07 電車の二人 〜the last station〜

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/28(日) 00:23
07 電車の二人 〜the last station〜
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/28(日) 00:32
その日、紺野あさ美は同じ大学に通う高橋愛と共に、帰りの電車に乗った。
高橋とはいくつかクラスが同じで、時々一緒にお昼を食べたりするような仲だったが、一緒に帰ったことはなかった。
いつもどこか上の空で何を考えているか分からない高橋との会話は、毎度のことながらどうにもはずまない。
電車に乗ってからも、紺野は何とか話を盛り上げようとしていた。
大学に入学してからもう2ヶ月以上が経つが、まだ特定の仲の良い友達が見つかってない。
紺野は何とかここで高橋にもう一歩近づきたかった。
しかし彼女との会話で得られた情報は、後15分ほどで高橋の降りる駅に着くということだけだった。
紺野が降りる駅はそのまた先。
二人はドアに近い座席に寄りかかるようにして、紺野がドアに背を向け、向かい合うようにして立っていた。
混みやすい快速電車は見渡す限り席がうまっていて、隙間はあるものの、結構な人が乗っている。
高橋の目線はいつもどこか遠いところを見ている。
今でも紺野の後ろにあるドアから見える景色を眺めているようだ。
それは自分の話よりもそんなに面白いものなんだろうか。
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/28(日) 00:34
紺野の嫌いな沈黙が二人を包んでいるうちに、電車は駅に停車した。
紺野の後ろで、ドアが開くのが分かる。
そしてその途端に、大量の人ゴミが車内へ押し寄せて入ってきた。
そういえばこの時間帯は帰宅ラッシュで満員電車に否応でも乗り合わせてしまうんだった。
初めてこの時間に帰った時以来、微妙に時間をずらして調整してきたのに、今日は高橋と喋ることに夢中で忘れてしまっていた。
後ろからどんどん押される紺野の背中。
自然と、高橋を座席の背とサンドイッチするような形になってしまう。
背丈が近いので自ずと顔も接近する。
しまいには高橋に抱きついてるような体勢になってしまった。
車内はまさにすし詰め状態で身動きが取れない。
密着する、二人の体。
高橋はまるで平然とこの状況に慣れているかのような顔をして相変わらずドアの方を見ていたが、紺野は一人、硬直していた。
心臓はさっきから高鳴りっぱなしで、全身が熱い。
背中が圧迫されて苦しいからとか、酸素不足で窒息死しそうだから陥ってる症状とは明らかに違う。
紺野は高橋と密着しているこの状態が、嬉しくて仕方なかったのだ。

△ △ △
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/28(日) 00:37
自分が世間でいうレズビアンと呼ばれる分類に入るのではないか、と認識し始めたのは中学生の頃だった。
気付けば好きになる人はどちらかというと女性が多く、あまり男性に魅力を感じることがなかった。
その事実を発覚させた決定的な事が、女性を性的対象にしていたということだった。
最初はもちろん悩んだ。悩んで悩んで悩みぬいた気がする。
しかし、長い間悩んでるうちにインターネット等で自分と同じような人間が大勢いることを知り、次第にある真理に行き着いたのだ。
「自分は何もおかしくない。自分みたいな人間は沢山いる。自由に生きていいんだ」と。

それから紺野は呪縛から解放されたように自由に自分の心を持つようになった。
もしかして悩んでいた頃の方が可愛げがあって良かったのではないか、とまで思ったりする。
それほど紺野は、自分の性を、自分の性癖を、自分の妄想を、同性に抵抗なく見出すようになっていた。
普通、世の中の女性は女性に対してガードが甘い。
さり気なく腕を絡めたり肩を触ったり、携帯を覗き込むふりをしながら顔を近づけたりしても、別に嫌がられはしない。
同性であり、友達なのだから、当たり前だ。
しかしその世の中の当たり前を、当たり前といわれる感情を持ち合わせていない紺野が逆手にとって利用して生きてるなど、誰が思いつくだろうか。
「自分は別におかしくない」と開き直った紺野は、女である自分の立場をいろんなところでさりげなく使って、そこに「萌え」を見出していた。
今流行りの言葉だが、この表現が一番しっくりくる。
紺野は、きっと世の中の飢えた男性陣が常に繰り広げている妄想を、一番近いところで実行していると自負していた。
5 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/28(日) 00:41
そしてまさに今のこの状況は「萌え」そのものだった。
実は高橋とより仲の良い友達になろうと考えたのも、単純に顔が好みだったからという理由もある。
それにスタイルも抜群。
一度だけ見たスカート姿。そこから出ていた美脚は、紺野を魅了するのに充分なものだった。
そんな高橋の太腿辺りに、鞄を持っている紺野の右手が押し付けられている。
右半身全体が高橋の左半身にくっつき、高橋の顔が紺野の右近くにあり、もう少しで肌が触れられそうなほどに、近い。
心なしか高橋の熱い息が耳にかかっているような気さえしてくる。
紺野の全身はもはや、足のつま先から頭のてっぺんまで赤く染まり、熱く沸騰した薬缶のようになっている。
紺野はこの最高の萌えに、最高の妄想を繰り広げていた。

