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14 エンドレスサマーストーリー
- 1 名前:14 エンドレスサマーストーリー 投稿日:2003年06月24日(火)00時19分24秒
- 14 エンドレスサマーストーリー
- 2 名前:14 エンドレスサマーストーリー 投稿日:2003年06月24日(火)00時20分29秒
「綺麗やなあ」
無言で頷く隣の顔に目をやる。
夜の闇の中、花火に照らされるその顔は、初めて出会った時と全く変わっていなかった。
そっか、もう3年になるんやなあ
3年間、1番多く見たであろうその顔を改めて眺め、亜依は彼女と初めての夏を思い出した。
- 3 名前:14 エンドレスサマーストーリー 投稿日:2003年06月24日(火)00時22分05秒
- ◇
「綺麗〜」
二人の声が一段と大きくなった。
二人の手に持った小さな棒から無数の色をした光が噴出していた。
真っ暗な公園の隅。
どちらが先に言い出したわけでもなく、いつのまにかコンビニで買ってきた小さな花火に二人は夢中になっていた。
金や銀の装飾がなされたそれは、その煌びやかさとは裏腹に、打ち上げ花火やねずみ花火の一つも無い、ただの手で持つだけの花火ばかりだった。
それでも二人とも、眼前での光に心を奪われ、まるで自分が魔法使いのような錯覚を覚えていた。
だが、それも長くは続かない。
光がやがて小さくなり、再び闇が辺りを包んだ。
- 4 名前:14 エンドレスサマーストーリー 投稿日:2003年06月24日(火)00時22分37秒
- 「あーあ、終わっちゃった」
手に残った棒をバケツに突っ込み、亜依は次の花火を取ろうと足元にあった袋を手にした。
ライターの光を頼りに、ガサガサと音をたて、亜依は持ち手にパンダの絵のついた花火を手にした。
それが他の花火とどう違うかと聞かれたら、全く同じものに違いない。
少々不細工だけど愛らしいパンダの絵の上に、「どうぶつはなび」と何かを主張するように書いているが、
動物の形の光が出るわけも無く、持ち手から伸びている細い棒から同じ光が出るだけのもの。
でも、亜依はたった一本しかないそれがすごく魅力的だった。
- 5 名前:14 エンドレスサマーストーリー 投稿日:2003年06月24日(火)00時23分16秒
- それを一度じっと見て、亜依は再び袋に戻した。
別に深い意味は無い。
丁度、希美のも終わったところだったから、二人で同じ花火をしようと思っただけ。
袋から顔を出している少し太めの花火を2本取り出し、1本を希美に渡した。
「せーの」
その声合図に二人で同時にそれぞれのライターで火をつけた。
シューという音と共に光が飛び出した。
ホースから水が出てくるような大量の光。
亜依はそれを上下左右に動かしたり、円を描いたりして遊び始めた。
希美もそれに習って声を上げながらめちゃめちゃに振り回した。
「アチッ」
その声が聞こえたのはすぐ後だった。
花火が地面を照らし、バケツに向かって光を出していた。
その向こうで、希美は右手を押さえていた。
- 6 名前:14 エンドレスサマーストーリー 投稿日:2003年06月24日(火)00時24分05秒
- 「のの、どうしたん?」
尚も光を発している花火を避けるようにして、亜依は希美の元へ駆け寄った。
その途中でまだ光を放つ自分の花火はバケツにつっこんだ。
希美が押さえている左手を亜依はゆっくりと離した。
赤い小さな点が右手の甲に3つあった。
「火傷やな。あんなに無茶に振り回すからや」
大したことなさそうで、亜依は胸をなでおろした。
「だって、あいぼんもやってたんだもん」
「うちはちゃんとその辺のことを計算してるからええんや」
冗談交じりに言い、二人でクスクス笑う。
もう希美の花火から光は消えていた。
亜依はそれを拾ってバケツにつっこんだ。
ジュッという音が聞こえた。
- 7 名前:14 エンドレスサマーストーリー 投稿日:2003年06月24日(火)00時24分37秒
- ◇
「あのさ、実は花火ってやったことなかったんだよね」
火薬の臭いの混じる空気をかき分け、不意に闇の中から声が聞こえた。
笑い混じりだが、どこか寂しそうな声。
「そっか……」
どう答えていいかわからず、亜依はそれだけ言った。
右手に握ったライターから小さな光が灯された。
袋の中からごそごそと、その明かりを頼りに亜依はパンダの花火を手にした。
向きを確認し、ライターに近づける。
シュッと音がして、光が辺りを明るく照らし始めた。
「はい」
亜依は希美に差し出す。
希美の戸惑った顔が光に照らされる。
- 8 名前:14 エンドレスサマーストーリー 投稿日:2003年06月24日(火)00時25分18秒
- 「はい」
持ち手の方を希美に向ける。
火が自分の方に少々かかってきたが、亜依はかまわず希美の方に向け続けた。
希美は恐る恐るそれに手を伸ばした。
「一つしか無いやつやから……」
「え?何?」
「なんでもない」
亜依はそう言って、再び別の花火を探し始めた。
光に照らされた希美の少し申し訳なさそうな顔を横目で盗み見、ちょっと失敗だったかなとも思った。
花火が初めてという希美に喜んで欲しかった。
