50 おくりものはナンニモナイ

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/05(月) 05:07


その年の冬は、暖かかった。


ガラガラガラと大きな音を立てて、引き戸を開け放つ。

「毎度ぉー」

静かな平屋に、気の抜けた声が響く。閑散とした空気は冷たくて、絵里は一つ
身震いした。早く帰りたくて、絵里は革靴のまま玄関から上がり込んだ。

「誰もいないんですかぁー? 毎度ぉー?」

コートのポケットに両手を突っ込んだまま、まるで自宅のように振舞う。居間らしき
場所から出てきた男が、絵里の格好を見て訝しげに眉を顰めた。
うわぁ、怖い顔だなぁと心の中で絵里は笑う。

「なんだぁ、てめぇ」
「あ、どーもー。私、エリックと申しまして――」

彼が絵里の土足を叱るよりも早く、絵里は両手をポケットから抜いた。
鈍く黒光る――二丁の拳銃を握って。

「この家を、お掃除しに参りましたぁ」

嗤いながら、絵里は引き金を引いた。


2 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/05(月) 05:08
***

「プレゼント?」
「うん。やって、もうすぐクリスマスやん!」
「そっかぁ。楽しみだね。でもその気持ちだけで絵里は嬉しいよ?」
「だぁーめ! れいながやりたいっちゃん。絵里もちゃんと用意する! ちゃんと
考えときーよ!」

***
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/05(月) 05:09

出会ったのは、ただの偶然だと思う。
だけど初めて廊下で擦れ違った時、気付いてしまった。
――仲間だ、って。
小さなその胸に、荒れ狂う嵐を抱えている。
鋭い牙を隠しせせら笑う獰猛な獣を、自身の中で飼いならしている同胞だ、と。

そして彼女が、その牙を突き刺す相手を探していることも、わかった。
それが、二人の引き金になった。


だけど。


4 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/05(月) 05:09
***

「れいな、絵里には感謝しとうよ」

赤黒く錆付いたナイフのような光を隠した危うい眼は、もうそこにない。

「絵里が言ってくれたおかげよ」

復讐するんじゃないの? 親の仇を討つんじゃないの?
あんな上っ面の言葉を信じたの?
絵里知ってるよ? そのポケットにはマカロフが入ってるんだよね?

「だから、絵里が何か困ってたら、れいなも手伝うけん!」

この世の全てを諦めている様な顔をしていた彼女は、もういない。
どうして、彼女は今あんな風に笑っていられるの――?

***
5 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/05(月) 05:10


あぁ。
そして、一通のメールがやってくる。
終焉のベルを五月蝿くかき鳴らしながら、やってくる。

「あ、お養父さん?うん。見つけた。……大丈夫。掃除用具は? え? 一番上?」
「あぁ、あったあった。わかってる。ちゃんと『掃除』しておくよ。『誕生日』までに」

まさか、その『掃除』の対象が――あの人だなんて、思っていなかった。


6 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/05(月) 05:11

「こんちはぁー。掃除屋エリックですー」
「毎度ぉー? 藤本さーん? いらっしゃいませんかぁー?」
「美貴姉なら、おらんよ」

布団を跳ね飛ばして現れたのは、れいなだった。

7 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/05(月) 05:11


――ジングルベル、ジングルベル。鐘が鳴り響く。


 
8 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/05(月) 05:11

互いの眉間に銃口を突きつけたまま、まるで十年来の友のように言葉を交し合う。

「これが、れいなからのクリスマスプレゼント」

9 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/05(月) 05:11

誕生日に、他人の血と硝煙の花弁を撒き散らすなんて、ついてない。

「「メリークリスマス」」


ぱぁん。

10 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/05(月) 05:11
ぱん。
11 名前:Max 投稿日:Over Max Thread
このスレッドは最大記事数を超えました。
もう書けないので、新しいスレッドを立ててくださいです。。。

Converted by dat2html.pl v0.2