紺野は女性と付き合ったことは一度もない。
何度も片思いはしたし、さり気なく思いを伝えたことはあっても、そこから先に進めたことがない。
未だ女性経験ゼロな自分に憤りを感じ、情けなく思い、そして早く恋人がほしいと切実に思っていた。
どちらかというと、ただ単に彼女がほしいというより、その先のことに興味があった。
体の関係。肉体関係。
そこにはどんな神秘の世界が漂っているのか。
一体そこには何が待っているのか。
紺野は自分の中で、そこを「秘密の花園」と呼んでいた。
そう、まさに萌えの極限地帯。
そして人生の最終目的地。
紺野は常日頃、秘密の花園の妄想を抱いては、いつ実現するのだろうと考えていた。
6 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/28(日) 00:42
幸せな時間ほど、短く感じるものなのか。実際に短い時間だったのか。
もはや紺野の思考が妄想の中で漂っていることなどおかまいなく、あっという間に電車は高橋が降りる駅についてしまった。
大きな駅だったため、ぎゅうぎゅうに詰め込まれていた会社帰りのサラリーマンやその他大勢が流れるように車外へ出て行く。
その波につられ、ドア付近にいた紺野も高橋と共にいったん外へ出た。
まだ火照っている赤い顔を見られたくないのもあって、早々と車内へ戻ろうとする。
しかしそんな紺野を容赦なく引っ張り戻す強い手が後ろからかかった。
驚いて振り向くと、高橋の真面目くさった顔が紺野を見据えていた。
「ちょっと話したいことがあるんやけど、夕飯でも行かん?」

△ △ △
7 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/28(日) 00:46
突然の夕食デートといったら聞こえはいいが、二人は結局近くのマク○ナルドに腰を落ち着かせることになっていた。
紺野は内心ヒヤヒヤしながら高橋の後をついていた。
なるべく夜風に当たって、顔の赤みを取り除くように必死に心臓を落ち着かせながら。
適当なメニューを注文して席へ着いてから、ふと、なぜやましいことをしてないはずの自分がどきまぎしなければいけないか、と気付く。
どう考えてもやましかったのは誰にも打ち明けたことのない紺野の心情だけであって、高橋の知る範囲では何もないはずだ。
それなのに一体なぜ。このタイミングで。どうして。突然夕飯なんか。しかも安上がりのファーストフード店で。
いつの間に二人は夕飯を一緒に食べる仲になっていたのだろうか。
まさかこのシチュエーションは、一目惚れしました好きです付き合ってくださいの流れなのか。
いやそんなことあるはずがない。この上の空風のモンキー顔の高橋が。まさか。そんな突然。
『そう、大体私達は女の子同士なわけだし…』
紺野が全く矛盾した妄想を繰り広げているとき、ポテトを一つ一つ口に運んでいた高橋が突然「あは」といった。
ん…?あは?
「ぷ…あは、あははははは」
その声は想像以上に大きく、周りにいる他の客たちが怪訝そうにこちらを見ている。
突然の哄笑。
それはまさしく、高橋のみせる初めての顔だった。
「さっき、見てもうてん」
高笑いしていたかと思うと突然、真面目腐った顔で、でも口を歪めて言った。
こんなにまともに紺野の顔を見てくれたのは初めてかもしれない。
そう思うと、高橋の話というのがとても重要に思えてきた。
「何を見たの?」
「痴漢」
沈黙。
紺野は開いた口から何を言っていいのか分からず、ただ大きなその瞳を見つめ返した。
「痴漢、知らんの?」
「え、いや、知ってるけど」
「生まれて初めて生で見てしもたわぁ。今日、最高の日かもしれん」
嬉しそうに微笑む高橋。
自分は俗にいう変人と呼ばれる人種と席を向かい合わせにして座ってるのではないか。
そう思えてきて、少し寒気がした。
「いつみたの」
「いつって、さっきの満員電車で。一緒に乗ってたやん」
「…私、そんなの全然気付かなかったけど」
「そら、あたしんとこからしか見えんかったよ」
「へぇ…そうなんだ」
8 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/28(日) 00:48
淡々といってのける高橋の話を聞いてると、紺野は次第に腹が立ってきた。
生痴漢なんて、出回ってる盗撮動画なんかよりもよっぽど価値がある。
そんなものを同じ電車、同じ車両に居合わせていながら見れなかった自分と、見れた高橋のこの差はなんだ。
むかつくにも程がある。
高橋の話によると、それは偶然ガラス越しに見えたのだという。
だから完全な生じゃないし、揺れていたためはっきりとではなかったらしいけど、それでもやっぱり悔しい。
高橋が言うには、ガラス越しにぼーっと見つめていたどこかのおじさんの手が突然もぞもぞと動き出したらしい。
そして次第に、すぐ横にあるスカートの中に手を這わせながら入っていったのだという。
手の主は見れなかったが、痴漢にあっていた女性の表情はよく見えたらしい。
うつむき加減に歯を食いしばっていて、体を離そうともじもじ動いていたそうだ。
電車が駅に着いたときに引き抜かれた手の指は液が付着していたせいか光っていたという。

