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ウワサの真相
- 1 名前:45番 ウワサの真相 投稿日:2002年12月14日(土)19時42分26秒
いつもの朝。
いつもの通学路でいつものあいさつ。
そのあと聞こえた車の急ブレーキの音。
そして誰かの悲鳴。
そこまでは覚えてる。覚えてるんだけど。
気づいたらあたし、病室に立ってる。
そしてもうひとりのあたしがベッドに寝ている。
…もうひとりのあたし?
ちょ、ちょっと待って。
おかあさんどうして泣いてるの?
お、おとうさんもおねえちゃんたちも。
- 2 名前:45番 ウワサの真相 投稿日:2002年12月14日(土)19時43分26秒
- 周りをうろうろしてみるけれど誰とも目が合わない。
ベッドの上のあたしは目を閉じたままぴくりとも動かない。
体じゅうにいろんな管がついてて痛々しい。
なななな。なに?
これは、もしかして。
マンガでよく見るこの展開はもしかして。
…あたし、死んだ?
げー。まじですか。
ぱちぱちと瞬きを繰り返してみたけれど目の前の世界は変わらない。
うっそーん。まじで?じゃあこの体は。指先をじっと見つめてみる。
いつもより青白い気がしてあわてて目を反らした。
なぁんだっけなぁ、これ。…あ。
「知ってるよ!ゴーストじゃん!!
ねー、おかーさん日曜洋画劇場で観たよねえ!」
おかあさんの耳元で叫んでみるけれど全く聞こえてないみたい。
肩に手を置いてみても何も感じないらしい。
- 3 名前:45番 ウワサの真相 投稿日:2002年12月14日(土)19時44分13秒
- ちょっとお。どうしようどうしよう。困ります。
とりあえず、あたしまだ死ねない。
あたしにはやり残してることがたくさんある。
いつか使おうと思って貯め込んだお年玉もあるし
冷蔵庫に取ってあるかぼちゃケーキもあるし
北の国から遺言の後編だって
ビデオ撮りっぱなしのままでまだ観てないし
それにそれに。なによりも。
そうだ。なによりも。
あたしはもうひとりのあたしに
ごめんちょっと待っててと呟いて病室を飛び出した。
- 4 名前:45番 ウワサの真相 投稿日:2002年12月14日(土)19時44分45秒
街を歩いていてもやっぱり誰とも目が合わない。
見上げたカーブミラーの中にはあたしの姿だけが無かった。
あたしほんとに死んじゃったのかな。
急に息苦しくなった気がしてあたしは走り出した。
学校に辿り着いて、教室へ向かう。
もう放課後の時間らしいけれど
あたしのクラスにはまだ何人か残っていた。
「いややーまこっちゃんいややー」
「まこっちゃんうわあああん」
泣きじゃくってるクラスメイトたち。
ありがと…ありがとね、みんな。
貰い泣きしてあたしは握りこぶしで目じりをぬぐう。
- 5 名前:45番 ウワサの真相 投稿日:2002年12月14日(土)19時45分21秒
あたしの会いたかった相手は、ひとり窓際で外を見つめていた。
泣いてるのかな。予想を裏切って彼女は険しい表情で振り返った。
「ま、まこっちゃんが死ぬわけない!」
裏声で叫んだあさ美はガタンッと椅子を倒して立ち上がり
律儀に椅子を直してから教室を飛び出した。
猛ダッシュで廊下を駆け抜ける彼女の後姿は一瞬のうちに消え去った。
- 6 名前:45番 ウワサの真相 投稿日:2002年12月14日(土)19時45分57秒
どこいったんだろ。足だけは速いんだよねあのコ。
しばらく探し回って校舎裏で見つけたあさ美の後姿。
そっと近寄る。
優等生の紺野さん。
最初は、からかってばっかりでそれが楽しくて楽しくて。
どんくさくって、マイペースで
見た目よりも大食いで。
おとなしそうに見えてじつはけっこう毒舌で。
ものすごく天然だけど頑固で気が強くて。
- 7 名前:45番 ウワサの真相 投稿日:2002年12月14日(土)19時46分28秒
- どうしてだろ。いつの間にか気になって気になって。
きっとこれは恋なんだろうな。
わかってたけどあたしたちは女の子どうしだから
言っちゃいけないんだろうなって思ってた。
あさ美の、あたしにしか見せないふにゃらっとした笑顔とか
あたしにしか見せないワガママなところとか。
それから、くしゃくしゃの前髪を直してあげると
そのたんびに耳まで真っ赤にさせてうつむくところとか。
少しも期待してなかったって言うと嘘になるけど。
やばい、なんか泣きそうになってきた。
やっぱり伝えたかったなあ。
急に会えなくなるなんて思わなかったもん。
そっとそっと近寄る。
- 8 名前:45番 ウワサの真相 投稿日:2002年12月14日(土)19時47分12秒
- 突然、あさ美が振り返った。
うお!焦る必要がないことも忘れて思わず壁に身を寄せる。
その横をまたもや猛ダッシュのあさ美が走り抜けていく。
ちょっと待って。
慌てて後を追う。
待って!あさ美!
