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39 ISLAND ILLUSION
- 1 名前:39 ISLAND ILLUSION 投稿日:2003年06月30日(月)00時10分41秒
- 39 ISLAND ILLUSION
- 2 名前:39 ISLAND ILLUSION 投稿日:2003年06月30日(月)00時12分01秒
- 「好きになっちゃった!」…うーん、違うかなぁ。
「好きだっちゃ!」…寒っ。
「I LOVE YOU」…うぅん…意味通じなさそう…。
「ずっと、一緒にいてください」
うーん。こんな感じかなぁ。何せ、相手は"あの"真希ちゃんだからなぁ。
よし、決めたっ。
- 3 名前:39 ISLAND ILLUSION 投稿日:2003年06月30日(月)00時12分58秒
- 1時間前から写真とにらめっこしていた亜依は、ようやく意を決した。
幼馴染みで、2つ年上の後藤真希。幼少から、亜依は真希の事を想い続けてきた。
最初は、姉を慕う妹のような感情だと、自分でも思っていた。
…というより、それ以外の感情を知らなかった。
だけど、いつしかそれは愛へと変わり、特別なカタチで心に居座っている事を知った。
きっと、真希がこの島から出て行くなんて言わなければ気づかなかったかも知れない。
「あたし、この島を出てくから」
真希がそう亜依に告げたのは、2ヶ月程前の事だった。
高校生になったばかりの亜依は、島にたった一校しかない高校に入学した。
全校生徒6名という、小さな学校だったけれど、亜依は真希と同じ高校に通えるのを嬉しく思った。
けれど真希は、来年…つまり高校を卒業したら、この島を出て行くと言う。
もちろん亜依は泣いたし、何度も説得した。けれど真希の意志は曲がらず、断固として島を出ると言い張った。
- 4 名前:39 ISLAND ILLUSION 投稿日:2003年06月30日(月)00時14分21秒
- だから、気づいた。自分の気持ちに。真希を愛している事に。
その気持ちを、来週にある島のお祭りの際に告げようと思った。
もし、今その気持ちに真希が応えてくれれば、真希は島を出るのをやめるかもしれない。
応えてくれなければ、もうきっぱり諦めて自分は一生島で暮らす決意までついていた。
もう夏だと言うのに、まだ肌寒い。いつもならもう、海で泳げるくらい暑いのに。
どこか今年は、何かが違う予感がしている。それは、亜依の気のせいだったのだろうか。
祭りは毎年7月1日に行われる。島全体が一丸になって大騒ぎする日だ。
海の神様を祭る由緒正しきお祭りなんだか…という話を亜依も昔、誰かから聞いていた。
11時半から12時までは花火が空を飾り、夏の始まりを告げる。
その花火が終わった瞬間に、亜依は真希へ想いを伝える事にした。
時刻は11時25分。もうすぐ花火があがる。
「真希ちゃん、あのね」
「ふぁ…眠い…」
「もうすぐだよ。って、そうじゃなくて。あのね…」
「うん?何か今年はいつにも増してそわそわしてんね。何かあった?」
「え。ううん、ほら、花火始まるよっ」
- 5 名前:39 ISLAND ILLUSION 投稿日:2003年06月30日(月)00時15分18秒
- 亜依の言葉の直後に、一発目の花火がドーーーーンと派手な音を立てた。
見物人たちの間から歓声と、それに拍手があがる。
真希は、花火を見ていた。
亜依は、真希を見ていた。
花火は、壮大な音を立てて咲き乱れる。
まるで銃声のような大きな音を立てて。
「綺麗だったねー、花火」
「うん。何かもう、こうブワーっと!」
告白するタイミングも何のその。亜依も真希も思いっきり浮かれてしまっていた。
島民たちはまだまだこれからと言った具合に大騒ぎをし、島全体が浮かれている。
そんな空気の中だから、2人が浮かれてしまうのも仕方ない事なのだろう。
けれど、亜依は少しずつ本来の目的を思い出して心を静めた。
――深呼吸深呼吸。…ふう〜っ。
思い切り空気を吸いこんだ。後は、真希の名前を呼べば準備完了。
- 6 名前:39 ISLAND ILLUSION 投稿日:2003年06月30日(月)00時16分59秒
- 「真…」
「…亜依。今何か聞こえなかった?」
ガックリ。せっかく吸いこんだ空気を無駄にした。
「…?」
「ドーンって…そう、花火の音みたいな」
「花火の音って、さっきの花火の音が耳に残ってるんじゃないの??」
「そっか、そうだよね。で、何?何か用?」
「えっ!?」
いきなり話を戻されて、亜依の心臓は1cmばかり飛び跳ねたようだった。
(え〜い、勇気を出せ!亜依!)
