インデックス / 過去ログ倉庫
26 確執
- 1 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月25日(水)21時20分20秒
- 確執
- 2 名前:26 確執 投稿日:2003年06月25日(水)21時24分26秒
- 夏の夜空を、数百発の花火が幾何学模様を描いている。
私はディズニーシーのホテルから、ビールを飲みながら眺めていた。
仕事で疲れているのか、同室の亀井は、すでに寝息をたてている。
ハロモニの収録でクタクタなのに、明日はここで特番の収録があった。
あいかわらず事務所は人使いが荒く、娘のメンバーは全員が睡眠不足である。
「花火か―――」
私は連続して丸く広がる花火を見ながら、長いようで、
あっという間だったモー娘時代を振り返ってみる。
思えば5年前、私は今と同じように、宿泊先のホテルから、
夜空を照らす打ち上げ花火を見ていたのだった。
「あたしの時は、つらいだけだったな」
私はあの頃を思いだし、床に座ってベッドに頬杖をつく。
5年前、私は矢口や紗耶香といっしょに娘に入った。
今では年中行事化した追加オーディションであるが、
私が娘に入った頃は、とてもこんな雰囲気ではなかった。
無垢な顔で安眠を貪る亀井を見ると、私は彼女が羨ましくて仕方ない。
私たちは与えられたのではなく、闘って自分の居場所を確保していったのだった。
- 3 名前:26 確執 投稿日:2003年06月25日(水)21時25分13秒
- 「保田圭です。よろしくお願いします」
「矢口真里です。がんばりますので、よろしくお願いします」
「市井紗耶香です。あの―――よろしくお願いします」
私たちは先輩であるオリメンの前に並び、端から頭を下げていった。
そんな私たちを、先輩である彼女たちは冷たい目で見ている。
私はそんな雰囲気を一掃しようと、リーダーである裕ちゃんに話しかけた。
「中澤さん、未熟者ですが―――」
「うちは認めんで! モーニング娘。は5人や! 」
ショックだった。あの矢口が、何も言えずに茫然としている。
裕ちゃんが席を蹴って出て行くと、あやっぺが私たちを睨みつけて続く。
私たちが泣きそうになっていると、なっちと明日香が圭織を連れていった。
「何で? 」
あの矢口が泣いていた。あの気が強くて泣き言を言わない矢口が。
私は拳を握りしめ、怒りや悲しみと闘っていた。
- 4 名前:26 確執 投稿日:2003年06月25日(水)21時25分53秒
- 「冗談やないで! 何でうちらが、あいつらと同じタクシーに乗るんや! 」
裕ちゃんは私たちを、とにかく徹底的に嫌っていた。
見かねたマネージャーが、私たちだけに違う配車をする。
裕ちゃんは私たちを嫌うだけだったが、あやっぺは露骨に虐めてきた。
「保田、いつになったら辞めてくれるの? 」
「チビなんかいらねえんだよ! 」
「歌えない? 踊れない? 早く辞めろっての! 」
涙ぐむ紗耶香を励ますと、あやっぺは私にからんでくる。
比較的おとなしいなっちや明日香は、完全に無視を決めこんでいた。
私たち3人は、右も左も分からない新人なのである。
オリメンと区別されるのはしかたないが、差別だけはされたくない。
そんな私たちを、圭織は何か言いたそうな顔で見ていた。
- 5 名前:26 確執 投稿日:2003年06月25日(水)21時26分31秒
- 私たちが入ってすぐ、沖縄で撮影が行われた。
私は紗耶香と同室だったが、夜になると圭織がやってくる。
圭織だけは、いまだに何を考えているか分からないときがあった。
「あのさー、違ってたらごめんね。もしかしたら―――」
「も―――もしかしたら? 」
私と紗耶香は固唾を飲みながら、圭織の次の言葉を待った。
長身の圭織がベッドに座っていると、それだけで威圧感がある。
何しろ私より、10センチ以上も背が高いのだ。
「あんたたち、虐められてない? 」
「はっ? 」
わざわざ確認するまでもないだろう。
私たちは確実に虐められていたのである。
その証拠に、紗耶香は胃に穴が開きかかっていた。
- 6 名前:26 確執 投稿日:2003年06月25日(水)21時27分15秒
- 「やっぱりそう? そうじゃないかなーって思ってたんだ」
単なるボケをかましているのか、それとも私を挑発しているのか。
圭織を理解しようとするなら、半端な決意では不可能だろう。
これだけ果てしなく天然であるなら、むしろ幸せであると言えた。
私も決して敏感なほうではないが、圭織よりはまともだと思っていた。
