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もらい泣き
- 1 名前:25:もらい泣き 投稿日:2002年12月05日(木)22時25分09秒
- 私の周りから一人、また一人といなくなってしまう。
夢に向かって旅立っていく仲間の背を
私はいつも笑顔で見送っていた。
彼女もいつも笑顔だった。
でも代わりに雨を降らせていた。
そして彼女はいなくなった。
- 2 名前:25:もらい泣き 投稿日:2002年12月05日(木)22時26分35秒
- 「妹よ〜、妹よ〜。今夜は雨が降っていて〜。
妹よ〜、妹よ〜。おまえの木琴が聞けない〜」
高橋の歌声が楽屋に響いている。
合唱部に入っていたという彼女が歌う曲は
いつも合唱曲が中心でメンバー達にとっては
あまり耳にしていないものが多い。
案の定、圭ちゃんがあからさまにウンザリしている。
「高橋…なんなの、その暗い歌は……」
「これは暗いんじゃなくて哀しい歌なんですよ。
学校で習いませんでした?」
高橋は不思議そうな顔をしていたけれど
メンバー全員が首を傾げている。
高橋がガッカリしているので少し可哀想になってしまい
助け舟を出す事にした。
手にしていた携帯をテーブルに置き、ため息を一つだけついて。
「私、知ってるよ。『木琴』でしょ?
学生の頃、校内合唱コンクールで歌ったもん」
「本当ですか!飯田さん!!」
高橋は急に目をキラキラと輝かせて私を見た。
- 3 名前:25:もらい泣き 投稿日:2002年12月05日(木)22時27分57秒
- 確か…、主人公の妹は木琴が好きで、そして戦争が嫌いで…。
でも皮肉にもその嫌っていた戦争が原因で
木琴と共に焼かれて死んでしまった。
そして主人公は雨の度に妹を思い出すっていう哀しい歌だったはず。
私の記憶や解釈が間違っていなければ…。
この曲はメロディーも重々しく、歌っていて気が滅入るものだった。
そんな内容の歌を鼻歌みたいに歌う高橋もどうかと思うけれど…。
「……どうでもいいけどさ。
その歌、臨場感が増して気味悪いんだけど」
圭ちゃんはそう言いながら窓の外を眺めた。
朝から雨が降っている。
今日はライブがあるのだけれど
野外じゃなくてよかった、と心から思う。
同じ事を思ったのか、なっちもその事を口にしていた。
「野外じゃないだけマシだよね。
でもさ、ライブで雨降るのって何気に多いよねぇ。
もしかしてこの中に雨女でもいるんじゃないの?」
「やめてよー。みっちゃんでもあるまいし…」
そこまで言って矢口はすぐに慌てて口を閉じ、私の方をチラリと見た。
意識されても困るんだけど…。
- 4 名前:25:もらい泣き 投稿日:2002年12月05日(木)22時28分55秒
- 私は気にしていないと見せる為にニヤリと笑った。
「そういう矢口が雨女なんじゃないの?」
「えー!?なんでだよ!!」
矢口は不服そうに口元を歪める。
ふふふ、と笑いながら私は別の事を考えていた。
みっちゃんが雨女だという事は有名だった。
卒業ライブの日まで雨が降ったというのだからさすがだ。
でもよく考えてみたら今まで色んな人の卒業を経験したれど
その卒業ツアー中、梅雨でもないのによく天気が崩れていた。
全てみっちゃんのせいだったらスゴイなぁ。
でも今日はみっちゃんがいないのに雨が降っている。
ザァァァァァ。
当分止みそうもないみたいだ。
- 5 名前:25:もらい泣き 投稿日:2002年12月05日(木)22時29分42秒
- 私が大きな欠伸をすると、のんちゃんがケタケタと笑った。
「飯田さん、大っきな口ー」
「だってさー、雨の音を聞いてると眠くならない?」
「…そうかなぁ」
誰も同意してくれない。
というか、私の話など聞いてくれていないらしく
それぞれで会話をしたり、部屋から出て行ったりしていた。
とりあえず、目の前にいるのんちゃんにだけには
わかってもらおうと思って私はしつこく話を続けた。
「でも、藤本だって前に言ってたんだよ。雨の日の朝は起き難いって」
「…そうかなぁ」
気のない返事。
