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30 こんな花火の使い方

1 名前:30 こんな花火の使い方 投稿日:2003年06月28日(土)01時13分10秒
30 こんな花火の使い方
2 名前:30 こんな花火の使い方 投稿日:2003年06月28日(土)01時13分37秒
「まこっちゃんが初めて私を地元の登山に誘ってくれたのは、
 確か、去年の今ごろだったなあ。」
私は他に考えることがなくなって、
座り込んで遠くの太い木を見ながら思い出した。

「いったいどこに行っちゃったんだろう・・・。」

はじめて来た深い山の中で、私はまこっちゃんとはぐれてしまった。
いや、もっと近い言葉がある。
これは立派な遭難だ。
3 名前:30 こんな花火の使い方 投稿日:2003年06月28日(土)01時13分53秒
「暑い・・・・・・。」
ほっぺに水がつたう。

「こんな荷物邪魔になるだけだよ」と言われた大きな大きなリュックから、
ペットボトルを取り出す。
邪魔どころか、命をつなぐ大事な財産になりそうだ。
中には食料、水その他もろもろ、まあ後2日くらいなら何とかなるだろう。
4 名前:30 こんな花火の使い方 投稿日:2003年06月28日(土)01時14分36秒
もう少し歩いてみよう。
立ち上がったとき、汗が目尻のすぐ下を走る。

「・・・。」
「・・・。」
「険しいなあ・・・。」
やっとの思いで自分の10倍はありそうな岩を越えてみた。

その先は、日の光がほとんどあたらない、暗い世界だった。
5 名前:30 こんな花火の使い方 投稿日:2003年06月28日(土)01時15分26秒
これでもかと言うくらい、頭の上を覆い尽くす葉っぱ。
その隙間から落ちてくる細い光をできるだけ受けるように歩いた。
それでも、10メートル先は見えない。
まこっちゃんどころか人の気配がしない。

「・・・暑いなあ・・・。」
顔じゅうが汗でビショビショだ。
でかいリュックからハンドタオルを取り出そうとする。
・・・。
「あれ、見つからない。」

リュックの中身をどんどん出してみる。
「ん?」
6 名前:30 こんな花火の使い方 投稿日:2003年06月28日(土)01時16分01秒
ハンドタオルよりも先に、空手衣が出てきた。
そうか、山で熊に遭ったときのために持ってきたんだ。
危ない、危ない。
この暗さでは、いつ何が出るか分からない。
熊に遭う前に着替えて、しっかり帯を締めた。

「う〜ん・・・。」
やっぱり気が引き締まる。
思わず巨木に正拳突きを食らわせたくなったが、

今はそれどころじゃないことに気がついて歩き出した。
7 名前:30 こんな花火の使い方 投稿日:2003年06月28日(土)01時16分48秒
道はどんどん暗くなってゆく。
しかも、天気が少し悪くなってきた。
気持ちの悪い風が吹く。

山の天気は変わりやすいんだっけ。

レインコート入ってたかなあ。

私はここで、まこっちゃんを探していたことを思い出した。
ついでに遭難していたことも思い出して、なんだか気が重くなった。

「気が重いなあ・・・。」

と言って、
でも重いのは気分じゃなくて、荷物だということに気付いた。

「大体この中には何が入ってるんだよ!」
8 名前:30 こんな花火の使い方 投稿日:2003年06月28日(土)01時17分17秒
昨日荷造りをしていた自分に怒りをぶつけつつ、中を確認する。
ひょっとしたら、何かいいものが見つかるかもしれない。
かがんだとき、汗が地面にぽたりぽたりと落ちた。

・食料、水二日分
・着替え
・磁石
・万能ナイフ、工具セット、ライター
・寝袋
・「5期メンバー写真集」
・図鑑「食べられる野草」
・「良く分かるサバイバル入門」
・拾ったきのこ(これが実は一番多い)
・そのほか色々
9 名前:30 こんな花火の使い方 投稿日:2003年06月28日(土)01時17分36秒
そして一番底にあったもの。

「そうか二人でやろうと思って昨日買ってきたんだった。」
花火をじっと見つめる。

「・・・。」

「・・・。」

「はっ、そうだ。いいこと考えた。」

えらいぞ昨日の私!目をこすって立ち上がる。
10 名前:30 こんな花火の使い方 投稿日:2003年06月28日(土)01時18分16秒
まこっちゃん気付いてちょうだい!
ヒュ〜ルルルル・・・・・・・・・パン!