呼びかけてもそれは届かなくて
待ってってば!!
大声で叫んでもそれは伝わらなくて
どうして言えなかったんだろう。
今になってこんなに後悔するなんて。
今になってこんなに好きだったことわかるなんて。
ねぇ。あさ美待ってよお願い気づいてよ。
あたしは涙をこらえて祈るようにあさ美の背中を見つめた。
- 9 名前:45番 ウワサの真相 投稿日:2002年12月14日(土)19時47分47秒
- それが伝わったのか、ただの偶然なのか
ふいにあさ美が立ち止まって崩れるように
グランドの地面にうずくまった。
あたしはまわりこんで言葉を失う。
あさ美は顔をぐちゃぐちゃにさせて泣いていた。
「うううっ、ばかーまこっちゃんなんかだいっきらいだ、ううー」
小さな子みたいにしゃくりあげて泣いてる。
くっそー、かわいいなぁ。ごめんね、あさ美。
あたしは、大好きだよ。
ああどうしたらいいんだろう。
神さま!いるの?いるんならお願い。
お願いだから彼女に気持ちを伝えさせてください。
あたしに奇跡を!両手をかたく握り締め、空に向ける。
そして強く祈る。祈る。祈る。
- 10 名前:45番 ウワサの真相 投稿日:2002年12月14日(土)19時48分18秒
- その時。
ぽつり、ぽつり。急に振り出した雨。
それはあっという間に本降りになって
ザーッという雨音があたしたちを包み込んだ。
あたしは途方に暮れて行き場を失った拳をゆっくりと降ろす。
ああ、そうですか。神様なんかいないってことですか。
あたしは下唇を噛みしめて
どんよりとしたグレー色の空をにらみつけた。
あさ美はずっと雨に打たれて静かに泣いていた。
その横顔があんまり綺麗で
睫毛にできた雫をあたしはずっと見つめていた。
- 11 名前:45番 ウワサの真相 投稿日:2002年12月14日(土)19時48分52秒
しとしとしとしと濡れていくグランド。ぬかるんでいくグランド。
なんとなく目を向けた先に野球部のバットが転がっていた。
…おおぅ。これだ。これですね。
ごめんね、神様!ありがと、神様!
あたしはダッシュでバットを拾って
あさ美の前に立つ。
バットのグリップを両手で強く握りなおして、そして。
- 12 名前:45番 ウワサの真相 投稿日:2002年12月14日(土)19時49分37秒
- ◇
あたしの意識が戻ったのは
事故にあって、まる二日がたってからだった。
泣いて喜んでいる家族に向かって
あたしが最初に発した言葉は
「神様っているんだねえ」
両親は不思議そうな顔をしてから
うんうんそうだねまことそうだねと泣きながら頷いた。
意識不明だったわりには外傷はかすり傷程度です、
奇跡ですよミラコーです。って
お医者さんが笑いながら教えてくれた。
あー、あたまいてぇ。体が重たい。
あ。あさ美。
あれは、あれは夢だったのかな。
- 13 名前:45番 ウワサの真相 投稿日:2002年12月14日(土)19時50分07秒
- 学校へ行って涙の再会のあと
みんなから口々に語られた怖い話。
「紺野あさ美は呪われている」
「ちかづかないほうがいい」
なんだなんだどういうこと?
