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メロン記念日の一番長い日

1 名前:53:メロン記念日の一番長い日 投稿日:2002年12月15日(日)23時55分48秒
 
12/9 AM7:00
 
村田は緩やかに鳴る目覚まし時計に手を伸ばして、その肌に触れる空気の冷たさに気づいた。
窓の向こうが変に明るくて、まさかと思いつつカーテンを開ける。
「…本当に雪だよぉ」
一面の銀世界、とまではいかないもののうっすらと雪をまとった景色が窓の向こうに広がっていた。
雪はこんこんと降り続いていて、まだまだ白くなりそうだった。
故郷を思わせる白い街並みに、村田の心は躍った
 
確かに昨晩の天気予報は雪と言っていた。それなりに寒かったうえに雨も降っていた。
しかし、期待はしていなかったし、実際に降ったらいろいろ困るとも思っていた。
でも、本当に白く染まった東京を見て、村田の心はときめいていた。
天気の神様はなんて心優しいのでしょう!私たちを応援してくれるみんなもこの雪を喜んでいるはず。
そう!だって今日は私たちメロン記念日の初のソロコンサートなんですもの。
 
村田は両手を顔の前で組み、目を輝かせて感動していた。
2 名前:53:メロン記念日の一番長い日 投稿日:2002年12月16日(月)00時04分29秒
 
AM7:30
 
「やばい。相当にやばい」
身支度を整えながら柴田は焦っていた。
 
寒さで目を覚まし、まさかと思って見た外は雪。それも半端でない大雪。
冷たいため息をついて暗い気分になる。
雪が積もるのが楽しみだった頃はもう過ぎてしまっていた。
 
そして今日はようやく叶ったソロライブの当日。
ライブ自体は夕方とはいえ、雪はまだまだ続くとは天気予報。
ニュースによれば交通も乱れているようだ。
果たして、こんな日のライブにお客さんが来てくれるのだろうか。
さすがにゼロってことは無いだろうけど、もしガラガラだったら…。
石川ばりのネガティブ思考に陥っていく柴田だった。
3 名前:53:メロン記念日の一番長い日 投稿日:2002年12月16日(月)00時05分24秒
もう一つ、柴田を憂鬱にさせるものがあった。
ここからすぐ近くに”返車(かえしゃ)の坂”とよばれる坂があった。
車を上へ押しても下へ返すほど急だから、という言われから名付けられたらしい。
実際のところは普段は毎日何気なく通る、傾斜が少しきつめの普通の坂道だ。
問題は、この坂を通らないと駅へ行けないことにあった。
 
この坂は雪が降ると難所と化す。
日当たりや風向きなどから凍結しやすく雪も残りやすいのだ。
雪が降れば必ず転倒者が出て救急車騒ぎ。人だけならまだしも、車が落ちてきたときもある。
二度ほど転んだことがある柴田、身を持って返車の坂の怖さを知っていた。
4 名前:53:メロン記念日の一番長い日 投稿日:2002年12月16日(月)00時15分13秒
柴田には急がなければならない理由があった。
この記念すべき初ライブの日に、よりにもよって他の仕事が入っていることだった。
会場にごく近いところでのラジオ収録が10時から12時までの予定。
天気のことを考えると、決して時間に余裕があるわけではなかった。
 
真っ赤なダッフルコートにロングマフラーで防寒。
このマフラーは初めてのお給料で買った記念のもの。今日のこの日には欠かせない。
もう一度持ち物を確かめてから玄関へ。
ここで最後の選択、何を履いていくか。
この寒さでしかも雪なのを考えるとブーツを選ぶべきか。
しかし、返車の坂を考えると歩きやすいスポーツシューズだ。
悩んだ結果シューズを選択。ハイテク系のデザインの相性は悪くないはず。
 
玄関を開け寒風吹き付ける中、柴田は大いなる一歩を踏み出した。
5 名前:53:メロン記念日の一番長い日 投稿日:2002年12月16日(月)00時16分28秒
 
AM8:00
 
部屋でじっとしていられなくて、早めに出かけた村田。
雪景色を楽しみながらゆっくりと歩いていく。
 
転びそうになるサラリーマン。小さい歩幅でよちよちと歩くハイヒールのOL。
大人はみな雪の中を歩きにくそうにしている。
けれど子供は元気だ。傘を振り回し雪を蹴散らしながら走り回る。
雪玉を投げ合い、新雪に小さなあしあとを残す。濡れてもお構いなし。大いに遊び回る。
 
