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04 ドン!バン!ガン!
- 1 名前:04 ドン!バン!ガン! 投稿日:2003年06月23日(月)01時05分30秒
- ドン!バン!ガン!
- 2 名前:04 ドン!バン!ガン! 投稿日:2003年06月23日(月)01時06分19秒
- ドン?それとも、バン?
花火の打ち上がる音を、何と表現する?
ソレを見つけたのは、毎年地元で開かれている花火大会の日だった。
歌番組の収録を終え家へと帰りついたあたしは、
玄関の前にひっそりと置いてあった、小さな茶色い箱を見つける。
「おかーさん、小包届いてるよー?」
ドアを開け中へ声を掛けてみたが、返事はなかった。
皆、出掛けているのか。
きっと、花火を見に行ったのだろう。
ここからは見えない。
花火の打ち上がる音や炸裂する音が、間抜けなほどに遅れて届くだけだ。
あたしは小包を抱え、靴を脱ぎ居間へと向かった。
持ってみて気が付いたのだが、
この小包、大きさのわりにはずっしりと重い。
中身は何だろう。
箱の上面には、サインペンで素っ気無く『吉澤ひとみ様へ』と書かれている。
頭の上まで持ち上げて裏側まで丁寧に確認したが、他には何の記述もなかった。
- 3 名前:04 ドン!バン!ガン! 投稿日:2003年06月23日(月)01時06分54秒
- 何だろ、コレ。
またファンの人からの贈り物かなぁ。
どうやって住所調べてんのか知らないけど、自宅に送られるのマジで迷惑なんだよねぇ。
ウンザリしながらも、とりあえず開けてみることにする。
少々乱暴に梱包を解くと……
何だ、コレ。
中身を見下ろして、思わず首を捻った。
入っていたのは、黒光りするモデルガン。
何だ?ソレ。
いくらあたしが男っぽいからってさぁ、こんなん貰っても嬉しくねーよ。
「…ったく」
疲れているせいもあり、ひどく不愉快な気分だ。
何気なくモデルガンを取り出し、構えてみる。
「ばーん」
それから、少し気取って、
まるで映画の中のカウ・ボーイのように。
「ばっきゅーん」
だけど口から飛び出すふざけた銃声は、花火の音にかき消された。
- 4 名前:04 ドン!バン!ガン! 投稿日:2003年06月23日(月)01時07分30秒
- それにしても、やけに精巧に作られている。
ずっしりと重く、どっしりと大きく、
弟達が持っていたものとは大違い。
見れば見るほど、本物のように鈍く輝いた。
本物のように……。
実は、本物だったりして。
ははっ、まさかね。ありえねー。
だけど、ホントによく出来ている。
明日楽屋にでも持って行ってみるか。
しばし手の中でモデルガンをもてあそんでいると、
『ピンポーン』
花火の切れ間を狙ったかのように、訪問者を告げるベルが鳴った。
「はーい」
慌てて玄関へ向かう。
ドアを開けると、何やら随分とくたびれた感じのおじさんが立っている。
「あ…、どちらさまですか?」
「警察の者です」
「は?」
けーさつ?警察って……
あの警察?どの警察?
頭にいくつものクエスチョンマークが浮かんだが、質問する隙はなかった。
- 5 名前:04 ドン!バン!ガン! 投稿日:2003年06月23日(月)01時08分08秒
- 「吉澤ひとみさんですね。
誠に申し上げにくいのですが、あなたに銃刀法違反の容疑がかかってます。
銃刀法違反の意味はわかりますか?お話を伺いたいので、署までご同行願えますか」
おじさんは、すらすらと喋った。
テレビで見る『けーさつ』より、物腰は丁寧だった。
だけどあたしは、おじさんの言葉の意味を、半分も理解することが出来ない。
思わずポカンとしてしまい、何気なく彼の額の辺りを見る。
薄いなぁ。育毛頑張ってんのかなぁ。
ボンヤリ思う。
「さあ、行きましょう」
「は…?」
あっけに取られていると、
いつの間に来たのだろう、数人の警官に囲まれる。
「ちょ、ちょっと待って下さいよ、何の話ですか、ドッキリ?」
「一応任意という形ですから、強制はしませんが……、どうします?」
はぁ?どうするもこうするも、『にんい』って何だよ。
意味わかんねーんだよ。つまり、どういうこと?
