11 SWEET×BITTER

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/04/29(火) 16:52
あの時間は、たぶん夢ではなかったはずなのに。
もうあの心地よい場所へは、行けないんだ。

とても悲しくて…でもそれ以上に、あの時の思い出がきらきらして、止まらない。


*#*
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/04/29(火) 16:52
それまでは退屈でした。
毎日がクローンみたい。同じことの繰り返しで、新鮮味も何もなく、無味無色。
ただなんとなく生きて、なんとなく大人になって、なんとなく死ぬように思えて。
どうにかしたくても、私一人の心じゃどうにもなりそうもなくて。

なのにある日迷い込んだその小さな建物は、世界を一変させました。

甘い香り。
ささやかな話し声。

秘密の隠れ家。
都会の裏にやってきたような、やさしい空間。
やさしい人たち。
美味しいお菓子と、美味しい飲み物。


「カフェオレ」
「緑茶でお願いします」
「ブラックコーヒー」
「ストロベリーティーおねがいっ」
「レモンティー、アイスで」
「はちみつミルクがいいなぁ」


―――「あたしはミルクティー。カメちゃんも好きなの飲んでいいよ」
―――「っは、はい!」
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/04/29(火) 16:53
その場所で色んな物語を見てきました。

「歌しかないんだよ…!あんたなら、わかってくれると思ってたのに!」
「勝手なことばっかり言って、…っおばさんたちの気持ちにもなりなよ!」
家庭の話。

「あたしは、やりたいことがあるんです。…出来ませんけど」
「…あたしなんて、やりたいこともないんだよ…?」
夢の話。

「忘れないよ…忘れられるわけない。一生、背負うんだ。あの子の憎しみを」
「背負うって、そういうことじゃない!」
過去の話。

「好きだと思った…この人しかいないと思った。
 あたしだけは止まっていなきゃいけないの。あたしだけは、忘れちゃいけない」
「でも…好きなんですもん…!」
そして、恋の話。


自分も、いつしかその物語の一部になれていました。
苦しいこともあったけれど、どれもかけがえのない思い出です。
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/04/29(火) 16:53

「カメちゃん、おいで」

ミルクティーのようなあの人との泣きたくなるような切ない思い出で、
私は少しだけ強くなれた気がしました。


誰の家か、誰がこんなにも快適な環境を用意しているのか、それは誰も知らないそうです。
二十歳になれば忘れてしまうここへの道は、きっと魔法の道なんだと思っています。
あの日、私は魔法にかけられたのです。

―――「…会えて、良かった」
木でできた古いドアにかけられた小さな看板が揺れていました。
その言葉を読み上げるたびに、元気になれる気がして。

―――「カメちゃんっ、なにしてんの?早くおいでー」

みんなが笑っています。
辛いことがあったりしながら、それでも笑っています。
色々なことがあるからこそ、みんなはそれを乗り越えるたびにきらきらと輝くんだと思います。


―――「はい!」


照れて笑って、私はみんなの所へ走りました。
まだ見ぬ明日のすばらしい日々に期待しながら。
5 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/04/29(火) 16:55
*#*


少しだけ、見せてあげますね。
私の心にまだ褪せることなく輝いている、この思い出たちを。
誰かがまた、この思い出に勇気をもらってくれればいい。


『うわわわわっ!!!ごめんなさい!!!』
『…え?誰?』


「…ふふっ」
6 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/04/29(火) 16:55

SWEET×BITTER
―甘くてほろ苦い、女の子たちの物語―

7 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/04/29(火) 16:56
end

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