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雨は何も知らない
- 1 名前:13 雨は何も知らない 投稿日:2002年12月03日(火)23時48分27秒
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キーンコーンカーンコーン…
走り終えた生徒達はゾロゾロと更衣室へ入ってゆく。
そんな中、紺野は皆と逆方向に進んで行く。小川は紺野に駆け寄った。
「あさ美ちゃ〜ん、どこ行くの〜?」
紺野はゆっくりと振り返る。
「私、体育係だから用具片付けないと」
たった今、使っていたハードルを手に取って言う。
- 2 名前:13 雨は何も知らない 投稿日:2002年12月03日(火)23時49分20秒
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「あ、そっか…。じゃ、あたしも手伝うよ!」
「ううん、大丈夫。先に着替えて待ってて」
「…ん〜分かった」
小川は更衣室へ入っていった。紺野はそれを見届けると、ハードルを片付けてゆく。
その時、ポツポツと雨が降りだしてきた。
「あぅ…雨だ…。急がなきゃ…」
- 3 名前:13 雨は何も知らない 投稿日:2002年12月03日(火)23時50分55秒
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ハードルを掲げ、体育館の裏にある倉庫へと向かった。
雨はサラサラと小雨程度に降っている。倉庫に着くと、次々とハードルをしまっていく。
その時、ふとある物が目に入った。アスファルトの上にある水溜りだ。
紺野はハードルを運ぶ手を止め、水溜りに近づくと、その場にしゃがみこむ。
すると急に考え始めた。降ってくる雨を、まったくと言っていいほど気にしていない。
(おかしい…)
紺野は違和感を感じていた。この水溜りに。
雨は今さっき降り始めたばかりだ。にもかかわらず、この水溜りは
車のタイヤ2〜3個分はある。
- 4 名前:13 雨は何も知らない 投稿日:2002年12月03日(火)23時51分30秒
しかし、まだ何かがひっかかる。紺野は水溜りを覗き込んだ。
もう少し…あと少しで分かる。あと少しで違和感の正体が分かる。
(…なんだろう…何かが違う)
紺野は今、開けてはならない扉を開けようとしている。
そして――――
開けてしまった。
「……あ…これ…」
- 5 名前:13 雨は何も知らない 投稿日:2002年12月03日(火)23時52分03秒
いけなかった。この水溜りの存在に気付いては。
いけなかった。この水溜りに違和感を感じては。
いけなかった。この水溜りに近寄っては。
いけなかった。この水溜りを覗き込んでは。
水溜りは、今まで紺野がしゃがんでいた場所を飲み込んだいった。
その近くには靴がある。雨は何も知らずに、ただ静かに降り続けていた。
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- 6 名前:13 雨は何も知らない 投稿日:2002年12月03日(火)23時52分38秒
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あれから10分。小川は更衣室の中で紺野を待っていた。
更衣室の中は雨の降る音が鳴り響いている。4時間目の始業ベルは
とっくの昔に鳴った。しかし、紺野は未だに帰ってこない。
(ハードル片付けるだけで、こんなに時間かかるのかなぁ?)
ふと、脳裏にある事がよぎる。ここ最近、この町で中学生が相次いで行方不明になっている。
しかもここの学校の生徒ばかりだ。ニュースや警察では変質者の仕業だとか
言っているが、噂では神隠しだとか、七不思議がどうのこうのだとか言っている。
まさか紺野も…とは思うが心配だ。大急ぎで更衣室を飛び出した。
- 7 名前:13 雨は何も知らない 投稿日:2002年12月03日(火)23時53分13秒
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――倉庫の前。ハードルは全部はしまわれていない。
倉庫の扉は開きっぱなしだ。紺野の姿はない。
ヤバイ、と小川は思った。先生に言いに行こうとしたその時、
水溜りのそばに靴があるのを見つけた。
「…?」
小川は水溜りの近くにしゃがむと、靴を手に取った。
(あさ美ちゃんの靴…!でもなんで靴が…?)
そう思いながら小川は立ち上がる。が、手を滑らせ、水溜り目掛けて靴を落としてしまった。
- 8 名前:13 雨は何も知らない 投稿日:2002年12月03日(火)23時53分43秒
その瞬間、小川は目を見広げた。靴は水溜りに落ちても水しぶきを上げなかった。
それどころか、水溜りの奥に消えてしまった。
紺野が感じた違和感。それは水溜りの底が見えなかったことだった。
普通ならば、底が見えるはず。水は透明なのだから。
砂利だと濁っている時があるかもしれないが、ここはアスファルト。
底が見えないわけが無い。
- 9 名前:13 雨は何も知らない 投稿日:2002年12月03日(火)23時54分13秒
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小川はもう一度しゃがみ込み、水溜りを覗き込んだ。
その中は暗闇が延々と続いている。その時、何かが見えた。
青白い何かが。ちょっとだけ身を乗り出して見てみる。
「……あ…」
その正体が分かった時、体中の血の気が引いた。
手だ。
- 10 名前:13 雨は何も知らない 投稿日:2002年12月03日(火)23時55分39秒
奥の方から、手が伸びてきているのだ。しかも、こっちに向かって。
小川に恐怖が襲う。逃げようとしても逃げられなかった。
なぜなら、もうその手は自分の頭をがっしりと掴んでいるからだ。
青白く…とても細い腕。
次の瞬間、小川は水溜りの中に引きずり込まれた。
雨は何も知らずに、ただ静かに降り続けていた。
- 11 名前:13 雨は何も知らない 投稿日:2002年12月03日(火)23時56分10秒
- ―終―
- 12 名前:13 雨は何も知らない 投稿日:2002年12月04日(水)01時33分56秒
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- 13 名前:13 雨は何も知らない 投稿日:2002年12月04日(水)01時34分31秒
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- 14 名前:13 雨は何も知らない 投稿日:2002年12月04日(水)01時35分04秒
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