23 甲羅の裏側

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 21:45

23 甲羅の裏側
 
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 21:46

「んっ、はあっ、あ、ああっ」

声を殺すことはとうにあきらめた。
殺そうとすればするほど彼女を喜ばせるだけだから。


「んへへへ。松浦さぁん、気持ちいいですかぁ?」
耳元で垂れ流される、間延びした甘ったるい声。
「は、ああっ」
そんな声に反応なんかしてやらない。
アタシはただその髪の隙間から暗い天井をにらみ続ける。

肌を絡める距離にいたとしても、彼女とアタシは別の空間に存在しているんだ。
アタシが今この快楽に溺れるとしても、その根源は彼女にないんだ。


「絵里、手疲れちゃった。もうイっちゃって下さい」
反応のないアタシに不満そうな声でそう宣言すると、亀井ちゃんのそろえられた指がいきなりずぶりと挿し込まれた。
「がっ、あっっ」
引き裂かれる痛みにのけぞらせた背骨が熱を持って軋む。
痛みとそれに伴う性感に顔をしかめたアタシを、アタシの上の亀井ちゃんはニコニコと見下ろす。
不満げな表情はもうどこかに消えて、満足げに唇の端を躍らせている。
 
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 21:47

「あ”っ、あ”っ、あ”っ」
声は殺さない。
でも嫌だとかやめろだとかは言ってやらない。
ぐちゃぐちゃと回転しながらえぐり込まれる動きに耐え難い痛みを感じたとしても、恥辱に震えてやることはしない。

「――、あぁ」
『恥』という言葉からだろうか、ふとあの子の顔が浮かびかけてアタシは慌てて頭を振り払った。
この行為中にその顔を思い浮かべることは、さすがに後ろめたくなってしまうから。
プラスにもマイナスにも、このときに感情を持つことはNGだ。

「どうかしました?」
アタシの声色から何かを悟ったのか、亀井ちゃんが笑みを引っ込めて顔を覗き込んできた。
何もないと首を振る代わりに、アタシは彼女から与えられる性感に神経を集中させる。

「ん、あ、ああっ」
しっかしこの子、普通にうまいんだよね。ちょっと、かなり、鬼畜系だけど。
普段はどちらかといえば受け側って言ってたのになあ。
ってことはよっぽどうまいんだ……ガキさん。それはかなり意外だわ。
人は見かけによらないって――、
「ぎ、いっっ」
突然下半身を襲った質の違う痛みに、アタシは思わず背を浮かせる。
 
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 21:48

「どーせ藤本さんのこと考えてたんじゃないんですか」
すねたような口調で唇を尖らせて見せる。

その子供じみたしぐさと裏腹に、右手指がより強くえぐりこまれた。
軽く曲げた指の関節が入り口の薄い皮膚に引っかかって、いやこれは……指輪?
肉質感のない痛みに危機感を覚える。
亀井ちゃんだって鬼畜とはいえアタシの体に傷をつけることの危険性は理解しているはずだから、わざとではないだろう。
ということはつまり気づいていないということになって。
結構――やばい。
プライドを捨てて痛みを訴えるべきか、それとも。

「あっ、ぐ、あ”っ」

さっさとイってしまうべきか。


後者を選択したアタシを、
背中の真ん中に押し付けられた火がそこから放り出した。

5 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 21:49


「んー、やっぱ松浦さんってかわいいですね」
酸素をうまく吸いきれなくて軽いめまいを起こしているアタシのとなりで、亀井ちゃんは嬉しそうに感想なんか述べてくださる。
こんな状況なのに『かわいい』って言葉にはやっぱりちょっと嬉しいとか思っちゃってる自分にあきれた。職業病だ。

「よいしょ」
おばあちゃんみたいな重さでそう言って、亀井ちゃんは体を起こした。
「手洗ってき」
不自然に途切れた言葉に顔を上げると、彼女の視線はベッドについた右手に釘付けになっていた。
その薬指にはやっぱり指輪が。
あんまりごつごつしてないので助かったけど、今度からは気をつけてよね。
そう言うおうと呼吸を整えていると、亀井ちゃんは完全に体を起こして右手を胸に引き寄せた。

「これガキさんとオソロなのにーっ」

一声叫んでベッドから飛び出す。
ばたばたと無駄にうるさい足音が遠くなり、洗面所方向から水音が聞こえた。


……こっちに気遣いはなしですか。
 
6 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 21:51

なんだっていいけど。

ため息をついてぐったりと体をベッドに沈める。
ううう。痛いよお。
体の感覚が戻ってくると、今度はじんじんする痛みに腰をひねることもできない。
これって、切れたりしてないよね。
後で確認しとこう。
無事だったとしてもしばらくは使用禁止だわ。
あの子とはすぐには会える日もないし、大丈夫だけどさ。



……。

あーあ。


会いたいなぁ。
 
7 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 21:52

ぎし


ぼんやりとしているうちに眠っていたらしい。
亀井ちゃんがベッドにあがる音に意識が浮上する。
そのままシャワーも浴びてきたらしく、ふんわりと石鹸の香りがした。
「シャワー借りました」
「ああ、うん」
「松浦さんは?」
「ん……朝にする」
「服は着た方がいいですよ」
「うん……」
差し出されたパジャマをのろのろと着こむ。
痛みはずいぶんマシになっていたから、切れてる心配はしなくていいみたい。
「じゃあ。おやすみなさーい」
ばふってお布団を被って丸まる亀井ちゃん。

って、泊まってく気?

いつもだったら終わったら家帰るのにな。
なんだ?家族とケンカでもしてんのか?


