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9 ドリームファイア
- 1 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月23日(月)17時59分46秒
- 9 ドリームファイア
- 2 名前:9 ドリームファイア 投稿日:2003年06月23日(月)18時00分47秒
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「このクソ親父!オイラは絶対嫌だからな!!」
「真里!!」
引き止める両親の言葉を振り切り家の扉を思いっきり閉めて飛び出した。
ぽつぽつと降っている雨の雫が頬に流れ、
梅雨時のカラッとしない雨は今の真里をとても不快にさせた。
怒鳴った相手、真里の父はこの街じゃちょっと名の知れた花火職人。
昔は弟子とか沢山いたが最近は職人の数もめっきり減ってきている。
そんな家の一人っ子として生まれた真里は必然的に跡継ぎに決定されていた。
真里はこう見えても花の女子大生。友達と遊んだり、恋人を作ったり忙しいのに
今から将来を決められてはたまった物ではない。
「…大体女が花火師ってどうなのさ!?」
今日もいつもと父と大喧嘩。
毎日毎日同じ事の繰り返し。こんな毎日にうんざりしていた。
自宅の隣に工場がある為か真里の周りはいつも火薬臭かった。
その事で真里は小さい時からからかわれていたし、苦痛だった。
「…オイラは絶対花火職人になんてならない!」
家を飛び出してから数分後、大きなスリップ音が聞こえた後、
脇目も振らず走っていた真里は一台の車と接触する。
- 3 名前:9 ドリームファイア 投稿日:2003年06月23日(月)18時01分24秒
- ◇◇◇dream/illusion
- 4 名前:9 ドリームファイア 投稿日:2003年06月23日(月)18時01分57秒
- 「…あ、起きたん?」
真里が目を開けると木造の古びた天井と1人の女の子が目に入った。
はっきりした年齢は分からないけど多分年下だろう。
「あ、家の前で倒れてたんやけど、大丈夫?」
「…あぁ、うん。…大丈夫」
あまり耳にしないイントネーション。関西の子だろうか?
目を擦り起き上がってふと家の中を見渡した。
見た事もないような古い電化製品が並んでいる。
それとアンティークショップで見かけるような家具。
きっと親とかがこういうのを集めるのが好きなんだろうなと思った。
「ぼーっとしてるけど大丈夫?あと…」
「あ、大丈夫、えっと…そろそろ帰るね。ほんとにありがとう」
帰ると言ってもあのクソ親父のいる家に帰るのも頭にくるのだが。
きっとまた帰ったところで同じことの繰り返し。
軽くペコッと頭を下げて玄関に向かい、ガラガラと引き戸を開けた。
その瞬間、真里は自分の目を疑った。
(なんだここ…!?)
- 5 名前:9 ドリームファイア 投稿日:2003年06月23日(月)18時02分28秒
- なんて表現したらよいのか分からなかったけど一つだけはっきり言えるのは
『現代ではない』それだけだった。
自分がさっきまでいたような世界とは全く違う。
開けた戸をまた閉めて振り返るとさっきいた女の子が疑問の表情を浮かべ立っていた。
「さっきから気になってたんやけど、あなた変わった服着てるね。
どこに売ってるん?ウチもそんな服がいいなぁ」
「………」
目の前にいる女の子もさっき見た外にいた人もみんな着物だった事に気がつく。
(これは夢…?)
混乱する頭を奮い立たせ、真里は真っ直ぐ彼女の目を見て聞いてみた。
「…ここは、日本だよね…?」
「はぁ?そうやけど…本当に大丈夫?頭打ったとか…」
「いや…、じゃあ、今西暦何年…?」
「今?1909年、明治42年やで」
彼女が指差す方を見るとそこにはカレンダーが吊るされていた。
確かに1909年6月と書かれていた。
- 6 名前:9 ドリームファイア 投稿日:2003年06月23日(月)18時03分01秒
- タイムスリップと言う言葉が脳裏によぎった。
こんな鮮明に映し出される夢なんて多分ないだろう。
だって物も触れる。風も感じる。この子の肩の温かさも感じる。
「ちょっと、痛いから離してくれへん?」
「…あ、ごめん」
無意識に肩に掴みかかっていた真里は慌てて手を離した。
「…あなたの名前は?」
「矢口…真里」
「矢口真里?矢口さんか。ウチは加護亜依や、加護ちゃんって呼んでや」
差し出した手を握り、握手をする。温かい。やっぱり夢なんかじゃない。
真里はああー、と呟き頭を抱えて座り込んだ。
「…もしかして…南蛮人?見た事ない服やし…」
「いや…日本人だよ…ただ…」
生きてる時代が違う、とは言えなかった。
- 7 名前:9 ドリームファイア 投稿日:2003年06月23日(月)18時03分38秒
- 言葉を濁した真里にあえて追求はしないで亜依はただ
ふぅん、と軽く答えるだけだった。
「矢口さんは…家出人?」
これ以上どう説明したらいいのか困った真里は曖昧にそんなもんかなぁ、と答えた。
「親が心配してるから早く帰った方がええで」
「そうなんだけどさ…」
帰れるもんならあんなに嫌っていた家でもいいから帰りたい所だけど…。
「なんで家を出たん?」
普段なら家庭の事情を他人に愚痴ったりはしないけど、
見知らぬ時代、見知らぬ土地、そしてそんな所で出会ったこの子に
真里は何故か話し始めた。
この悩みは今まで誰にも言った事がなかったから
誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。
