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It is not raining.
- 1 名前:41 It is not raining. 投稿日:2002年12月11日(水)02時35分14秒
- 彼女は嫉妬深い人間じゃない。
多分どっちかというとそれはあたしだ。
そして彼女はそういうのを気にしないタイプ。
恋人同士とかそんな関係でもない。
だけど思春期の女の子たちって、大体こういう時期があったでしょ。
友達を独占したい。自分だけの親友で居て欲しい。
あいつは嫌い。仲良しグループに入れたくない。
だから多分、一時的な気の迷いみたいなものだったんだろう。
- 2 名前:41 It is not raining. 投稿日:2002年12月11日(水)02時36分07秒
- ―――………。
紙を一枚めくった。
古本屋や図書館で感じるような本の匂いを吸い込んで、ため息をつく。
二人で居るのに部屋の中が妙に静かだ。
時たまカタカタとキーボードを打つ音が響く。
あさ美ちゃんは一人、パソコンをいじっていた。
(つまんないなぁ…)
自分から誘ったくせに、彼女は相手をしてくれない。
なのであたしは仕方なく、部屋に積み重ねてあったドラゴンボールなんぞ
読んでたりするのだ。
「ねえあさ美ちゃん」
「うん?」
「やっぱり外で遊ぼうよ。家の中に閉じこもってるのよくないって」
「麻琴ちゃんがDB読み始めるから悪いんじゃない」
「え、それじゃ読まないよ。外行こう」
あさ美ちゃんって何でDBって略すんだろう。
ふとそんなことを疑問に思ったけれど、取り敢えずそれは横に置いといて。
- 3 名前:41 It is not raining. 投稿日:2002年12月11日(水)02時37分01秒
- 適当に読み流していたマンガを本棚に直そうと立ち上がりかけると、
あさ美ちゃんが凄い勢いで回転椅子を回した。
意味もなく一回転したよね。今。
そして鬼気迫る表情であさ美ちゃんは大声を出す。
「何で!?続き気にならないの!?」
「へ?いや、別にあまり…」
「気にならないの!?」
「…き、気になります」
「そうだよね。DB面白いもんね」
無意味に凄い気迫に押されて、あたしはただ黙り込む。
何故そこまでドラゴンボールにこだわるのか。
そこまであんたはこのマンガが好きなのか。
- 4 名前:41 It is not raining. 投稿日:2002年12月11日(水)02時37分39秒
- 「…私ね、小さい頃カメハメ波が撃てる様になりたくて、空手習い始めたの」
「えぇ!?」
急な告白に思考がついていかない。
「いまいち気の込め方がわからなくて四苦八苦してたなぁ」
うわぁ、この人本気だよ。
そしてまたあさ美ちゃんは黙々とパソコンのキーボードをカタカタ打ち続ける。
あたしはあまりの驚きの声が出ず、仕方なくドラゴンボールを読み進める。
とゆーか、結局何だったんだろう。カメハメ波。
「そうだ麻琴ちゃん」
「何?」
「この間新しいゲーム買ったんだけど、それやらない?結構面白いよ」
「えー、せっかくのオフなんだから、やっぱりどうせなら外で遊ぼうよぉ」
少し顔をしかめて、あさ美ちゃんは首を振る。
- 5 名前:41 It is not raining. 投稿日:2002年12月11日(水)02時38分18秒
- 「ダメだよ」
「何で」
「ダメだから」
「何で」
「ダメなの!」
「理由言わなきゃわかんないよ!」
「………」
不意に黙った。
さっきまでの勢いはいきなり弱まり、気まずそうに視線を部屋の天井に向ける。
何でそんなに外へ出るのが嫌なのか。
あたしにはその理由が、皆目見当もつかない。
(外に出てショッピングするの、あさ美ちゃんも好きじゃん)
ついこの間も楽しそうに洋服選びに夢中になってたし。