のんちゃんの視線は私から微妙にズレていて
先ほどから黙々と紺野が食べているお菓子に釘付けだった。
私は説明を諦めた。
そしてテーブルに置いた携帯をチラリと見てため息をつく。
今日も電話出来なかった。
メールも送れなかった。
あの日から一度も。
――意気地なし…。
- 6 名前:25:もらい泣き 投稿日:2002年12月05日(木)22時30分50秒
- なんだか本気で眠くなってきた。
リハーサルまで時間があるし、しばらく寝とこうかな。
高橋のせいで目を瞑っていても
さっきからずっと『木琴』が頭の中でエンドレス状態。
『妹よ〜、妹よ〜。今夜は雨が降っていて〜。
妹よ〜、妹よ〜。おまえの木琴が聞けない〜』
暗い…、暗過ぎる。
あまりの暗さにウンザリしてきた。
未だにサビだけでもバッチリ覚えている自分にも嫌気が差す。
最近の私は少し疲れていた。
精神的にも。
今年は自分の身の回りの変化が著しく
表面的にはリーダーの私が泣き言を言うわけにもいかないから
笑顔で済ませてきたけれど
やっぱり気持ちはついていってくれない。
自分の心には嘘がつけないって事なのかなぁ。
卒業なんて何度も経験しているはずなのに。
今まで何人も送り出してきたはずなのに。
- 7 名前:25:もらい泣き 投稿日:2002年12月05日(木)22時31分29秒
- 妹のようで時には頼りになる仲間だったごっつぁんはいなくなった。
昔からの親友のような存在だったりんねもいなくなった。
そしてお姉ちゃんみたいに私を支えてくれていたみっちゃんまでいなくなった。
三人共、形は色々と違ったけれど新たな道へと旅立ってしまった。
三人共、形は色々と違ったけれど全員私にとって大切な仲間達だった。
もう私の近くにはいない。
- 8 名前:25:もらい泣き 投稿日:2002年12月05日(木)22時33分01秒
- ザァァァァァ。
まだ雨は降り続けている。
やっぱり、眠りを誘うじゃんか…。
周りの喧騒は徐々に聞こえなくなっていくのに
何故か雨の音だけは耳から離れない。
ザァァァァァ。
「今までアリガトウ」
ごっつぁんの声が聞こえる。
ザァァァァァ。
「りんねさぁ〜、もう疲れちゃったんだよね…」
りんねの声が聞こえる。
ザァァァァァ。
「アタシ、一人でやっていく決心したんや」
みっちゃんの声が聞こえる。
皆、置いていくんだ。
いつもそうだ。
私は置いていかれる側の人間なんだ。
明日香もあやっぺも紗耶香も裕ちゃんも…。
皆、私を…私達を置き去りにして自分達の新たな世界へ行っちゃう。
今では笑ってお別れしてるけど本当は辛いんだよ。
誰にも気付かれないように必死で誤魔化しているけれど。
ずっと仲間だよ、って言って来た言葉に嘘はないけれど
こうして離れちゃうと淋しいもんだよ。
- 9 名前:25:もらい泣き 投稿日:2002年12月05日(木)22時33分47秒
- 「圭織、そろそろリハ始まるよー」
圭ちゃんの声が聞こえて我に返った。
慌てて周りを見渡すと殆どのメンバーがすでにいなくなっている。
「しっかりしてよ」
「…うん。ゴメン」
呆れた顔をしている圭ちゃんに向かって
素直に謝りながら私は立ち上がった。
そして圭ちゃんの顔を眺める。
圭ちゃんももうすぐいなくなっちゃうんだなぁ…。
そう思うとまた淋しくなってしまう。
「どしたの?」
立ち尽くしてぼーっとしている私を見て圭ちゃんは怪訝そうに首を捻った。
「…なんでもない」
「そういや、さっきメール着てたみたいだよ」
圭ちゃんは私の鞄を指差して、そのまま出て行ってしまった。
楽屋には私一人。
冷えた空気が私を包み込む。
一瞬身震いをして私は身を縮めながら携帯へ手を伸ばした。
携帯を見て私は少し驚いた。
表示されている名前は紗耶香だった。
- 10 名前:25:もらい泣き 投稿日:2002年12月05日(木)22時34分42秒
- ――数日後。
紗耶香と待ち合わせした喫茶店に私は約束の時間よりも早く着いてしまっていた。
近頃、嬉しい事なのかどうかはよくわからないけれど休みが多い。
今回なんて三日も休みが出来てしまった。
