11 よくねえよ
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 23:48
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- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 23:50
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オリの中には、七匹か八匹いた。二匹がもうほとんど大人で、あとはほとんど子供、赤ちゃんのようなのが一匹いた。
我々は遠くのほうからオリを眺めている。ここまで来るのに、恐ろしく長い道のりを辿ってきたような気がする。
我々の目的は、もちろんまいまいである。まいまい以外に目的など見つけようがない。
彼女がまいまいを知ったのは、あるうたばんでダブルユーが歌っていた「愛の意味を教えて」だった。僕は急に大人びた愛理ちゃんに息を呑んだが、彼女は他の子と同じくらい踊れるようになったまいまいに痛く感動していた。
それからというもの、彼女は事あるごとにまいまいを生で見たいと言うようになった。しかし、そんな機会はなかなか訪れなかった。デパートの屋上でまいまいを見るのは偲びないと彼女は泣き叫んでいた。安倍さんとの環境ライブは到底見る気になれなかった。関東圏での前座は予想外で、その後もハロプロや、小田原での握手会や、彼女が熱射病で倒れてしまった暑い夏の日や、めぐの脱退や、握手会付きコンサートは、我々には敷居が高かった。
そんな風にして、二年近くが経っていた。
二年なんて、まったくのところ、あっという間に過ぎてしまう。この二年間、僕は実際何をしていたのか、自分でも厭きれてしまうくらいだ。いろいろあったような気もするし、何にも起きなかったような気もする。こんこんが二十歳になっていなかったら、二年が経っていたことにすら僕は気付かなかった。
しかし何はともあれ、まいまいを見るための朝はやってきた。我々は朝の六時に目覚め、簡単にサンドウィッチと熱いコーヒーで朝食を済ませ、梨沙子に餌をやり、洗濯をして手を繋いで家を出た。
「ねえ、まいまいはまだちっちゃな女の子かな」と彼女がバスの中で訊ねた。
「きっとそうだと思うよ」
「まだまだ赤ちゃんみたいな女の子なのかな」
「それはそうだろう」
「でも、案外おっきくなって顔立ちとかもしっかりしているかもしれないわよ」
「そうであったとしても、まいまいはかわいい女の子さ」
「精神的に病んじゃって、ばくばくお菓子ばかり食べて太ってしまっているんじゃないかしら」
「まいまいが?」
「まさか。最初はきっと別の女の子よ。でも、そういうのはいつかしら伝染してしまうの」
女の子はなんて悲劇的なストーリーが好きなんだろうと、僕は思った。
「今日が、かわいいまいまいを見る最後の機会だと思うのよ」
「そうかな」
「そうよ、きっと。もうみんな中学生だったり、高校生だったりするわけでしょ?」
「それと、まいまいとは、まったくの別問題なんじゃないのかな」
「じゃあ、あなた、周囲からまったく影響の受けない人間を、いや、動物を知ってる?」
「でもね」と僕は抗議した。「たしかに君の言うとおりかもしれないけど、まいまいがそれに当てはまるっていうのかい? 僕はまいまいほど多くの人に、深い愛を持って育てられた女の子を見たことがないし、まいまいほどかわいらしい女の子を他に知らない。なぜそれなのに君はまいまいを一般的な感覚に押し込めようとするんだい?」
「まいまいが大好きだからよ」
僕は諦めて車窓にぶつかる黄色っぽい陽光を眺める。これまで彼女に口げんかで勝ったことは一度もない。
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 23:51
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まいまいはもちろんかわいかった。まいまいはいつだったか、フリーペーパーでメジャーデビューの宣伝をしていた時よりもずっと大きくなっていて、ステージを元気に飛び回っていた。それはもう赤ん坊というよりも、元気で明るい、女の子だった。その事実が彼女を少しがっかりさせる。
「もうまいまいは立派な少女なのね」
まだまだちっちゃいよ、と僕は彼女を慰める。
「もっと早くに会うべきだったのよ。℃-uteが結成されてすぐくらいに」
僕がグッズ売り場でまいまいの生写真をフルセット買ってきた時、彼女は椅子に座りじっとまいまいを眺めていた。
「まいまいは少女になっちゃったのよ」そう彼女はくり返した。
「そうかな」僕は封を破ったばかりのまいまいを彼女に手渡す。
「だって、まいまいはこんなしっかりした顔立ちじゃなかったもの」
僕は肯いてまいまいを仕舞った。