いや、それ以上にラーメン屋での目の輝きようは凄かったけどさ。
そして躊躇うように口を開閉し、俯いた。
- 6 名前:41 It is not raining. 投稿日:2002年12月11日(水)02時38分54秒
- 「…外、雨降ってるもん」
「ええ!!嘘!マジ!?」
小さい声で放たれたその言葉に視線を窓へ向けると、
カーテン越しに外の暗さが感じ取れた。真っ暗で、日の光は全く感じられない。
「さっきトイレ行ったときに外見たら、ザーザー降ってた」
しまった、気づかなかった。昨日聞いた天気予報は外れだったのか。
あさ美ちゃんの家に来るときは確かに曇りがちだったけれど、
それでも確かに晴れていたはずなのに。
「どうしよう…傘持って来てないよ。帰れないじゃん。いつ止むかわかんないし…」
「…あの様子じゃ、夜まで降るかもね」
「うあぁ」
頭を抱えたあたしを見るに耐えかねたのか、あさ美ちゃんはぼそっと呟いた。
- 7 名前:41 It is not raining. 投稿日:2002年12月11日(水)02時39分31秒
- 「雨止むまでうちにいればいいよ」
「え」
驚いて顔を上げた。
彼女はパソコンに顔を向けたまま、こっちに背を向けている。
「で、でも、迷惑じゃない?」
「迷惑なわけないじゃない」
室内にカタカタというキーボードの音だけが響いた。
このままお世話になっていいものか悩むあたしに、あさ美ちゃんは再度声をかける。
「…私の家じゃ、嫌?」
「違うよ、そういう意味じゃなくて」
おうちの人に悪いし。
そう付け加えると、あさ美ちゃんは首を横に振る。
- 8 名前:41 It is not raining. 投稿日:2002年12月11日(水)02時40分03秒
- 「今日はお母さんたちいないの。だから大丈夫だよ。
麻琴ちゃんさえよければいくらでも居て」
「そうなの?…じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
そう言うと、彼女は嬉しそうな笑顔を浮かべて振り返る。
「泊まっていくってことだよね。晩御飯何がいい?」
「へ?」
いつもの様ににこにこと浮かべられた笑顔に、別に泊まるとか
そこまで言ってないよとか、水を注すようなツッコミは今更入れられない。
着替えとかはまたあさ美ちゃんの借りるんだろうなぁ。
慣れた、というほどお互いの家に泊まったりはしていないけれど、
それでも彼女の洋服を借りるのはこれで何回目か。
何となく感じる気恥ずかしさは、そう簡単に消えるはずがない。
(でも、いっか)
嬉しそうな顔で晩御飯の献立を考えるあさ美ちゃんを見てたら、どうでもよくなった。
- 9 名前:41 It is not raining. 投稿日:2002年12月11日(水)02時40分42秒
- (…単純)
自分でもそう思うけど、いいじゃん別に。
友達が嬉しそうに笑ってたら、自分も嬉しくなるでしょ。
「どうせならラーメン食べに行こっか。この間ね、美味しい所を見つけたんだよ」
「でも雨降ってるんでしょ?めんどくさくない?」
「え…あぁ、そっか。うん。降ってるよ。ダメだね」
雨だもんね、と何回も小さく呟きながら、
あさ美ちゃんはカーテンが閉まっている窓に視線を向ける。
(そんなに残念なのかな…)
見るからに落ち込んだ様子の彼女をどうしようかと考えてるあたしをよそに、
当の本人はぶつぶつとラーメンのメニューを羅列している。
「チャーシュー、タンメン、うめかつ、塩、とんこつ…」
どんなにしょーもない物でも、全て記憶してるあさ美ちゃんって凄いよね。ホント。
- 10 名前:41 It is not raining. 投稿日:2002年12月11日(水)02時41分20秒
- とにかく、晩御飯はもうちょっとしてから考えても良いんじゃないのかな。
そんなあたしの呼びかけにも反応を返さなくなったコンコンは仕方がないので放置。