あさ美。あさ美になにがあったんだよ。
タイミングよく、廊下であさ美の姿を見つける。
物凄い速さであたし目掛けて走ってくる。
そんなに喜んでくれてるんだ。なんか嬉しいな。
あたし生きてるよ!生きてたよ!両手を広げて待ち受ける。
- 14 名前:45番 ウワサの真相 投稿日:2002年12月14日(土)19時50分41秒
- ガコーーーン
物凄い衝撃を顎にうけたあたしはそのまんまひっくり返った。
なんかきれいに技はいりましたよ。
あさ美よく言ってるもんね…『型なくして空手なし』って。
いやちょっと待て、あたし一応あれですよケガ人なわけで。
「まこっちゃんのばか!心配ばっかかけて…もうばか!」
呆然としゃがみ込んだままの
あたしの肩をぽかぽか叩いてくるあさ美。
こんな顔はじめてみたぞ。
…なんだか…かわいーじゃないの。
ところであさ美なにかしたの?変な噂聞いたんだけどさ。
たずねたあたしにあさ美はぶるぶると身震いをして語り始める。
- 15 名前:45番 ウワサの真相 投稿日:2002年12月14日(土)19時51分15秒
- その話を聞いてサーっと青ざめたあたしを見て
妙なところだけカンの鋭いあさ美の目がキラリと光った。
「どうしたの?なんか…まこっちゃん知ってるの?」
「それ、あたしだ…」
「え?」
「それあたしのしわざなんです。ごめんほんと!
ていうか夢じゃなかったんだ。す、すごくない?やだびっくり」
照れくさくて早口になるあたしをじぃっと見つめるあさ美。
その大きくてまんまるな瞳にみるみる涙が溜まっていく。
彼女はすくっと立ち上がると姿勢よく走り出した。
またですかー…。よく走るなぁ。
あたしは笑顔で追いかける。
「ちょっと待ってごめんってばー!」
大声で叫ぶ。叫ぶ!
- 16 名前:45番 ウワサの真相 投稿日:2002年12月14日(土)19時51分56秒
- あさ美は上履きのまま下駄箱を飛び出した。
そしてグランドの中央まで走ると
右足のかかとで何かを一生懸命地面に書きはじめた。
あたしはしばらくの間ザクッザクッという音と
「ふんっ」「ふんっ」というあさ美の必死な声を聞きながら
土で汚れていく上履きとその地面を見つめていた。
その文字の意味に気づいたあたしは、はっとして固まる。
そこには『あたしもだ ばか』
って書いてあるのがかろうじて読めた。
- 17 名前:45番 ウワサの真相 投稿日:2002年12月14日(土)19時52分32秒
- あさ美はチッと舌打ちをして上履きの泥を振り落とすと
あたしをにらんでから、校舎のほうへ走り出した。
かと思うと急に振り返って
『読めた?それちゃんと読めてる?』って目で聞いてくる。
それがあんまりカッコ悪くてかわいくて
あたしはなんだか泣きそうになった。
口で言ってよばか。ばかってなんだよばか。
あたしはちゃんと言葉で伝えようと、また走る。
「あさ美!待って!」
- 18 名前:45番 ウワサの真相 投稿日:2002年12月14日(土)19時53分24秒
- ◇
あの日、グランド中に書き殴られた
『好きです!大好き!!好きだコノヤロー!』
というたくさんの文字。
雨の中、座り込んで震えているあさ美を囲むように
くるくる動き回るバット。そして次々と現れるその文字を
たまたま目撃してしまった生徒はその場で腰を抜かしたらしい。
グランドいっぱいのラブレターは
グランドいっぱいの呪いの呪文に変換され
それはうちの学校の七不思議のひとつとなり
その後も語り継がれることとなったらしいけど
その真相はあたしたちだけの秘密です。
- 19 名前:45番 ウワサの真相 投稿日:2002年12月14日(土)19時54分51秒
- オ
- 20 名前:45番 ウワサの真相 投稿日:2002年12月14日(土)19時55分25秒
- ワ
- 21 名前:45番 ウワサの真相 投稿日:2002年12月14日(土)19時56分01秒
- リ
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