そう、これが天気の神様からのメッセージ。
現代人はみんなあくせくと焦りすぎ。
雪の上をゆっくりしか歩けないように、じっくりゆっくり進んでいけばいいの。
いまだ雪が舞う灰色の空を見上げてつぶやいた村田。
 
その背中に、ガキ大将が雪玉を投げつけた。
6 名前:53:メロン記念日の一番長い日 投稿日:2002年12月16日(月)00時17分22秒
浸っていた村田は背後の雪玉に気付かなかった。
それに悪乗りしたガキ大将がさらに雪玉を放る。
再びヒットした雪玉を合図に、ほかの子供も一斉に投げ始めた。
たちまち雪まみれになる村田。振り返った顔にもヒット、視界が雪に遮られる。
「やーいやーい!」
一目散に逃げ出す子供達。村田はあわてて追うもみんな逃げ足だけは速い。
ようやく女の子をひとり追いつめて怒ろうとする。
が、女の子はべそをかきだした。
火がついたように泣く女の子に何もできなくなる。通行人の視線も痛い。
結局、村田はそっとその場から逃げ出すしかなかった。
 
「…あぁ、神様。あなたのメッセージを守らなかった私が悪かったのですね」
7 名前:53:メロン記念日の一番長い日 投稿日:2002年12月16日(月)00時17分53秒
 
AM8:10
 
「落ち着け。柴田落ち着けよ。」
 
返車の坂の中ほど、塀の切れ目にしがみつきながら柴田はつぶやいていた。
早くもアイスバーンと化した雪面を慎重に塀際まで移動。
そこから塀を手すり代わりにここまでようやく昇ってきた。
ここで途切れる塀は、門柱を挟んだ約3メートルほど向こうから再び続いている。
門柱までたどり着けば、再び塀沿いに登ることができる。
つまり、ここから3メートルが勝負、ここを切り抜ければ登りきったも同然。
だからこそ、気を引き締めてかからなければならない。
今も目の前を女の人が滑って転んでいたし、後ろには側溝につっこんだ自動車も。
 
大きく深呼吸して、右足を一歩を踏み出す。
雪の感触が靴底を伝わってくる。予想以上に固く凍っていた。
バランスを取りながらすり足で左足を出す。
が、中途半端に擦ったのが良くなかった。その足が凹凸に引っかかってしまう。
重心だけが前のめりになってたちまちバランスを崩す。
あわてて右足に力を入れるも、むしろそれは逆効果だった。
 
足元をすくわれた柴田は全身で雪とスキンシップしていた。
8 名前:53:メロン記念日の一番長い日 投稿日:2002年12月16日(月)00時18分45秒
 
AM9:30
 
人気の無いライブ会場。
そこにぽつんとたたずむ人影二つ、大谷と斉藤だった。
この二人、北海道と新潟という雪国出身だけあって混乱を予想していた。
それが彼女らに早めの行動を取らせたのだが、いかんせん早すぎた感も強い。
 
「なんか、スタッフの集まり悪くないかしら?やっぱり天気のせい?」
自慢の長髪を枝毛チェックしながら斉藤がつぶやいた。
「まだ、時間あるし、こんな、もんじゃない」
エネルギーを持て余す大谷はスクワット始めていた。
「でも、ステージの準備は全然だしスタッフだっていないし。いいのかな」
「いいんじゃ、ない? メロンの、集合だって、1時、でしょ」
「そうね。柴田はラジオだからリハは遅いか」
「不安だから、いっぱい、リハしたい、けどね」
そのとき、スタッフらしき足音と声が近づいてくるのに気づく。
大谷はスクワットを止め、斉藤も髪を直す手を休めた。
「誰かいるかー」
「「いまーす」」
9 名前:53:メロン記念日の一番長い日 投稿日:2002年12月16日(月)00時19分26秒
息を切らしながら駆け込んできたのは見覚えのあるスタッフだった。
「大変なんだ。誰でもいいから手伝って欲しい」
スタッフジャンパーの肩にまだ残っている雪を払いながら男は言った。
その様子から相当な事態が予想された。大谷と斉藤の間に戦慄が走る。
「私たちも?」
「そうだ。とにかく人手が足りないんだ」
「なにがあったんですか?」
「機材を乗せたトラックが事故で動けない。幸いにすぐ近くだ」
「ど、どういうことなんですか?」
状況がわからず聞き返す。
「機材を運ぶんだ!とにかく来い!」
それだけ言うと駆け足で出ていってしまった。
一喝された二人は渋々後を追う。
半ば、呆然としながら。
10 名前:53:メロン記念日の一番長い日 投稿日:2002年12月16日(月)00時19分51秒
 
