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40 手のひらの破片
- 1 名前:40 手のひらの破片 投稿日:2003年06月30日(月)00時57分23秒
- 40 手のひらの破片
- 2 名前:40 手のひらの破片 投稿日:2003年06月30日(月)00時58分32秒
遠い夏の日。
私の記念日。
- 3 名前:40 手のひらの破片 投稿日:2003年06月30日(月)00時59分12秒
「どこからまわろうか?」
「ん。どこでもいい。」
「じゃあそうだなぁ…金魚すくいとかやろっか?」
「うん!」
- 4 名前:40 手のひらの破片 投稿日:2003年06月30日(月)00時59分46秒
彼女はいつもみたいに男の子みたいなカッコ。
私は歩きにくいけど、お気にいりの浴衣。
私は彼女のおったててるキンパツを見ながら、
手を引かれカラコロカラコロ音を立てながら後ろを歩く。
手から伝わってくる感覚が愛しい。
でも、それも今日でおしまい。
- 5 名前:40 手のひらの破片 投稿日:2003年06月30日(月)01時00分18秒
「金魚すくいー!あ、カメもいるー」
「マサオくんは元気だねぇ…」
「なに、楽しくないの?」
「もちろん楽しいに決まってんじゃーん!」
二人でそんな他愛もない会話を楽しむ。
…楽しんでいるはず。
…分かっている。
これは先がない幸福。
自然に笑えているんだろうか。
自然に話せてるんだろうか。
- 6 名前:40 手のひらの破片 投稿日:2003年06月30日(月)01時00分59秒
「おっしゃ!」
目の前で子供のようにはしゃぐ彼女。
自然に見る目も細められる。
「2匹げっとー!」
「すっごぃじゃん!」
「ふふ〜ん。どうだねこの大谷くんの力思い知ったかい?」
「でも、2匹だけだよねぇ…」
私がそう言うと、彼女は心底悔しそうにくっそーと漏らし、
また金魚すくいにチャレンジしたが、結局ダメだった。
「金魚、エビータと一緒にしたらダメだよね…」
「食べられちゃうよね…」
- 7 名前:40 手のひらの破片 投稿日:2003年06月30日(月)01時01分37秒
そう悩んでるときに、パァンと空気が弾けるような音がした。
「花火…」
「すっげー…」
黒い空に鮮やかに咲く華。
淡い色使いのはずなのに、何故だかとても目に焼きつく。
なんべんもなんべんも華が咲いて散っていった。
「きゃっ…」
急に手をとられたので何事かと思ったら、彼女は何も言わずに走り出した。
「ちょっ…どこいくのぉ?」
「川!近くにあるから!」
そう後ろを振り向かずに声をあげると、人ごみをうまくかき分けながら、走ってゆく。
私は繋がれた手を離さないように、追いつくのに必死だった。
- 8 名前:40 手のひらの破片 投稿日:2003年06月30日(月)01時02分13秒
連れてこられた先は、真っ暗な河原。
祭りの会場よりも花火を打ち上げるところよりも、ちょっとばっかし離れたところ。
「…ここならよく見えるっしょ。」
彼女がそう言うと同時に、パァンパァンと次々に鮮やかな華たちが咲き誇る。
「……うわぁ…」
「すごいでしょ。マサオここ、去年見つけたの。」
「うん…すごい…」
ずいぶんと感嘆の言葉しか出していなかった気がする。
それぐらい、花火は美しく儚かった。
- 9 名前:40 手のひらの破片 投稿日:2003年06月30日(月)01時02分51秒
「……ねぇ…」
「ん……?」
隣にいた彼女の顔を見る。
――困ったような笑顔。
あぁ…。
もう、タイムリミットか。
- 10 名前:40 手のひらの破片 投稿日:2003年06月30日(月)01時04分03秒
「…今日でおしまい、だねぇ…。」
はしゃいでたのは彼女だったはずなのに。
「うん…。たいしたこと、できなくってごめん…。」
手をとって走ってくれたのは彼女だったはずなのに。
「ううん…。今日って、決めたのは私だったし…。マサオくんが謝る事ないから…。」
- 11 名前:40 手のひらの破片 投稿日:2003年06月30日(月)01時04分42秒
もう、この砂の夢は音もなく崩れ落ちてしまったんだ。
「ん…。でも、ごめん。マサオが悪い…。今日のことだけじゃなく。」
「人間だもん…しょうがないよ…。悪く、ないんだから。」
自分の口から紡いでるはずの言葉が、うまく芯に纏まらない。
もうだめなんだ。もう。
- 12 名前:40 手のひらの破片 投稿日:2003年06月30日(月)01時05分14秒
- 13 名前:40 手のひらの破片 投稿日:2003年06月30日(月)01時05分46秒
「好きな人ができるっていうのは、すごく…幸せなことなんだよ?」
「……。」
「だから、胸張ってもいいんだから。私は、大丈夫だから。」
「……ありがと、むらっち…。」
- 14 名前:40 手のひらの破片 投稿日:2003年06月30日(月)01時06分43秒
作り笑顔でも嬉しかった。
それが私のためを思ってしてくれたことなのだから、淡く切ない思いを最後に味わえる。
――ようやく言えたんだ。
私から言えた。
これで彼女を苦しめなくてすむ。
- 15 名前:40 手のひらの破片 投稿日:2003年06月30日(月)01時07分17秒
私の儚い夢の時間は、手のひらに残った破片だけ。
もう、それもこの手に残すことはできない。
さらさらと滑り落ちていくのを、ただ見ているだけ。
記憶に留めておくだけ。
夜空に咲く華のように。
- 16 名前:40 手のひらの破片 投稿日:2003年06月30日(月)01時08分51秒
- 17 名前:40 手のひらの破片 投稿日:2003年06月30日(月)01時09分25秒
- M
- 18 名前:40 手のひらの破片 投稿日:2003年06月30日(月)01時09分57秒
- K
- 19 名前:40 手のひらの破片 投稿日:2003年06月30日(月)01時10分32秒
- B
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