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20 A Happy New Year
- 1 名前:20 A Happy New Year 投稿日:2003年06月24日(火)20時38分30秒
- A Happy New Year
- 2 名前:20 A Happy New Year 投稿日:2003年06月24日(火)20時39分48秒
- 「お疲れさまでした。」
楽屋は不思議な明るさに満ちていた。2002年も残すところ数時間で終わろうとしていた。
2002年12月31日。渋谷、NHKホール。紅白歌合戦の控え室。
「じゃあ、うちらお姉さま組は、まだ出演予定が残っているから、石川はみんなをまとめて先に行っててよ。」
飯田さんが鏡を覗いて化粧落ちをチェックしながら、石川さんに指示を送ります。
「任せておいて下さいよ〜」
石川さん。妙にハイテンションです。
うちら五期メンにとっては2度目の紅白だけど、去年は正直言って何が何だか分からない内に終わってしまったというのが正直なところです。でも、今年は少しは芸能界にも慣れて周りが見えるようになったし、やらせて貰える事も増えたし、娘。本体での歌の他に、童謡を歌ったり、美貴ちゃんのバックダンサーを勤めたりして結構画面に映る時間も多かったから、自分的には満足いく結果が残せたかなと思います。
明日もまた生放送があって、しかも何故か五期メンは駅伝を走らなければならない。でも、この年末年始の放送ラッシュが過ぎれば少し長めのオフが貰えるから、そうしたら新潟に帰ろう。そう思うと私の中で元気が湧いてきました。
- 3 名前:20 A Happy New Year 投稿日:2003年06月24日(火)20時43分55秒
- 「ねえ、あさ美ちゃん。今日は都内のホテルで泊まって明日の放送に備えるんだよね。」
「うん。一応そういう事になってるけどね・・・」
何故か、あさ美ちゃんは一寸奥歯に物が挟まったような言い方をした。あさ美ちゃんは東京にお母さんが来ているから、自宅に帰りたいのかな。
「は〜い。みんなバスに乗って。ホテルに移動するよ。」石川さんの声。
マイクロバスは都内某所にあるホテルの地下玄関に横付けとなり、メンバーが次々に人目に付かないように降りてきた。既にバスの中で部屋のルームキーが渡されて部屋割りが決まっていた。
今日は、小川高橋コンビが同室だ。
マネージャから、明日の予定の確認と今日は早く寝なさいというような注意があって解散となった。
「愛ちゃんとだね。」
わたしはちょっと先を歩いている愛ちゃんに声をかけた。
愛ちゃんは振り向きざまに
「あのな、麻琴。」
と声を潜めて耳元で囁いた。
「荷物を置いたら、石川さんの部屋に集合やって。」
「ふーん。宴会でもするのかな。」
「まあ、そんなとこやろか。」
- 4 名前:20 A Happy New Year 投稿日:2003年06月24日(火)20時46分52秒
- 部屋に荷物を置いて、楽なスウェット上下に着替えて石川さんの部屋に行くことにした。愛ちゃんと一緒に石川さんの部屋のチャイムを鳴らした。扉が開いて加護さんが顔を出す。
「ああ、まこっちゃん。遅いよ。」
私達以外はみんな集合していた。そんなに広くない部屋は8人も人が入ると満杯で息苦しい程だ。しかも、部屋の中央に妙な機械が置かれていた。
「何ですかぁ。これ?」
わたしは思わず質問する。高さ1m70cmくらいだろうか。しかし、この形はどこかで見た記憶がある。
「どこでもドアー!!!」
吉澤さんがドラエモンの声真似をして叫ぶ。
「どこでもドア?ですか〜。」
にわかには信じがたい。いきなり漫画かSFの世界?
