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雨に消えた少女
- 1 名前:5番 雨に消えた少女 投稿日:2002年12月02日(月)17時24分26秒
- 「紺野ちゃん、いいもの貸してあげる」
ラジオの収録が終わり、帰ろうとした紺野を呼びとめたのは柴田だった。
紺野にとっていいものといえばまず食べ物であり、自他ともに認めている。
だが食べ物を貸すという人はあんまり見かけないので、紺野もあんまり期待せずに「なんですか?」と答えた。
渡されたのは一つのビデオテープだった。
「雨に消えた少女・・・」
頭に?マークを浮かべたのが見えたのか、柴田は紺野にヒントをあたえた。
「梨華ちゃんのお勧めだよ。」
「石川さん、ってことはホラービデオですか。」
柴田の一言ですぐに分かった紺野は、解答を言いながら「しまったあ。」と思っていた。
- 2 名前:5番 雨に消えた少女 投稿日:2002年12月02日(月)17時25分13秒
- 前回のラジオ収録の後だったか。
紺野はタンポポの両先輩に連れられて今流行りの某ホラー映画を見た。
はっきりいって紺野はあまりこの手の映画には興味がなかったのでむしろあの時は映画よりポップコーンに夢中になっていた。
そんなときに限って石川が紺野に感想を求めてくる。
もし紺野が率直に感想をのべるとしたら、ポップコーンの塩が多すぎて辛かったなのだがそう言うわけにもいかず、安易に、おもしろかったとかまた観たいとか言ってしまった。
それがいけなかったのかと自分の過ちを責める紺野。
「じゃあ来週まで借りさせてもらいます。」
ビデオを受け取った紺野はちょっと考えたあと来週のラジオ収録の前日にでも見ようと決めた。
空いている時間は今日の午後や明日の午前にもあったが、紺野は「映画の感想事件」の教訓をもってして次の日にちゃんと感想を言えるように備えることにした。
そしてそのビデオテープは数日間封印されることになった・・・
- 3 名前:5番 雨に消えた少女 投稿日:2002年12月02日(月)17時25分41秒
- その日は朝からしとしとと雨が降っていた。
今日は午後からテレビ番組の収録があるため午前中に計画通りビデオを見ることにした。
いや厳密に言うと今日まで忘れていた。
おまけに時間の都合で後半10分ほどは見る時間がない。
要するに計画は半分めちゃくちゃになっていたのだが、それまで特にすることもなかった。
しかもおあつらえむき外は雨。
紺野によって再生ボタンは押された。
- 4 名前:5番 雨に消えた少女 投稿日:2002年12月02日(月)17時26分15秒
- 「雨に消えた少女」
(主人公の小奈美がある日友達と話していると突然向かいの友人は不気味な苦しみにかられる。
心配する小奈美が背中に何か重いものがぶら下がっているような感覚に襲われたのはその時からだった。
わけがわからず小奈美は外に飛び出すが外を歩いていた人もまた友人と同じ苦しみを覚える。
どうやら小奈美を見た人はみな苦しみを覚えるらしい。
小奈美は雨のなか、傘もささずに大通りを走り、やっとの思いでひと気のない細い路地に入る。
そこで小奈美は始めて自分に背後霊がとりついてしまったことに気づく。
夢中で路地を駆け抜けようとするが霊は次第に重くなってゆく。
携帯電話を使おうとするも壊れてしまったのか携帯電話はなぜか使えない。
八方ふさがりの小奈美
背後霊はついに・・・)
あっ、もう行かなくちゃ。
ラストシーンを帰ってからのお楽しみとして、紺野は家を出た。
- 5 名前:5番 雨に消えた少女 投稿日:2002年12月02日(月)17時26分44秒
- スタジオにつくまではなんら変わったこともなかった。
収録も特に何事もなく終わり、まだ帰るそぶりを見せないほかのメンバーを尻目に紺野は早めに帰ろうとした。
紺野は本当は心のどこかでビデオの続きを楽しみにしていたかもしれない。
外へ出ようとすると、吉澤、それも普通の吉澤ではなく頭から水がぽたぽたとたれている珍しい姿の吉澤と鉢合わせた。
「うひゃあー寒い寒い、あれ、紺野、今から帰るつもり?ちょっと無理だよ、もう雨がすごいのなんのって。それよりちょうどよかった。いつもの・・・」
帰ろうとした紺野は無理やり小さなスタジオに連れて行かれ、いすに座らされた。
机の向こう側には紺野に取り調べをする吉澤。