ってか、なんで警察が来てんのさ。
- 6 名前:04 ドン!バン!ガン! 投稿日:2003年06月23日(月)01時08分39秒
- 「あの…、どういうことなんですか?」
「心当たり、ありませんか?」
「そりゃ…、あるわけないじゃないですか」
「そうですか」
おじさんは頷いてみせたものの、
「では、署の方でくわしく聞かせてもらえますか?」
なかば強引に外へと導こうとする。
「ちょ、ちょっと、やめて下さいよ。なんでそんなトコ行かなきゃならないんですか」
「吉澤さん、あなた、持っていてはいけないモノを、持ってますよね?」
「…は?」
持っていてはいけないモノ?
何だ?
まるでなぞなぞのように、答えの見えにくい質問であった。
おじさんは、首を捻るあたしの様子を窺がいながら、ゆっくりと告げる。
「人を殺してしまえる、道具です」
- 7 名前:04 ドン!バン!ガン! 投稿日:2003年06月23日(月)01時09分25秒
- 殺す?道具?何?
あたしは何気なく首をめぐらせて、キッチンへと続くドアを見る。
包丁?
少し方向を変えて、その隣にある、居間への入り口を見る。
違う。もしかして……アレか?
でも、あれは、オモチャじゃん。
あれじゃ無理だよな。……いや、待てよ、もしかして。
突然、暗闇の中に強い光が差したように、答えが鮮やかに浮かび上がる。
そうか。
この人達は、誤解してるんじゃないだろうか。
あのモデルガンが、本物だって。
他に思い当たることなんて、何一つないし…。
きっとそうだ、あれだ。あれに違いない。
あたしは、ほっと息をついた。
オモチャなんだから、ちゃんと説明すりゃ誤解だってわかるよね。
だいたい、アレあたしのじゃないし。
勝手に送りつけられただけなんだし。
緊張がほぐれ、安堵が広がる。
- 8 名前:04 ドン!バン!ガン! 投稿日:2003年06月23日(月)01時10分06秒
- 「あの、刑事さん……」
説明しようと顔を上げたその時、
無数の鋭い視線が、あたしに突き刺さった。
ギクリとした。
あたしを見ているのは、刑事のおじさんや警官達だけではなかった。
不愉快に感じるほど潜めた声。
汚いモノを見るような、しかめっ面。
ジロジロと全身を舐めまわす、野次馬達の目。
- 9 名前:04 ドン!バン!ガン! 投稿日:2003年06月23日(月)01時10分39秒
- ヤバイ。
直感的にそう思った。
例え、誤解でも、
パトカーに乗せられるモー娘。の吉澤ひとみを、この人達はどう思うだろう。
例え、間違いでも、
警察に捕まるモーニング娘。の吉澤ひとみを、世間の人達は何と思うだろう。
撮られたら、噂が広まったら、イメージが崩れたら、
CM降ろされたら、脱退させられたら、二度とセンターで歌えなくなったら…。
メンバーやマネージャー、事務所は何と言うだろう。
お父さんやお母さんや弟達は……。
ヤバイ。
心臓の鼓動が、異常なほど跳ね上がる。
どうしたらいい?
上手く回らない頭にも関わらず、答えはすぐに導き出された。
隠さなきゃ。
あたしは走った。
あのモデルガンへ向かって。
「待てっ!おい!捕まえろ!」
誰かが何か言ったけど、理解できなかった。
- 10 名前:04 ドン!バン!ガン! 投稿日:2003年06月23日(月)01時11分27秒
- モデルガンは、居間のテーブルに置きっぱなしになっていた。
慌てて引っ掴み、後ろ手に隠す。
同時に、警官達が、どっと流れ込んできた。
そして、追い詰めるように取り囲む。
「吉澤さん、それを渡してくれますか?ほら、こっちへ、さあ」
刑事のおじさんは、ぞっとするほどの猫なで声で呼び掛けてきた。
違和感?何だろう、気持ちが悪い。
周りにいる警官達の視線は、あたしから動かない。
冷たく、感情の見えない目。
じっとりと、上から下まで眺め回され、身震いした。
気持ちが悪い。
まるで、身体の上を、無数のミミズが這い回りでもしているようだ。
- 11 名前:04 ドン!バン!ガン! 投稿日:2003年06月23日(月)01時12分11秒
- じりじりと、壁際に追い詰められる。
「やめ…やめてよ…なんで…」
「捕まえろ」
おじさんの声を合図に、無数の手があたしに襲いかかった。
引っ張られて押されて、押されて引っ張られて掴まれて。
取り押さえられる。
身動きが取れない。
揉みくちゃにされながら、あたしは考えた。
誰か、誰でもいいから、わかりやすく説明してよ。
一体、今、何が起こっているの?