どうせ年末になったら鬼のようにまた忙しくなるんだろうけど。
休みに慣れていない矢口は物凄く不安がっていて
このまま仕事が来なくなったらどうしよう、と騒いでいたけれど
その時は笑って済ませた。
でも本当は私だって心細い。
私達は一体どこへ向かっているのだろう。
未来は明るいのかなぁ。
そして彼女の未来はどうなるのだろう…。
手にしていた携帯に目を落として私はため息をついた。
圭ちゃんも呼んだ方がよかったのかな、と思いつつ
休みだったっけ?と鞄の中にある手帳で確認しようとして手を止める。
その理由は一通の封書が目に入ったから。
手に取り、一度読んだはずなのにもう一度見てみる。
それは今日届いたりんねからの手紙だった。
- 11 名前:25:もらい泣き 投稿日:2002年12月05日(木)22時36分10秒
- 今の時代、メールとかで済ます事が多くなっているというのに
手紙という形をとっているのはりんねらしい、と思った。
彼女はファンレターの返事もマメに返す人だったから。
機械の文字だと気持ちが伝わらないような気がして嫌なんだ、と
笑いながら言っていたっけ。
今までとは違う形での一人立ちを決めたりんねはしばらく休暇を楽しんでいるらしい。
文字を見ただけで彼女がリラックスしている雰囲気がよく伝わってくる。
手紙の文字がこんなにも暖かく感じさせるものだったなんて今まで知らなかった。
カントリー娘。として活動していた時は色んな事があり過ぎて
いつも苦しんで泣いていた姿を見せていたりんねが今ではこんなにも明るい。
この手紙からそれが物凄く伝わってくる。
卒業という選択は間違っていなかったのだろうな、とこの手紙を見る度に私は思うだろう。
ただ会えなくなってしまったのは淋しい事だけど。
明日にでも手紙の返事でも書こうかな。
彼女が大好きな馬の絵を添えて。
- 12 名前:25:もらい泣き 投稿日:2002年12月05日(木)22時38分07秒
- 手紙をぼんやり眺めていると人の気配に気付き
私は顔を上げた。
そこには笑顔の紗耶香がいた。
しかし少し濡れている。
「あ、ゴメン。手紙の差出人見えちゃった」
「いや、いいよ。雨が降ってたの?」
「うん。来る時に突然、降りだしちゃって…参っちゃったよ」
手で乱暴に水滴を払いながら紗耶香はそのまま私の席の前に座った。
「りんね、元気そうだった?」
「うん。しばらく、のんびりしてるって」
「へぇー。でも、あんましのんびりし過ぎるのもよくないって言っといて」
紗耶香は自虐的な笑みを浮かべてそう言った。
私はその意味が何となくわかったけれど
さりげなく話題を逸らした。
「最近忙しそうだね」
「アルバム出たばっかだからイベントが多くてさ。
実は今日も夕方からラジオの撮りがあるんだよね」
「時間大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。だって、久し振りに圭織と会いたかったし」
紗耶香はへらっと笑って答えた。
なんだかとっても嬉しかった。
紗耶香も私達から離れて、新しい世界へ旅立ってしまった人間。
だから昔に比べて会う回数もグンと減ったけれど
こうして会ってくれる。
紗耶香が休業してた時もたまに会ったりしていた。
- 13 名前:25:もらい泣き 投稿日:2002年12月05日(木)22時39分44秒
- 「忙しいのはいい事だね。圭織なんて三日も休みが出来たんだよ」
「マジで?今までなら考えられない事じゃない?」
「矢口なんて悲鳴上げてたよ」
私は笑いながら言ったのに紗耶香は笑わなかった。
ザァァァァァ。
喫茶店の中にいるのに外の雨音が聞こえてくるくらい
激しく降り始めたらしい。
外から聞こえてくる雨の音に紛れて
他の音が頭の中に流れてきた。
『妹よ〜、妹よ〜。今夜は雨が降っていて〜。
妹よ〜、妹よ〜。おまえの木琴が聞けない〜』
それは『木琴』だった。
高橋が歌っていたあの日からずっと耳に残っている曲。
詞やメロディーが重いから気が滅入るのだと思ってた。
でもやっと気付いた。
重なるからだ。
大好きだった彼女達の歌が聴けない。
聴く事が出来ない。