そこまで聞いて、紺野は次第に興奮してきている自分に気がついた。
高橋の、恥らうことのない淡々とした、それでいて整然としている描写に、嫉妬よりも「萌え」を感じてしまったのだ。
そう、痴漢という行為はまるで秘密の花園の入り口のようだ。
花園という終着駅に辿り着くまでに通る道。
世間の女性は「痴漢は最悪」というけれど、紺野にはその行為が素晴らしいものに思えてならない。
だがそれは紺野が世の真髄ともいえる最高の真理を見出したからだった。
では高橋は?
彼女はなぜこんなにも平静と痴漢を目撃したことを語っていられるのだろうか。
しかも嬉々として。
「ほんと、人生捨てたもんやないね。こんな、素晴らしい、初体験ができるなんて」
そしてまたくっく…と目を細めて笑った。
その顔は口調に似つかわしくないほどとても綺麗で整っている。
目の保養には最高に最適な女性。
9 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/28(日) 00:50
どうしてそんなに痴漢目撃が嬉しかったの、と紺野が聞くと、単純に「おもろいもん見たからに決まってる」という答えだけが返ってきた。
どう返答していいか迷っていると高橋がぽつりと言った。
「あーあ。うちも痴漢、あわんかな」
「え」
「痴漢。あったことある?」
「まぁ…昔一度だけ。でもお尻触られるくらい」
「そっかー。いいなぁ」
「えっとさ…痴漢の何がいいの?普通はみんな嫌がるもんじゃない?」
「紺野さんは嫌やった?」
「まぁ…人並みに」
(相手が女だったら別に良かったかもだけど)
「ふーん。一回でいいからあってみたいわぁ」
本物の変態に出会ったのではないだろうか。
大きなため息をつく高橋を見ながらそう思う。
「なんで痴漢にあいたいの?」
あなたは変態?
「あたし、一度もあったことないんよ。それって、女として認められてないってことと思わん?」
整った顔立ちの中の、まんまるな黒目に真剣なものが光っていた。
いや、かわいい。あなたはじゅうぶんかわいい。女として認められる認められない以前に私が認めてあげる。
あなたはとてもかわいいから。そして私の好みだから。性格はちょっと分かんないけど、顔はやっぱり好みだから。
それにスタイルも抜群。早くまたあの生脚を私に見せて。あの美脚を。
あぁだからそんな顔でこれ以上見つめないで。変態ちっくなこと口走りながら。
「はぁ〜。あたしが後ちょっとあっちに立ってたらなぁ。痴漢されたかもしれんのに…」
「…本当にそんなに痴漢にあいたいの?」
「あいたい。いつまでも選ばれないんは悲しいわ」
「別にどんな人にされてもいいの?気持ち悪いおっさんとかでも」
「人はこの際関係ないよ。どうせ見えんやろし」
「ふーん…」
10 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/28(日) 00:52
そんなこんなでお粗末な夕食を食べ終え、痴漢の話も一通り終わると、謎のデートもおひらきになった。
どうやら高橋の「話したいこと」とは痴漢目撃事件の話と、いかに痴漢にあいたいかというものだけだったらしい。
しかしあれだけ痴漢痴漢といわれたら、帰りの空き空きの電車でも、つい身構えてしまう。
そんなにあいたいものなのか。
毎日満員電車に乗っていたらいつかあえるはずだろうけど…。
紺野は一つの提案として、取り合えず満員電車にひたすら乗り合わせたらどうだということを申し出ていた。
そしたら案の定、高橋は毎日、朝と夜に最も電車が混むといわれてる時間に乗っているという。
それでもあわない。あれだけあいたがってるのに。
世の中はうまくいかないものだ。
しかし果たして、そんなに痴漢にあいたいものなのか。あんなに目を輝かせて。とても可愛い顔をしながら。
自分はどうだろう。紺野は考えた。
たとえば痴漢にあったことがないとして、痴漢にあってみたいだろうか。
いや、自分はどちらかというと…。
その時、紺野の頭にピーンと閃くものがあった。
まるで一筋の光が射しこんだように。
今まで照らされていなかった場所が照らされたように。
それは秘密の花園へ通じる道。
今まで見えなかった入り口が、その姿をみせていた。

