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The snow letter in a bottle

1 名前:11 The snow letter in a bottle 投稿日:2002年12月03日(火)22時18分21秒
「今日も疲れたねー」

「うん。でも明日は久々にお休み貰えたしゆっくり休めるよ」

私たちが付き合い始めてもう1年になる。
いつのまにか休みの前日はあさ美ちゃんの家へ泊まりに行くことが
習慣になっていた。
2 名前:11 The snow letter in a bottle 投稿日:2002年12月03日(火)22時19分40秒
「あさ美ちゃ〜ん」

甘えるように膝の上に頭を乗せるとしょうがないなと笑いながら
頭を撫でてくれた。

「どうしたの?今日はいつにもまして甘えたさんだね」

「……どうもハロモニの園児キャラが抜けきれてないみたいで……」

かたつむり〜と手でカタツムリの形を作っておどける。
考えてみれば、いつも私が甘える側だ。
あさ美ちゃんのほうが年下なんだけど、食べ物が絡まない限りは
私よりもずっと落ち着いてるからついつい頼ってしまう。
それを本人に話すといつも「愛ちゃんに甘えられるの好きだから」と
笑って答えてくれる。

「じゃ、子守唄代わりに昔話でもしようか」

頭の上から優しい声が降ってくる。
すでにうとうとし始めていた私が無言で頷くとゆっくりと静かな口調で
話が始まった。
3 名前:11 The snow letter in a bottle 投稿日:2002年12月03日(火)22時20分45秒

昔々、といってもそんなに昔じゃない昔。
ある一人の女の子がいました。
その子には一目見たときから惹かれていた人がいました。

その日は雪が降っていました。吹雪とまではいかないですが結構な大雪です。

その少女は大好きな人に向けて思いを綴ったラブレターを勇気がなくて
渡せずにポケットの中に入れたまま家路についていました。
このままその手紙を持って帰っても、それはただの紙くずになり
ゴミ箱へ行くことはわかりきっています。
4 名前:11 The snow letter in a bottle 投稿日:2002年12月03日(火)22時22分47秒
潮騒が静かに聞こえる海沿いの道で、少女はある映画を思い出しました。
内容はよく覚えていないけれど空き瓶に手紙を入れて海へ流すシーンがあった映画を。
少女は衝動的に空き瓶を探し、割と乾いている綺麗なビンにその手紙を入れ、
海へ投げました。
少女自身の心に残る想いも一緒に流れて、誰かに託そうと思ったのです。

その直後、少女を呼ぶ声がしました。
5 名前:11 The snow letter in a bottle 投稿日:2002年12月03日(火)22時23分36秒
「どうしたの?雪降ってるのに、こんなとこで。風邪ひくよー」

そう優しく声をかけてきたのは、何も知らない少女の想い人でした。
少女は平静を装い、とっさに考えた苦し紛れの言い訳を話します。

「え、いや、ちょっと散歩して帰ろうかと思って」

「そっか。冬の海も結構気持ちいーねー」

その人は納得したかのように一つ伸びをして、笑いました。
そして、何かを発見して少女に話し掛けます。

「あれ?なんか流れて来た」

波に乗ってやってきたそれは、先程のビンに間違いありませんでした。
浜辺から投げても、波はこちらへ向かって押し寄せているわけで、少女の
投げたビンは距離が足りずにその波に乗って戻ってきてしまっていたのです。
6 名前:11 The snow letter in a bottle 投稿日:2002年12月03日(火)22時25分18秒
その人はビンの中に手紙が入っているのに気付き、興味深そうにそれを取り
出しました。

「うわー、かっこいいー。なんか映画みたいだね」

しかし手紙は、水性ペンで書かれていたため雪や水に濡れて滲んでしまい
読める状態ではありません。
少女はほっとしたような、残念なような複雑な気持ちになりました。

「雨でも降ってたのかな?……でも、いいね。こういうのってさ」

「流してみる?」

少女の問いかけに、その人は首を横に振ります。

「流さなくても、ここにいる人に渡せば良いから」

その人は照れくさそうに笑って少女が伝えたくて伝えられなかった言葉を
くれました。
7 名前:11 The snow letter in a bottle 投稿日:2002年12月03日(火)22時26分40秒


「……それから二人は幸せに日々を過ごしているのでした。まる」

あさ美ちゃんの声が止んだ。

「……愛ちゃん、眠っちゃった?」

優しい問いかけに、寝た振りをする。

あの手紙はどこか別の地域で降った雨で濡れてたんじゃなく、
その日その場所で降っていた雪とビンに流れ込んだ海水だったのか。

ずっと片想いだと思い続けて私からしたと思っていた告白は、本当は
あさ美ちゃんが先にしていたのだ。

「……今年はいつ雪降るかなぁ……」
8 名前:11 The snow letter in a bottle 投稿日:2002年12月03日(火)22時27分21秒
独り言を呟くあさ美ちゃんの膝の上で、彼女の匂いに包まれながら
頭を撫でる手のぬくもりに身を任せ、私は今度こそ本当に眠りの世界へ
落ちていく。

明日は二人で海沿いを散歩しようと思いながら。
9 名前:11 The snow letter in a bottle 投稿日:2002年12月03日(火)22時27分56秒
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10 名前:11 The snow letter in a bottle 投稿日:2002年12月03日(火)22時28分31秒
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11 名前:11 The snow letter in a bottle 投稿日:2002年12月03日(火)22時29分15秒
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