「いや。真面目な話だから。」
石川さんが補足する。
「ホンダを知ってるよね。」
ホンダを知らない日本人はまずいないだろう。
「ホンダは自動車だけじゃなくて、次世代の移動装置の開発研究もしているの。その一環として空間に電磁場をかける事で曲げて、離れた場所と場所をあたかも連続した空間としてつなげる事に成功したのね。つまり、どこでもドアって訳。」
- 5 名前:20 A Happy New Year 投稿日:2003年06月24日(火)20時49分21秒
- よくよく見てみれば、確かに見慣れたHONDAのロゴマークが書いてある。
「でも、いきなりこれが世の中に出るとホンダの車やらバイクが売れなくなるから今は極秘だけど、CMをやっている関係でうちらだけにコッソリと貸してくれたのね。これはマネージャにも秘密。」
「はあ・・・」
言葉も無いっす。
「で、どこに行くんですか?」
「新垣ちゃんの別荘だよ。」
これは辻さん。
「どこでもドアを借りるときにも新垣ちゃんが活躍したんだよね。」
「いえいえ、パパにちょっとお願いしただけですから、大した事じゃあ無いです。」
里沙ちゃんが軽く手を振って笑った。
うーん。世界のシステムすら変えかねない凄い企業秘密をあっさりホンダが貸す訳もなく、今更ながらお豆ちゃんのバックについているブラックパワー恐るべしだな。
「じゃあ、行こうか。みんな用意はいい?」
「はーい。」
気付いて見れば、辻さん加護さんはコンビニの袋にお菓子を一杯詰め込んで両手に提げている。あれ、あさ美ちゃんもお餅の真空パックを持っているよ。
「新垣ちゃんの別荘。」
石川さんが、そう言い扉を開けると、もうそこは新垣家の別荘だった。
- 6 名前:20 A Happy New Year 投稿日:2003年06月24日(火)20時53分44秒
- 「すごいですね。叫ぶだけで目的地に着くんですか?」
わたしは心から感心していた。
「んな訳ないじゃん。」
石川さんがすぐさま否定した。何なんですか一体・・・。
「気分を出すために言ってみたの。予め、新垣ちゃんの別荘には出口のドアを置いておいたのね。この機械はあくまで入り口と出口の二点間を結ぶだけだよ。」
(しょんな・・・。あっさりだまされた。)
お豆ちゃんの別荘は、信州の避暑地の湖の畔に建っていた。窓の外は一面の雪景色だ。遠くの山にスキー場のナイター照明の3色のカクテルライトが雪に映えていた。
「うわぁー、雰囲気あるのぉー」
愛ちゃんが訛り丸出しで叫ぶ。部屋はすでに暖房(本物の暖炉!!)が入っていて、薄着にも関わらず少し暑い位だ。30畳はあるだろうか、毛足の長い絨毯が敷いてある部屋にはふかふかのソファーとテーブルが置いてある。みんな三々五々ソファーや絨毯に直に腰を下ろしてくつろいだ。
「お餅焼きますね。」
あさ美ちゃんが台所に立つ。辻さんが手伝うよと言って後についていった。しばらくして、二人はお餅やお菓子やフルーツやらを皿に盛って、飲み物のコップと一緒に持ってきた。
- 7 名前:20 A Happy New Year 投稿日:2003年06月24日(火)20時56分51秒
- 「はい、じゃあ乾杯。」
石川さんの音頭で乾杯。テレビをつけると、飯田さん達がまだ紅白でゲームコーナーみたいな所に出演していて、ついさっきまで同じ舞台に立っていたのが不思議な感じだった。みんなとおしゃべりしたり、UNOやトランプをやっていると、なんだか本当の家族みたいに思えてきた。
本当の家族みたいなメンバーに囲まれて幸せな気分。
2002年の後半は自分自身いろいろと自信を無くす事が多かった。同期のメンバーがミュージカルや本体の歌やユニットでプッシュされて前に出てくるのを見たり、それに引き替え、わたしはバラエティーや歌番組に出ても、受ける事や面白い事を言わなくちゃという気持ちだけが先走って、かえって逆効果で変なことを言ったり、発言がカットされたりする事が続いていた。
念願のプッチ入りが決まったけど、タンポポやミニモニが歌や映画で始動しているのに、何故かプッチは放置状態というのも気に懸かった。早く始動したい。わたしの歌声をなるべく長く乗せたい。わたしの歌声をみんなに届けたい。そういう焦りもあった。
- 8 名前:20 A Happy New Year 投稿日:2003年06月24日(火)20時58分29秒
