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33 スパークスパーク

1 名前:33 スパークスパーク 投稿日:2003年06月28日(土)13時34分58秒
33 スパークスパーク
2 名前:33 スパークスパーク 投稿日:2003年06月28日(土)13時38分56秒
今夜の『第二次朝陽公園ロケット花火戦争』は、俺の間抜けなミスによって終戦を迎え、
わがチームは敗北した。
高校へ進学してから最初の夏休み。男女混合総勢8名で、ロケット花火を投げつけ合う
危険にして楽しいガキの遊びにバカ騒ぎ。
近所の皆様には大変ご迷惑をおかけいたしました、だろう。
なかには二階の窓からビール片手にニヤつきながら観戦していた人もいるかもしれないが。

1袋8本入り100円のロケット花火を1人につき2、3、4袋。
合計200本近いロケット花火が、午後8時からの約30分間、
蒸し暑い夏の夜闇に浸る公園に火花を散らせ、飛び交っていた。
3 名前:33 スパークスパーク 投稿日:2003年06月28日(土)13時39分43秒
戦争といっても所詮は決着のつけようのない遊びだ。
だから、最後はリーダーの一騎打ちでむりやり決着をつけることになる。
そして今夜、リーダー役を押しつけられたうちの1人が俺。

朝陽公園には、入ってすぐ両脇に「山」がある。標高3、4メートルの山を陣地にして
ロケット花火を投げ合うわけだけれども、二つの山のあいだは5メートルほどの距離しかなくて、
陣地だの基地だのということにはたいした意味はない。それで結構。
なにも本格的な争いごとをやろうってわけじゃない。楽天的な遊びなんだ。
4 名前:33 スパークスパーク 投稿日:2003年06月28日(土)13時40分33秒
で、一騎打ち。
俺は自軍陣地の山の隣に仁王立ち。背後には戦友たち。
敵軍のリーダーは向かいの山の頂上から俺を見下ろしている。
互いに握りしめたロケット花火に点火して、睨み合い。
手元のロケット花火はバチバチといきり立ちながら発射を待つ。

タイミングを見計らい、俺は低く構えてアンダースローの態勢でテイクバック。
必殺のサブマリン投法だ。ちなみに、かつて一度も必殺したことはない。
相手はダイナミックなオーバースローで、これまた「必殺」のマサカリ投法。ちなみに(略

さあ、勝負だ。
地面すれすれのところからロケット花火を投げつけようと投球(射出)のモーションに入る。
が、あざやかなほど見事にタイミングがズレていた。
俺のロケット花火はピィィィイィィッッ――と甲高い音をひきながら後方へと発射され、
背後で「ぬおぅっ」とか「きゃぁっ」とか悲鳴がきこえた。
そして、振り返った俺の顔のすぐ横を、甲高い音とシュンッという鋭い音が通り過ぎていく。
まもなく、ほぼ同時に二つの破裂音。
こうしてわがチームは敗北した。敗因は自爆。
5 名前:33 スパークスパーク 投稿日:2003年06月28日(土)13時41分49秒
さて、戦犯として吊るし上げられた俺にはやらなければならいことがあった。
いわゆるひとつの罰ゲーム。
メリットのないリーダー役をむりやり押しつけられたのも、それが理由だ。
負けたチームのリーダーは告白をしなければならない。
もちろん、その告白というのは、罪の告白や恥ずかしい思い出の告白なんかじゃなく、
好きな女への愛の告白だ。
これは男だけで決めたことで、女は知らない。

今夜の参加女子は3名。
辻希美、加護亜依、紺野あさ美。
今日ここへ来ていないやつも何人かいるけれど、ほぼいつものメンバーだ。
そして俺が告白しなければならない相手は――紺野あさ美。
6 名前:33 スパークスパーク 投稿日:2003年06月28日(土)13時42分19秒
俺が紺野を好きだということは男仲間内では周知のことだった。
それというのも、ある日の学校でのこと。
俺の友人の1人がこともあろうに紺野のほっぺたを突っつくという暴挙に出たのが発端だ。
神聖なる紺野のぷにぷにほっぺに穢れた下賤の指先が触れた怒りに熱くなった俺は、
その日、そいつと激しい「話し合い」をした。
このときの気持ちをわかりやすく表現すると――うらやましかったんだ。

