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よりみち
- 1 名前:18番 よりみち 投稿日:2002年12月04日(水)18時13分21秒
――あめ、あめ、ふれ、ふれ、もっとふれ――
- 2 名前:18番 よりみち 投稿日:2002年12月04日(水)18時14分20秒
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「また今日も雨か……」
私は教科書に落書きしていた手を止め、窓の外に目をやった。
雨が校門の前に咲くあじさいの葉を叩いている。
「早く放課後にならないかな……」
雨の日は、頭の中が重くなるような気がして好きじゃない。
外を見ると憂鬱な気分になるので、創りかけの物語の続きを考えた。
「ちょっと、理沙ちゃん」
誰かが私の妄想をさえぎる。後ろの席のあさ美ちゃんだ。
「なに?」
「理沙ちゃん、当たってるよ」
「……ごめん、どこやってるの?」
「源氏物語の12行目から読むの」
「ありがと……あれ」
私はそのときになって初めて、一人だけ英語の教科書を出していることに気が付いた。
放課後になっても雨は降り続いていた。
友達にさよならを言った後、あさ美ちゃんと部室へ向かう。
部屋のドアを開けると、もうすでにまこっちゃんと高橋先輩、それと先生がいた。
文芸部は部員4人の小さな部だ。しかしそれだけに仲はいい。
- 3 名前:18番 よりみち 投稿日:2002年12月04日(水)18時15分08秒
先生は、私が来たのを確認すると、話を始めた。
「じゃあちょっと聞いてください。もうすぐ夏休みなので、
休みに入るまでに、一つ作品を提出してもらいます。
形式は詩、随筆、小説なんでもいいです。
ただし、テーマがあります。それは、『雨』。
『雨』をテーマにして自由に書いてください。
ちなみに出来上がった作品はもうすぐ引退する高橋さんに、
記念として渡すつもりですので張り切ってやってくださいね」
……雨、か。どうしよう。
雨と言って浮かんでくることと言えば……
トラックに水を引っ掛けられた自分。
いくら気にしても濡れてしまうスカートの裾がすごく気になる自分。
傘を忘れて、カバンを傘代わりに大慌てで家へ帰る自分。
何故だか知らないけど嫌な思い出ばっかりだ。
いや、それはみんな同じだろう。雨が好きなんてよっぽどの変人だ。
学校でも、『あーあ、雨かよ……』と言う人はいくらでもいるが、
『やった、雨だ』なんて聞いたこともない。
すぐに考えが煮詰まってしまった私は、あさ美ちゃんの所へ行ってみた。
- 4 名前:18番 よりみち 投稿日:2002年12月04日(水)18時15分45秒
「あさ美ちゃん、どうする?雨だって」
私は思いっきりけだるい声で言ったが、あさ美ちゃんは気にする様子もない。
「あたしは好きだなー、雨。なんかねー、落ち着く」
……こんな身近によっぽどの変人がいたとは。
私は思わず笑いながら、言った。
「そうかなー。ただ憂鬱になるだけじゃん?」
「んーまあそうかもね。でも雨でずぶ濡れになるのって、結構楽しいんだよ」
「え゛―っ、あさ美ちゃん変わってるー!」
「そうかなー……」
「第一そんなびしょ濡れになって帰ったらお母さんに怒られるよ」
「それは分かるけど、でも楽しいんだって」
……変なの。私には理解できないな。
そう思って他の相談相手を探すべく教室を見回した。
高橋先輩は、まじめな顔で紙に鉛筆を滑らせている。
まこっちゃんはほおづえをついて窓の外を眺めている。
二人とも真剣だ。ちゃんと雨について考えてる。私も一人で頑張ろう。
とは思ったものの、どうも上手く行かない。
そのうちに、下校時間が来てしまった。
四人で昇降口に向かう。外は暗かったけど、雨は止んでいた。
校門を出てから、私達はいつも二手に分かれる。
私は高橋先輩とだ。
- 5 名前:18番 よりみち 投稿日:2002年12月04日(水)18時16分24秒
「雨、上がっちゃったねえ」
唐突に先輩が話し掛けてきた。私は考え事をしてたのでビクっとなった。
「そうですね」
そう言えば、傘学校に忘れてきた……
私はその時になって思い出した。
けれど、今さらとりに行くわけにもいかない。
「ほら、青だよ。急ごう」
「あ、はい」
私達は横断歩道を小走りに渡った。
そしてすぐ向こうにあるのが、先輩の家。
「じゃあ、気をつけて帰ってね」
「はい。ありがとうございます。さよなら」
「うん、バイバイ」
ここからは、私の家まで一本道だ。
長いようで短い。短いようで長い。そんな道。
私が歩き出すと同時に空から何か冷たいものが降って来た。
雨だ。
私は急いで傘をさそうとした。
……。
傘、学校だ。
なんてついてないんだろう。たまに忘れたと思ったらこれだ。
情けないため息をついてから、私は駆け出した。
梅雨の夕立は激しい。瞬く間に雨は本降りになり、私に襲い掛かった。
その瞬間。
天がカッと光り、少し後にズシーンと轟音が街中に響く。
- 6 名前:18番 よりみち 投稿日:2002年12月04日(水)18時17分23秒
私は長い一本道の途中で曲がり、近くの川の土手へ走り出した。
もう下着までびしょびしょなので雨はまったく気にならない。
一気に土手を駆け登り、向こう側へ降りる。川面が雨に踊っていた。
そこで私は寝転がった。
なんだかずっと騙されていた気分だ。雨がこんなに暖かいなんて。
まるでちょうどいい温度のシャワーのようだった。
なんだかすごく気持ちがいい。なんともいえない開放感だ。
ふと、この水滴一つ一つは、1年前どこにあったのか、と考えてみた。
アメリカかもしれないし、北極かもしれない。
いつまでもこうしていたいと思った。
本当に、ずっとそうしていた。
気が付くと、辺りはさっきよりだいぶ真っ暗になっている。
ゆっくりと体を起こし、立ち上がった。いつの間にか雨はあがっていた。
明日も、雨になるといいな。
そんなことを考えながら、私はまた歩き始
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- 7 名前:18番 よりみち 投稿日:2002年12月04日(水)18時18分01秒
- ここまで書いて、新垣理沙は鉛筆を置いた。
一気に書き上げてしまうのはもったいないと思ったからだ。
彼女はしばらくぼーっとした後、原稿用紙の最後のページに
『ページとの一致(約100000件中1-20件目)』
と書き、電気を消してベッドに入った。
今度は、親友の紺野と雨に濡れる夢を見た。
おわり
- 8 名前:18番 よりみち 投稿日:2002年12月04日(水)18時19分50秒
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- 9 名前:18 よりみち 投稿日:2002年12月04日(水)18時20分27秒
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- 10 名前:18番 よりみち 投稿日:2002年12月04日(水)18時21分05秒
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