× × ×
11 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/28(日) 00:53
その日、紺野あさ美は初めての「朝の通勤ラッシュ」というものを経験していた。
その風貌とは似つかない帽子を目尻まで深く被って。
普段着ないような服装を身に纏いながら。
予行演習はしていないが、頭の中で何度も構想は繰り返してきた。
何度も練られて描かれた構想、いや妄想。
紺野を乗せた電車は今、一刻一刻と、秘密の花園の入り口へと向かっていた。


紺野は右扉に近い座席にもたれかかり、腕組みをしながら立っていた。
電車は満員といってもまだ人が身動きとれないほどではない。
この車両が本当の満員になるのは、高橋が乗り降りするという次の駅に着いてからだ。
12 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/28(日) 00:54
紺野の心拍数がどんどん上がっていく。
音が大きすぎて周りに聞こえないか心配なほどだ。
口も渇くから何度も唾を飲み込む。
少し油断をすると、緊張のあまり息が荒くなってしまいそうなほどだ。
それを必死で自制する。
準備は万全のはずだ。妄想なら何度もしてきたのだから。
この計画を思いついた日から何度もシミュレーションを頭の中で繰り返している。
絶対大丈夫なはずだ。
誰も悲しまないし、傷つかない。
自分もハッピー。相手もハッピー。
問題はないはず。
それに、たとえ計画が遂行できなくても、それは失敗じゃない。
明日もまたその次の日も、チャンスはいつまでも巡ってくるのだ。
そう、これはいつまでも童貞(処女)ではいたくないというあくなき願望を満たしてくれる花園への素敵な入り口なのだ。
そう、入り口でしかない。それはきっと大したことではない。
中まで入って出すだけ出して捨てるような男たちに比べれば自分は全然かわいいもんだ。
「自分は何もおかしくない。自分みたいな人間は沢山いる。自由に生きていいんだ」
紺野が見出した最高の真理をもう一度反芻する。
そう、自分みたいな人間は沢山いるはずだ。
世の中の満員電車では毎日毎日、紺野の知らない扉が開かれている。
自分だけ知らないとか、不公平だ。
などとごたごた考えていたら、電車は問題の駅に到着した。
ついに本番。
紺野は手に汗がにじみ出そうになるのを必死で堪えて、少し顔を上げ、目標を探した。
13 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/28(日) 00:57
扉が開いて、やおら。
人の波。