でも、それが逆に希美に気を使わせている。
自分の考えの甘さに腹が立った。
- 9 名前:14 エンドレスサマーストーリー 投稿日:2003年06月24日(火)00時26分05秒
- ◇
「うちってさ、東京じゃん……」
パンダの花火から光が消えていくとき、希美がポツリと話し始めた。
亜依は黙って自分の手に持っている花火から視線を動かさなかった。
「花火やるのってさ、マンションの公園とかなんだよね。
うちのマンションでも夏になると、みんなやってたんだ」
手の中の花火がチカチカと小さな光を発している。
「でもさ、私って友達……いなかったんだ……」
希美のいきなりの言葉に、亜依は顔を希美の方に向けた。
しまったと思ったのはその後すぐ。
自分の花火で照らされる希美の顔を見たときだった。
慌てて視線を花火に戻す。
そのことが余計に希美に対して失礼なことだということを考えるだけの余裕は亜依には無かった。
だが、希美はそんなことを気にも留めないかのように、話を続けた。
- 10 名前:14 エンドレスサマーストーリー 投稿日:2003年06月24日(火)00時26分49秒
- 「親がさ、何度か買ってきたんだよ、花火。希美、花火やろうって言ってさ。
でもね、マンションの公園でやってたら、同じマンションのクラスメイトから見られるんだよね……
ののが一人で親と花火やってるって、みんなにわかるんだ……
そんなの嫌だった。恥ずかしかった。
だからさ、だから親にも花火は嫌いとかいってた」
手に持っていた花火はいつの間にか消え、辺りは真っ暗闇に包まれていた。
亜依はかける言葉が見つからなかった。
ののはどうしてこんなことを私に話すんだろう?
そして、私は何を言えばいいんだろう?
疑問がいくつもグルグルまわって、亜依は身動きが取れなかった。
答えの見えない真っ暗闇で、亜依は立ち尽くしていた。
- 11 名前:14 エンドレスサマーストーリー 投稿日:2003年06月24日(火)00時27分20秒
- 「だから……うれしかった。
あいぼんが花火やろっていってくれたのが。
ののにも、花火を一緒にできる友達ができたんだって」
「当たり前やがな……うちらは親友やろ……」
希美のいきなりの言葉に、亜依は照れ隠しにぶっきらぼうにそう言ってから、再び新しい花火を2本手探りでつかんだ。
それは最後の2本だった。
「ほな、毎年花火やろ、2人で絶対な……」
1本ずつ持った花火に二人で同時に火をつけた。
- 12 名前:14 エンドレスサマーストーリー 投稿日:2003年06月24日(火)00時27分51秒
- ◇
その約束から今年で3年。
毎年、地方のホテルを抜け出しては、2人でこうしてコンビニで買った花火をやっている。
打ち上げ花火やねずみ花火の一つも無い、ただの手で持つだけの花火ばかり。
「えーと、今年の二人の花火大会もこれで最後や……」
線香花火の袋を取り出し、亜依は言った。
大雑把に二つの塊にわけ、片方を希美に渡す。
「二人で一つ手に持った〜」
それをマイク代わりに希美は歌い始めた。
亜依もそれに合わせるように歌う。
二人の心の中の線香花火
ずっと消えない花火にしようって誓ってくれた
FOREVER
自然と涙が流れていることに亜依は気づいた。
暗闇で希美に気づかれないことが、さらに涙をあふれさせた。
鼻を一度すすり、花火の束に火をつける。
小さな光がだんだん大きくなっていき、二人の顔を照らした。
希美の目にも涙が浮かんでいることに亜依は気づいたが何も言わなかった。
希美も亜依の涙に気づいていたが、何も言わなかった。
二人で黙ってじっと花火を見ていた。
だんだん小さくなり、光の玉は地面に落ちた。
- 13 名前:14 エンドレスサマーストーリー 投稿日:2003年06月24日(火)00時28分22秒
- 「終わっちゃったね」
「終わっちゃったな」
「……帰ろうか」
「うん。帰ろか」
バケツを二人で一緒に持ち、名残惜しむかのように二人はその場所からゆっくりと離れた。
1年に一度の二人だけの秘密の時間はこれでおしまい。
「七夕みたいれすね」
「どっちが織姫様なん?」
「私れす」
「何ゆーてんねん。そんな太った織姫様おらんわ」
「あいぼんには言われたくないのれす」
「なんやてー」
二人の笑い声と走り出す足音が夜の闇の中響いていた。
来年もこうして過ごせますように……
- 14 名前:14 エンドレスサマーストーリー 投稿日:2003年06月24日(火)00時29分01秒
- おしまい
- 15 名前:14 エンドレスサマーストーリー 投稿日:2003年06月24日(火)00時29分31秒
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- 16 名前:14 エンドレスサマーストーリー 投稿日:2003年06月24日(火)00時30分03秒
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- 17 名前:14 エンドレスサマーストーリー 投稿日:2003年06月24日(火)00時30分36秒
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