AM9:55
 
息を切らせながらラジオ局の廊下を駆けていく柴田。
グレーのコートにブラウンのブーツ、そして濡れて汚れたマフラー。
その後返車の坂でもう一度転んだ柴田。融けた雪がコートを濡らし、シューズも中まで染みていた。
遅刻を覚悟で戻った柴田。門出の日を濡れた服で望むなんて、我慢できなかった。
でも、濡れているマフラーだけはそのままつけた。初心を思い出せてくれる、大切なもの。
 
思いのほかブーツは歩きやすかった。返車の坂も楽に登れて、シューズを選んだことを後悔。
ギリギリだけど間に合いそうだ。ブーツの底を響かせながら走る。
亡くなったおばあちゃんが廊下を走るなとよく言っていたけど、今は非常事態。
おばあちゃんごめんね。あと5分しかないんだ。
もっともおばあちゃんは遅刻はするなとも言っていた。
どっちが優先なのかは言ってなかったけど、両方を守れないよりはマシだ。
そういえばおばあちゃんの名前はユキミだった。冬の雪降る日に生まれたかららしい。
今日はユキに翻弄されっぱなしだな、と無理に笑ってみる。
けれど息が苦しくて、自分でも変な笑い顔になっているのがわかる。
11 名前:53:メロン記念日の一番長い日 投稿日:2002年12月16日(月)00時20分35秒
階段を駆け上がり、何度か通路を間違えそうになりながらようやく会議室にたどり着く。
時計を見て間に合ったことを確認し、それからちょっと落ち着いて息を整える。
入ったらとにかく謝ろう。それだけを確認してドアを開けた。
 
「おくれてすみま……せん?」
 
会議室にはなぜか小さなテントがぽつんと張ってあるだけだった。
しっかり15秒は固まってしまった柴田、その間動作はまばたきだけ。
すると、チャックが向こう側から開けられて誰かが顔を出した。
「あ、柴田さん。おはようございます。早いですね…」
紺野だった。そのままテントから寝袋に入ったままで芋虫のように這い出してきた。
「早いって、10時からお仕事じゃないの?」
「えっと、たしか昨晩まではそうでしたけど…あれ、柴田さんには連絡いってないですか?」
「ううん、来てないけど」
どこまでもマイペースな紺野に苛立つも、なんとか抑える。
「石川さんと里沙ちゃんが雪で遅れるから、収録もそれに合わせるって…」
柴田の全身を徒労感が襲い、そのまま倒れ込んだ。
12 名前:53:メロン記念日の一番長い日 投稿日:2002年12月16日(月)00時21分36秒
『ちゃお〜。柴ちゃんおはよう。いま?今車の中。そうそう事務所の人が迎えにきてくれて。
 なんか道混んでて全然進んでないの。でもお仕事の時間変えてもらったから大丈夫。
 え、午後は柴ちゃんだめなの?そしたら3人で収録しちゃうのかなぁ。でもほら…』
柴田は振るえる手で携帯電話の切ボタンを押した。石川に電話したのが間違いだった。
新垣にも電話しようとも思ったが、同じような事になる予想ができた。
それよりも、寝袋から出て歯磨きをすませた紺野を問いつめたほうが効率いい。
「大体何で私に何の連絡もないの?マネージャーにも電話つながらないし」
「さぁ?、事務所のみなさんがモーニングの対応に追われて、柴田さんたちの事を忘れてる、
 なんてことは無いと思いますけど。多分。」
言葉に詰まる柴田。あり得ない話ではない。曖昧な否定が不安感を煽る。
「じ、じゃぁなんで紺野はここにいるの?」
「私ですか?天気を予測して遅刻しないようにここに泊まりました」
見ればテントの中には各種装備がしっかり納められていた。
「私も雪国出身、備えあればうれしいっしょ、です」
「…それを言うなら、備えあれば憂い無し、だろ」
13 名前:53:メロン記念日の一番長い日 投稿日:2002年12月16日(月)00時25分19秒
 