最近しょっちゅう行われる尋問の内容は石川と柴田の間に不審な動きがないかである。
これが始まってしまうと紺野はなかなか自由の身にはなれない。
- 6 名前:5番 雨に消えた少女 投稿日:2002年12月02日(月)17時29分54秒
- 吉澤に異変が起きたのは二人の会話が始まって10分ほど立ってからだろうか。
どうも何かをこらえ、何かに耐え、顔をこわばらせ歪ませ、たまに口を押さえる、と思うと今度は明後日のほうをボーっと眺める。
「・・・それで確か石川さんが・・・吉澤さん、吉澤さん?」
普段なら石川の「い」の字でも言おうものなら「えっ?何々、もう一回最初から教えて」と身を乗り出して聞いてくる吉澤が今日は「わ」まで言っても反応しない。
相変わらず自分より後ろのほうを見続けている吉澤が心配になった紺野は立ち上がって吉澤の目の前で手を振ろうとした。
異変は紺野にも起きた。
どうも体が重い・・・いやそう意味ではなくなにかが後ろにぶら下がっているような感覚がある。
後ろに誰かいるのか確認するが何一つ変わったことはなさそうだ。
疲れてるのかなあ。もうそろそろ雨も弱くなったのではと思い紺野は吉澤に解放を申し出た。
すると今日はあっさり解放してくれた。
不審に思うも、やっぱり早く帰りたいのには変わりはない。
紺野は部屋を後にした。
- 7 名前:5番 雨に消えた少女 投稿日:2002年12月02日(月)17時30分40秒
- 吉澤に異変が起きたのは二人の会話が始まって10分ほど立ってからだろうか。
どうも何かをこらえ、何かに耐え、顔をこわばらせ歪ませ、たまに口を押さえる、と思うと今度は明後日のほうをボーっと眺める。
「・・・それで確か石川さんが・・・吉澤さん、吉澤さん?」
普段なら石川の「い」の字でも言おうものなら「えっ?何々、もう一回最初から教えて」と身を乗り出して聞いてくる吉澤が今日は「わ」まで言っても反応しない。
相変わらず自分より後ろのほうを見続けている吉澤が心配になった紺野は立ち上がって吉澤の目の前で手を振ろうとした。
異変は紺野にも起きた。
どうも体が重い・・・いやそう意味ではなくなにかが後ろにぶら下がっているような感覚がある。
後ろに誰かいるのか確認するが何一つ変わったことはなさそうだ。
疲れてるのかなあ。もうそろそろ雨も弱くなったのではと思い紺野は吉澤に解放を申し出た。
すると今日はあっさり解放してくれた。
不審に思うも、やっぱり早く帰りたいのには変わりはない。
紺野は部屋を後にした。
- 8 名前:5番 雨に消えた少女 投稿日:2002年12月02日(月)17時31分54秒
- 雨は相変わらず降っていたが帰れないほどでもなかった。
紺野は駅へと歩いていった。
最後、部屋を出るときに後ろをふりかえったときの、軽く震えておなかを押さえていたが大丈夫なんでもないといっていた吉澤を心配しながら。
駅のタクシー乗り場はこの雨の影響で混んでいた。
これなら電車のほうが早いと思い、紺野は電車で帰ることにした。
電車の中でも紺野は不思議な視線を背後から感じた。
ちらっと振り返って確認すると、信じられない光景が飛び込んできた。
後ろに座っていた乗客たちがみな、何かをこらえているかのように顔をこわばらせていた。
ついさっき吉澤が見せたのとまったく同じで。
思わず目を丸くし、前を向きなおす。
ところがなんと前に座っていた乗客までもが同じ反応を示していた。
これはいよいよ不気味になって、目的の駅に着いたとき、紺野は真っ先に降りた。
降りるときにもやはり何か視線を感じた。
そして背中の原因不明の重みはまだ消えない。
- 9 名前:5番 雨に消えた少女 投稿日:2002年12月02日(月)17時32分39秒
- 駅を出ると大通りがある。
雨はさっきよりも強くなっている。
歩きながら今度は先手をとって後ろを見る。
やっぱり、後ろを歩く人はさっと顔をそむけ、さっきから身の回りでおきている奇妙な現象を見せる。
見る人見る人の同じ反応に、紺野の疑問は次第に恐怖と姿を変えてきた。
紺野が家に帰るにはこの先で細い路地に入らなければならない。
雨は再び強くなってきた。
路地を目の前にして、紺野はその風景をどこか違う場所でも見た気がした。
そしてついに思い出してしまった。
(この路地はビデオの路地にそっくりだ・・・)
この瞬間すべての点が一本の線でつながった。