「困ったことがあったら、圭織に相談してもいいよ」
圭織は素直な気持ちで言ったのだろうが、
私には彼女が信用できなかったのである。
他の全員が排他的になっているというのに、
圭織だけが味方になるとは、どうしても思えなかった。
「困ったこと? ありすぎて、何から言えばいいか分かんない! 」
これが裕ちゃんやあやっぺだったら、私も興奮していなかっただろう。
ところが、圭織は娘では先輩でも、私より1歳年下なのである。
こうした甘えが、ついつい口に出てしまったのだった。
- 7 名前:26 確執 投稿日:2003年06月25日(水)21時28分19秒
- 「もっと早く言ってくれればよかったのに」
圭織は困ったような顔で、私と紗耶香を見た。
こういった圭織のとぼけた顔は、私の神経を逆なでしてゆく。
竹を割ったようにストレートな圭織であるから、
きっと私たちを本気で心配してくれているのだろう。
しかし、私は圭織の好意を踏みにじってしまった。
「いいかげんにしてよ! なんで虐めるのよ! 冗談じゃないわよ! 」
「やめて! 圭ちゃん、やめて! ―――お願い」
紗耶香は泣きながら私に抱きついてきた。
なんとかして私を阻止しようとしている。
私の怒鳴り声に、驚いた矢口が部屋に飛びこんできた。
圭織はワケが分からず、鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしている。
「なんの騒ぎや」
裕ちゃんとあやっぺがやってきて、迷惑そうに私を睨みつけた。
私は自分でも驚くほど興奮しており、圭織にむかって、
これまで鬱積していたものをぶちまけたのである。
矢口までが、泣きながら私を止めようとしていた。
- 8 名前:26 確執 投稿日:2003年06月25日(水)21時29分11秒
- 「なんで圭織が怒られなきゃいけないの? 」
そうだった。圭織は私たちが心配だっただけなのである。
私はそんな圭織に、やつあたりしていたのだった。
「なんで虐めるのよ! 何か悪いことでもした? どうなのよ! 」
私の顔が怖かったらしく、恐る恐るやってきたなっちは、
いっしょにきた明日香に抱きついて震えていた。
私は引くべきだとは思ったが、もう引ける状態ではない。
「ムカツクね! 」
圭織は立ち上がると同時に、ストレートをくりだした。
全く射程外からの攻撃だったので、私は虚をつかれてしまう。
圭織は手足が長いので、射程外と思っても射程内だった。
「ふげっ! 」
衝撃に頭がクラッとして、私は後ろに倒れた。
そして、私の頭があった位置には鼻血が見える。
ベッドに倒れこんで、はじめて殴られたと実感した。
- 9 名前:26 確執 投稿日:2003年06月25日(水)21時30分05秒
- 「圭ちゃん! 」
矢口と紗耶香は、泣きながら私の手当てをした。
圭織は強い。背が高いだけでなく、腕力もある。
ここまで圭織を怒らせてしまったのは、私のせいだった。
味方だった圭織に、私は鬱積していたものをぶつけてしまった。
謝ろう。とにかく謝ろう。仮にも圭織は先輩なのだ。
「ケンカの原因は何やの? 」
「中澤さんです! 」
泣きながら裕ちゃんを睨んだのは、意外にも矢口だった。
裕ちゃんは驚いた顔をしていたが、じきに鬼のような顔になってゆく。
いくら気が強い矢口でも、裕ちゃんが本気で怒れば相手にならない。
私は矢口を守ろうとしたのだが、体が動かなかった。
「もういいよ! 裕ちゃん、もういいでしょう? 」
なっちは泣きながら裕ちゃんの手を引いた。
この頃のなっちは全身痩躯で、矢口よりも体重が軽かった。
今もそうだが、なっちはとにかくかわいい。
- 10 名前:26 確執 投稿日:2003年06月27日(金)00時38分54秒
- 「裕ちゃん、8人になっちゃったんだよ。もういいじゃん」
明日香は頑なな裕ちゃんに首を振った。
すると、あやっぺが壁を蹴飛ばして出ていった。
以来、あやっぺに虐められることがなくなる。
私たちを毛嫌いしていても、心のどこかで認めていたのだろう。
「―――そやな。あんたらには何の罪もないんや」
裕ちゃんはため息をつきながら、ベッドに座って足を組む。
オリメンのみんなにも分かっていたはずだ。
私たちはモーニング娘。のファンだったのである。
中澤裕子、石黒彩、飯田圭織、安倍なつみ、福田明日香。
この5人に憧れて、オーディションを受けたのだった。
「ごめんね。痛かった? 」
私としたことが、先に圭織に謝らせてしまった。