AM11:00
 
動けないトラックから会場へ人海戦術で搬入するスタッフたち。
大谷と斉藤はビニール合羽とUFAと印刷された軍手をつけてその中にいた。
滑りやすい足元と吹き付ける雪、そして寒さで作業は遅々として進んでいなかった。
「寒い…冷たい…疲れた…」
「気合いが足りない!ほらしっかり持つべし!」
「ヒマだからって筋トレしてる人と一緒にしないでほしいわ。
 大体なんでセクシー担当の私が力仕事しなきゃならないの?」
「担当とか関係なく、ウチらがしてる事自体間違っていると思いますが」
「ところで、これってワイングラス入ってるの?」
ひび割れたグラスの絵が描かれた赤いシールを指す斉藤。
「そんなことも知らないの?それは壊れ物注意のシール」
「…ってことは壊れてるものが入ってるの?」
「違えよ!壊れやすい物が入ってるって意味」
「…落としたら大変ってこと?」
「うん、そう」
「じゃぁ助けて。手が滑りそうでもう限界」
「って、それを早く言え!」
「あぁっ!もうダメ!」
ドン!!
 
大谷が助けようとするも、遅かった。
思いっきりコンテナを落とした斉藤。そして振り向くスタッフ。
二人へ、冷たい視線が集中した。
14 名前:53:メロン記念日の一番長い日 投稿日:2002年12月16日(月)00時25分52秒
 
AM12:00
 
雪まみれになった村田はようやく会場へ到着した。
あまりの姿に入り待ちのファンも気づかなかったほど。
かじかんだ手を摺り合わせながらふらふらと控え室に向かう。
暖房の効いている建物の中、村田のコートからは大量の雪解け水が滴っていた。
 
まもなくラジオの収録をあきらめた柴田も会場に到着。
が、その行く手を阻む人影が。パステルグリーンの制服を着た掃除のおばさんだ。
「ちょっと、急いでるんですすみません」
「ダメだよ。掃除しないと通してあげない。
 ったく、床こんなにびしょびしょにしちゃってさ。私の仕事増やさないでほしいねぇ」
モップを突きつけ、にらみつけるおばさんに気圧される柴田。
「…いや、これは私がやったんじゃないですけど」
「あんだって?あたしゃ知ってるんだよあのモヤシみたいな女の子とあんたが同じグループなんだって。
 そのモヤシがこんなに床濡らしたのさ。それを仲間のあんたが掃除しなくてどうするのさ。
 そんなんだからいつまで経ってもメジャーになれないんだよ!」
その言葉に、柴田の中で何かがはじけた。
気がついたら、モップを片手に肩で息をしていた。
足元には、掃除のおばさんがのびていた。
15 名前:53:メロン記念日の一番長い日 投稿日:2002年12月16日(月)00時26分29秒
 
PM1:00
 
大谷と斉藤がようやく戻ってきて、やっと全員集合となったメロン記念日。
しかし、柴田は転んだときに打った腰や膝が今になって痛み出していた。
村田は雪を投げられたときにコンタクトを落としていた。
ストーブの前では大谷と斉藤がふるえていた。ついには抱き合ってお互いを暖める始末。
みんな、寒さと疲労で目から輝きが失せていた。
とても、今日これからライブをするグループには見えなかった。
会場の準備も大幅に遅れていた。時間的にはもう打ち合わせが始まるころなのに。
 
窓の外は相変わらずの大雪。むしろ朝よりも強くなったように見える。
暖房が効いているはずの控え室も肌寒い。
暗く重い空気が流れていた。
16 名前:53:メロン記念日の一番長い日 投稿日:2002年12月16日(月)00時27分10秒
そんな空気を切り裂くように鳴る着信音。柴田の電話だ。
発信者を見て少し躊躇するが、仕方なく電話に出た。
「もしもし…」
『ちゃおー柴ちゃん。梨華だよ石川梨華!ようやく着いてこれから収録なんだけど。
 柴ちゃんどっか行ったって紺野が言うから電話したんだけど。どこにいるの?』
あのアマ、言っておいたのに伝えなかったな。今度会ったらそのほっぺを引きちぎってやる。
「ライブ会場。今控え室でミーティング待ち」
『そっかライブかぁ。そういえば紺野はそんなこと言ってた気もするねー。
 とにかく収録始まっちゃうから早く来てね。来ないと柴ちゃん抜きになるよぉ』
「残念だけど、今日はメロンのライブだからもう行けないよ」
聞いてたなら忘れるなよ…切れそうになるのを抑える柴田。
『えー、柴ちゃんタンポポはどうでもいいの?メロンの方が重要なの?
 まぁ人それぞれだから強くは言わないけど。残念だなぁ』
「う、うん。また次の収録だね」
17 名前:53:メロン記念日の一番長い日 投稿日:2002年12月16日(月)00時27分46秒
電話を切ってからもしばらくは怒りが収まらない柴田。
あの脳天気な色黒声高オンナめ、人気があるからって調子に乗りやがって。
足の痛みも忘れて、備品を蹴っ飛ばす柴田。
増幅された痛みが、柴田の感情をさらに煽る。
 
