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1 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/03(土) 23:33

44 -war-
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/03(土) 23:33
ピッ、ピピッ、ピッ、ピピッ、
まるで、目覚ましのアラーム音のような特別な心音が機械から聞こえている。
栗色のショートカット、透き通るように肌の白い人形のような容姿をした女の子だった。
腕には、何本もの管がつながれ、淡いブルーの布を身にまとったその姿は弱く発光している
ようにも見えた。

ガラスの向こうには、三十代半ばだろうか金髪の男がいる。
デスクに座り、その少女が映ったモニターを食い入るように見つめ、そしてその身体を
モニター越しに触れる。

「梨沙子・・・、全世界の母・・・。」

男の額には、あぶらあせが滲み出していた。
手が震える。それは、自分が自分の研究がとんでもないものを生み出してしまった。
もしや、神の域にさえ達したのではないか、そんな気持ちからくる高揚感であった。
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3 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/03(土) 23:34


 最初は、ささいな混乱だった。政府に牙を向く小さな同盟からだった。各自で乱発するテロ。
何度も行われた演説。今まで誰もが信じて疑わなかった日本一の組織の闇。それを知った人々が
徐々に疑いを持ち始めた。それから、数年。日本はすっかりと変わってしまっていた。

各地がリーダーをもうけ、避けられなければ戦争をし、陣地を増やす。中には争いは好まず
汗を拒み、血を拒み、もくもくと科学の力を増強させていく組織もあった。そうして、日本は
六つほどの組織の下に組み分けられてしまっていた。
争いごとを好まない人々の多くは、己がずっと暮らしていた土地でそこにたったリーダーの下
ほとんどが平和な生活を営めるようになった頃だった。

UFA。そう名づけられた組織とさの傘下が取り仕切る、小さな小さな町があった。
外から攻め入られないように、税金のほとんどを防衛壁に使った。不健康な町だった。
隣町とはなしをつけ、互いに必要なときだけ、必要なものを与え合う。何年もそうしてきた。
防衛壁はその町のある南側だけが開閉できるような仕組みになっていた。
悪いことは、その扉からしか入れないはずだった。
UFAの理事を務める寺田は、自負し、町の人々もそれが真実だとおもっていた。

しかし、ここ最近妙な感染病がはやっている。
今年小学六年生になったばかりの夏焼雅の母親も、その病に苦しむ一人だった。
小学校の中で、最上級生になれる特別な年だったのに、一学期から学校は学級閉鎖となっていた。
この町に、中学校は二つ、そのどちらもがそうだった。中学校に限らず、すべての学校がそのような
自体に陥っていた。
理由は、他でもない感染病のせいである。
しかし、病に伏しているのは、各学校の教員の方で、そのせいで授業ができなくなり、学級閉鎖。
雅の父親はUFAにやとわれの博士をしている。まだ子供の雅には、父の仕事を詳しくは知らない。
だけど、研究が忙しいと雅にかまってくれることはないし、母親は病気だ。
この際、先生がいなくっても、学校に行きたい。うわさによると、空気感染があると言われている
その病気は、子供は感染しないのだそうだ。
それならば、ずっと家にいなければならない理由がわからない。
雅は、明日は誰かを遊びに誘ってみようかと、携帯電話のメモリーをスクロールした。
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/03(土) 23:34
「ダメだ。」

パタンと携帯を持った手を下ろす。雅が誘えそうな友達は、全員親に言いつけられている子たちばかりだった。
伝染病がはやっているのだから、家でおとなしくしていなさい、と。
学校ならば、外に出してもらえるのに。おかしいの。
雅は、まだ十分に疲れてもいない身体をベッドに横たえた。
この間、六年生になったお祝いに父がかってきてくれたゲームは、もうクリアをしてしまった。
遊び足りない。

そんなことに唇を尖らせながら、もう降りた夜の帳の中で、父親の部屋にともる明かりをチラッと
横目で見て、雅は目を閉じた。


 あ、またあの子。
雅は夢を見る。
茶色いショートヘア、お人形さんみたいな女の子。
彼女が雅の夢に登場するのは、これで八回目である。
 真っ白いワンピースを着て、雅に微笑む。その姿はさながら、天使か妖精。雅が知っている
どの女の子とも違う何かが感じ取れた。
いつもは淡く微笑むだけの少女が、今日は雅に何かを伝えようとしている。まぶしい光の中で、
微笑み、その口元が、ゆっくりと開かれる。

 ミ、ヤ、ビ、い、き、て、

唇は二度、そう繰り返した。
5 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/03(土) 23:35
ダンッ!!!!!