彼女の意識が戻ってくるまでマンガを読んでようと、
今度はドラゴンボールじゃない本を探して、それを開いた。
あさ美ちゃんはぶつぶつとラーメンのメニューを片っ端から呟く。
あたしは暇つぶしに名探偵コナンを読み始める。
「そうだ麻琴ちゃん」
「何?」
「夜になったら雨止むから、そしたら行こう」
「さっき夜まで降ってるかもって言ったじゃん」
ついにあさ美ちゃんは肩をがっくりと落とした。
「…角煮…」
どうやら今日の晩御飯は角煮ラーメンにしたいらしい。
ふぅっとため息をついて、彼女は顔を上げる。
- 11 名前:41 It is not raining. 投稿日:2002年12月11日(水)02時41分55秒
- 「…有り合わせで良い?」
「あたしは何でも良いよ」
苦笑しながら返事を返すと、やっと彼女は笑った。
「それじゃ、ちょっと冷蔵庫見てくるね。何かあるとは思うけど…」
そう言ってあさ美ちゃんはパソコンの電源を落とす。
モニターのスイッチを押すと、それはテレビへと変わった。
「テレビ見て待っててね。すぐに戻ってくるから」
「わかった」
何故か何度も何度も、すぐに帰ってくるからじっとしてろ、
と繰り返して出て行ったあさ美ちゃんを不審に思いながら、
テレビのチャンネルを変えていく。
この時間帯はニュースをやっていない。
雨がいつ止むか、天気予報でも見ようと思っていたのに。
どのくらいの量の雨が降っているんだろう。
- 12 名前:41 It is not raining. 投稿日:2002年12月11日(水)02時42分40秒
「いざとなったら傘借りればいいよね…」
というか、さっさとそうすればよかったような。
自分の間抜け加減にちょっと自己嫌悪。
テレビの声しか響かない静かな部屋の中で一人、どんどん気が暗くなっていく。
こんなのだから自虐=小川なんていう方程式が広まっちゃうんだ。
いや、今はそんなことどうでもいい。
ふと冷静に戻って、そういえば静かだな、と思った。
夜まで止まないほどの強い雨なら、屋根を叩く音とか、
それらしい音が聞こえてきても良いような気がするんだけど。
降ってる量は小雨ぐらいだけど、長くてしつこそうに見えたんだろうか。
でも小雨だったら、夜まで降り続きそうとか思わないような。
マンガを脇において立ち上がる。窓の側まで近寄って、そっとカーテンを開いた。
- 13 名前:41 It is not raining. 投稿日:2002年12月11日(水)02時43分19秒
- 「え?」
眩しい光が、部屋の中を照らした。
外の景色をボーっと眺めながら、手に感じた感触に視線を下ろす。
厚手のカーテン。
触ってみると普通の布と何か違う。
(……これって…)
表は女の子らしい花柄のカーテンだけれど、窓に面していた裏側は真っ黒。
それは遮光カーテンだった。
「…なんだ」
こみ上げてくる笑いを噛み殺してカーテンをまた元の通りに閉め直す。
窓から差し込んでいた強い光が次第に細くなり、消えた。
- 14 名前:41 It is not raining. 投稿日:2002年12月11日(水)02時43分50秒
- (そんなに外に行くのが嫌なのかなぁ)
どうしても理由がわからない。
確かにあさ美ちゃんの考えてることを全て把握できるわけではないから、
それは当たり前のことではあるんだけれど。
何だか少し悔しい。すごく引っかかる。
騙された腹いせなのか、どうしてもその理由を突き止めてやろうと心に決める。
「うーん…」
元の場所に戻って、マンガを何気なく開く。しかし視線は天井を見上げたまま。
「麻琴ちゃーん」
不意に扉が開いて、あさ美ちゃんが入ってくる。
「パスタとかでも大丈夫?」
「………」
「? どうか、した?」
じーっと顔を見つめてみると、あさ美ちゃんが不思議そうに首を傾げる。
そしてはっとしたような表情でカーテンを見つめるから、あたしは慌てて返事を返す。