このままじゃ、捕まっちゃうよ。
安倍さん、飯田さん、ごめんなさい。
あなた達が作ってきた娘。を、ぶち壊しちゃうかもしれません。
矢口さん、圭ちゃん、ごめんなさい。
せっかく色んなこと教えてもらったのに、全部ムダになるかもしれません。
梨華ちゃん、あいぼん、のの、
今まで一緒にがんばってきたのに、ウチだけこんなんなっちゃったよ。
高橋、紺野、小川、新垣、
こんな先輩、軽蔑する?
藤本と、まだあんまし喋ったことないけど新メンバー、
問題児が入ったー、なんて言ってはしゃいでたけど、あたし自身が問題児だったみたい。
……いやだ。
いやだ。いやだよ、こんなのイヤだ!
- 12 名前:04 ドン!バン!ガン! 投稿日:2003年06月23日(月)01時12分45秒
- 「さわんなっつってんだろ!気持ち悪ぃんだよ!触るな!あたしに触るな!」
とにかく、耐えられなかった。
逃げたい。突き飛ばしてでも
逃げたい。蹴飛ばしてでも。
限界だった。
そこにあたしを追い詰めようとする目があること。
そこにあたしを陥れようとする手があること。
怖い。
怖い怖いコワイコワイコワイコワイ……。
- 13 名前:04 ドン!バン!ガン! 投稿日:2003年06月23日(月)01時13分16秒
- 「…くっそ!離せよ!離せー!離せ離せ離せ離せ!」
半狂乱になりながら、警官達の腕を無理やり振り払い、後ずさる。
「近付くなよ!帰れ!帰れよ!帰れっつってんだろ!」
あたしはモデルガンを構えた。
こんなオモチャで警察がひるむとも思えないが、
今、身を守る手段はコレしか持ち合わせていなかった。
「落ち着きなさい。そんな事をしても何にもならない」
おじさんは抑揚を欠いた声で語りかけてくる。
彼は、銃口ではなくあたしを見ていた。
真顔だが、その目は笑っている。
撃てるものか。俺を殺せるものか。小娘が人を撃ち殺せる根性など持っているものか。
眼球に、下卑た笑いが張り付いていた。
彼だけじゃない。
その場にいる全員の目が、剥き出しで笑っていた。
あたかも絶命間際のゴキブリでも見ているような、見下した目付き。
- 14 名前:04 ドン!バン!ガン! 投稿日:2003年06月23日(月)01時13分49秒
- どうして、そんな目であたしを見る?
いつもそうだ。
どうして、みんな、そんな目であたしを見るの?
太ったから?オトコが出来たから?何も知らないコドモじゃないから?
どうしてあたしは、いつもそれに怯えて生きている?
腹立たしいような、恐ろしいような、よくわからない感情に襲われる。
心臓は破れそうに音を立てていた。
気分が悪い。
息が乱れる。
気分が悪い。
身体が冷え、パニックに陥りそうになる。
これは、一体、誰のせいなんだろう。
あたしのせいじゃない。
こいつらのせいだ。
そう、こいつらが、全て悪い。
いなくなればいいのに。
消えてなくなればいいのに。
消えろ。消えちまえよ。
消えろ。
「ばーん」
あたしは、引き金をひいた。
- 15 名前:04 ドン!バン!ガン! 投稿日:2003年06月23日(月)01時14分20秒
- 突然、目の前で火花が散った。
閃光がひらめいた。
今のは、何だ?
煙が上がる。
あたしには、何が起こったのかわからない。
どうしたらいい?
ああ、誰か、誰でもいいから教えてよ。
今の音を、何と表現する?
ドン?バン?
それとも……。
あたしには、わからない。
完
- 16 名前:04 ドン!バン!ガン! 投稿日:2003年06月23日(月)01時14分57秒
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- 17 名前:04 ドン!バン!ガン! 投稿日:2003年06月23日(月)01時15分27秒
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- 18 名前:04 ドン!バン!ガン! 投稿日:2003年06月23日(月)01時16分05秒
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