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霧雨ワルツ
- 1 名前:7.霧雨ワルツ 投稿日:2002年12月02日(月)20時52分09秒
- 「降ってきちゃったね」
部活の帰りにはこういう事がよくあった。なんだかんだ理由をつけて、私達は
寄り道をして帰る自分達を正当化するのである。
「どっか寄って行こう」
呼びかけに返事はなく、答えてくれるはずの愛は雨の中に右手を差し出していた。
「制服、濡れちゃうよ」
そんな事はない。こんな霧雨の中なら表面に水滴が着くのがやっと。でも私はさっきの
恥ずかしい独り芝居をごまかすために、そう言いながら愛に近づいた。
愛は目を閉じていた。
「麻琴もやってごらん。こうして手のひらで雨を受けながら目を閉じるの」
私は愛とは逆の左手を延ばした。
「やったよ」
「手のひらに落ちてくる雨がさ、ワルツを踊ってるようじゃない?」
また始まった。
そう思いつつも親友の私は一応、意識を集中してみる。手のひらにあたる小さな粒に。
落ちる場所に。叩く間隔に。…わからなかった。
「ごめん、わからない」
「もうちょっと頑張って」
もうちょっと?
嫌な予感がして、私は目を開ける。遠くで愛がこちらを見て微笑んでいた。
顔が紅くなるのがわかる。
「麻琴ってば簡単にだまされるんだから」
霧雨の中に駆け出す愛に、私も負けずに走り出した。
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