急に聞こえた大きな音に、雅は目を覚ました。
まだあの少女がまとっていた光の名残が見えるような気がしたあとで、父親と誰かが口論を
しているのが聞こえてきた。

「資料をすべてこちらに預けてください。」
「しかし・・・。」

父は言いよどむ。

「それがあなたとの契約だったはずです。」
「しかし、あれはだめだ。あれは、世界を不幸にする。渡すわけにはいかん。」
「いまさら、それは受付られません。」

雅は、少しだけあいたドアから、その様子を盗み見た。
黒い防護服を着た男が二人いて、その片方が父に銃口を向けた。
雅は、思わず息を呑む。そのとき、小さな声が出てしまったが幸い気づかれなかったようだ。
いや、違う。母だけは気づいた。ガラスで仕切られた向こうのベッドの上で雅に顔を向ける。
一番近い場所にいた母がこちらを向いたとて、誰の視界にも入ってはいないようだった。

「夏焼博士、あなたは知りすぎている。」

男の低い声が聞こえた。
雅がそちらを向くと、父親の額に拳銃がつきつけられている。
父は押し黙ったまま、男を見ていた。思わず、母親を見る。
どうにかしなきゃ!お父さんが殺される。なぜ?いや、いつかこういう日がくることはわかっていた
じゃないか。なぜ?雅は必死に何かを思い出そうとする。
それは、父親がUFAの仕事を手伝うようになった一年ほど前の出来事だった。

雅の部屋で、雅のベッドに父親と二人で腰掛けていた。

「もし、もしもの話だよ?」
父の優しい声色に、雅はうなずく。
「もしも、お父さんの身に何かあったとき、雅は丘の上にある義兄さんのところに行くんだ。」
お父さんの身に何か?何を言われているかわからなかった。
けれとも、今までに見たこともないくらて真剣な父の目に、問い返すことができなかった。
「そのときは、裏庭にあるポストの中身を持っていきなさい。雅を守ってくれるものが入って
いるからね。」
雅の家の裏庭は、高い木々で覆われている。普段生活しているうえで、雅がそこに行く必要性が
なく、この一年、一度も脚を踏み入れていなかった。
しかし、何故あの話の後、確認しにいかなかったのだろう。
そうだ。あれは、学校に行く直前のことで。学校で走り回った雅は、すっかりと父に言われたそのすべてを
記憶のどこかにしまいこんでしまっていた。

それが今、やっとおもいだされた。
丘の上の黄色い壁の家。それは、雅が何度か遊びに行ったことのある、笑顔のお母さんにそっくりな
お母さんのお兄ちゃんが住んでいる家。
でも、何故こんなことを考えるの。今、逃げたら、お父さんは・・・?
ダメだ。雅は首を振る。お母さんが優しく雅を見つめている。またやせたような気がする。
涙が出そうになった。
お母さんが、口を開く。
6 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/03(土) 23:35

 ミ、ヤ、ビ、い、き、な、さ、い、

何を言われたかがすぐにわかって、雅は母に向かい首をフルフルと振った。涙がこぼれる。

 い、く、の、

首を振る。

 い、っ、て、

そのとき、突風が吹いたような気がした。誰かの意識がものすごいスピードで雅の頭中に流れ込む。
茶色いショートヘア、光・・・この子は・・・あの・・・。

 生きてっ!!!!!!!!!!!!!

悲痛な叫び声だった。
頭の中に直接響いたその声に雅は駆け出した。
裏庭のポストを手で探ると、小さな重いダンボール箱と、小さな懐中電灯が入っていた。背の高い木々を
ようやく抜ける。
走れば、15分で着く。

駆け出そうとした雅の耳に、背中側から勢い良く空気が抜けるような音と何かがドサリとくずれおちる音がした。
全身の毛がぞっと逆立った。
何が起こったのかを考えたくはなかった。
どうすればいい?どうすれば・・・?
雅は、片手にグッと握り締めた重い箱を見て、それから駆け出した。

15ふんすれば、義兄ちゃんのところに着く。そしたら、助けてもらおう。
そしたら、みんな助かって、そしたら、そしたら・・・、
繰り返す言葉とはウラハラに涙があふれてきた。次から次へとあふれてきた。
7 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/03(土) 23:36

なんで走ってるんだろう?
お父さんは?
お母さんは?
私は・・・弱虫だ・・・。
息が切れる。涙が止まらない。
走る走る。追いかけてくる何かを振り切るように、全速力で雅は走った。
走って走って、坂道を走って、やっと義兄の家が見えたとき------

ドカン-

炎ですべてが見えなくなった。
思わずしりもちをついた。赤い炎がメラメラと、黄色い壁を飲み込んでいく。
黒い防護服を着たUFAの人がいる。義兄の家を取り囲んでいる。
ダメだ。もうすべて終わりだ。

8 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/03(土) 23:36


あのとき、もうすべてが、すべてが終わってしまったとおもったんだ。
メラメラと燃える炎が、すべてを焼き尽くしてしまったと。
大好きだった家族、友達、小さな小さな、だけど幸せな世界。

あたしにそれをもう一度見せてくれたのは、梨沙子、あなただったね。


  その少女は天使のように微笑み、全世界を照らす。


 -war-

9 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/03(土) 23:37
 
10 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/03(土) 23:37
 
11 名前:Max 投稿日:Over Max Thread
このスレッドは最大記事数を超えました。
もう書けないので、新しいスレッドを立ててくださいです。。。

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