「とんでもない」と首を振ると、また鼻血が出てきた。
- 11 名前:26 確執 投稿日:2003年06月27日(金)00時39分34秒
- 「虐めてたわけちゃうんや。―――悔しくてな」
裕ちゃんは泣き声になっていた。オリメンにしてみれば、
なんの苦労もしないで入ってきた私たちを許せなかったのだろう。
たしかにモーニング娘。は、オリメンの偉業があったからこそ今がある。
私たちにできるのは、その偉業を尊敬しつつ、とにかくがんばることだ。
「生意気で、すみませんでした」
泣き止んだ矢口は、とてもかわいかった。
そんな矢口を見た裕ちゃんは、優しそうに微笑む。
以来、矢口は裕ちゃんのペットになってしまう。
「あっ、花火だべさ! 」
なっちが言うので外を見ると、遠くで打ち上げ花火が上がっている。
気をきかせた矢口が窓を開けると、きれいな花火を見ることができた。
私たちは窓に群がって、沖縄の夜空を染める花火に見とれていた。
- 12 名前:26 確執 投稿日:2003年06月27日(金)00時40分08秒
- 「保田、あんたらはまだ、きれいな花火にはなれん。
けど、花火はあの高さまで上がらんと、誰の目にも触れんのや。
ええか? とりあえず次の曲は、うちらの発射薬できばりや」
鈍い私でも裕ちゃんの話はよく分かった。
私たちの仕事は、オリメンをバックアップすることだ。
仕事をまかされた以上、私は死に物狂いでがんばる。
ソロをとるのは、まだまだ先のことだと思っていた。
「いて! 」
矢口の頭に、ピーナッツが命中した。
ピーナッツは矢口のくせ毛にからまり、
バウンドすることはなかった。
どうやら、誰かが上から落としたらしい。
- 13 名前:26 確執 投稿日:2003年06月27日(金)00時41分02秒
- 「おーい、そこの7人。屋上のほうがよく見えるよ」
私たちが声のした真上を見上げると、
あやっぺが屋上でビール片手に、花火見物をしていた。
なっちが駆け出すと、明日香と矢口が続く。
「保田と市井は飲み物を買うてきや。うちはビールやで」
裕ちゃんはサイフから二千円を出した。
ホテルの屋上で見る花火は格別だった。
忘れもしない。その日の花火は特別だった。
なにしろ、モーニング娘。のファンだった私たち3人が、
ほんとうのメンバーになれた日の花火なのだから。
- 14 名前:26 確執 投稿日:2003年06月27日(金)00時42分00秒
- 私は寝息をたてる亀井の頭を撫でると部屋を出た。
あの頃の娘とは、雰囲気もかなり違っている。
誰も虐める人はいないし、受け入れ体制も整っていた。
それでいい。胃を痛めるほど苦労する暇があれば、
歌のレッスンをしたほうがいいに決まっている。
そんなことを考えながら私が階段をのぼっていくと、
いきなり後ろから矢口の声がした。
「け―――圭ちゃん! そっちは屋上だよ! 」
私が振りかえって微笑むと、矢口は泣きそうな顔で抱きついてくる。
今や娘では3番目に古いメンバーになった矢口。でも、どうしたのだろう。
「死ぬことはないじゃん! なんで相談してくれなかったの! 」
「―――ハァ? 」
どうやら、矢口は私が屋上から飛び降りると思ったらしい。
たしかに卒業後のことは不安だが、死のうなどとは思ったことがない。
私は矢口の勘違いに、なんだか腹がたってきた。
- 15 名前:26 確執 投稿日:2003年06月27日(金)00時42分54秒
- 「だれが自殺するんだ! このヴォケ! 」
私は矢口をつきとばし、自室に戻って寝ることにした。
ヘタに屋上で花火を見物しようものなら、明日の東スポあたりに、
『保田圭、自殺未遂! 』と出てしまうかもしれない。
「ったく! ―――あれ? 」
しまった! ここのドアはオートロックだった。
私は鍵を持たないで出てきてしまったのである。
これは困った。はたして亀井は起きてくれるだろうか。
「か―――亀井ちゃん。絵里ちゃん。起きて。お・き・て」
しかし、亀井が起きる気配は、全くなかったのであった。
締め出しをくった私は、朝までロビーですごすのか?
「ウワァァァァァァーン! 」
<終>
- 16 名前:26 確執 投稿日:2003年06月27日(金)00時43分47秒
- ゴ
- 17 名前:26 確執 投稿日:2003年06月27日(金)00時44分29秒
- メ
- 18 名前:26 確執 投稿日:2003年06月27日(金)00時45分08秒
- ソ
Converted by dat2html.pl 1.0