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アメ後

1 名前:19番 アメ後 投稿日:2002年12月04日(水)20時56分11秒

「なにしてるんですか?」

今日は日曜日。でも天気は雨。
傘も差さず、雨に打たれ震えながら女の子は座っていた。
私は面倒な事が嫌い。だから大抵の事は見て見ぬ振りをしてきたし
いつも傍観者を気取っていた。
でもさすがにコレは無視できない。

2 名前:19番 アメ後 投稿日:2002年12月04日(水)20時57分16秒
だってそのコはワタシンチのドアの前に座ってるんだもん。
「なにしてるんですか?」
この質問は別に彼女が雨の中、子犬の様に震えているのを心配して聞いたわけじゃ決してない。
見知らぬ人がなぜウチのドアの前に座っているのか、
そして雨の中寒い思いをして帰ってきた私を、早くウチに入れさせろバカヤローという怒りをこめての質問。
彼女が顔を上げた。

3 名前:19番 アメ後 投稿日:2002年12月04日(水)20時58分14秒
あっちゃー・・・泣いてるよ。
勘弁してよ。人の泣き顔は私が嫌いな物BEST3にランクインしている。
やだ、面倒な事は嫌いだ。
私はここで弱みを見せてはダメだと考え、さっきより少し強めにもう一度同じ質問をした。

「ここでなにをしてるんですか?」

質問の言い方がまずかったのか、それとも質問自体がまずかったのか、
彼女は当然のように大声で泣き出した。

「うわぁ〜ん!!だって、だって、よっすぃーが、よっすぃーが!」

通り過ぎてゆく人達が後ろ眼で彼女、いや私達を見ていく。
うーん。この調子なら、明日にはかわいい女の子を泣かした悪者として、
私の事がこの狭い町に知れ渡るんだろうな。
それでなくてもご近所の皆さんには愛想が無い事で有名だ。

4 名前:19番 アメ後 投稿日:2002年12月04日(水)20時59分04秒
わかりました。わかりました、神様。どうしても私にこのセリフを言わせたいのですね。
言いますよ。言えばいいんでしょ?

「どうしたの?ココじゃ寒いから良かったら家の中で話し聞くよ?」

私はめーいっぱいの作り笑顔でこう言った。
すると彼女は雨には似合わない笑顔でこう言った。

「本当に!ホント!?ありがとう!!」

おいおい、なんで抱きつくんだよ。はぁ〜やっぱり面倒な事になりそう。

5 名前:19番 アメ後 投稿日:2002年12月04日(水)21時01分07秒
玄関で、雨に濡れた体を拭いて彼女を私の部屋にご招待した。
さっきまであんなに泣いていたのが嘘のように彼女は私の部屋をうれしそうに漁っている。

「ねえーねえー、彼氏の写真とかないの?あっコレ男の子!この人が彼氏?あっ弟くんかぁ。へぇー結構カッコイイね!」
ウザい。ウザすぎる。こういうタイプの子が一番苦手だ。
大体雨の中雨宿りもしないで、傘も差さずに座っているなんてどこか勘違いしているとしか思えない。
とりあえず彼女のお話を聞かせてもらって、いち早くお帰りしていただこう。
6 名前:19番 アメ後 投稿日:2002年12月04日(水)21時02分08秒

「あのさぁー・・・さっきの事何だけど、どうして私の家の前で泣いてたのかなぁ・・・なんて。」
沈黙。────まさか!?私今かなり気を使って優しく聞いたじゃない!お願い、やめて!

「うえぇーーーん!!だって、だって、よっすぃーが、よっすぃーが!!」
ご丁寧にさっきと同じ事を言いながら彼女はまた泣きだした。
いやさっきは「うわぁーん」で今度は「うえぇーん」だ。───どうでもイイけどね。

「よっすぃーが、よっすぃーが!だって、だってーーー!!」
泣くと、「ヨッシー」と「だって」という言葉しか話せなくなる病気にでもかかっているのだろうか。
だったら私の手には負えない。
7 名前:19番 アメ後 投稿日:2002年12月04日(水)21時03分14秒
「お願いだから泣かないでね。はいっ、これ紅茶!コレ飲んで落ち着いて話してね、お願いだから。」
彼女は泣き顔で紅茶を赤ちゃんのようにストローで吸い始めた。

