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存在
- 1 名前:33番 存在 投稿日:2002年12月08日(日)20時16分32秒
いつまでも離れることはなかった
- 2 名前:33番 存在 投稿日:2002年12月08日(日)20時17分16秒
- 紺野あさ美は、大きなバックに次々と必要なものを詰め込んでいった。
お菓子、ジュース、シート、懐中電灯などなど。
一週間以上も前から楽しみにしていたのだ。
今日一日、何をするにも浮ついてしまって大変だった。
時計はすでに午後十時二十分を指している。麻琴との約束の時間まであと十分だ。
ドアを開けると、家の中とはちがう凍てついた空気が肺に入ってくる。
しっかり防寒対策はしたつもりだったけど。顔だけはどうにもならない。
あさ美は自転車にまたがり、バックをカゴに入れた。白い息が闇の中へ溶けていった。
ちょうどいい、とあさ美は思った。
さっきから顔が火照っている。そこにこの寒さは気持ち良かった。
別に遅れるような時間じゃないのに、気が付くとあさ美は立ちこぎで
めいいっぱいペダルを踏んでいた。
上を見ないようにしながら数分も走りつづけると、目的地である大きな自然公園についた。
肩で息をしながら自転車を降り、上を見ないように周りを見渡す。まだ麻琴は来ていない。
あさ美は入り口から見えるところにバックを置き、腰を降ろした。
しばらくして息が整うと、辺りは沈黙に沈んでいく。
- 3 名前:33番 存在 投稿日:2002年12月08日(日)20時18分03秒
- あさ美は、この夜の雰囲気が好きだ。
何故かは分からないが。何度か考えたこともある。
けど、分からなかった。分からないけど、好きだった。
約束の時間を10分も過ぎたのに麻琴は来ない。
よくあることだったけど、今日はいつもより寂しかった。
ふと思い出した。あさ美は最初、麻琴とはあまり話さなかった。
麻琴が冷ややかに接してきたからだ。
それが、いつの間にか一番の仲良しだ。
どういうきっかけがあったのか、まったく覚えていない。
まだ麻琴は来ない。
二人で見たいのに。
あさ美は目をつぶって寝転がり、1分待った。
……あっという間に過ぎた。相変わらず麻琴がやってくる気配はない。
しかたない。あさ美は一人でそれを見ることにした。
彼女は、ゆっくりと、目を、開けた。
- 4 名前:33番 存在 投稿日:2002年12月08日(日)20時20分23秒
- それを期待して来た筈なのに、
一瞬、目がおかしくなったのかと思った。違う。そうではない。
息つく暇もなく、まるで雨のように、流れ星が降っている。
『しし座流星群』だ。
頭が真っ白になった。
背中がジーンとしびれて、それがそのまま
鼻の奥へ流れて涙になった。
胸がいっぱいになるのを押さえきれなかった。
堤防が、崩れた。
目に流星群、鼻に土の懐かしい匂い。
声が聞きたかった。触れたかった。
「あさ美ちゃーん、ごめーん」
あさ美ははっと我に帰る。麻琴だ。大きなバックを担いでいる。
「いいよ。気にしないで。それより約束守ってきた?」
「もちろん。帽子かぶって来たし、なるべく下向いて来た」
「じゃあさ、目つぶったまま寝転がって。私みたいに」
「うん」
麻琴は素直に応じる。
「じゃあ、目あけていいよ。」
- 5 名前:33番 存在 投稿日:2002年12月08日(日)20時22分49秒
- 「うわぁ……」
「きれいでしょ?私もここまですごいとは思わなかったよ。」
あさ美は、ため息を闇に溶かして夜空を見上げる麻琴に言った。
「去年なんか一分に一個ぐらいだったんだよ」
「……すごいね」
もう、二人は言葉を発さなかった。
ただただ、夜空を埋め尽くすように降る流れ星を見つめた。
ふいに、となりに寝ている麻琴が、あさ美の手を握った。
暖かかった。
あさ美を包み込んでいるようだった。
その手は、一晩中離れることはなかった。
−end−
- 6 名前:33番 存在 投稿日:2002年12月08日(日)20時23分29秒
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- 7 名前:33番 存在 投稿日:2002年12月08日(日)20時24分03秒
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- 8 名前:33番 存在 投稿日:2002年12月08日(日)20時24分41秒
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