- 15 名前:41 It is not raining. 投稿日:2002年12月11日(水)02時44分30秒
- 「あたしは何でも良いよ」
「…麻琴ちゃん」
「うん?」
同じように首を傾げて見せると、彼女は少し苦しそうな表情で小さく呟く。
「…あの……」
「あー!ねえ、コナン続きないよ?4巻の次」
「え?あ…それはそっちに…」
ごそごそと本の山を漁ると、5巻は簡単に見つかった。
そしてあたしは完全にそれを読む体制に入る。
そしたら彼女は、何も言えない。
「………」
「で、どうしたの。あさ美ちゃん」
「…ううん、何でもない」
首を振って、パスタはもうちょっとしてから一緒に作ろうねって言って、
パソコンのある机の椅子にまた座る。
- 16 名前:41 It is not raining. 投稿日:2002年12月11日(水)02時45分03秒
- テレビは小さくされ、パソコン画面の右端を占領している。
ウィーンという鈍い音と共に残りは真っ黒い画面へ変わった。
またパソコンを起動させたらしい。
テレビから漏れてくる笑い声が部屋の中に響く。
あまりの静かさに、まるでそこにあさ美ちゃんがいないんじゃないか
なんていう不安が一瞬だけ襲ってきて、視線だけその背中に向ける。
大丈夫。ちゃんといる。
そんな当たり前のことを確認して安心した。
二人きりって、そういえば久しぶりだ。
外に遊びに行くときは愛ちゃんたち誘うし、休み取れたのも久しぶりだし。
(…あ…れ?)
そうだよ。久しぶりだよ。
外に行くときは必ず他の誰かを誘ってるし、この間のラーメンだってそうだ。辻さんもいて大変だったんだ。
- 17 名前:41 It is not raining. 投稿日:2002年12月11日(水)02時45分46秒
外じゃ二人だけにならない。
外じゃ二人きりになれない。
だから、外に行きたくない。
(…って、まさかね)
彼女は嫉妬深い人間じゃない。
多分どっちかというとそれはあたしだ。
そして彼女はそういうのを気にしないタイプ。
でもそれ以外、理由が見つからないから。
- 18 名前:41 It is not raining. 投稿日:2002年12月11日(水)02時46分17秒
- 「…ねえあさ美ちゃん」
「何?」
「あたしとあさ美ちゃんは友達だよね」
「? うん」
困惑した表情を浮かべているんだろう。背中を見るだけで何となくわかる。
その背中に向けて、あたしは問いかけた。
「じゃあ、あさ美ちゃんにとってあたしは、一番の友達かな」
「………」
嫉妬してくれているということは、それだけ愛されているということ。
感性は人それぞれ。愛し方も人それぞれ。
嘘をつく理由も、人それぞれ。
あたしにとって嬉しいこの出来事だって、
誰かにとってはつまらない日常の一コマかもしれない。
- 19 名前:41 It is not raining. 投稿日:2002年12月11日(水)02時47分09秒
- 「ねえあさ美ちゃん」
「………」
他人から見ればしょうもない嘘で、バカらしい悪戯。
でもあたしは、
「ゲームしよっか」
- 20 名前:41 It is not raining. 投稿日:2002年12月11日(水)02時47分45秒
- 雨がずっと降り続けてればいいなぁって、その時思った。
- 21 名前:41 It is not raining. 投稿日:2002年12月11日(水)02時48分24秒
- e
- 22 名前:41 It is not raining. 投稿日:2002年12月11日(水)02時49分01秒
- n
- 23 名前:41 It is not raining. 投稿日:2002年12月11日(水)02時49分34秒
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