「そうそう落ち着いて、一からゆっくり話してね。私一生懸命頑張って聞くから。」
思わず本音が出てしまった。
でも彼女は何を勘違いしたのか、
「うん!梨華ガンバル!!」
と、うれしそうに一言言ってくれた。
少し頭痛がしだした中で一つだけわかったのは、彼女の名前がリカだという事。

8 名前:19番 アメ後 投稿日:2002年12月04日(水)21時04分04秒

「───よっすぃーと私はね───よっすぃーがね───あのね、公園でね───で私は───なのに、なのに───」
彼女が「よっすぃー」と「だって」以外の言葉を話せるようになって1時間30分経過。
やっぱりというか、案の定恋愛の悩みというヤツだった。
素晴らしい事に私の大嫌いな物NO.2は相談事で、輝くTOP1は恋愛の悩みだった。
本格的に頭痛がしだした。

9 名前:19番 アメ後 投稿日:2002年12月04日(水)21時04分52秒
彼女の言いたい事は、たぶんわかった。
彼女の1時間30分にも渡る大演説を勝手に要約させてもらうと、こういう事だ。
どうやら彼女には好きな人、よっすぃーがいる。あっ、ちなみにヨッシーでは無いらしい。
マリオのペット?と聞いたら顔を真っ赤にして怒られた。そして字まで教えてくれた。
譲れないこだわりがあるみたいだ。
そのよっすぃーにワタシンチの前の公園でリカちゃんが告白したらフラレテしまい、
何も考えられずにワタシンチの前に座っていたら雨が降ってきた。というお話。
この話を聞いて真っ先に頭に浮かんだのは、なぜコレだけの話に1時間30分もかかったのかという疑問。
ある意味尊敬に値する。彼女のお友達の、月の電話料金は想像もつかない。

10 名前:19番 アメ後 投稿日:2002年12月04日(水)21時05分57秒

「だって、ひどいんだよ!私が『よっすぃーと私って恋人に見えるよね。』って告白したら
『そんな風には見えないっしょ。』って一言!たった一言だよ!!ひどいよ!ひどすぎるよ!!」

えっ。

「リカちゃん、今なんて?」
「だから、よっすぃーがひどいの!!」
「じゃなくて、告白の言葉。」
「だから!もう、しっかり聞いてよ!『よっすぃーと私って恋人に見えるよね。』って言ったの!恥ずかしいからもう言わないからね!!」
「それで…よっすぃー…さんは?」
「だから!『そんな風には見えないっしょ。』って!!ひどいでしょ!ひどすぎるよ!!うえぇーーーーん!!!」

彼女の聞きなれた泣き声が響く中、私は気を失いそうになっていた。
嘘だ・・・嘘だと言ってください神様。なぜです、なぜなのです。なぜ私にこんな試練をお与えになさるのですか?
このたった一言のために、この日本一の勘違い女のために、私は貴重な日曜日をなぜ捧げなければならなかったのですか?


11 名前:19番 アメ後 投稿日:2002年12月04日(水)21時07分02秒

「うえぇーーーん!!」
・・・あぁ頭が痛い。
「うわぁーーーん!!」
・・・うるさいよ。
「うわぁーーーん!!うえぇーーーーん!!!」
・・・うるさいって。
「うわぁーーーん!!!うえぇーーーーん!!!うわぁんーーーーーーん!!!」
・・・ブチッ
12 名前:19番 アメ後 投稿日:2002年12月04日(水)21時08分16秒
「うるさいって言ってるの!!泣けば何でも許されると思ってんじゃないの!?だいたいなによソレ!
告白でもなんでもないじゃない!!いい、告白ってのはね、心から悩んでその人の事しか考えられなくなって、
何日も何日も考え悩んで泣いてそしてやっと出てきた言葉がどんなにアオくさくてもどんなに恥ずかしい言葉でも
どんなに長くてもその人に伝わらなければ意味が無いのよ!!!」


