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37 安倍さん。

1 名前:安倍さん。 投稿日:2002年12月09日(月)23時38分00秒
アメが降ってきた。


最近、何かちょっとうまくいかないなって思ってて、楽屋の隅で鬱になっていたら、
後ろから誰かの腕が伸びてきて、数個の飴を降らせた。
「元気ない時はそれなめれば元気出るよ。」
「あ、安倍さん。」
体育座りしている私の頭上を見上げると、まるで新しいおもちゃを見つけたような
きらきらした瞳でこっちを見ている安倍さんの顔があった。
「小学生じゃないんですから、それくらいで元気にはなれませんよ。」
「それがさぁ。」
体を反転させた私の正面にしゃがみ込んで安倍さんは自分が降らせた飴をひとつ拾い、
きゅって絞ってある両端を引っ張って、夕焼け色したその飴を自分の口へと運んだ。
「…晴れ渡るんだよね、何でかさ。」
安倍さんは自分の発言に自分で納得して、うんうん首を縦に振っている。
「ヨッスィーもなめてみなよ。騙されたと思って。」
「…。」
言葉の意味もよく分からないのに、素直に従うあたり、
私ってほんと、安倍さんに甘いなって思う。


2 名前:37 安倍さん。 投稿日:2002年12月09日(月)23時39分40秒
「あー!」
「な、何ですか?」
言われた通り、飴を口にしようとした途端、叫ばれてしまった。
「だめ。水色じゃ意味ないんだよね。」
って私の手から包み紙ごと飴を奪った。
「何で水色のはだめなんですか?」
この質問に対する安倍さんの答えを聞いて、私の思考回路は一旦停止する。
「お天気飴なんだよ、この飴たちは。」

何だろう、この日本語は。
お天気雨って、晴れているのに降る雨のことのはず。
でも、そのアメは雨であって飴じゃない。
…。何だぁ?
3 名前:37 安倍さん。 投稿日:2002年12月09日(月)23時40分21秒
「もう、分からない子だなぁ。しょうがないから説明してあげるよ。」
急にお母さん口調になった安倍さんは、4つ飴を選んで手に取った。
「これはさっきも言った通り、晴れの飴ね。太陽の色してるのが。」
包み紙を開いて、2人の間に置く。
「で、これが雨の飴。今ヨッスィーが持ってたのがそう。」
晴れの飴の隣に並べて。
「この白いのは、曇りの飴。梅雨の何とも言えない空模様が楽しめるらしいよ。」
別に、そんなの楽しみたくないけど。
同じようにその飴も横に並べた。
「最後のこれは、雪の飴。宝石飴みたいにきらきらしてるでしょ?
これはねぇ、自分でなめるんじゃなくて、好きな人とかになめてもらうのがいいと思うの。
これなめると心の中、すっごく凍えるらしいから。」
人恋しさにつけ込むアイテム、ですか…。
って、4つ並べられた飴をまじまじと見ても、やっぱりどう見ても普通の飴なんだよね。


4 名前:37 安倍さん。 投稿日:2002年12月09日(月)23時41分50秒
「で、ヨッスィーは今滅入ってるってことは、心の中、ザーザー降りってことでしょ?」
「ザーザーまでは行かないですけど。」
「嘘だぁ。体重のこと気にしてて、土砂降りのはずだと思ったのに。」
痛っ。何か今、何千本もの槍が飛んできたっぽいんですけど。
雨じゃなくて、むしろ槍が降ってきてるよ。
「だから、このオレンジの飴なめれば、全部吹き飛んですっきりするよ。」
ん、て安倍さんが飴を差し出す。
それを受け取って、包み紙の両端を引っ張ると、
さっき安倍さんの口に入っていったのと同じオレンジの飴が顔を出した。
「…。いただきます。」
「どうぞ。」
5 名前:37 安倍さん。 投稿日:2002年12月09日(月)23時42分39秒
分かっている。
この飴自体に安倍さんが言ったような不思議な力はないとしても、
私の心は晴れていくってことは。
大好きな安倍さんが私のことを気に掛けて、
こんな風に魔法をかけようとしてくれているから。
それだけど十分嬉しくて、自然と心の中の雨雲がどこかにいってしまった感じがしてる。
「ね?」
って、安倍さんは笑顔で目をのぞき込んでくるもんだから、
「…。はい。」
私もつい、笑顔で返事をしてしまった。

私の心の中では、晴れも雨も曇りも雪も、全ては安倍さんの思うがままだから。

end
6 名前:37 安倍さん。 投稿日:2002年12月09日(月)23時43分11秒
7 名前:37 安倍さん。 投稿日:2002年12月09日(月)23時43分46秒
8 名前:37 安倍さん。 投稿日:2002年12月09日(月)23時44分29秒

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