重なるんだ。
私の前からいなくなった仲間達に。
私の近くにいる仲間達に。
そして私自身にも。
- 14 名前:25:もらい泣き 投稿日:2002年12月05日(木)22時41分00秒
- ザァァァァァ。
雨の音が耳障りに思えて耳を塞ぎたくなってきた。
会話をすれば気が紛れる。
私はそう思って無理やり会話をする事にした。
「雨降ると面倒だね。傘なんて持ってきてないのに」
私の呟きが聞こえなかったのか、紗耶香は外を眺めながら黙り込んでいた。
どこか遠くを見ている。
私を置いて意識をどこかへやってしまったかのように。
疎外感を感じて、そして沈黙のせいでますます雨の音が耳障りになってきて
私は慌てて口を開いた。
「そういや、みっちゃんのライブも雨だったんだよ」
「……ああ、らしいねぇ。そんで、あたしが行った後藤のライブの日も雨だった」
ようやく紗耶香は私に視線を戻したのでホッとした。
でも、私はすぐに目を見開いた。
紗耶香は真剣な表情で私を見ていたから。
- 15 名前:25:もらい泣き 投稿日:2002年12月05日(木)22時42分04秒
- 「…どうしたの?」
「おかしな事言っていいかなぁ?」
「何?」
「この雨って圭織が降らせてるのかと思ってた」
「……はぁ!?圭織が雨女って事?やめてよ、みっちゃんでもあるまいし」
私が笑いながら呟くと紗耶香は「そういう意味じゃなくてさ」と乱暴に頭を掻いた。
「上手く言えないけど、圭織が泣く代わりにこの雨が降ってるのかなと思ってさ。
そんな事有り得ないってわかってんだけど」
「……何それ?」
「だって、前から圭織って泣きたい時にあんまし泣かなくなったでしょ?
昔はあんなに感情的だったのにさ。今じゃ殆ど泣かなくなった。
でもその代わりに圭織が泣くだろうなって日は天気が崩れてるんだよ」
「……紗耶香ってば、面白い事言うね」
「自分でもそう思う。でも…」
そう言って紗耶香は窓の外の雨を眺めた。
ザァァァァァ。
「この雨って圭織の涙の代わりなのかなって、どうしても思っちゃうんだよね」
- 16 名前:25:もらい泣き 投稿日:2002年12月05日(木)22時43分06秒
- 性格とかどこも似通ってないのに何故か昔から紗耶香とは馬が合った。
自分の悩みを話さなくてもお互いに不思議とわかってしまう。
きっと今の私の気持ちも紗耶香は全て見抜いているんだ。
しばらく二人して黙り込んだ後、私はポツリと呟いた。
「本当にそんなにタイミングがバッチリだったら面白いよね」
「……圭織」
「紗耶香は何を勘違いしてるのかは知んないけど圭織だって泣く時は泣くよ。
ごっつぁんのライブの時だって泣いたし」
「そりゃそうなんだけど…」
紗耶香は閥が悪そうに口をつぐんだ。
そんなのあるわけないじゃん。
天気まで動かせるようになったらますます皆に変な目で見られちゃうよ。
私がそう言おうとしたら先に紗耶香が口を開いた。
「みっちゃんの時はどうだった?」
「……え?」
「裕ちゃんがボロボロ泣いたっていうのは聞いたんだけどさ」
紗耶香は笑いながら言った。
- 17 名前:25:もらい泣き 投稿日:2002年12月05日(木)22時44分23秒
- みっちゃんが自分の道を選んだ事に一番ショックを受けたのは裕ちゃんだと思う。
裕ちゃんとみっちゃんは出逢った時からずっと仲がよかったから。
でも裕ちゃんと私とでは立場が違う。
裕ちゃんみたいに決して同等にはなれない。
私にとってみっちゃんは心の支えだった。
他のメンバーには話せない事も色々話せた。
年上っていうのもあるのだろうけど
同じグループじゃないから話せるっていうのがあったんだと思う。
みっちゃんは私にとって頼りになるお姉ちゃんだった。
「ずっと心配してたんだ。
ラストライブは行けなかったんでしょ?前日は行けたけど。
昔から二人は仲良かったからさ。ちゃんと連絡取れてるのかなーと思って」
「……」
「そういう意味では、りんねもそうだけど、どうやら心配はなさそうだし」
紗耶香は手紙を指差して、そして「後藤の場合はまだ会えるしね」と続けた。