「ま、真希ちゃんっ!!」
「んあ?」
「ず、ずっと一緒ににに、居てくださいっ!!」
言った!ついに言った!ちょっとタイミング外したけど、言っちゃった!
さぁ。どうする真希。真希の返事や如何に!
「…え?」
素っ頓狂な声だった。状況が理解できていないのだろう。
というより、亜依の言葉の意味がわからなかったのかも知れない。
「わ、私っあのっ、ずっと真希ちゃんが好きでっ、あの特別な意味でっ。
ああもうこんな時に何言ってるんだろっアハハっ」
「………」
奇妙な沈黙だった。亜依からすれば、時が止まってしまって欲しいような。
- 7 名前:39 ISLAND ILLUSION 投稿日:2003年06月30日(月)00時18分24秒
- 「…うーん。そんなのとっくに知ってたけど」
「…え?」
今度は亜依が素っ頓狂な声をあげた。
「というか、あたしの気持ちにも気づいてなかったんだね。亜依…」
「え…う、嘘でしょ?」
「嘘ついてどーすんのさ。あたしだって、特別な意味で亜依が好きだよ」
涙が、溢れた。もう他に何もいらないと思った。
こんなに近くに真希はいたのに、気づかなかった自分が恥ずかしくなった。
「じゃ、じゃあ!島から…」
「島は出る」
「そ、それじゃ、真希ちゃんは私を捨てるのぉっ!?」
「そうは言ってない。でも島は出る」
「……むぅ……」
真希のその言葉を聞いて、亜依はついに黙り込んでしまった。…というより唸っているが。
まぁ、お互いの気持ちは確認したわけだし、これから説得に時間をかければ良いだろう。
今はそれで納得する事にした。それよりも、真希の気持ちを喜びたい。
「わかったもん。じゃあ、今は許したげる」
「はいはい。さ、そろそろ帰ろう」
- 8 名前:39 ISLAND ILLUSION 投稿日:2003年06月30日(月)00時20分12秒
- 真希が亜依の手をとり、そっと握り締めた。
今まで何度も手は繋いだけれど、今日が一番幸せに感じる。
この幸せが、できればずっと…。ダメなら、真希が島を出るまでは続いて欲しい。
そう願った。
ドーン。
今度は亜依の耳にも確かに聞こえた。
「今の…」
「亜依も聞こえた?もしかして、花火まだやってんのかな」
「うん…何だろうね」
握り締めた手の力が、キュッと締まる。
ドーン。ドーン。何度も、何度もその音が響いては止み、また時々鳴った。
「何だろね」
「変なの…」
ふいに、島のあちこちにあるスピーカーから、くぐもった声が聞こえた。
- 9 名前:39 ISLAND ILLUSION 投稿日:2003年06月30日(月)00時21分32秒
「えー、注意して聞いていただきたい。
この島は、政府の戦闘実験プログラム第二百六号の会場に選ばれた。
島民の皆様には、申し訳ないがこの実験に協力していただきます。
実験の内容は実に簡単で、皆さんに殺し合いをしていただく、と言うものです。
生き残った最後の一人だけが島を出ることが出来ます。
武器の支給はありません。漬物石でも包丁でもなんでも使っていただいて結構です。
みなさんの動きはレーダーできちんと把握しておりますので、
一定時間内に一定の距離を移動しない場合、即射殺します。
まあ、よほど同じ場所にずーっといない限りは問題ありませんがね。
3日以内に決着がつかない場合は、みなさんに死んでもらいます。
あ、ちなみに村長達には死んでもらいました。ちょっとうるさかったものでね。
島民は全部で67人。
ただいまから実験開始とする。
諸君たちの健闘を祈る」
- 10 名前:39 ISLAND ILLUSION 投稿日:2003年06月30日(月)00時22分31秒
- ブツッと言う音と共に声は消えた。
同時に張り詰めた沈黙が訪れる。
広場のまばらな人ごみで、亜依は誰のいたずらだよ、と言う声を聞いた。
次の瞬間、亜依の目の前で顔見知りのおばさんが車にはねられ宙を舞った。
ヘッドライトに照らされたおばさんは、そのまま遠くへ吹っ飛んでいく。
