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29 花火大会の夜

1 名前:29 花火大会の夜 投稿日:2003年06月26日(木)22時34分51秒
29 花火大会の夜
2 名前:29 花火大会の夜 投稿日:2003年06月26日(木)22時36分05秒
時間と言うのはなんて無常なものなんだろうか。
どうも杓子定規すぎてよくない。
いや、それどころか苦痛な時は遅く、楽しい時にはあっという間に流れるのだからタチが悪い。

石川さんが花火に見入っているのを確かめてから、
こっそりと携帯で時間を確認した。
別に見られてもいいのだけど、
「もう終わりだね」と言われるのがなんとなくこわかったのだ。

ついさっき時間を見たときよりも3分も進んでいた。
もう残り時間は10分を切っている。
私は焦りが顔に出ないようにつとめ、また花火を見るフリをしながら石川さんの横顔を見つめた。
何か喋ろうとは思うけど、何も言葉が出てこない。

「わぁー・・・。」
ふいに、ドドン、ドドドドン、と連続して花火が上がった。
たぶんラストが近いためだろう。
「綺麗ですね。」
私は彼女に聞こえないことを知りつつ言った。
胸が高鳴っていた。
3 名前:29 花火大会の夜 投稿日:2003年06月26日(木)22時36分48秒
「あ、折り返し地点だね。あと一時間半。」
携帯の背面液晶の時計をまぶしそうに見ながら、石川さんは言った。

「私前から思ってたんですけど、花火って不思議ですね。」
「なんで?」
「だって、すぐに消えちゃうんですよ?それをみんな綺麗だって言ってる。」
「儚いものってえてしてそうなんじゃない? 例えば、うーん・・・。」
「・・・例えば、人の命とか?」
「えっ」

「人の命なんて花火みたいなものだと思いません?」
「どういうこと?」
「結局いつかは必ず死ぬんです。 生きてる間にどれだけ輝けるかってことですよ。」
「そうだねあたしももっと輝かないと。」
「大丈夫、石川さんはもう充分輝いてますよ!」
「ふふっ、ありがとー小川。」

私はいいながら全く正反対のことを考えていた。
――人はいつか闇に消えるのだから、いくら輝いたってしょうがない。
死ぬことを前提に生きる意味などないのだと。
4 名前:29 花火大会の夜 投稿日:2003年06月26日(木)22時37分23秒
「あ、はじまったね。」
石川さんが言うと同時に、心臓を直接打つような音が突き抜けた。
見ると、いくつもの花火がちょうど花束みたいに夜空の真中に咲いている。

私と石川さんは、しばらく黙って花火を見た。

不意に、大きなカナブンが私たちの方へ飛んできた。
二人して身をかがめてよけたが、またカナブンはUターンして来る。
石川さんは、さっきまで手遊びしていた木の枝でそいつを叩いた。
カナブンは少し離れた所に転がり、そこでしばらくあがいて死んだ。
そこでしばらくあがいて死んだ。
「あーびっくりした、でっかい虫!」
「ナイスバッティングでしたね。」
「アハハ、これでも昔はテニスやってたからね。」

死んだと思っていた虫が突然、もがきだして、また黒い空へ飛び立っていった。
5 名前:29 花火大会の夜 投稿日:2003年06月26日(木)22時37分59秒
理由があったわけではなかった。
そもそも理由なんて必要ないのだ。
何故なら、私は私でいつづけることの意味がわからないから。
私は何かきっかけがあれば私を止められるのだ。
そして私は今、きっかけを得た。

せっかくだし、最後くらい思い切り苦しみを味わうのもいいだろう。
そう考えて、致死量より少しだけ多く薬をカプセルに入れた。
薬の主成分は、タバコから抽出したニコチンだ。
最近のカプセルは、投与してからどれくらいの時間で薬が効き始めるのかかなり正確にわかる。
昔喘息で母が常用していた薬のカプセルを、
ちょうど花火大会が終わる頃にそれが効き出すように重ねた。


FIN.
6 名前:29 花火大会の夜 投稿日:2003年06月26日(木)22時38分30秒
7 名前:29 花火大会の夜 投稿日:2003年06月26日(木)22時39分05秒
8 名前:29 花火大会の夜 投稿日:2003年06月26日(木)22時48分05秒
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