- 18 名前:25:もらい泣き 投稿日:2002年12月05日(木)22時45分23秒
- 「最近、忙しくて連絡は取ってないかな…」
さっき休みが出来たと言ったばかりなのに
全く説得力のない言い訳をしている。
私はその事に気付けないくらい動揺していた。
紗耶香も特にツッコミを入れるような事はしなかった。
連絡を取っていないのは私に意気地がないから。
取ってないんじゃなくて、取れないだけ。
何を話していいのかわからない。
りんねもそう。
私の方から連絡を取る事なんて出来なかった。
彼女達の選んだ道があまりにも険し過ぎて。
「みっちゃんもさ、連絡取り難いんだと思うよ。
あたしも休業してる時は連絡したら迷惑かなってずっと躊躇ってたし」
「そういうもんなの?」
「うん。そういうもんなの」
にへっと紗耶香はまた笑った。
少し前までは淋しそうな笑みを浮かべる事が多かった紗耶香なのに
今では昔のような心からの笑みを浮かべるようになっている事に今頃気付いた。
- 19 名前:25:もらい泣き 投稿日:2002年12月05日(木)22時46分45秒
- 「仕事楽しい?」
「何?いきなり…」
虚をつかれたらしく、紗耶香はキョトンとしている。
「いや、いい顔するようになったなーと思って」
「今は仕事が楽しいからね。そりゃ、娘。にいた時よりも色々大変だけど
歌うのが楽しいって改めて最近思ったんだよね」
「そっか…」
紗耶香の憑き物が落ちたような表情を見ていたら納得せざるを得ない。
「みっちゃんもあたしと一緒だと思うよ」
「一緒って?」
私は思わず訊き返していた。
「何かを犠牲にしてでも前に進みたかったんじゃないかな。
例え失うものが大きくてもね。
全部わかっててみっちゃんは進んだんだよ。自分を信じて…」
「……」
「そして皆にも信じててもらいたいんだよ」
紗耶香に言われると物凄く重い言葉に聞こえた。
少し前までは形はどうあれ同じような状況にいた人だったから。
- 20 名前:25:もらい泣き 投稿日:2002年12月05日(木)22時50分57秒
- 「あ。携帯だ…」
紗耶香は顔をしかめて私に向かって頭を下げながら席を外した。
遠くなっていく紗耶香の背中を見送って
私は自分の携帯を手にした。
ずっとかける事が出来なかった携帯。
ずっと送る事が出来なかったメール。
今ならかけられると思った。
今なら送れると思った。
私が信じてあげなくちゃ。
彼女はきっと戻って来る。
頭の中で流れていた『木琴』はいつの間にか止まっていた。
きっともう流れないだろう。
紗耶香の仮説はあまりにも突飛で馬鹿馬鹿しいと思うけれど
納得してしまう自分がいるから。
ザァァァァァ。
この雨は私の心の涙。
でも今まではみっちゃんの心の涙だったのかもしれない。
それを私が受け継いだだけ。
携帯の呼び出し音を聞きながら私はクスリと笑った。
人に迷惑をかけるもらい泣きって、どうなんだろ。
こういうのは、もらい泣きとは言わないか。
そんな事を思っているとプツッとコール音が止まった。
- 21 名前:25:もらい泣き 投稿日:2002年12月05日(木)22時51分47秒
- 「久し振りやなぁ。元気してた?」
本当に久し振りに聞くみっちゃんの声。
彼女の声は明るかった。
「うん。あのさ、みっちゃんに雨女の称号を返そうと思って」
「……はぁ?」
みっちゃんのとぼけた声が雨の音でかき消される。
ザァァァァァ。
雨の音はますます大きくなっていく。
- 22 名前:25:もらい泣き 投稿日:2002年12月05日(木)22時52分38秒
- 私の涙代わりの雨。
今日は哀しみの涙じゃなくて嬉し涙。
- 23 名前:25:もらい泣き 投稿日:2002年12月05日(木)22時54分34秒
- 雨
- 24 名前:25:もらい泣き 投稿日:2002年12月05日(木)22時55分24秒
- 雨
- 25 名前:25:もらい泣き 投稿日:2002年12月05日(木)22時56分33秒
- 夜
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