背中の重み、人々の反応、大通りから路地へ、考えれば考えるほど。
(ビデオとそっくりだ・・・)
ゾクッ
鳥肌が立った。
これが都会の冬の雨の冷たさのせいでないことはすぐに分かった。
- 10 名前:5番 雨に消えた少女 投稿日:2002年12月02日(月)17時33分06秒
- ここの道はひと気は普段から少なく、車などもほとんど通らない。
家までの距離は時間にして十数分。
意を決して紺野は一歩目を踏み出す。
背中の重みが増したようにも感じた。
見る人がみな苦しむのをみるのはいやだが、誰もいないのはやっぱりもっといやだ。
先ほどから強くなった雨のせいで他の音はあまり聞こえない。
さびしさのあまり紺野は時々大通りのほうを振り返り、人がいるのを確認する。
雨で多少見えにくいが、人がいるのは分かる。
だが多少安心感はあるものの、どうしてもビデオの恐怖は消えないのだった。
人は恐怖の中で他のことを考えるのが苦手なのか。
恐怖から逃れようとする紺野も例外ではなく、何かを考えようとすればするほどビデオの内容が脳内にあふれてくる。
翌日のために内容を克明に覚えようとしたのがかえってあだとなった。
- 11 名前:5番 雨に消えた少女 投稿日:2002年12月02日(月)17時33分49秒
- 紺野はビデオの中で小奈美が携帯を使おうとするシーンを思い出した。
(そうだ、携帯、携帯で誰かと話そう)
いつも携帯が入っているポケットを探る。
探っても探っても見つからない。
コートのポケットも探すがどうしても見つからない。
あせる紺野は恐る恐る後ろを振り返る。
道は軽いカーブをえがいていたため、もう大通りは見えない。
とうとう紺野は本当の孤立状態に陥ってしまった。
そんななか、さらに雨は強くなる。
紺野の傘からは大粒の雫が次々と落下する。
雫の壁によって傘の下の空間に閉じ込められたようで紺野はよりいっそう孤独な世界にいるように感じた。
まだまだ暗い道は続く。
むしろこのまま永遠に続いている気がする。
- 12 名前:5番 雨に消えた少女 投稿日:2002年12月02日(月)17時34分25秒
- 紺野はまたビデオの内容を思い出してしまう。
(小奈美は路地の途中で背後霊の姿を見る)
紺野は背中にいる正体不明のものを確認しようとする。
突然道の右手から光が発生した。
「きゃあっ」
突然の事態に思わず声が出る。
それはただ、その家の電気がついただけだった。
だがそれだけでも紺野にはとてつもなくありがたいことだった。
また、その光は雨を反射し、より明るく見える。
希望の光のおかげで先ほどまでの恐怖はなくなり、紺野に笑顔が戻りかけた。
霊 は ま だ 消 え て い な い ・ ・ ・
- 13 名前:5番 雨に消えた少女 投稿日:2002年12月02日(月)17時35分00秒
- しばらく光の源のほうを見ていた紺野はまた歩き出そうとした。
とんでもないものが目に飛び込んできたのはそのときだった。
- 14 名前:5番 雨に消えた少女 投稿日:2002年12月02日(月)17時35分27秒
- 紺野は確かに見た。
光によって生まれた紺野自身の影。
その背中には
手をかけた小さな人間の影
- 15 名前:5番 雨に消えた少女 投稿日:2002年12月02日(月)17時36分02秒
- もう平常心などほとんどない紺野はビデオの結末を思い出そうとする。
しかし見てないので思い出せるわけがない。
その代わりに、このとき紺野は別のものを思い出した。
「雨に消えた少女」
ビデオのタイトルである。
(八方ふさがりの小奈美、背後霊はついに・・・)小奈美を消してしまった?
絶望に、傘を落とし、頭をかかえ、ふるえあがり、そして・・・
- 16 名前:5番 雨に消えた少女 投稿日:2002年12月02日(月)17時36分32秒
- 「キャアアアアアアアアアアアアア」
- 17 名前:5番 雨に消えた少女 投稿日:2002年12月02日(月)17時37分11秒
- ピリリリリ ピリリリリ
頭を抱え込んでうずくまっていた紺野が聞いたのは、ないはずの携帯電話の着信音。
音は持っていたどういうわけかバッグの中から聞こえた。
ディスプレイには見たこともない番号。
紺野は出るのをためらった。
いよいよその背後霊が来たのか。
でもこのままじゃ本当に消えちゃうかも。
神様、誰か知っている人でありますように!