そこまで考えて、アタシの意識は再び遠ざかった。
 
8 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 21:53


亀井ちゃんの今日の入りは昼過ぎらしいけど、いったんうちに帰るというから(当たり前だ)昼前には出ないといけないアタシと遅めの朝食はさんで向き合う。
そういえば朝食の支度をしている間に最近暇を持て余しているおねーさんからメールが来ていた。
おはよー、今日もがんばってね。
要約すればそれだけの内容。
そんな他愛もない言葉に、行為中には感じないようにしている罪悪感がじわりと沸いてくる。


「亀井ちゃんさあ」
「はい」
「あの子としたいんだったらこんな回りくどいことやめたら?」
「……」

視線を食事に向けたままつぶやいたものの、いくら待っても聞こえてこない返事にしぶしぶと顔をあげる。
目が合うと、亀ちゃんはうふふと声を漏らして笑った。
ふにゃりと緩む目元にはあったかい温度があふれていて、その意味は取れなかった。
営業スマイルとも違う、でも裏の読めない笑顔。
こうなる前から何考えてんのかわかんない子だとは思ってたけど……ほんっとに謎だわ。
 
9 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 21:54

「こんなことしてるの、あの子にばれたらやばいよ?」
自分を慕う後輩が自分の彼女にこんなことしてるって知ったら、その怒りは底知れなく冷たいものになるだろう。
そして、その冷気を浴びせられるのは亀井ちゃん一人では有り得ない。
姦夫姦婦を重ねて四つ。
あの子はきっと平等にアタシたちを切り分ける。

「ばれませんよ」
「そんなのわかんないでしょ」
「だって松浦さんは絶対に誰にも言わないですから」
「――は」
言葉を詰まらせたと悟られるのはしゃくだから、吸い込んだ息を大げさなため息に変えて一気に吐き出す。
「なんだよ、その自信」
あきれた声を作ってみたものの、ため息に紛らせてそらした目を戻すことはしなかった。


確かにアタシはこの行為を誰にも言うことはできない。
それができるのなら、こうも何度も行為を繰り返してはいない。
亀井ちゃんだって誰に言うこともできないのだとわかっていても、もうすでに押し戻すことができなくなっている。
この行為の終わりを決めるのは、この行為を始めた彼女だけだ。
 
10 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 21:55

アタシより少し早く部屋を出て行く亀井ちゃんを、一応玄関まで見送る。
鍵とか考えなきゃ勝手に出て行ってくれればいいんだけどね。
靴を履きながら棚に手をやった亀井ちゃんの視線がふと止まった。
なんだろうとその視線を追う。
「松浦さん。これ借りますね」
「はっ?何言ってんのっ」
あわてて押しとどめるアタシの手をすり抜けて、亀井ちゃんは香水のビンを手に取る。
今日は事務所集合だから久しぶりにあの子に会えるんだと、さっき嬉しそうに言っていた。
それほどポピュラーな香りではないし、アタシは香水をあまり変えない方だ。
そういうことには無頓着な子ではあるけれど、長く慣れた香りには気づくかもしれない。

「大丈夫ですって。ばれませんよ」
なんでこの子はそんなに自信を持って言い切ることができるんだろう。
その笑みの浮かんだ目にあせるアタシが映っているのもなんだかしゃくで、がんとして拒否することができなかった。
「もー。知らないからね」

玄関先に広がる慣れた香りに気持ちが少し解けて、肩肘をはっていた自分に気づく。


「じゃあ、また来ますね」


痛みや罪悪感に攻め立てられても、もう来るな、と言うことができないアタシはすでに敗者なのかもしれない。
 
11 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 21:55
 
12 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 21:56

「藤本さ〜ん。おはようございますぅ」
「ああ、おはよ」
だらだらと歩く小さな背中を見つけ、亀井はまっしぐらに走ってゆく。
無理やりに腕を組むと、藤本は心底迷惑そうに鼻の頭にしわを寄せた。

「重い」
「ひどーい」

冷たく言い放つ藤本にぐっと顔を寄せると、ふ、とその表情が止まった。
「どうかしました?」
「ん、ああ、いや……」
藤本の鼻の頭のしわがゆっくりと消えていき、きょとんとした顔で亀井を見上げる。
体にまとう香りに気づいたかもしれないと思ったが、それでも亀井にあせりはなかった。
最近買った自分のモノだと嘯いて見せればいい。
あせる必要はない。だって本当だから。
ここに来る前にデパートに立ち寄って同じ香水を購入してきた。
藤本の反応しだいではこれから常用の香りになるだろう。
 
13 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 21:57

亀井はむしろわくわくと藤本を見つめる。
「なんか……亀ちゃん今日違う?」
「えー?せくすぃですかあ」
照れたように体をくねらせて、さりげなくその鼻先に首筋を寄せる。
十分に間を取ってから少しだけ体を離し、ちょっと間の抜けた藤本の顔をじっと見つめた。
藤本の表情は、はっきりと何かに思い当たったわけではなさそうだった。
だからおそらく無意識であろう。まとう空気がふわりとほころんだ。
香りに導き出されたイメージに流されたのか、普段亀井といるときに見せるものとは違い、多分に甘えを含んだ空気感。

「……ばーか」
「あ、藤本さん今なんかやらしい笑い方した〜」
「はあ?してないよ」
「絵里のお尻触らないで下さいよお?」
「それはしないとは言えないな」

にやにやと笑う藤本は、自分に絡められた亀井の腕を巻き取るようにして体に引き寄せた。

「さっさと行くよ」
「あーん。待ってくださいよお」


藤本の視界に入っていないのを確認してから、亀井は唇の端を引き上げた。

 
14 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 21:57
 
15 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 21:57
 
16 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 21:57
 

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