- 8 名前:9 ドリームファイア 投稿日:2003年06月23日(月)18時04分23秒
- 「…へぇ、花火職人かぁ。ウチ花火って書物では見た事あるけど
実際は見た事ないんけどなー」
「まぁ、綺麗だよ。でもヤグチは嫌いなんだけどね」
「そうなんや…見てみたいなぁ…花火」
亜依は目をキラキラさせて真里を見つめてる。
真里は直感で嫌な予感がした。
「あの!作って見せてくれへん?矢口さん!」
「ええ!無理だよ!作るって…材料とかもないし…」
「花火を作る材料なら探せば何とかなる!」
「なんとかって…」
「何が必要?ウチ探してくるわ!」
こんなにやる気になってるこの子をがっかりさせるのも可哀相な気がしたので
しぶしぶ材料を紙に書いた。
小さい頃から父の作業を見てたからなんとなくわかる。
と、言っても打ち上げ花火なんてたいそうな物は出来ないから小さい手持ち花火で。
「なんや、矢口さんの字読まれへんわ」
「え、確かに字はあんまり上手くないけど…」
そこまで言って思い出した。
この時代の書き方と現代は違うのだ。
「まぁいいや。矢口さんもついて来てや」
腕を引っ張られ、強引につれまわされた。
- 9 名前:9 ドリームファイア 投稿日:2003年06月23日(月)18時06分06秒
- 歩き回って何とか簡易的な花火が作れそうな材料が集まった。
火薬の匂いに嫌悪感を抱いたが、隣でわくわくして見てる亜依の為に
一肌脱いでやるか、と覚悟を決めた。
作ってる最中亜依は作業を覗き込んではへー、とかふぅーん、とか呟いていた。
「…っと、…出来たよ。花火」
「ホント?!やったぁー!早速やろう!」
外に出ると道行く人までなんだなんだ、と集まってきた。
着物の人達の中に混ざる自分がなんか変だった。
手持ち花火に火を点すとシュパ!っと言う音を立て燃え上がった。
もっと材料があれば青や緑にも色を変える事も出来るけれどこれは赤一色。
こんなので満足するのだろうか。
花火を持つ亜依を覗き込むと花火が瞳に映っているからなのか
目をキラキラさせて嬉しそうな、楽しそうな表情をしていた。
もしも犬みたいに尻尾が生えていたら、ぶんぶんと振っているだろう。
やがて火の威力は弱くなり、音もなく花火は消えた。
「…矢口さん!凄い!ウチメッチャ感動した!!」
「そ、そう?本当はもっと大きい花火が空に舞うんだよ。ヤグチの親父は
そういうの作ってるんだ。…でも…」
- 10 名前:9 ドリームファイア 投稿日:2003年06月23日(月)18時06分55秒
- 「凄いよ!矢口さん!決めた!ウチも花火職人になる!だから矢口さんもなってよ!
そしてさ、今度どっちの花火が凄いか勝負しよう!」
「え…?」
「ほら、約束や」
亜依はすっ、と右手の小指を差し出しにこっと笑った。
真里も小指を差し出した。
「ゆーびきりげんまんうそついたらはりせんぼんのーます、ゆびきった」
最後の一言を言った瞬間、目の前は明るくなり何も見えなくなった。
- 11 名前:9 ドリームファイア 投稿日:2003年06月23日(月)18時07分26秒
- dream/actuality◇◇◇
- 12 名前:9 ドリームファイア 投稿日:2003年06月23日(月)18時07分56秒
- 「真里!」
目を開けると白い綺麗な天井と両親が立っていた。
「3日間も寝たままだったのよ!目を覚まさなかったらどうしようかと…」
「跡を継ぐのがそこまで嫌だとは思わなかったすまん…」
どうやら勘違いされてそうだけど、とりあえず元気だよ、と声を掛けた。
少し落ち着いた後、親父はぽつりと言った。
「うちのな、初代花火師は女だったんだ。だから真里にもなって欲しかったんだよ」
「……その人って関西弁だった…?」
「…ん?あぁ、そうかもしれないな。
じいさんの代の時関西地方から引っ越したって言ってたからな。
…って何でお前がそんな事知ってるんだ?」
…そうか、あの後、ちゃんと花火師になったんだね。
「……親父」
「あ?」
「オイラ、花火師になるよ」
「あぁ!?ほんとか!?」
「…うん」
親父は病院だという事も忘れて大声を上げて喜んでいた。
でも親父の為じゃないよ、と言ったらがっかりするだろうか。
- 13 名前:9 ドリームファイア 投稿日:2003年06月23日(月)18時08分29秒
- 退院した後、一つの打ち上げ花火を作った。
もちろん1人の力では作れないから親父に手伝ってもらって。
「じゃあ打ち上げるぞ」
「おう!」
ドォン、と轟音を上げ打ち上げられた花火は夜空に溶け込み、綺麗な花を咲かせた。
あの時見せてあげれなかった青、緑。
どう?先祖様。
どっちの花火の方が凄い?
勝負はオイラの勝ちだろ?
残念ながら亜依の花火見る事出来なかったが、
きっと凄いもの作ったんだろうと真里思った。
「…ありがとー、加護ちゃん」
「…あ?」
「なんでもないよ!」
夜空の花火は空に吸い込まれるように消えていった。
うえからちゃんと見えてる?
この2人の夢の火が。
終わり
- 14 名前:9 ドリームファイア 投稿日:2003年06月23日(月)18時09分02秒
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- 15 名前:9 ドリームファイア 投稿日:2003年06月23日(月)18時09分21秒
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- 16 名前:9 ドリームファイア 投稿日:2003年06月23日(月)18時09分53秒
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