- そんな葛藤が顔にも出て、小川はテレビで加護さんを睨んでいたとか、いつも油断した顔をしているとか、不細工顔はやめれとかネット上に書かれたりもした。
そういうファンの反応を目にする度に、また落ち込んだりもした。
泥沼状態。
「おっ。もうこんな時間じゃん。」
吉澤さんの声で時計を見ると紅白もそろそろ終わりかけの時間である。今年も残すところ、あと僅か。
「11時50分になったら、初詣行くぞ。みんな支度しろ。一度ホテル戻って外に出れる服を持ってきた方がいいぞ。」
再び、どこでもドアを使ってホテルに帰り、ダッフルコートとブーツを持ってきた。全く便利な世の中だよ。
外は顔がパリパリと凍るほどの寒さだった。あさ美ちゃんは何でも無いような顔をしているけど、新潟育ちのわたしには、すごく寒い。まつげも凍りそう。
ちょっと猫背になってポケットに両手を突っ込んで歩いた。湖に面した道路は、まるで油を引いたように漆黒の闇に包まれている。ぽつんぽつんと点る街灯が除雪され残った道の端の雪を照らしている。通る車も少ない。
今日は終夜営業するのだろうか、遠くのスキー場の明かりが硬質ガラスの様な周囲の空気の中で怜悧な光を放つ。
- 9 名前:20 A Happy New Year 投稿日:2003年06月24日(火)21時00分38秒
- ふいに、遠くに来ちゃったなと言う孤独感にも似た気分が沸き上がってきた。
メンバーが周りにいるから、寂しくなんかは無い筈だけど、新潟にいた頃の自分から距離的にも感覚的にも遠い場所に来た、という感情を抑えることが出来なかった。
と、その時だった。耳をつんざくが如き、鋭いヒューという音。
そして、いきなり目の前が明るくなった。
最初、何が起きたか把握できなかった。
パーンという破裂音が乾いた空気に響き渡る。
その音は山彦となっていつまでも微かに耳に残った。
花火だ。
2003年の年明けを言祝いで花火が打ち上げられたのだ。
どこかで除夜の鐘が鳴るのが遠くに聞こえてきた。
続いていくつもの花火が打ち上げられた。湖畔のどこかで打ち上げられているのだろう。湖の湖面に花火が照り映え、墨を流したような夜空に、叩けばキンッという金属音がしそうに冷えて澄み渡った空に火花が散る。
冬の花火。
夏の花火に比べると質素で小さい花火だった。
それでも黒いビロード地に赤や青や黄色の花が咲く。
わたしは思わず立ち止まったままで上を見上げて、口をポカーンと開けて花火に見入っていた。オリオン座が天球の彼方に淡い光を放っている。
- 10 名前:20 A Happy New Year 投稿日:2003年06月24日(火)21時05分38秒
- どの位の時間がたったのだろう。「小川。」という声とポンッと腰を叩かれた衝撃で我に返った。
保田さんだった。見ると、お姉さまメンバーが勢揃いしていた。紅白を終えて急いでこっちに来たんだろう。
「小川。口開けてよだれが垂れてたぞ。」
飯田さんが私をからかう。
「えええっ、そんな事ないですよ〜」
慌てて否定する。恥ずかしい所を見られちゃったな。
「一人で花火見てたの?行くよ。場所は携帯で教えて貰ったから、多分分かるはず。」
保田さんが先導して、また歩き始めた。
いつの間にか保田さんと肩を並べて歩いていた。他のメンバーとは少し距離が出来ていた。
「小川。」
「はい?」
「まあさ、こんな時でもないと話せないし、改めて言うのも照れくさいけど、ゆっくり自分のペースでやっていけばいいから。」
「・・・・」
「わたしも、オリメンの中にいきなり『今日から芸能人です。』って言われて入って、オリメンのオーラみたいな物に押しつぶされそうになったり、あせって空回りしたりしたよ。ここまで来るのに時間もかかったし、ずいぶん遠回りもした。」
- 11 名前:20 A Happy New Year 投稿日:2003年06月24日(火)21時07分38秒
- 「小川には、わたしと同じ匂いを感じるだよね。プッチに私と交代で入ったこともそうだし、なんだか他人みたいに感じないんだ。」
「五期は完成された娘。の中に入って、色々言われたし、一時期に比べて売り上げも落ちたりしたから戦犯扱いされたりしたけど、気にすることないから。あんたらの責任じゃないよ。二期メンも、オリメンの5万枚手売りを達成してメジャーデビューに漕ぎ着けた所で横入りしたとか、ずいぶん言われたよ。でもね、いちいち気にすることないよ。みんな時間が解決してくれるから。」
わたしは保田さんの声に頷くだけしか出来なかった。