「だって、お乳の匂いのしそうな、ちっちゃな子だったんだもん」
我々は℃-uteの中で一番の大人を探した。誰がまいまいをこんなにした? しかし、そんな子は見当たらなかった。それもそのはずだ。まいまいをこんなにした人物は、女の子でいることを拒否し、少女でいることを選択したのだから。
「でも、まいまいはやっぱりかわいいと思うな。今まで以上に確信的になって、これまでよりもずっとずっと、自分のことを僕たちに見せてくれているんじゃないかな」
「でも、もうあのまいまいじゃない」
「とすると、今のまいまいは一体だれなんだい?」
わからない、と彼女は言った。
そんなことにおかまいなくまいまいは、仲良しの岡井ちゃんや、とっても優しい愛理ちゃんの為すがまま、ところどころアドリブを入れて二人のリアクションを楽しんでいる。岡井ちゃんは初潮はまだ三年先といったような表情をしているし、愛理ちゃんは髪がくねくねしちゃうと歌っているのに、大体みんなほとんどが愛理ちゃんがくねくねしちゃうと信じきっている。
つまりはそういうことなのだ。
「なぜ、まいまいはあんな笑顔でいられるのかしら?」
「愛してもらうためにさ」
「愛してもらうため? これ以上に?」
「そうさ」と僕は言った。「まいまいは、もう一人でじゅうぶんに立って歩けるからね」
「でも、まいまいはずっと愛されて生きてきたのよ」
「まいまいには、それが当たり前になっているんだよ。もっと愛されようとしている」
「愛されているからこそなのね?」
「うん」と僕は言う。「まいまいは、愛されているんだ」
「どんな風に?」
僕はもっとちゃんと、まいまいについて調べるべきだったのだ。今のこのまいまいのかわいらしさは、もう二度と表れはしない。
「見ていればわかるさ」
「そうだよね。まいまいはかわいいんだもんね」
なかさきちゃんと踊る、大きな動きのちっちゃなまいまいを指差して、彼女は言った。
「そうさ。まいまいはかわいいんだから」
「あんなかわいい女の子、他にいないと思わない?」
「そうだね」
「でぃでぃでぃディスコ、だもんね」
「それはちょっと」
「そうなのよ」
会場の熱気は最初から飽和状態だったのに、さらに加速しているようだ。ぼんやりと会場がふやけて揺れているように見える。
「何か飲む?」と僕は彼女に訊ねた。
「オレンジジュースが飲みたいわ。キンキンに冷えたやつ」
売店のようなバーの売り子は紺色のTシャツを着た若い女の子で、開演途中に階段を降りてきた僕を不思議そうに見つめていた。
僕が会場に戻ると、彼女は「ほら」とステージをうれしそうに指差した。
「ほら、まいまいが愛理ちゃんにぴったりくっついているわよ!」
前後がわからなかったが、まいまいは恥ずかしそうにはにかんで、愛理ちゃんにぴったり身を寄せ、半分ほど隠した顔の隙間から会場の客の反応をたしかめている。
「恥ずかしいのかしら」
「だからまいまいはかわいいんだよ」
「そうなの?」
「そうさ。純情ですぐに色が変わってしまいそうだから、かわいいんだ」
ここにいる何千人の誰よりも、愛理ちゃんはまいまいを愛しげに見ている。学校帰りの道すがらに、とことこ歩いている犬を見つけた小学生のように穏やかな、愛の横溢した表情をしている。
「まいまいは愛されているのね?」
「もちろんさ」
「まいまいは今、幸福なのかしら」
「きっとね」
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 23:51
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我々は会場を出て、オレンジジュースをまわし飲みし、まいまいのことを交互に話した。
我々が立ち去る直前、まいまいは舞美に促されて大きくお辞儀をしていた。その様子を愛理が微笑ましげに、岡井ちゃんがややつまらなそうに見ていた。まいまいは何もかもを知らないといった笑顔で、手を振り続けていた。その姿はさながらこの世のすべてを知り尽くしてしまった賢者のようだった。
久しぶりに暑い一日になりそうだ。
「ねえ、ビールでも飲まない?」と彼女が言った。
「いいね」と僕は言った。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 23:51
- お
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 23:51
- し
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 23:51
- ま
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 23:51
- い
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