどうしても顔が見たくて。
「会いたい」ってメールを打ったら、時間なんて気にせず家まで来てくれた彼女。
いつものラフな普段着に身を包ませ、笑いながら始めに出た言葉が、それだった。
長い時間をかけて来てくれたのに、私達に与えられた時間はたったの10分。
「赤、白、黄、緑、青、紫。簡単に言うと、この6つなんです。たったこれだけで、あんなに綺麗に空を散れるんですよ」
彼女の目は輝いていた。
「私達もああなりましょうか」という彼女に、「いつかそうなりたい」と言った私のふざけた願望を、真面目に聞いてくれていた。
「今日は、緑ということで」
その日、別れ際に彼女はそう言った。
意味はよく分からなかったが、私はなぜかその時、安心した。
- 6 名前:41 フラジール 投稿日:2003年06月30日(月)17時29分33秒
それから、五回デートした。
一回目は久しぶりに会ったので、私達は喜んだ。
彼女はその時、「今日は黄色ですね」と嬉しそうに言った。
二回目では、単純で些細な事で、喧嘩した。
その日、彼女は、「今日は紫ですね…」と俯いていた。
三回目の時は、まだ前の事を引きずってて、お互いあまり喋らなかった。
別れ際に、「今日は青かな」と呟いていた。
四回目の時に、やっと仲直りして、初めてキスをした。
「白くなれた」と微笑みながら、何度もキスを交わした。
そして五回目の時に、「かけおちしよう」と言われた。
〜〜〜
- 7 名前:41 フラジール 投稿日:2003年06月30日(月)17時30分29秒
今、私達は崖の上に立っている。
「後一色です。一緒に、仕上げましょう」と言われ、そのままついてきた。
数歩進むと、その先には広大な海しか待っていない。
ここなら誰にも邪魔されないと思って選んだ場所。
誰にも邪魔されず、二人きりで、生きれる場所――。
二人一緒に、ガソリンを頭から被った。
全身が濡れて、ぬるぬるしたが、関係なかった。
私は目を開け、彼女を見た。彼女もこちらを見ていた。
お互いに、唇を重ねた。初めて、舌を絡める。
「愛してる」
何度交わした言葉だろうか。
何度苦しめられた言葉だろうか。
何度疑った言葉だろうか。
だが、もう、この言葉には左右されない。
その全てを、受け入れられる。
- 8 名前:41 フラジール 投稿日:2003年06月30日(月)17時31分17秒
私達はこれから、二人で生きる――。
それは、ある意味復讐。
私達の事を認めてくれなかった世間と親。
汚いものを見るような目で見てきた友人達。
だがそれ以上に、私達は疲れていた。もう、離れたくなった。
ずっといつまでも、一緒に二人で生きていきたかった。
どちらからそう言ったわけでもない。普通に自然に、こうなった。
最初で最後のかけおち。そしてこれが、最後のデート。
だが、これで、私達は永遠に、一緒になれる。
- 9 名前:41 フラジール 投稿日:2003年06月30日(月)17時32分03秒
顔を上げた。
遠い夜空で、あの時二人で見た花火が、広大に舞っていた気がした。
そして私は、胸元からライターをだし、そっと指をかけた。
- 10 名前:41 フラジール 投稿日:2003年06月30日(月)17時32分39秒
- E
- 11 名前:41 フラジール 投稿日:2003年06月30日(月)17時33分12秒
- L
- 12 名前:41 フラジール 投稿日:2003年06月30日(月)17時33分54秒
- T
Converted by dat2html.pl 1.0