夜とは比べ物にならない。
どう考えても許容量を超えてるだろう。まさにがんじがらめ。
紺野は前と同じように座席の背にぎゅっと押し潰される形になりながらも、必死に抵抗し、何とかドアに近づこうとした。
この時間、この車両、この位置。
ここにくるはずだ。
事前に紺野が与えた偽情報に、高橋愛は必ず食いついてくるはずだった。
最も痴漢被害が多いという特等席を教えてあげようか――。
必ず彼女は来る。そして必ず見つけ出す。見つからないように。
固い決意をし、振り絞って首をあげ、横へ向けた。
そしてそこには――まさに女神のように神々しい光を放っている高橋の顔があった。
といっても、間に何人もの人がいて真隣というわけではない。
もし真横だったら気付かれてしまうかもしれないから、逆にここはいい位置だ。
問題はここからだ。
身動きもとりにくい、この切迫した状況。
その分、手も動かしにくい。
動かせたとしても、本当に小さくて狭い限られたスペース。
予想以上に車内はきつきつだった。
それでも紺野は必死に手を伸ばした。
高橋のほうへ。
間違ってもオヤジの足なんか触らないように。
そして――。
14 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/28(日) 00:59
なんと、幻かと思うような感触が紺野の手に当たった。
それは明らかに肌だった。
生暖かい。
スカートからのぞく、二本の奇跡だ。
紺野は思わず手を引っ込めた。
それがあまりにもすべすべしていたからとかではなく、純粋に驚いたのだ。
他人の肌。初めての感触。しかも、自分好みのあの高橋の。
まるで漫画みたいにごくっと唾を飲み込んでから、意を決して、紺野は再び手を忍ばせた。
さっきと同じ感触が指に当たる。
そして今度は触れるだけでなく、ゆっくりと手を滑らせてみた。
途端、高橋の太腿が、明らかにビクッと反応を見せる。
その様子に紺野はますます興奮する。
偶然あたっちゃいましたごめんなさいの手じゃなく、確信犯の痴漢の手。
そう、あなたの望んでいた、夢の手。
その手は私、紺野あさ美から出ているもの。
もはや妄想は現実になっている。
紺野は、手を休ませないように、そのまま太腿を撫で続ける。
ゆっくりと、上下に。
指先で、下から上に、上から下に。
全て無料18禁動画や官能小説の受け売りだった。
まずは焦らずゆっくりと。
いつか自分が女性を感じさせるために重ねてきた勉学がいかせる時がきたのだ。
高橋の太腿を撫でているだけで、もはや紺野の興奮は頂点にきていた。
理性というものはとっくに消えてしまっているような、初めての感覚。
15 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/28(日) 01:02
紺野はそのまま指を這わせ、上へと移動させた。
邪魔なスカートを少し押し上げ、手首をうまく内側に曲げ、太腿の付け根にある頂上を目指す。
ゆっくりと這わせていったその先には、夢にまで見た入り口があった。
一つ、周りに気付かれないように深い深呼吸をする。
そして行き着いた先を覆っている柔らかいパンティーに手を触れてみた。
また、ビクッという反応が返ってくる。
これは気持ち良いってことだろうか。
もしかしたらあると思っていた抵抗も、どうやらないようだ。
いけるかもしれない。
そう思い、紺野は半分体を震わせながら、パンティーの下にあるそこを刺激してみた。
自分にいつもしている仕草。
中指を使ってパンティーごしに、そこを撫でてみる。
奥の部分から、前の部分まで、ゆっくりと何度もいったりきたり。
最初は緩く遊ぶように撫でていたそれを、段々押し付けるようにきつくしていく。
すると紺野は、ある異変が起きてきていることに気付いた。
それは、自分のものしか触れたことのない神秘の泉。
そう、高橋は濡れてきているのだ。
これは手応えありなのかもしれない。
もしかしては自分は才能があるのだろうか。
ここを気持ちよくさせることにかけてはきっと世の中の童貞たちより遥かにうまいのは分かっている。
自慰による練習は誰よりもやってきた自信がある。
16 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/28(日) 01:04
だから高橋は、感じてくれたのだ。
ここまでくるともはや躊躇いはなくなる。
紺野はおもむろに秘部を覆っているパンティーの端に手をかけ、横へずらした。
さすがにここで脱がすことはできないけど、だからといって中を諦められるはずもない。
紺野は器用に薬指と中指で横にずらしたパンティーを固定し、今度は人差し指でそこを撫でてみた。
また、ビクッという反応。
同時に、少しではあるが明らかに神秘の液体が付着する。
そのまま人差し指を挿入ぎりぎりのあたりで動かし、その液がついた指を少し上にあるクリトリスへ持っていく。
どろどろの液に包まれた指は滑らかにクリトリスを摩りあげることができる。
高橋の体が再び痙攣する。
紺野は満足しながら、そのまま暫くクリトリスを弄んだ。
つんつんとしてみたり、凄い速さで撫で回したり。
紺野は自分の息が荒くなっているのに気が付いた。
体も熱い。自分の下半身もびしょ濡れになっているだろう。
高橋の顔が見たいが恥ずかしくて見れない。
もし目が合ってしまったら、一生消えない罪を負いそうな気がする。
暫くクリトリスを刺激していたら、高橋のあそこももはや限界にきているように感じられた。
はやく挿れてほしい…はやく…。
紺野にはそう聞こえた。
ゆっくりと、液が溢れ出る源へ指を近づけていく。
そして、まさに入り口に指を挿れようとしたとき――。
17 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/28(日) 01:07
まもなく〜○×駅〜○×駅〜。
と、現実へ引き戻す車掌の声が車内に響いた。
驚いて、思わず手を引っ込める。
とたん、一気に熱気が冷めたように、五感が働きだした。
車掌が喋り終わった後の、静かな車内。
聞こえるのはガタンゴトンというお決まりの音だけ。
そう、電車という空間は普通こんなものだ。
ついこの前まで、自分はいつもこの静寂の中にいた。
だが今日は違う。今の自分は違う。
紺野はさっきまで、花園にいた。

