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35 恋するSとノクターン
- 1 名前:35 恋するSとノクターン 投稿日:2003年06月29日(日)00時51分27秒
- 35 恋するSとノクターン
- 2 名前:35 恋するSとノクターン 投稿日:2003年06月29日(日)00時53分06秒
さゆみ嬢がふと思い立って、夏におき忘れた花火の袋を持ち出しました。
そうして、寒寒としている庭先で線香花火を一本取り出します。
さて、少しだけ不細工なお月様と、百円しないライターの光でもって
まじまじと花火を見つめます。
線香花火のほうでも季節はずれと思うので心の準備も拙いものです。
夜虫の羽音ほどの微かな音がして花火の先っぽに炎がうつりました。
それをみてさゆみ嬢がライターを消しますと、先に丸く浮かび上がった火の玉の
なんとも儚げな光がお月様の光と溶け合ってえもいわれぬほどに綺麗なのです。
さゆみ嬢が期待感横溢して双眸をキラキラと輝かせ、線香花火の先にぐっと顔を寄せます。
その容貌があまりにも愛らしくて、線香花火はそのどこともつかぬ頬をほぅと染めました。
ついつい気を緩めてしまったのがいけなかったのでしょう。
- 3 名前:35 恋するSとノクターン 投稿日:2003年06月29日(日)00時53分41秒
- 「アチッ…」
最初の火花を散らす時分、ついつい声を出してしまったのです。
さゆみ嬢はびっくり。目を見開きます。しかしながら一度出してしまったものは止まりません。
「…アチ…アチチチ…アチッ…」
火花が飛び散るのに合わせて花火が声をあげるものですから
なんだか愉快になってきました。
「……アチチッ……アチッ……アチィッ…」
さゆみ嬢はどうにも可笑しくて楽しくて、いつしか笑顔が止まなくなっていました。
それで、花火のほうでも嬉しくなって、失態もまあよしとすることにしました。
照れ臭いのですが、さゆみ嬢の笑顔は何より素敵でした。
「あっ…」
突然、先っぽで賑やかに踊っていた火の玉がポトリと地面に落ちてしまいました。
まだ半分も残っていようかというほどで、あっけないことにさゆみ嬢の表情は曇ります。
それを見た花火の火の玉は最期の火花を一閃。
「ザンネンナリ…」と告げると、すぅと地面に溶けて消えました。
- 4 名前:35 恋するSとノクターン 投稿日:2003年06月29日(日)00時54分19秒
- あたりはふたたびお月様が照らすばかりの闇夜となりました。
さゆみ嬢の耳にはしっかりと線香花火の言葉が届いていましたので
残念に思いながらも、なにやらとても嬉しいのです。
さゆみ嬢は次の花火を取り出すことをせずに大事にそのふくろを家に持ち帰りました。
そして、次はいつ不意に取り出してみようかと、いたずらなことを考えながらベッドへ上るのでした。
翌朝、昨夜の出来事をれいなと絵里に伝えてみたところ
れいなは「夢でもみたんとちゃう?」と一蹴し、絵里はあいまいな笑みを返しました。
でも、さゆみ嬢は得意げに鼻を鳴らします。
そうして昨夜の線香花火殿のことを思い出してはニコリと微笑むのです。
その愛らしく妍麗な笑みに、れいなと絵里は
意味もわからずドキリとして顔を赤らむのでした。
お終い
- 5 名前:35 恋するSとノクターン 投稿日:2003年06月29日(日)00時54分49秒
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- 6 名前:35 恋するSとノクターン 投稿日:2003年06月29日(日)00時55分31秒
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- 7 名前:35 恋するSとノクターン 投稿日:2003年06月29日(日)00時56分06秒
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