33 丑三つ時は殺しの調べ
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/02(金) 06:36
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33 丑三つ時は殺しの調べ
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/02(金) 06:36
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眠れない夜、彼女はほんの少しの焼酎をコップに注ぐ。
退屈な日々が美貴に覚えさせた悪習。
飲む前から酔ってしまっているのだろうか、
それとも薄暗い明りの下で手元が狂ったのだろうか。
勢いよくコップに満たされていく酒の量に思わず笑ってしまう。
一度注いだからには飲まない訳にはいかない。
ひとくち飲むと腹の中が熱くなった。
「美貴を殺す気?」
振り返りもしないで美貴が言うと空気が揺れた。
「気づいてましたか…いつから…」
美貴はそれには答えないで振り返った。
「邪魔になったって訳?…ゆきどん」
ゆきどんと呼ばれた女は懐から匕首を取り出した。
「それは確か五木のだな。あいつの命令か」
「いえ。私の一存であなたを殺しに参りました」
それまで無表情だったゆきどんはそこで笑った。
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/02(金) 06:37
- 静寂の中で最初に動いたのは美貴だった。
一升瓶を掴むとさっきのように酒でコップを満たす。
「飲むか?」
「いえ、戦闘前ですので。それに私は高知の酒しか飲みません」
美貴はふんと鼻を鳴らして焼酎を一気に飲みほして立ちあがった。
「じゃあそろそろ殺し合いでもしよっか」
「私はあの人を愛してました。どんな酷い仕打ちも喜んで受け入れました。
あの人も私を愛してくれました。あなたが現れるまでは」
「勘違いすんなって。あいつはただのロリコンだから」
「分かってます。だからこそ腹立たしいのです。
憎いのです。あの人が心奪われたその身体が」
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/02(金) 06:38
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ゆきどんは大きく息を吸った。
部屋の空気を吸い尽くす勢いで吸い続ける。
五木流の呼吸法だ。
現代ではえんかを演歌と書くが本来の字はそうではない。
宴の席での宴歌。異性を狂わせる艶歌。
五木流の神髄は恨みを込めた怨歌にある。
全てを呪うかのような呼吸音がそれを物語っていた。
強い。美貴はその呼吸だけでゆきどんの強さを悟った。
演歌歌手の力量は肺活量でわかる。
それまで美貴が手を合わせた誰よりも強いと感じた。
「こっちも本気でいくから」
美貴は大きく息を吐き出した。
力というものは息を吐いた時に発揮される。
美貴は溜めに溜めていた息をここで大きく吐いたのだ。
- 5 名前: 投稿日:2008/05/02(金) 06:39
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「うっ」
ゆきどんが息を詰まらせる。臭い。これはにんにくの匂いか?
「くくく。悪いね。美貴ね、今日のお昼も焼肉」
一瞬でゆきどんの懐に入り込み一升瓶で闇を切り裂く。
辛うじて避けたゆきどんだったが呼吸を封じられた状態では
勝てそうになかった。
「私が部屋に侵入する前から息を溜めていたのか…」
「この状況ではお前は勝てない。消えろ」
「ここで逃げて帰る訳にはいきません。きえぇぇぇい!」
果敢に飛び込んでくるゆきどんを美貴は一升瓶で
容赦なく殴り倒した。
「うぐぐぐ」
「おい。本当は誰の命令だ。五木だな」
「ち、違います。もっと大きな力があなたの命を狙っています」
「誰だ。寺田か」
「ふふふ。私が言わずともやがて知る事になるでしょう。
あなたはもう次の刺客に狙われて…ぐわあああ」
「おい!どうした!」
- 6 名前: 投稿日:2008/05/02(金) 06:39
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肩を掴み揺らしたがゆきどんはそのまま息絶えた。
ゆきどんの最後に息を嗅ぐとほのかに煙草の匂いがした。
「この技はまさか…あい…ぼん」
確か数年前に世の中に絶望し自ら命を絶ったはずの
あいぼんが生きているのか?
「面白い。退屈しのぎにはなりそうだ」
カーテンを開くと真っ赤な月が輝いていた。
- 7 名前: 投稿日:2008/05/02(金) 06:39
- 牛
- 8 名前: 投稿日:2008/05/02(金) 06:39
- 牛
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