間もなく、電車が駅に到着する。
紺野は見えないように肩でハアハアと息をした。
頭の中は真っ白で、濡れた指の先端が、冷たく感じられる。
つかの間の楽園が嘘のように、周りにはいつも通りの景色が広がっている。
高橋も、今の自分と同じように、何かを超越したなんともいえない心境に陥っているのだろうか。
だがきっとそれは「萌え」であり、不快なものではないだろう。
だって彼女もあんなに感じていたのだから。
まさに、電車の中にいる二人の人間の需要と供給が一致したのだ。
今日はとても素晴らしい日になるかもしれない。
18 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/28(日) 01:07

19 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/28(日) 01:12
紺野が達成感に満ちているうちに、駅に到着した電車からは、沢山の人が降りていく。
紺野と高橋の通う大学はまだ先になるので、いつもはこれを見送っている。
しかし人が減ったら高橋と顔を合わせる羽目になってしまうかもしれない。
だから紺野は、隣の車両に移動するため、人の流れに紛れて一旦外に出ようとした。
その時、紺野の横を凄い勢いで何かが通った。
みんなが順々に流れにまかせてゆっくりと歩いてるのとは反対に、人ごみを押しのけるように、何かから逃げるように、その人は必死に走って行った。
心なしか、顔を下に向け、手で覆っているようにも見えた。
そのまま凄い勢いで階段を駆け上がる。
何かあったのかな、とその光景をぼんやりと眺めていると、突然左肩をポンとたたかれた。
振り向くと、そこには高橋がいた。
「今の女子高生、見た?かわいそうに。泣いててん」
「え?あ、あ、あい、ちゃん、お、おおお同じ電車だったんだ」
まるで初体験を終えた若いカップルのように。
紺野は一人でもじもじと顔を赤らめた。
「やっぱり、前言撤回」
「え?」
「もう痴漢なんて、あわんでもいい。なんか、気持ち悪かったわ」
「え!そ、そんな…気持ち悪かったとか…」
濡れてたくせに、何言ってんの?
しかも気持ち悪かったとか、そんなショックなこというなんてひどい。
「あ、紺野さん、だっけ。もうあたしに気持ち悪いもん見せんといてね。かわいそうなってくるし」
相変わらず淡々とした口調で言い放ってから、高橋はすたすたと車内へ戻っていった。
その後姿を見ながら、その場に佇む紺野。
さっき泣いてた…制服姿の女子高生…中学生くらいの…あれ、は…。
20 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/28(日) 01:12
最後に、高橋は振り返って、ドアが閉まる直前に言い放った。
「それと、もう話かけんとってね。痴女とか、気持ち悪いから」
それが最後に聞いた彼女の言葉。彼女の声。愛らしい、彼女の声。
その口は、ドアが閉まっても尚も動き続けた。
かろうじて読み取れたのは、「せめてみえないとこでして」。

紺野は呆然とホームに立ち尽くし、液が乾ききって白い固体へと変形してきている指を眺めてみた。
秘密の花園が、秘密でなくなった瞬間だった。
21 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/28(日) 01:12
おわり
22 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/28(日) 01:13
-
23 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/28(日) 01:13
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24 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/28(日) 01:13
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