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かたつむりの午後
- 1 名前:35番 かたつむりの午後 投稿日:2002年12月09日(月)18時18分50秒
- なんてこった。
年に1,2回くらいある恐ろしいくらいまっくらな午後。
バドミントン部と交代する3時半まで
みっちりと練習して体育館から出ると、
6時過ぎまで明るいような季節なのに
空には暗雲が重く厚く渦巻いている。
こんな日は走ってでも家に帰りたい。
帰りたいのに…どうして今日やらなくてはならない英語のプリントを
教室に置き忘れてしまうんだろう。
練習後に4階まで付いてきてくれるような子もいない。
おしゃべりしながらゆっくり帰らないで済むから良しとしよう、
と思って友達には先に帰ってもらう事にした。
- 2 名前:35番 かたつむりの午後 投稿日:2002年12月09日(月)18時19分25秒
- かかとをぺちゃんこにつぶした上履きをつっかけて、階段を駆け上る。
「うわっ」
こういう時に限ってつまづくんだ…ほんと今日はサイアク。
スカートをぱんぱんと払って、走らず早足で階段を上っていく。
4階にはもう誰もいないのか、暗くなっている。
灯りを付けようにもスイッチがどこにあるのかイマイチわからない。
暗いまま教室に行った方が早い。
廊下を見るとどこかの教室の電気は点いていたから、それを頼りに歩く。
歩いているうちに電気が点いている教室は自分のクラスということに気付く。
…誰がいるのかな?
まぁ前まで行って電気を付ける手間が省けたんだから誰がいようと、
いや誰もいなくたってラッキーだ。
もちろん誰もいなかったとしてもわざわざ電気を消そうという気は全くなかった。
- 3 名前:35番 かたつむりの午後 投稿日:2002年12月09日(月)18時20分01秒
- 教室に入ると廊下側の1/3が明るかった。
そして…机に突っ伏して寝ている人が、1人。
誰だろう?
プリントより先に、誰だか確かめる事にした。
…飯田さん、だ。
確か美術部の、人。正直話したことも無いような、下の名前も微妙なラインな人。
バリバリ体育会系の中心的なポジションにいるから、文化系の大人しそうな人とは
話す機会が全然無いんだよなぁ。
こちらに向けて眠っているその顔の下にはノートと鉛筆が見える。
『雨、雨、雨。降れ、降れ。かたつむりの願い。』
と書いてある。
…かたつむりの、願い?
うーん、私には理解できない思考回路を持っているみたい。
- 4 名前:35番 かたつむりの午後 投稿日:2002年12月09日(月)18時20分55秒
- 顔をそっとのぞき込んでみる。
普段はかけていたような気がするメガネが無いその顔は、
明らかに「美人」の部類に入るものだった。
「うわ、今まで全然気付かなかった…ってか見てなかったもんなぁ」
まじまじと、いつの間にか近づいて見てしまっていたようだ。
ガタン、と机にぶつかってしまった。
ゆっくりと目を開ける。
その瞳はとっても薄い茶色で、とっても綺麗で、また見入ってしまう。
私が動かなくなると反対に、彼女がゆっくりと動き出す。
私の顔をまじまじと見つめて、近づいてきて…
ん?
ちょっと待て。
何?
何でこの人、私の唇と接触するまで接近をやめないの?
- 5 名前:35番 かたつむりの午後 投稿日:2002年12月09日(月)18時21分31秒
- 「あの、いきなり何する」
ごろごろと、雷の襲来の前兆が空に響き渡る。
「きゃ〜〜〜〜っっ!!」
驚くくらいの叫び声。
「だだだ、駄目なの、雷!怖いの、怖いから、
おわ、終わるまでごめんなさいごめんなさい」
無我夢中で飯田さんに抱きついている。
並べてみると雷キス地震火事親父になるくらい雷は
駄目なのだ。
何よりもこのおびえを落ち着かせなければならない。
飯田さんは見たときから今まで表情が変わっていない。
抱きついてもそれは変わらずに、私の向きを変えて
ひざの上に座らせ、抱きしめる。
雨が、降ってきた。
- 6 名前:35番 かたつむりの午後 投稿日:2002年12月09日(月)18時22分13秒
- 飯田さんは私の髪を撫でながら窓の外を見つめている。
腕で包まれている感触と
華奢な指で髪をそっとなでられる感覚で、
幾分落ち着いた。
落ち着くと共にこの状況を客観的に把握する余裕が出来…
女子校、放課後、教室、ひざの上、髪を撫でる
って何やってるの?何やられてるの私??
