53 睡蓮より
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/05(月) 14:08
- 薔薇のように色濃い朱色をした睡蓮が開花した。
中で眠る少女の名は小春。
開花とともに目を醒ました小春は天啓に従い下界に降りる。
天啓とは、そう……
「一日一善!」
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/05(月) 14:09
- 御神木を伝って下界に降り立つと、そんな自分をじっと見つめて
いた少女に出逢った。
「神様や! 愛佳の祈りの声を聞いて来てくれはったんですね!」
ほんまにありがとうございます!
「うわあぁーーーーーーーーー……」
突然どこからか蔦が現れて小春の体に巻きつき、小春は空に
誘拐された。
愛佳が呆然とその様子を見ていると、どんどん遠ざかっていく
その姿はあっという間に米粒大になり、そして消えた……
人から感謝の言葉をもらうのが「善」と見なされ、一日一善が
達成されると、睡蓮の元に強制的に戻されてしまうのだ。
もう一度下界に降りるためには、睡蓮の中で眠るしかない。
小春が再び睡蓮から目醒め、下界に降り立つと、また愛佳が
立っていた。
「また逢えた! 初めまして、私は光井愛佳と申」
「お礼は絶っっっ対にいらないから!」
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/05(月) 14:11
- 愛佳がついてくるのも構わず、小春は街に出て色々な所を
歩き回った。が。
道を尋ねられて愛佳が答えただけで、助かりました、と感謝
されて睡蓮に戻され、足元に転がってきたボールを拾った愛佳が
持ち主に投げ返せば、ありがとう、とお辞儀をされて戻された。
幸いだったのは、自分が直接感謝された訳ではないからと、
戻されても天啓に小言を言われただけで済んだことだ。
ぐったりしながら御神木を降りると、必ず愛佳が立っている。
「お疲れ様です」
「ほんっと疲れるよ、あの天啓のおっさん話が長い」
「……おっさんなんや」
「知らない。イメージだよイメージ。睡蓮は優しいお姉さんって
感じで大好きなんだけどさ」
睡蓮はいつでも優しく受け入れてくれる。
沼の上に浮かぶそれは、小春の寝床。
雌蕊の部分が平たく、綿のように柔らかい。
そこに胎児のごとく横たわると、花弁が小春を包み込むように
萎み、内側に夜を作った。
小春は眠りに落ちるまで睡蓮と話す。
今日あった出来事、その時自分が思ったこと、心の中を
全て吐露するように話し終えると、やがて安堵とともにまどろみ、
眠り、また目醒めとともに花弁が開くのだ。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/05(月) 14:12
- 「みっつぃーはなんでついてくんの?
何度も言うけど小春は神じゃない。
おつかいみたいなもんだけど」
「私は『一期一会』を心がけております。
御使い様の、この善行の目的はなんなのですか?」
「愛を探してる。
一日一善してたら見つかるって天啓が言ってた。
みっつぃー、愛ってどこにあるか知ってる?」
愛佳はしばし押し黙った。
「……場所は存じませんが、良く知っていますよ。
とても素晴らしいものです。
……せやから、私の親はその言葉が入る名を付けてくれはった」
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/05(月) 14:13
- 愛佳はたびたび、擦れ違った中年の女性に声をかけた。
稀に和やかに会話することもあったが、たいていは
二言三言交わすと愛佳の方から謝辞を述べ、そして別れる。
「……お母さん、どこにおるんやろ……」
「お母さんって?」
小春が訊ねると、これも愛の一種である、と愛佳は力無く
笑うのだ。
「わかった。決めた。お母さん探し手伝うよ」
「……ほんまですか?」
「それが愛なら、探すしかない!」
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/05(月) 14:14
-
「何で小春は中に入れないんだよ!」
「店ん中で毎度なんちゃら言われたら、また天啓様に
連れ戻されてしまうやないですか」
「あ、そうか。それは嫌だな」
「……愛佳だって、他人の下着を買うのはほんまは嫌です。
サイズが違いすぎるやん」
「何か言った」
「言ってませーん」
「謝々」
「ん? 今何て言ったのかな?」
「……天啓様は日本語しかわからんのですね」
「何て言ってたの?」
「内緒です」
「命より大事な安倍さんのカード! 拾ってくれてありgむぐっ」
「礼には!」
「及ばへん!」
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/05(月) 14:15
-
「……お母さん」
「……私はもう、あんたの母親の資格はのうなってるんや」
「…………」
「神社に帰り。今のあんたの親は神主様やで」
「…………嫌や」
「親を、心配させたらあかんよ……愛佳」
「何で、黙ってたのさ!」
「先に泣かれてもうたら、愛佳はもう泣かれへん」
「意味わかんないよみっつぃーのバカ!」
「小春、小春は……睡蓮に帰りたい……」
「それがあなたにとって、
お母さんのような場所やってことですね」
「お別れだね、みっつぃー」
「……やっとや。
やっと大きい声出して言えます。
今まで……ほんまおおきに!」
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/05(月) 14:16
- おかえり、小春。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/05(月) 14:16
- 今日はどんなことがあったの?
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/05(月) 14:16
- 話してごらん。
- 11 名前:Max 投稿日:Over Max Thread
- このスレッドは最大記事数を超えました。
もう書けないので、新しいスレッドを立ててくださいです。。。
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