「柴田、どうしたの?」
怪訝そうに聞く斉藤に、柴田の怒りの矛先は向かった。
「こんなところでへこたれてちゃダメ!
 いい、今日はメロン記念日の記念すべき初のソロライブの日でしょ
 天気は悪いけど、それでも全力を尽くさなきゃ!」
あっけにとられる村田へも。
「夢とかメルヘンとか、実現するために行動起こさなきゃ!」
反論しようとした大谷より先に。
「いつまでもこんなポジションにいるわけにはいかないの!」
力強く立ち上がる柴田。その目には野望の炎が燃えていた。
18 名前:53:メロン記念日の一番長い日 投稿日:2002年12月16日(月)00時30分31秒
柴田の気迫につられる三人。
確かに、今日は散々だった。せっかくのライブもこんな悪天候。
けれどそんなことでへこたれてなんかいられない。
今日のこの日のために、ここまでたくさんの苦労を重ねてきたんだ。
それを些細なことで台無しにはできない。
 
”ガキ大将なんかに雪玉を投げつけられないアイドルになるんだ!”
”人手が足りなくても雑作業をさせられないアイドルになるんだ!”
”石川梨華や掃除のおばさんに見下されないアイドルになるんだ!”
 
経過は違えど、思いはひとつ。
メロン記念日、ここに一致団結。
19 名前:53:メロン記念日の一番長い日 投稿日:2002年12月16日(月)00時31分13秒
控え室を飛び出した四人。
遅々として進まない準備作業を手伝い始める。
重いスピーカーを移動させ、照明を据え付ける。
太いケーブルを引き回し、回路を接続していく。
動いているうちに、身体の痛みなんか忘れていた。
作業しているうちに、片方の目で見ることに慣れた。
走り回ってるうちに、寒さなんかどこかに吹き飛んでいた。
四人の目はやる気の光に満ち、まばゆいばかりに輝く。
その光につられるように、スタッフの動きもよくなっていく。
 
何とか会場の設営が終わる。
四人が加わって作業のペースは上がったものの、まだ時間は押していた。
20 名前:53:メロン記念日の一番長い日 投稿日:2002年12月16日(月)00時31分50秒
 
PM3:30
 
ようやくリハーサルが開始された。
時間を考えると、通してやっと一回できる程度。余裕は無い。
しかし、機材のトラブルが続く。スピーカーから音が出なかったり、ライトがつかなかったり。
雪の中を人力で運搬したのが悪かったのか、あるいは突貫でのセッティングが影響しているのか。
トラブルの度にリハは中断され、問題が解決するまでは待機になる。
こんな時に待たされる方は集中力を保つのが難しい。
しかし、メロンの四人はこの状況を驚異的な集中力で切り抜けた。
リハとはいえ、歌やダンスには気迫がこもっていた。
本番を前にこんなに飛ばしていって持つのだろうか。
見守るスタッフはそんな不安を抱えるほど、彼女たちはキレていたのだ。
 
徐々にトラブルも解消され、四人の動きもベストに近づいていく。
何とか通しでの確認を終えてリハを切り上げる。
21 名前:53:メロン記念日の一番長い日 投稿日:2002年12月16日(月)00時32分52秒
 
PM5:50
 
開場間近の赤坂ブリッツ。相変わらずの大雪の中を、大勢の人が集まっていた。
持ち込んだラジカセを大音量で鳴らして踊り狂うグループもいれば、大声で気合いを入れている集団も。
ほとんどの人がコートに身を包み寒そうに身体を縮めているのだけれど。
共通するのは、そこの人々がみなメロン記念日のライブを楽しみに待っているということ。
人々の期待が熱気となり、まわりの雰囲気を少しずつ動かしていた。
 