何でキスされたの?
「あの、…何で私にキスをして来たんですか?
今も、抱きついたのは私の方で、確かに離されたら困るんですけど
拒否もせずにこうひざの上に乗せるなんて」
そう聞いても答えようとせずにただただ私の髪の毛を撫でている。
「あの、一応言っとくけど私、そういう趣味ないですので、たまに誤解されますけど」
「チャンスは少ないんだよ」
- 7 名前:35番 かたつむりの午後 投稿日:2002年12月09日(月)18時22分57秒
- 「え?」
「この自然界で出会えるチャンスなんて少ないんだよ。
惹かれ合ったならば、離れてはいけない」
「惹かれ合ったって」
雷光。5秒後、雷鳴。
「ぁあああ〜〜〜〜〜っ!!」
いつもとは質の違う高い声で叫び、飯田さんの方を向いて抱きついてしまった。
「ぁ…」
花の香り、なんだろうか。
好き。
もっとこの匂いを感じたい。
気が付くと飯田さんの胸に顔を埋めてしまっている自分がいた。
- 8 名前:35番 かたつむりの午後 投稿日:2002年12月09日(月)18時23分29秒
- 「ね、惹かれ合ってるでしょ」
「なっ!?」
思わず身を反り返す。
飯田さんは笑顔を浮かべている。
初めて見る、笑顔。
…惹かれてしまったことを、認めざるを得ない。でも
雷光。
急いで背中を向けて膝の上に三角座りのようにして座り直す。
それから数秒後、雷鳴。
今度は叫びはしなかったものの、
飯田さんの腕に力一杯腕に掴まってしまった。
- 9 名前:35番 かたつむりの午後 投稿日:2002年12月09日(月)18時24分12秒
- 「なんで雷、嫌いなの?」
腕への力を緩めると、腕を放して聞いてきた。
「…怖いから。なんか、空をまっくらにして、
何もかも壊して行っちゃう感じが、怖い」
「変えてくれる力なんだよ」
「力?」
「普通壊すことが出来ないものをね」
人差し指、中指、薬指をがしっと組み合わせ
「ぽんっと壊して、溶かしていってくれる力」
両手をぱっと離す。
「壊さない?」
「…壊したら、雷怖くなくなる?」
「かおがいれば、平気でしょ?」
そういって、また抱きしめる。
- 10 名前:35番 かたつむりの午後 投稿日:2002年12月09日(月)18時25分06秒
- 「かお…かおりだっけ?名前。ごめん、下の名前、わからないんだ」
「圭織。かおでいいよ。だし、かおは名字もわからないよ」
3度目の雷光。
びくっとはしたけれど、怖さは顔を見せなかった。
「はぁ?クラスメートなのに名字もしらないの??」
思わず顔を120度くらい回転させた。
私の驚きを強調してくれるかのように、雷鳴。
「知らない。」
「…吉澤ひとみ。ひとみでいいよ。」
「ひとみ、ね。」
そう言って私の瞳を見つめる。
4度目の雷光。
雨に濡れるガラスに映し出されるのは、
触角のように長い長い足のかおと、
かおの上で貝殻みたいにまんまるになって顔を後ろに向けてる私の、
2回目のキス。
- 11 名前:35番 かたつむりの午後 投稿日:2002年12月09日(月)18時25分42秒
- 終
- 12 名前:35番 かたつむりの午後 投稿日:2002年12月09日(月)18時26分30秒
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- 13 名前:35番 かたつむりの午後 投稿日:2002年12月09日(月)18時27分06秒
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- 14 名前:35番 かたつむりの午後 投稿日:2002年12月09日(月)18時28分02秒
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