お願い気付いて!
ヒュ〜ルルルル・・・・・・・・・パン!

麻琴!!!気付け!!!
ヒュ〜ルルルル・・・・・・・・・パン!

光、もしくは音に気付いて欲しい一心で、どんどん花火を打ち上げた。

煙が目に染みる。

よし、次は・・・これやってみよう。
最初はのろし代わりにあげてたけど、だんだんテンションがあがって楽しくなってきた。



もう誰も私を止められない!!!

11 名前:30 こんな花火の使い方 投稿日:2003年06月28日(土)01時18分54秒
「あっやっぱりあさ美だ!やっと見つけた!ごめんね!ごめんね!」
16連発花火を取り出して火をつけかけた私に、まこっちゃんは思い切り抱きついてきた。
「もう離さないから!だからもう泣かないで!」

泣く???
あわてて、持っていた手鏡で自分の顔を確認。

ほっぺには何本もの川が流れていた。

汗だと思ってたほっぺをつたう水。
それは涙だった。
・・・恥ずかしい・・・。

でも、まこっちゃんは、私の姿のほうが恥ずかしいと言っていた。
12 名前:30 こんな花火の使い方 投稿日:2003年06月28日(土)01時19分19秒
泊まる予定だった、まこっちゃんのおじさんの家は、
空手衣でバンバン花火を打ち上げながらワンワン泣いている私がいた場所の目と鼻の先にあった。

ついでに言えば、その先は結構大きな道があった。
その道を少し進むと大きな岩があって、
そのそばに登山のスタート地点があった。
この格好で保護されるのはちょっと・・・。

いつのまにか空は晴れて、でも、もう暮れかけていた。
涙も乾いた私のほっぺはちょっと熱い。

なんで・・・?
夕焼けのせい?
13 名前:30 こんな花火の使い方 投稿日:2003年06月28日(土)01時20分02秒
家に着いて、まず始まったのは遭難の原因についての討論だった。

「まさか本当においてくなんて思わなかったもん!」
「だっていつまでもきのこばっかり探してるから・・・。」
「だって食べられるかもしれないじゃん!」

そこにおじさんが現れた。
「あさ美ちゃん・・・そのきのこは猛毒だよ。」
沈黙が走った。

「でも、花火がなかったらほんとに分からなかったかもね。」
「やっぱり持ってきて正解だったね。」
「・・・でもなんで空手衣なんか着てたの?」
また沈黙が走る。

カエルの声が遠いところから聞こえた。
14 名前:30 こんな花火の使い方 投稿日:2003年06月28日(土)01時20分32秒
外が黒一色になった頃。
「ねえあさ美ちゃん、花火、まだ残ってるでしょ、やろうよ。」
「うん。」

浴衣の少女二人は庭へ繰り出した。
空は満天の星で、ロマンチックな雰囲気は、
線香花火に灯がともれば最高潮に達しそうだ。

でも、私が持ってきた花火は全部打ち上げ花火とかドラゴンとか。
音と煙がすごくて、もうロマンも何もない。

・・・でも、この花火が私達を再び引き寄せたんだっけ。
15 名前:30 こんな花火の使い方 投稿日:2003年06月28日(土)01時21分14秒
ひたすら走り回ってハアハア言いながら縁側に腰掛けた。
浴衣の帯を少し締めた。
今日二回目だ。

私の手に、まこっちゃんの手が重なった。

煙がだんだん晴れてきて、月と、それを守るような星が見え始めたとき、まこっちゃんが言った。
「あさ美ちゃん。来年はどこに行こうか。」
「う〜ん、山はもう遠慮しておく・・・。」
「じゃあ、来年は海に行こうよ。
 私が毎年行ってた海岸があってさ。
 そこがすごいいい眺めで・・・それから・・・しかも・・・」

16 名前:30 こんな花火の使い方 投稿日:2003年06月28日(土)01時25分24秒
まこっちゃんの声を聞きながら、来年の今ごろを想像してた。

今度海に行くときは、線香花火を忘れないようにしないとね・・・。

もう用済みのはずの燃えカスが、私に一つ警告する。

「火の取り扱いに注意!」

たぶんできない・・・。 
17 名前:30 こんな花火の使い方 投稿日:2003年06月28日(土)01時25分47秒
18 名前:30 こんな花火の使い方 投稿日:2003年06月28日(土)01時25分56秒
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19 名前:30 こんな花火の使い方 投稿日:2003年06月28日(土)01時26分13秒
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