そうか。二期と五期って何か似てるよね。
「あ〜あ。もうあと5ヶ月で卒業か。心では納得しているし、ソロ活動にも期待感があるけど、やっぱり現実感が薄いよ。このまま永遠に年を取ることなく娘。でいられたらな。」
「でも、わかってる。わたし、自分に華が無いことは。なっちや石川みたいな華が無いことはさ。」
保田さんがくるっと一回転する。
- 12 名前:20 A Happy New Year 投稿日:2003年06月24日(火)21時11分58秒
- 冬の花火。
唐突にそんな言葉が頭に浮かんだ。
冬の花火は夏の花火に比べれば季節外れだし、あまり注目されないかも知れない。でも、冬の夜空に咲く花は孤高の輝きがあるような気がする。
注目されなくても、季節に合わなくても、花火は花火だ。
潔し。
保田さんは冬の花火だ。と思った。
人間の世界には夏の花火の役割を生まれた時から与えられた人もいるだろう。
それと同じように、冬の花火の役割を持って生まれた人もいる。
注目されたいとか、人に気に入られる綺麗な気の利いた事を無理に言おうとしても、それは違うのかも知れない。もちろん、自分を高めていくことは必要だ。とは言うものの無理に背伸びしても、それも不自然なことだ。
自分らしさ。自分の成長スピードに合った成長。自分のペース。
明るい気分が満ちてくる。
他人を羨むな。
新しい年がやってきた。自分にとってこの年はどんな年になるんだろうか。
ゆっくりとやっていければいいかな。
- 13 名前:20 A Happy New Year 投稿日:2003年06月24日(火)21時14分41秒
- そうこうしている内に、目的の神社に着いた。小さいけど付近の住民の皆さんが結構集まっていて、いくつか夜店も出ている。幸い、こんな所にモーニング娘。がいるなんて思っても無いみたいで、大きな混乱は起きない。食いしん坊組はさっそく綿飴とたこ焼きを仕入れてハグハグしている。わたしも焼きトウモロコシを買ってみた。去年(もう去年なのだ。)の夏に北海道で食べたトウモロコシの味が記憶に残っていた所為かも知れない。
夜店のチープなしょうゆ味の効いた焼きトウモロコシは北海道の物とは比べ物のはならないけれど、甘い美味しさが口の中に広がってくる。
「ねえ、まこっちゃん。おみくじあるよ。」
加護さんの声で、おみくじを引いてみた。100円を入れるとおみくじが出てくる有り難いのか有り難くないのか、よく分からないおみくじ自動販売機だった。
「うえぇー。凶が出たよ。」
辻さんの声。
「あ、そういう場合は木の枝に結んで厄を祓ってから、もう一度引くといいですよ。」
あさ美ちゃんがアドバイスしている。辻さんはそうすることにしたみたいだ。
- 14 名前:20 A Happy New Year 投稿日:2003年06月24日(火)21時17分15秒
- わたしのは大吉だった。
『あせらず待て。北の国からひょこり良い知らせあり。乙女、ひょうたん、お塩に縁がある。雨は止んだ。止まっていた事も再び動き始めるだろう。報道関係の職を選ぶと吉。江戸時代のことを学ぶきっかけがある。腰に災いあり注意せよ。』と書いてあった。
腰の災いとか、お塩とか、ひょうたんとか意味不明で、今の時点では何を意味するか全く分からないけど、何かいいことがありそうな仄かな光を感じた。
今は未だ小さく弱い太陽だとしても。
誰も見ていない冬の花火だとしても。
「じゃあ、みんな一つずつ願い事をしよう。」
飯田さんの号令で、みんな神妙に神殿の前で手を合わせた。
わたしは、お賽銭箱に思い切って夏目漱石さんを1枚投入して柏手を打った。
今年もいっぱい楽しいことが有りますように。
今年こそブレーク出来ますように。
まぶたの奥には、さっき見た花火が今でも明滅している。
A Happy New Year to Everyone.
- 15 名前:20 A Happy New Year 投稿日:2003年06月24日(火)21時18分02秒
- ま
- 16 名前:20 A Happy New Year 投稿日:2003年06月24日(火)21時18分41秒
- こ
- 17 名前:20 A Happy New Year 投稿日:2003年06月24日(火)21時19分12秒
- と
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