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かくれんぼ

1 名前:26:かくれんぼ 投稿日:2002年12月06日(金)01時24分28秒
「ののー」
加護さんの声がします。

「あのね、あべさんがものすごい時間遅刻してくるらしいから、時間が大分あるんだってさ。」
「うーん」
「どっかお店行こうよ」
「だめだよ、ほらぁ。」
「あ。」

辻さんが指差した先を、なんとはなしに私も追いました。
2 名前:26:かくれんぼ 投稿日:2002年12月06日(金)01時26分18秒
窓の外では、いつの間にかぱらぱらと雨が降り出していました。

「あめ。」
「あめだ…。」
がっかりしたような声が聞こえます。

「ひまだぁ〜」
「ひま。」

ふと楽屋を見渡せばみんな一様に、無表情で視線を手元に落としています。
楽屋に閉じ込められて、時間を持て余しているのは全員一緒のようです。
私もディズニーのカタログに目を落とすことにしました。
3 名前:26:かくれんぼ 投稿日:2002年12月06日(金)01時27分09秒

そのまま、しばらくゆっくりと時間が流れました。
ディズニーの世界にひたっていた私を、ふと現実が呼びました。

「じゃんけん、ぽん!…んじゃあいぼんオニね」

何かが始まりそうな予感を感じて、私は顔を上げました。
4 名前:26:かくれんぼ 投稿日:2002年12月06日(金)01時28分01秒

「いーち、にーぃ、さーん…」

加護さんが両手を組んでテーブルに突っ伏したまま、数を数えています。
辻さんは足音を殺しながら、窓際で雑誌を読んでいる保田さんのところへ向かっています。

「しーぃ、ごーぉ、ろーく」
5 名前:26:かくれんぼ 投稿日:2002年12月06日(金)01時28分45秒

「しーち、はーち、きゅうぅ」

辻さんは壁際にすべりこむと、足を閉じて保田さんの陰になるように座りました。
ロッカーと壁と保田さんに挟まれて、その陰にすっぽりと入った形になってます。
実に見事でした。

「じゅう…もーいーかい?」
「もーいーよ!」
6 名前:26:かくれんぼ 投稿日:2002年12月06日(金)01時30分13秒
元気のいい返事に、加護さんは顔を上げました。
声をあげたのは辻さんではなく吉澤さんでした。知らん顔で携帯なんかいじってましたが
よく見ると笑いを噛み殺しているようにも見えます。
加護さんはすぐにそちらの方に目を向けましたが、もちろん辻さんがいるはずもありません。

不思議そうに首をかしげる加護さんを、他の人達もそれぞれ雑誌や漫画を読んだりして
それぞれ好きな風でくつろいだまま、やはり意識していたようでした。
7 名前:26:かくれんぼ 投稿日:2002年12月06日(金)01時30分58秒
加護さんはしばらくきょろきょろと楽屋内を見まわしていましたが
やがてその視線がぴたりと止まりました。

保田さんは雑誌を手にしたまま、微動だにせずにページをめくってみせました。
その、いかにも気にしてませんよって態度がおかしいらしく
辻さんが笑いを堪えているのが見つかった原因のようです。
加護さんはつかつかと近付きました。そして……

「みーつけた!」
「ははははははは!」

楽屋のちょっとした緊張感は、みんなの笑い声と共にふつりと途切れました。
8 名前:26:かくれんぼ 投稿日:2002年12月06日(金)01時31分41秒

「あぁ…かくれんぼにならないよ。」
「せまいから、ねぇ」

大人数なので随分広い楽屋に入ってはいるのですが
やはりかくれんぼできるほどの広さはありません。

「このへやからでてもいい、ってのはどう?」
「それはダメ。絶対ダメ。」

さえぎったのは飯田さんでした。

「なんで?」
「ダメだからダメ。」
「だからなんでダメ?」

雲行きが、怪しくなってきたようです。
9 名前:26:かくれんぼ 投稿日:2002年12月06日(金)01時32分22秒
辻さんは言い出したら聞きません。
そして、言い出したら退かないのが飯田さんです。
それをわかっているのか、他の人達もそれとなく注目しているようです。

「べつにめいわくとかかけないからぁ〜!」
「あのね、あんまりうるさくすると迷惑なの。」
「うるさくしないもん、うるさくしなーい」
「走り回ったりするのもダメ。」
「かくれんぼだもん、かくれるだけだって」
「かくれるのもダメ。」
10 名前:26:かくれんぼ 投稿日:2002年12月06日(金)01時33分02秒
なんとなくふんわりとした空気が、徐々にかたくなっていくのが分かります。
きっとそれは他のみんなも感じていたのでしょう。助け舟がでました。

「カオリも辻も、もうわかったからさ!どっか部屋に入っちゃいけないってすればいいじゃん」
「ていうか外でて隠れる場所なんてあんの?」
「ありますよぉ、ほら自販機のとことか。」
「植木のとことかもいけそうだよね」
「それよりエレベーターの奥んとこの…」

続々と意見が出されました。心なしかみんな、目が輝いてるようにも見えました。
飯田さんとは言えば、困ったような顔をして。

「圭ちゃんも何とか言ってやってよ!」
「うーん、別に他の人の楽屋さえ入らなきゃいいんじゃないの?」
「う、でも誰かに見られたらどうすんの、モーニング娘。が悪ふざけしてるって思われちゃうよ」
「やだなぁ、飯田さん。かくれんぼですよ?見つからなきゃいいだけの話ですよ」
11 名前:26:かくれんぼ 投稿日:2002年12月06日(金)01時33分46秒
その吉澤さんの言葉は妙に説得力がありました。

「うーん…でもさぁ…なんていうか…。」
飯田さんはまだ、何事か迷っている様子です。
皆の視線が飯田さんに集まりました。


「それってさぁ、面白そうなんだよね…。」
12 名前:26:かくれんぼ 投稿日:2002年12月06日(金)01時34分24秒

「じゃんっけんっぽい!」「あいこで、しょっ!」「あいこで…」

何度もじゃんけんは繰り返されました。大声ではしゃぎながら。
大人数ですので、そう簡単には終わりません。
十一回目のあいこの後、私はふと窓の外に目をやりました。
13 名前:26:かくれんぼ 投稿日:2002年12月06日(金)01時34分56秒

空は青くて、そこにはひとすじの白い雲さえ鮮やかに走っていました。
どうやら、いつのまにか雨は止んでいたようです。
けれど私はそのことを、はたして伝えていいものやら、悪いやら。
14 名前:26:かくれんぼ 投稿日:2002年12月06日(金)01時35分26秒
 
15 名前:26:かくれんぼ 投稿日:2002年12月06日(金)01時36分06秒
16 名前:26:かくれんぼ 投稿日:2002年12月06日(金)01時36分36秒

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