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13 祭りの後

1 名前:13 祭りの後 投稿日:2003年06月23日(月)23時52分10秒
13 祭りの後
2 名前:13 祭りの後 投稿日:2003年06月23日(月)23時53分07秒

ヒューーン、ドーーン!
ヒューーン、ドーーーン!

「たーーまーーやーー」
「おぉーー」
「きれい・・」
夜空を舞う花に人々の目が奪われていた。


ヒューーン、ドーーン!
ヒューーン、ドーーーン!

赤、青、白、黄、緑、金・・
数え切れない花が夜空を舞う。
そして、何もなかったかのように散っていく。


一瞬の輝きに人は何を思い出すのか?
一瞬の輝きに人は何を求めているのだろうか?


散りゆく花に人は何を重ねるのか?
散りゆく花に人は何を託していくのだろうか?
3 名前:13 祭りの後 投稿日:2003年06月23日(月)23時54分30秒

「急いでください!」
私は無理を承知でタクシーの運転手に頼み込んだ。
「でもね・・」
「わかってます!でも、早く行かないと・・」
「はいはい・・」
さっきから何度も同じことを言っている私に運転手は呆れてる感じだった。


トントン、トントン・・
私は小刻みにつま先を揺らしていた。
渋滞のせいで車はぜんぜん動く気配はない。
窓ガラス越しに夜空に花が舞う。
時間は刻一刻と進んでいく。
私はこみ上げてくる思いを胸に押さえ込んでいた。


ドーーン!
大きな音が聞こえてきた。

ドクン・・ドクン・・ドクン・・
私の心臓はだんだんと大きな音を立てる。
「ここで止めてください」
私はお釣りももらわずに一気に駆け出した。
4 名前:13 祭りの後 投稿日:2003年06月23日(月)23時55分10秒

必死に走った。ずっと秘めてた思いを伝えるために。
仕事でも会うことは出来るけど、二人っきりになれる時間はなかった。
二人だけの時間を作るためにこの日を選んだのだ。

しかし、現実は皮肉なものだった。
せっかくオフだったのに、急遽仕事が入った。すぐに終わるということだったけど、いろんなことが重なって遅れてしまった。私はスタッフを恨んだ。そして、運命を恨んだ。


カツカツ、カツカツ・・
「ハァー、ハァー、ハァー」
慌ただしい靴音と激しい息遣いが雑踏の中に消えていく。
5 名前:13 祭りの後 投稿日:2003年06月23日(月)23時56分24秒

私はなんとか目的の場所までたどり着いた。
思い描いていた景色はそこにはなかった。

「ハァーー、ハァーー」
私は膝に手をついて、肩で息をしていた。
キョロキョロと辺りを見渡すがまったく人影が見えない。
風に吹かれて転がる空き缶や紙くずがすべてを語っていた。
そこには祭りの残骸だけが残っていた。


「ご・・」
私は言葉を飲み込んだ。
瞳に飛び込んできた風景。それが答えだと思った。
自分の運のなさに思わず天を仰いだ。
爪が食い込むほど両手を強く握り締めた。
自然と肩が震えていた。



しばらくその場に立っていたが、人がいる気配はない。
諦めという名の疲れが一気に私にのしかかってきた。
待ち合わせの場所までには少し距離があったが、行っても同じような気がした。
私は当然のように来た道を戻ろうとしていた。

6 名前:13 祭りの後 投稿日:2003年06月23日(月)23時57分11秒

シューー、パーン
突然、夜空に咲いたとても小さい一輪の花。

私は足を止めた。
振り返るといるはずがないと思っていた人影があった。


穏やかな笑みを浮かべていた。
私は思わずその胸に飛び込んだ。

私は隣に座ると夜空に視線を移した。
もう言葉なんていらなかった。
7 名前:13 祭りの後 投稿日:2003年06月23日(月)23時58分00秒

シューー、パーン
夜空に舞う小さな花。
赤と青と黄の色しかない。

余韻を楽しむことなく花はすぐに散ってしまう。
でも、私にとってはどんな花よりも華やかに思えた。


シューー、パーン
シューー、パーン
小さな花が次々と夜空を彩っていった。


ふと見た横顔に自然と魅かれていく。
私は右肩にそっと体を預けた。
体の力が一気に抜けていく。


シューー、パーン
次々と消えゆく花。

「ごめんな・・こんなつまらん花火で・・」
「ううん・・うっ・・」
思わず涙がこぼれきた。
我慢しようと思えば思うほど涙が溢れてくる。

私は心のなせるまま泣き続けた。
静寂と泣き声だけが二人を包む
8 名前:13 祭りの後 投稿日:2003年06月23日(月)23時58分51秒

「ごっちん、泣きやんだか?」
「うん・・・」
「アハハハーー、かわいい顔が台無しやで」
「からかわないでよ・・」
私の涙をそっと拭う指。


私の気持ちを知ってかぐっと肩を強く抱きしめてきた。
「早とちりもいいところや・・」
「・・」
「今度約束破ったら承知せんからな!」
「うん・・」
再び涙が溢れてくる。
もう涙は枯れつくしたと思っていたのに。
9 名前:13 祭りの後 投稿日:2003年06月24日(火)00時00分08秒

穏やかな風が全身を吹きぬける。



「私もアホやな・・こんな時間までいるとは・・」
「裕ちゃん・・・」
月の光が二人に降り注ぐ。
10 名前:13 祭りの後 投稿日:2003年06月24日(火)00時00分53秒

シューーー、パーーン
最後の花が夜空に散った。


一瞬の輝きに私は約束を交わした場面を思い出していた。
一瞬の輝きに私はこのままの状態が続くことを求めていた。


散りゆく花に私は揺れ動く心情を重ねた。
散りゆく花に私はすべての思いを託した。

(完)
11 名前:13 祭りの後 投稿日:2003年06月24日(火)00時01分25秒
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12 名前:13 祭りの後 投稿日:2003年06月24日(火)00時02分02秒
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13 名前:13 祭りの後 投稿日:2003年06月24日(火)00時02分37秒
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