それはリハが終わった直後の四人にも伝わっていた。
悪天候の中、どれだけのファンが来るか不安でしょうがない。
けれど、スタッフが伝える外の様子と伝わってくる熱気が自然とテンションを高めていた。
 
柴田が、大谷が、斉藤がそして村田がもう一度誓う。
今日のライブは絶対に成功させるんだ。
 
みんなの期待に応えるため、そして自分たちのために。
22 名前:53:メロン記念日の一番長い日 投稿日:2002年12月16日(月)00時33分22秒
 
PM7:00
 
開演直前。
ステージの袖から客席を覗くと、眩いばかりのサイリウムが目に飛び込む。
悪天候の中集まってくれたファンに感謝しつつ、いまさら不安と緊張に襲われるメロンの四人。
大谷は落ち着きなく歩き回り、村田は手を組んで目をつぶり祈るようにしている。
平然としているように見える柴田も汗が止まらないし、斉藤に至っては眉間にしわが寄っていた。
ここまで来て、もう引き返すことができないのはわかっているのに。
大人数の前に出ることはこれが初めてではないのに。
けれど、襲い来る不安と緊張は恐怖を煽る。
これから2時間弱、ステージとこの観客をメロンですべてコントロールしなければならないこと。
できるのだろうか。否、しなくてはならないのだ。
 
手を繋ぎ輪を作る四人、リーダーの斉藤が音頭をとる。
「この雪の中来てくれたみんなをホットにするステージにしよう。
赤坂の雪が雨になるくらいに熱いのを!それじゃいくよっ、
がんばっていきまっ」

「「しょい!!」」
23 名前:53:メロン記念日の一番長い日 投稿日:2002年12月16日(月)00時33分54秒
 
PM8:45
 
アンコールに応えるためステージに飛び出す四人。
会場は熱気に包まれていた。
それもすごい強烈な熱気で、今にも燃えだしそうなくらいに。
 
彼女たちを迎えた観客は素晴らしかった。
手探りな感じはあったけれど、それも初めだけ。
すぐに波のように振られるサイリウムや、PAすらかき消す歓声が会場を埋め尽くした。
メンバーの動きひとつひとつに反応する客席に、いつしか不安は消し飛んでいた。
しまいにはモッシュやダイブも発生、これ以上無い盛り上がりに。
 
そんな熱烈なファンに感激を隠せないメロン。
半ば泣きそうになりながらも、MCを進めていく。
今日のことが走馬燈のように頭の中を巡った。
すばらしいファンに恵まれたことを誇りに思った。
そして、ファンのみんなのためにも、もっともっともっとがんばらなきゃならない。

「メロンはもっとビッグになってやるー!!」

柴田の叫びは、会場のすべてに響いた。
24 名前:53:メロン記念日の一番長い日 投稿日:2002年12月16日(月)00時35分13秒
 
PM10:00
 
会場から出た四人を、赤坂の空は雨で迎えてくれた。
「本当に雨になっちゃったね」
大谷が残念そうに言った。
どうやら雪はだいぶ前に雨になったようで、積もった雪も少し融けはじめていた。
空気の冷たさも少し和らいだようで、明日は晴れという予報も信じられそうだった。
「なに残念がってるの?いいじゃない私たちの力だと思えば」
そう言う斉藤の顔には疲労が浮かんでいたものの、表情は達成感に満ちていた。
「大成功だったよね。自分で言うのもナンだけど」
全身が痛む柴田の言葉に、三人も笑う。
「でもこれからよね。もっと頑張って夢を叶えなきゃ」
村田がつぶやくように言う。
そうだ。今日のライブはただの通過点。
今日のライブに来てくれたひと全部と約束したじゃないか。
もっとビックになってやるって。

「今度は、雨を晴れにするぐらいになりたいね」
「そう。夢は大きく持たなきゃ!」
赤坂の夜は、四人を優しく包んでくれた。
25 名前:53:メロン記念日の一番長い日 投稿日:2002年12月16日(月)00時36分04秒

 〜END〜
26 名前:53:メロン記念日の一番長い日 投稿日:2002年12月16日(月)00時36分37秒
27 名前:53:メロン記念日の一番長い日 投稿日:2002年12月16日(月)00時37分10秒
28 名前:53:メロン記念日の一番長い日 投稿日:2002年12月16日(月)00時37分43秒
ソ

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