ピッ
「もっ、もしもし?」
- 18 名前:5番 雨に消えた少女 投稿日:2002年12月02日(月)17時37分45秒
- 紺野はきゅっと目をつぶり次の声を待った。
割とノー天気な声が聞こえた。
「あ、もしもしあさ美?もう帰っちゃったよね」
声の主は小川真琴だった。
紺野は「助けて」とも言いたかったが、少し安心していたので「どうしたの」と聞いた。
「私らの傘どこに置いた?」
「傘?」
「うん、私のと辻さんのと加護さんのと里沙ちゃんの傘」
「えっ、どういうこと?何の話?」
「あれっ、あさ美じゃなかったの?辻さんと加護さんのコートのフードに気づかれずに何本の傘を入れられるかゲームの被害者」
よく状況が理解できない紺野。
とりあえずフードを確認する。
後ろを向いただけでは死角になってしまうため四苦八苦しながらようやくフードを見ることができた。
コートのフードには傘が七、八本、確かに見覚えのある傘が四本。
そのうち二、三本はボタンが外れていて中に少し雨水がたまっていた。
おまけにフードの中には見たこともない、おそらく放送用の機材らしいものまで入っていた。
- 19 名前:5番 雨に消えた少女 投稿日:2002年12月02日(月)17時38分15秒
- 紺野の頭の中のついさっきまで恐怖の線で結ばれていた点という点を別の線が何度もとおり、何重にもなってつながった。
数秒の沈黙ののち小川の携帯には紺野のもう二度と聞けないような大笑いが聞こえ、さらに数秒後、タイミングよく紺野の携帯は電池切れでプツリと切れた。
そして紺野主演のホラー映画は大笑いという形でやっと幕を閉じた。
- 20 名前:5番 雨に消えた少女 投稿日:2002年12月02日(月)17時38分58秒
- 家に帰ってから紺野は一部始終を小川に伝えるためにメールを送った。
「もう、あさ美の鈍感。普通は気付くよ。」
「だってしょうがないでしょ、本当に怖かったんだから」
「大体背後霊なんかいるわけないじゃない」
そんなことを打ちつつ、小川も実は電話が切れてから紺野からのメールがくるまで、その前の紺野と同じくらいの恐怖を味わっていた。
「それにしても、吉澤さん笑いこらえてばかりいないで一言言ってくれればよかったのに。」
そう文字を打ちながら、紺野は私の奇妙な姿を見た人が何人もいることに気付いて急に恥ずかしくなった。
あまりにも今日あったことが衝撃的で、興奮の冷めない紺野は結局ビデオを見忘れ、仕方なく最後のシーンを見ずに返すことにした。
- 21 名前:5番 雨に消えた少女 投稿日:2002年12月02日(月)17時39分37秒
- 昨日の雨のせいで、ラジオ局の前はイチョウの葉で埋まっている。
そして決して強くない風がまだ弱々しく木に残っているイチョウの葉を一枚ずつ落とす。
その葉に一日ぶりの日の光が反射するたびに、紺野には昨日のことがうそのように思えた。
紺野がスタジオに入るや否や、叫び声とともに突然紺野に誰かが飛びついてきた。
ものすごいくまのできた石川だった。
小川が恐怖におびえているのを見かけた石川が事情を聞き、案の定ビデオの内容を思い出したらしい。
ちなみに本当の結末は、例によって少女は消えてしまい、最後にその路地から不気味な笑い声がするというものだった。
しかも石川は主人公「小奈美」は「KONNO ASAMI」を「KON AMI」と縮めた名前だとひらめいてしまった。
最近ホラーものの見すぎだったせいか、紺野を心配するあまり、昨日は一睡もできなかったと言う。
紺野がすべてを話すと、石川はな〜んだといって何事もなかったかのように振舞ったが、先輩として心配してくれたことが紺野はうれしかった。
- 22 名前:5番 雨に消えた少女 投稿日:2002年12月02日(月)17時40分12秒
- また次の日、紺野は大量の傘を持ち、やはり通行人に不思議な目線で見られていた。
今度は不思議な目線の理由はすぐにわかった。
そして今日も吉澤による取調べが行われた。
そもそも恐怖の原因はこの目の前にいる人間にもあった。
吉澤の尋問より先に、紺野はかなり怒った口調で吉澤に「ひどいですよ」といった。
さすがに悪いことしたかなと吉澤も素直に謝った。
だが紺野の訴えは止まらない。
「あの時は笑いをこらえてたんですね。」
「だって全然気付かないからおかしくって・・・」
「結局家の近くまで気付かなかったんですよ。」
「ごめんごめん。」
「しかも石川さんなんか昨日私に・・・・・・あっ・・・しまった・・・」
時すでに遅し!
「なんだって、私に?私になあに?言ってごらん。」
形勢はあっさり逆転。
やけに優しい口調と引きつった笑顔の吉澤。
言葉が続かず引きつった顔の紺野。
ここはスタジオ、狭い空間。
紺野の恐怖第二章が幕を開いた。
- 23 名前:5番 雨に消えた少女 投稿日:2002年12月02日(月)17時41分20秒
- ===終わり===
- 24 名前:5番 雨に消えた少女 投稿日:2002年12月05日(木)00時55分31秒
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- 25 名前:5番 雨に消えた少女 投稿日:2002年12月05日(木)00時55分52秒
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