そうして俺の秘めたる恋心は、あっというまに男仲間内にひろまった。
何人かには「知ってた」「そうだと思ってた」と、あっさり、なんの驚きもなく受け止められた。
それがまたなんだか無性に悔しかった。
7 名前:33 スパークスパーク 投稿日:2003年06月28日(土)13時43分15秒
花火戦争終了後、公園の奥まったところにあるベンチに紺野を連れ出した。
「告白するために二人っきりになる」ということを意識しすぎていた俺の緊張感は、
どんなふうに紺野に伝わっただろうか? 伝わらなかっただろうか?
いままでにも一対一で話しをしたことがないわけじゃないから、
この状況そのものを不審がられはしなかったと思う。たぶん。
「放課後、校舎の裏で待ってます」とか言ったわけじゃないんだから。
紺野は花火戦争の余韻を楽しんでいるように、ニコニコしながら話しかけてくる。
まさか告白されるなんて思いもよらないように、いつもどおりって感じに見えた。

で、いくつか言葉を重ねていくうちに、俺は多少の――いや、かなりの罪悪感を抱きはじめた。
罰ゲームで告白をしなければならないという罪悪感。これって失礼なことじゃないか?
でも、これくらい強引なキッカケがなければいつまでたっても告白できなかったと思う。
人前では強がってみせるけれども、なかなかどうして、「こういうこと」に関しては
俺は世界トップクラスの臆病小心シャイボーイなんだ。
8 名前:33 スパークスパーク 投稿日:2003年06月28日(土)13時44分19秒
「おもしろかったね、最後の。びっくりしたけど」
おっとりしているのに意外とおしゃべり好きな紺野がマイペースで話し続けている。
「ああ……。ごめん」
「何が?」
「うん。勝ったとか負けたとかはどうでもいいんだけどさ、あれ、最後の俺がアホやったやつ、
けっこう危なかったんじゃないか?」
「ああ。だね。めっちゃ危なかったよ。私の頭の上飛んでったもん。ビューンッて。死ぬかと思った」
「マジで? ごめん」
改めて真剣にそう言うと、紺野は笑う。
「いいよ、べつに。ホントに死ぬとか思ってないし」
目じりのさがった紺野の笑顔。
俺が紺野の好きなところの一つ。世界で好きなものの一つ。

ベンチに座る二人の背後、遠くのほうで、仲間たちがはしゃいでいる。
なかなか告白するタイミングが掴めなかった。
こんなことなら、この場に来たときにいきなり言えばよかった。
今日の花火戦争で負ける前からさんざんシミュレーションしてたのに、まったくもって役立ってない。
9 名前:33 スパークスパーク 投稿日:2003年06月28日(土)13時46分04秒
「あー」
しばらく会話が途切れたあと、ぼんやりと間延びした紺野の声がきこえた。
「何?」
「今日って満月だったんだ」
紺野は空を見上げていた。
俺も見上げた。
確かに夜空には満たされているっぽい月が浮かんでいたが、実際に満月かどうかは微妙だ。
でも、紺野が満月だと言うなら、それでいい。

「なあ、紺野」
「ん?」
「俺、おまえのこと好きだわ」

ぬるい風が頬を撫でていく。
俺がずっと触れたいと思っていた紺野の頬を、誰の断りもなしにゆるかに触れて通り過ぎていく。
しばらく、紺野は何も言わなかった。俺も何も言えなかった。
沈黙が重たかった。痛かった。
早くも後悔が、頭の中を全速力でグルグルと大回転していた。
10 名前:33 スパークスパーク 投稿日:2003年06月28日(土)13時46分49秒
不意に紺野は立ち上がる。
「待ってて」
そう言い残し、ベンチをまたいで駆け出した。
「え……?」
一拍遅れて反応した俺は、見かけによらず足が速い紺野の背中を見送る。
公園の中央や山では、ドラゴンが火を噴いたり、ネズミ花火が地を這ったり、
手持ち打ち上げ花火がポシュポシュと火の塊を吐き出したりしていた。
わーわーきゃーきゃー騒がしい声が夜闇の中で存在を主張している。
エネルギーを発散させている。

紺野はすぐに戻ってきた。
その手にコーラの空き瓶とロケット花火をもって。
「おまたせ」
軽く息を弾ませながら、紺野は手にしているものを差し出してきた。
「え? なに?」
「ロケット花火飛ばして」
「は?」
「ロケット花火、月まで飛ばしてくれたら――つきあう」
「は?」
紺野はときどき突拍子もないことを言う。
俺が紺野の好きなところの一つ。
でも、これはちょっと……

「んなこと、できるわけないだろ」
「なんで?」
「なんでって、おまえな。不可能だろ。不可能」
「やってもいないのに、できないとか言うの、私好きじゃないな」
「そんなもん、どうやったってムリだろうがよ」
11 名前:33 スパークスパーク 投稿日:2003年06月28日(土)13時47分39秒
考える。
「なあ、それってさ」
落ちこむ。
「俺とはつきあえないってことか?」
それならそれで、よくはないけど、まあ、いい。
でも、こんなまわりくどいことをされたら、ちょっと傷つく。
ストレートにフラれた場合と、どっちがより傷つくのかはわからない。