・・・はぁはぁはぁ───やってしまった。
正直自分でも何を言いたかったのかわからない。頭にすごい勢いで浮かんできた言葉をそのまま声に出してしまった。
彼女は涙を止めて呆然としている。
自分が嫌いになりそうだ。もうちょい大人だと思っていたんだけどなぁ。
13 名前:19番 アメ後 投稿日:2002年12月04日(水)21時09分19秒
・・・どうしよう。この雰囲気。
とりあえずあやまっとこうかな・・・。
「ご「ごめんなさい」」
えっ。
「ごめんなさい。私もわかってたの、こんな言葉じゃ伝わらないかなって。
でも怖かったの。好きですと言って、返ってくる言葉が怖かったの。
それでもあの告白は心から勇気を振り絞って言った言葉だったの。……だから。だから。」

14 名前:19番 アメ後 投稿日:2002年12月04日(水)21時10分09秒
最悪だ。私は何様なんだろう。彼女の勇気を否定してしまった。
私なんて告白もしたこと無いのになんであんな事が言えたのだろう。
本当に自分が嫌いになった。

「本当にごめんね。初めて会ったのに悩みなんて打ち明けて迷惑だったよね。
本当にごめんなさい。今日は本当にありがとうございました。おじゃましました。」
彼女は今までと違って、泣き声を上げずに涙を床に落としていた。
そして部屋のドアを開けた。

15 名前:19番 アメ後 投稿日:2002年12月04日(水)21時10分54秒
「待って!!」
私は一度空気を飲んだ。

「……あのぉ……なんて言ったらいいかわからないけど
やまない雨はないし、止まらない涙も無いと思うの。だから、その、
えっと……ごめんなさい。」

私はどんな顔をしてるんだろう。

16 名前:19番 アメ後 投稿日:2002年12月04日(水)21時12分12秒
──何秒か間を置いて彼女はゆっくり振り返った。

「・・・んー。どうしようかなぁー。しかたないな。うん、許してあげるよ。」
彼女は笑顔だった。それはもうムカツクぐらいの。

「・・・ありがとう。」
「どういたしまして。」
今の私の顔は鏡を見なくてもわかる。引きつりまくった笑顔だろう。

私が悪いのはわかってるよ、でも何なのその態度、その言い方、私だって今勇気を振り絞って告白したんだから。
私が悪いのはわかってる。でもさぁ、でもさぁ!・・・というか、本当に私が悪かったの?

17 名前:19番 アメ後 投稿日:2002年12月04日(水)21時13分35秒
「でも、私も本当にありがとう。また今度会いましょう。」
そう言い残し彼女は部屋を出て行った。
何か最後に恐ろしい言葉が聞こえた気がするけど、気のせいだと自分に言い聞かせた。

今日は疲れた。せっかくの休日なのに疲れた。
でも元気になってくれたし、感謝されたし、ウザかったし、むかついたけど・・・まぁイイッか。
なんか楽しかった気もするし。コレも気のせいだと思うけど。

玄関のドアがガタンと鳴ったのが聞こえた。
あっ!そういえば外、雨が降って────なかった。
窓からのぞいた景色は、太陽が何事も無かった様に地面を照らしていた。でもその地面にはしっかり水溜りができていた。
家から出てきた彼女と目が合った。



18 名前:19番 アメ後 投稿日:2002年12月04日(水)21時14分39秒

「そういえば名前聞いてなかったよね!!なんて言うの!?」

彼女は人目も気にせず大声で私に聞いてきた。
私はためらわずに答えた。

「ひとみ!!吉澤ひとみ!!」

彼女はまたあの笑顔で一度頷いた。
そして手を振りながら走り去って行った。

本当にムカツク子だった。
でも、ムカツク雨みたいな泣き顔よりも、太陽の様なムカツク笑顔の方が私は好きだったなぁ。
・・・なんちゃって。



19 名前:19番 アメ後 投稿日:2002年12月04日(水)21時15分09秒
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20 名前:19番 アメ後 投稿日:2002年12月04日(水)21時15分41秒
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21 名前:19番 アメ後 投稿日:2002年12月04日(水)21時16分19秒
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