43 アンブレイカブル

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/03(土) 16:49
43 アンブレイカブル
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/03(土) 16:49
バン

それを音として知覚したのは耳ではない。

鼓膜の振動よりも早く、体全体が震えて音を伝えた。

それだけの音とは裏腹に、目の前の光景は何一つ変わっていない。
数十メートル先に置かれた空のジュースの缶はぴくりとも動かずに。

橋の上を行き来する車は、何事も無かったように進んでいた。

変化があったのは、自分だけ。
反動がまだ残る鉛の塊と、立ち込める硝煙の臭い。

世界を変えてしまえると思った。

でも、何一つ変えることはできなかった。

手にしたそれと、臆病な自分。
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/03(土) 16:49
1.

ガタンガタン

規則的な轟音を立てて、目の前を列車が通過する。
すでに5分は経過しているだろう。
踏み切りの前に立ち尽くす女の子。
手にした時計をちらちらと見る。
時刻は8時26分。
これ以上のロスは遅刻という結果に即つながる。
亜弥は自分の選択を悔やんだ。

開かずの踏み切りというものは、各地に存在する。
もちろん、亜弥の目の前にあるものもそれ。
一度閉じると、10分は開くことは無い。
けれども、この踏み切りを渡ることは、大学への大きなショートカットにつながるのだ。
普通に回り道をすれば遅刻するような時間に家を出た亜弥の、せめてもの望みはこうして完全に絶たれていた。

今から道を戻っても結果は変わらない。
とはいえ、列車は焦る自分をあざ笑うかのように次々とやってくる。
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/03(土) 16:50
「今から24秒後にこの電車が通過する。反対側の電車がここを通過するまで11秒のブランクがある。
この踏み切りの長さは10メートルも無いから、走れば大丈夫」

不意に後ろから囁かれた。
それが自分に対して言っていることがわからなかった。
だが、きっかり24秒後に手を引かれる。

「え、ま、待って」

遮断機はまだ下りたまま。
自分の手を引っ張ったままくぐろうとするのは、長い茶髪の女性。

「走るよ。急いでるんでしょ」

首だけをこちらに向けて

自殺志願者。

亜弥の頭に浮かぶ単語はそれだった。
けれど、勢い良く引っ張られたため、つられて遮断機をくぐってしまう。
5 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/03(土) 16:50
カンカンカン

変わらず聞こえる遮断機の警報。
ふっと横を見れば、列車が近づいてくるのが目に入った。

「止まらない!」

声を掛けられる。
こわばった筋肉を無理に動かして。
懸命に駆けた。
たった数メートル。

なのに……だけど……

亜弥は思う。
日常が非日常の境界というものがあるのなら。
きっと、これがそうだったんだろうと。
6 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/03(土) 16:52
ガタンガタン……

背後で聞こえる音が、現実に引き戻す。
無事だったという思いが頭を占有し。
急がないと遅刻するという考えには戻らなかった。

「じゃーね」

その言葉で、引かれていた手の感触がなくなっていたことに気づいた。

それが彼女との最初の出逢い。
そして、それが全ての始まり。
7 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/03(土) 16:52
続く(?)
8 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/03(土) 16:52
と思います
9 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/03(土) 16:52
おしまい

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