「誰もそんなこと言ってないでしょ!」
紺野の怒った声。怒ったような声。初めてきいたかもしれない。
「そりゃそうだけどさ……」
表に出ない言葉の外にも、言葉はあるだろ。
それが相手に伝わる場合もあるし、伝わらない場合もあるけど。
受け手の勘違いかもしれないけど。

考える。
「わかったよ、ちくしょう!」
立ち上がる。
「飛ばしゃあいいんだろ。やってやるよ。できたら絶対つきあえよ」
100%の不可能。可能じゃないから不可能。でも、やらなきゃならない。
そんなシチュエーションの中に置かれることなんて、なかなかあるもんじゃないだろう。
「うん」
紺野は屈託なく笑う。
ちくしょう。カワイイじゃねえか。ムカつくくらい。
12 名前:33 スパークスパーク 投稿日:2003年06月28日(土)13時48分18秒
砂を詰めて高さ調整してある空き瓶にロケット花火を装填して、ライターで点火する。
少しでも高くと、ベンチにのぼり、空き瓶をもった右手を空に向かっていっぱいに伸ばす。
――まあ、ムダなあがきなんだけど。

「5、4、3――」
紺野のカウントダウン。ロケット花火は紺野のGOサインを待つことなくさっさと発射して、
甲高い音を響き渡らせながら月に向かって上昇し、まもなく、パンッとあっけなく飛び散った。
アホか、俺は……

「あーあ、残念」
ベンチの上でがっくりとうなだれながら振り返った俺の目に、人を小バカにしたような
紺野の笑顔が見えた。
簡単な絵にするとこんな感じ。→『川o・∀・)アヒャッ』

「おまえ、俺のこと、おちょくっただろ」
腹はたたなかった。むしろ、笑いそうだった。
もっとも、こんな仕打ちを受けた以上、笑った顔を見せることなんてできない。
「ぜんぜん。本気だったよ」
紺野の言葉に嘘の響きはなかった。確かに紺野は本気だったのかもしれない。
それが可能かどうかはべつにして。
と――
13 名前:33 スパークスパーク 投稿日:2003年06月28日(土)13時48分58秒
「おもろいな」
「おもろいれすね」
特徴のある女の声が二つ。
「おまえら……」
辻希美と加護亜依。
いつのまにか俺たちのすぐそばにいた二人は、線香花火を手にしてしゃがみこみ、
互いに目を合わせず、下を向きながら対面していた。
まるで、「私たちはたまたまここで線香花火をやろうとしていただけで、あんたらの話なんかには
興味がないから、どうぞお構いなく」といった感じだ。ようするに、白々しい。

俺と紺野のあいだに気まずい空気が流れる。
「おまえら、ちょっとあっち行ってくんない?」
ムダとは思いつつも、そう声をかけてみる。
実際ムダで、二人は線香花火に火をつけて、パチパチとはぜる赤い火花を見ながら、
「まあ、キレイ」「ホントですわ」などと言って、まったくその場を動こうとはしない。

俺は紺野に目を向ける。視線が合った。
「戻ろうか」
すっかり全身から力が抜けきった俺の言葉に、紺野はちょっと笑いながら「うん」と肯いた。
14 名前:33 スパークスパーク 投稿日:2003年06月28日(土)13時49分57秒
「ああ、のの! ウチの花火が! ウチの花火が消えてまう!」
「なんと、それは大変なのれす。あ、そんなことを言っているあいだに、ののの花火までもが!」
俺は紺野を促して先に行かせ、アホ二人を置いてみんなのところへ戻ろうとした。
「ウチの魂の火が! 狂おしく激しい恋心がぁ!」
「ああ、消える! 落ちるぅ!」
そして、二人は声をそろえる。
「あーあ、残念」

俺はこれ以上ないという反応で振り返り、二人を指さした。
「おまえら、絶対ほかのやつらに言いふらすなよ!」
まあ、それを止めるのは100%不可能なんだけれども。
15 名前:33 スパークスパーク 投稿日:2003年06月28日(土)13時50分43秒



結局、紺野が俺のことをどう思っているのかはわからないまま
――のような気がする。
それって少し未練がましいかな?
はたして、先に進むべきか、まだとどまってみるべきか、
そんなことを考えながら自転車をとばした15の夏の夜。

俺ってけっこうシアワセなやつなのかもしれない。



                                        (了)
16 名前:33 スパークスパーク 投稿日:2003年06月28日(土)13時51分50秒
17 名前:33 スパークスパーク 投稿日:2003年06月28日(土)13時52分26秒
18 名前:33 スパークスパーク 投稿日:2003年06月28日(土)13時53分03秒

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