そして目の前の現象に理解が及ぶ間もなく、車はさらに二人目の元へ発進した。
二人目は、青年だった。ライトに照らされて顔が見えた。
亜依の家の近所にすんでいるお兄さんだ。
昔よく一緒に遊んだのを亜依もよく覚えている。
彼は慌てた様子で周りを見渡したが隠れる場所などどこにもない。
その間にも車はブォォォンと派手な音を立てて距離を縮めている。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ」
とてもじゃないが、亜依にはその瞬間を見ることは出来なかった。
悲鳴をあげ、耳をふさいでうずくまった。
誰かが手を引っ張る。
いやだ。ここにいさせて。お母さんがいてお父さんがいて弟と妹がいて真希ちゃんがいる。
- 11 名前:39 ISLAND ILLUSION 投稿日:2003年06月30日(月)00時24分19秒
- 瞼が透けて赤く見えた。向こうに何か明るい物がある。
亜依がそれを認識して顔を上げようとした瞬間、誰かに突き飛ばされアスファルトの広場をころがった。
同時にキキーッと言う高い音が亜依の鼓膜を突く。
どうやら真希に突き飛ばされたのだ、と亜依は理解した。
亜依は真希を探した。
亜依を突き飛ばした反動で反対側に跳んだようで、向こうで真希が立ち上がろうとするのが見えた。
亜依も立ち上がろうとして、そばにコンクリートブロックが転がっているのが視界に入った。
ふいに亜依の頭を真希の笑顔が掠めた。
亜依はそれを持ち上げた。
「亜依ーー!はやく、こっち!」
真希が喉が潰れんばかりに叫んでいるのが亜依の耳に入った。
そして目には、さっきの車がすでに目標を変えて別の人を追っているのが映った。
亜依は車を横目で見つつ真希の元へ走った。
「亜依、大丈夫?怪我ない?」
「うん」
「そっか、よかった……」
- 12 名前:39 ISLAND ILLUSION 投稿日:2003年06月30日(月)00時25分54秒
- ドン!
どこかで腹の底を震わすような音が響いた。
それは、二人が見た花火の音によく似ていた。
しかしもちろん、花火の音ではなかった。
銃声、だった。
とりあえず二人は暗がりに隠れた。
「これからどうしよう…」
「ねえ、真希ちゃん」
「ん、なあに?」
「本当に島出て行くの?」
「え、こんな時に何…」
「いいから、もし助かっても、島出て行くの?」
「…行くよ。私は行く」
「そっか」
「ごめ…」
真希の発した音声はそこで途切れた。替わりに血が口からあふれ出た。
後頭部がパッカリ割れ、目が飛び出そうなほどに見開かれていた。
亜依の持っていたブロックと亜依の顔は血で汚れていた。
- 13 名前:39 ISLAND ILLUSION 投稿日:2003年06月30日(月)00時27分48秒
- 「真希ちゃんが悪いんだよ。私を置いて島を出て行くなんて言うから」
亜依はまるで子供が童謡でも口ずさむように言った。
「真希ちゃんにはずーっとここにいてほしいの」
遠くの花火の音が聞こえた。
それはまるで銃声のようだった。
そういえば、今日は花火大会だ。今日こそ真希ちゃんに告白するんだ。
「――ずっと、一緒にいてください」
―end―
- 14 名前:39 ISLAND ILLUSION 投稿日:2003年06月30日(月)00時28分21秒
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- 15 名前:39 ISLAND ILLUSION 投稿日:2003年06月30日(月)00時29分25秒
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- 16 名前:39 ISLAND ILLUSION 投稿日:2003年06月30日(月)00時30分00秒
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